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2019
02.04

その道は近くて遠くて命懸け。『マイル22』感想。

mile22
Mile 22 / 2018年 アメリカ / 監督:ピーター・バーグ

あらすじ
パチン!



国を揺るがすほどの危険な物質が盗まれ、その行方を知る者としてアメリカ政府の保護下にあるリー・ノア。武装勢力に狙われるリーを国外へ移すため、CIAの機密特殊部隊を率いるジェームズ・シルバはインドカーのアメリカ大使館から空港までを護送する任務に就くが……。ピーター・バーグ監督によるサスペンス・アクション。

『ローン・サバイバー』『バーニング・オーシャン』『パトリオット・デイ』と実話を元にしたアクションで3度組んだピーター・バーグ監督とマーク・ウォールバーグが4度目のタッグ。僅かな量でも強力な武器が作れる危険な放射性物質セシウムが盗まれ、その在りかを入れたハードドライブのパスワードを唯一知る地元警官リーが、亡命を求めてアメリカ大使館に保護されます。リーを護送するため、特殊部隊のシルバ率いる実行班と、情報収集を元に指令を出すラングレーのビショップ率いる頭脳班「マザー」がミッションを開始するものの、リーを狙う敵対勢力による武装集団が行く手を阻む!大使館から空港までは22マイル(約35.4キロ)の距離、しかし予想以上の追撃や待ち伏せに、この22マイルが果てしなく遠い。今作はフィクションですが、実話ものじゃないのにとてつもないリアルさ。銃撃、爆撃、格闘とあらゆる対決をこなしながら、ソリッドなアクションとシリアスなドラマが展開します。

現場を仕切るシルバ役の『トランスフォーマー 最後の騎士王』マーク・ウォールバーグ、これが息を吐くようにハラスメントをするブラック上司のクソ野郎!すぐに怒りゲージが溜まるのを抑えるために手首に巻いた輪ゴムをパチパチ鳴らすという独特のキャラ付けが秀逸。シルバの部下として、アリス役にやけに顔が強い『ウォーキング・デッド』ローレン・コーハン、サム役にますますゴリラ味が増した『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』ロンダ・ラウジーなど、男女問わず凄腕が集結、命懸けの任務に身を投じていきます。彼らを指揮するブレインのビショップ役に『RED リターンズ』ジョン・マルコビッチというのもイイ。そして彼らが護送するリー・ノア役に『ザ・レイド』『スカイライン 奪還』のイコ・ウワイス!護送されるだけではなくちゃんとアクションもあり。やたら不敵だけど頼もしいぞ。キャスト陣は皆イイ。

印象的なのは凄まじい速さのカット割り。とてもドラマチックなことが起こっているのに、この怒濤のスピード感が観る者を感傷的にさせず緊迫感を煽り続ける、というのが独特。これが恐ろしいほどの臨場感を作り出すんですね。もうすぐ到着する飛行機は10分しか空港に留まれない、しかし敵の追撃はますます激しくなる。そんな極限状況のなかで、死に面しても戦うプロの矜持にひたすら付いていくしかない地獄道。物語も演出も容赦なくて最高です。

↓以下、ネタバレ含む。








■過酷なミッションとブラック上司

シルバたちのミッション「オーバーウォッチ作戦」は、リーを大使館から空港まで連れていくというシンプルなもの。シルバのチームが統率の取れたプロ中のプロであり、多少の無茶もビショップとの連携でリカバーすることは冒頭で描かれます。しかし舞台が東南アジアの政情不安な国インドカーであり、ノアの国外脱出を阻止しようとするインドカー側が保安局長アクセル率いる部隊でリーを奪還しようとするため、22マイルどころではない距離を走破することになるわけです。シルバが「辞表を書くか」とか「夫婦の話にケリを付けておけ」と言うのはメンバーが作戦上アメリカ国民ではない扱いになるためで、それだけの危険度の高さ、政治的な厄介さ、任務の過酷さを表しています。当局は一切関知しない、というやつですね。

マーク・ウォールバーグは正義漢やそこまでいかなくともまともな男、あとは筋肉バカの役が多いので、ここまでクレイジーな役は珍しい。凄まじい早口で捲し立てる罵倒に恫喝に嫌みの連続、誕生祝いのケーキは叩き落とすし、女子のシャワールームにも平気で入ってくるし、コンピューター担当への酷い偏見など、シルバのクズ野郎っぷりは相当なもの。当然Fワードは盛り盛り。それくらいのメンタルがなければこの仕事は務まらない、というプレッシャーの掛け方ではなく、単に怒りを抑制できないという感じですね。表情は変わらないけど手首の輪ゴムをパッチパチする回数や頻度で怒りを表すのが実に面白いです。アリスにサムにダグラスといった部下たちも、慣れてはいるんでしょうが本気で嫌そう。

ただシルバのそんな歪みは極限状態での判断や何を優先するかの決断、作戦を完遂するための行動には上手く働いているのでしょう。口がよく回るのは頭の回転の早さでもあります。口座を差し押さえられた女性をフランス大使館に押し付ける手腕などは見事……いや、やはり性格悪いな。でもパン屋で咄嗟に少女を庇ったりもするんですね。善人かどうかは怪しいけど、正義というものには忠実なのでしょう。


■スピード感によるリアリティ

インドカー側のリー受け渡し要請の不穏さ、なぜか絡んでくるロシアの謎の一行、ハードドライブ解読のタイムリミット、飛行機までの時間制限などのシビアなお膳立てで、いやがおうにも高まる緊張感。作戦が始まる前から、大使館内で刺客がリーを襲うというのも事態のヤバさを物語ります。イコ・ウワイスが手錠をされたまま二人の刺客を相手取るという見せ場が早くもあって最高。そしてリーの護送が始まってからはアクションはノンストップ。ビショップの指示でコースを変えても次々襲ってくる敵、市街地でも構わず繰り広げられる銃撃戦、パン屋での他の客も巻き込んでの爆発、女刺客にボコられるシルバ、と息つく暇もないほど。マンションでどんどん追い詰められていくシーンなどはイコ・ウワイスが出てるのもあって『ザ・レイド』が思い浮かびます。

展開の速さもさることながら、カット割りの速さと繋ぎ方の上手さもスゴい。現場の目まぐるしい変化を体感させ、追い立てられてる感を強めるこのスピードは、一方でエモーショナルな面を棚上げにします。チームものとしてもっとドラマチックにも出来たろうに、切り替わりの速さによってウェットになることを許さないんですね。ダメなら切り捨てる、切り捨てられた方も最後まで抵抗する。手榴弾を持たされるサムも、一人残って集中砲火を浴びるダグも、最後まで戦い散っていきます。この非情さはスパイ映画というより戦争映画のよう。それでいてシルバとの一瞬の目線の交錯には言葉少なでも感情が溢れるので、後ろ髪引かれる思いが半端ないです。マンションで追い詰められたアリスが「娘がいるの」と泣き顔で油断させながらブッ刺すのなどは、本心でありながら抜け目なさでもあるし、アリスに助けられた女の子が逆にアリスのピンチを救うというドラマがあってもそれを引きずらないのもシビアさを表します。

そしてリーの鬼強さですよ。イコ・ウワイスがナイフを持ったときの高揚感といったらないです。シルバも銃撃の腕が確かで、この二人でギリギリ切り抜けるのは非常にスリリング。リーがアリスを助けようと言うのは後の展開を思うと意外なんですが、子供が絡んでいるからなんですかね。また敵方であるアクセル役サム・メディーナの冷酷でデキる男感も良くて、シルバとの挑発合戦からして火花バチバチだし的確に追い詰めていくのも手強い。それだけに最後の空から車を吹っ飛ばすという派手な決着は、シルバのキメ顔もあって最高です。吹っ飛んだ車が空中でもう一回爆発とかスゴいですよ。どうやったんだろう。


■ひっくり返されたミッション

オーバーウォッチは外交、軍隊の次にくる第三の手段。言わばアメリカの他国に対する超法規的措置という奥の手です。シルバたちは自分たちが国の奥の手と知っているからこそ命懸けでミッションに挑みます。そしてついにリーを飛行機まで届けるシルバとアリス。アリスに休暇を与えてリーと共に一緒に飛行機に乗せるシルバにはクレイジーなだけではないまともさが見られて、多大な犠牲を払った末にそれでも任務は遂げられたのだなと思うわけです。それだけにリーの「マザーによろしく」という台詞で突然スパイ映画の側面が明らかになるのには背筋が震えます。国同士の思惑とは違うパーソナルな目的が明らかになるロシア陣営。殺してはいけないロシアの高官の子供を殺したという、まさかの冒頭シーンへの繋がり。実は三重スパイだったリー。そして居場所は極秘のはずが皆殺しにされる「マザー」の面々。とんでもない意表の突き方が本当に容赦ないです。

安全な自国で、ときには笑みさえ見せていたマザー組にとっては、まさか自分たちが標的になるとは思ってもいなかったでしょう。実行犯であるシルバが殺されなかったのは、作戦を了承したビショップらのチームこそが責任を取るべき、ということだったんですかね。いくら高官の子供だからって、軍を使っての個人的報復という設定はさすがに無理がある気もしますが、アメリカの奥の手を潰しておくという狙いもあったのかも。陰に隠れて死を与えていたビショップが、明るい往来に引きずり出された形で死ぬというのがなんとも皮肉です。アリスがどうなったのかは語られませんが行方不明なんでしょうか。生き残ったのはシルバだけであり、時折挟まれていたシルバの会話はそれゆえの事情聴取だったのですね。最後にシルバが「今度こそ夢が」と言いかけて終わったと思うんですが、シルバの夢とは何だろう?そこが把握できなかったのでいつか観直してみたいところです。

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