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2019
01.22

戦う理由は己の中に。『クリード 炎の宿敵』感想。

Creed2
Creed II / 2018年 アメリカ / 監督:スティーヴン・ケイプルJr.

あらすじ
約30年ぶりの再会。



ロッキーの指導の下で世界チャンピオンにまで上り詰めたアドニス・クリード。そこにかつてアドニスの父アポロと試合しその命を奪ったイワン・ドラゴと、その息子ヴィクターが現れ、アドニスに挑戦状を叩き付ける。因縁の対決に臨むことになるアドニスだったが……。アポロの息子アドニスを主人公にしたシリーズ第2弾。

『ロッキー』シリーズを新たな主人公アドニス・クリードを据えて甦らせた『クリード チャンプを継ぐ男』の続編。アポロの私生児として生まれたアドニスが自分が生きる意味を見つけ出した前作は本当に素晴らしかったですが、今回は1985年の『ロッキー4 炎の友情』でアポロを死なせた男、イワン・ドラゴの息子ヴィクターが登場し、運命的な戦いが繰り広げられます。ロッキーファンにとっては熱すぎる設定ですが、単に父の仇を討つという話にはなっていません。ロッキーと共にボクシングWBC世界チャンピオンになったものの、煽られた因縁の対決に囚われてしまうアドニスと、ロッキーに敗れ全てを失った父イワンの悔しさを晴らさんとするヴィクター。かつての後悔を思い出すロッキーと、憎悪に燃えるイワン。そんな過去に縛られた男たちが、呪縛を断ちきり未来に目を向けるまでの姿が描かれるのにはもう爆涙ですよ。何度も問われる「戦う理由」が熱く、前作に劣らぬ素晴らしさ。

キャストは前作から続投。アドニス役の『ブラックパンサー』マイケル・B・ジョーダンの演技は抜群に良くて、特に今にも泣き出しそうな表情とか極上です。体の仕上がりも素晴らしくてチャンプ役に違和感なし。前作でアカデミー助演男優賞にノミネートされたロッキー役のシルベスター・スタローンは今作でも素晴らしい。台詞がいちいち染みるんですよ。スタローンは製作に脚本まで担当してますね。ビアンカ役の『マイティ・ソー バトルロイヤル』テッサ・トンプソンはシーンごとに服装も髪型も違って全部キュートで最高。そしてイワン・ドラゴ役でドルフ・ラングレンがシリーズ復活!スタローンとは『エクスペンダブルズ』シリーズでも共演してますが、今回は過去の因縁極まれりという感じで、いい具合に枯れつつも眼光の鋭さが迫力。またヴィクター役は現役ボクサーのフロリアン・ムンテアヌ、ラングレンとはそこまで似てないですが結構演技も良く、何より強敵感が半端じゃないです。

監督が前作のライアン・クーグラーからスティーヴン・ケイプルJr.に代わったのが不安だったけど杞憂でした。試合シーンのスリルと躍動感は手に汗で、前作ほどの目新しさはないもののリングの外にも焦点があるのでトリッキーにしすぎないのはむしろ良かったです。また少ない描写でここまでドラゴ親子に深みを出すのも実に上手い。唯一昔と変わらないあの人が憎々しいだけに余計親子の悲しみが募りますよ。アドニスの家族のこと、ロッキーの息子のことと、二世代に渡る親子の物語を多方面から描いての着地、そしてしっかり『ロッキー4 炎の友情』の続編でもあるという素晴らしさ。大体泣きながら観てました。

↓以下、ネタバレ含む。








■過去の因縁

アドニスが父の仇であるドラゴの息子と戦う、というのは最初は正直心配でもあったんですよ。しかしウクライナのキエフから始まる冒頭、暗い通路を歩きながらリングに向かうヴィクターの試合でスタートするというのは前作のアドニスと同じ始まりという対比となっており、かつてソ連で英雄視されていたイワンとその息子が決して恵まれた環境にはいないというのがわかって、単なる善悪の話ではないことを予期させます。一方前作でアイデンティティを取り戻したアドニスは、タイトルマッチに勝利してついに世界チャンピオンに。相手をK.O.したアドニスに駆け寄ったビアンカに「自分が何をしたかわかってる?」と言われてようやく観客席に拳を高々と上げるアドニス。マスタングのキーを返せと吠えまくるのが可笑しいですが、それだけに自分のために戦ったゆえの勝利というのを見ることができます。そんな次世代の光と影が、親世代の因縁に巻き込まれていきます。

イワン・ドラゴが『ロッキー4』でホームでの試合に負けた後に国にどういう扱いを受けたのかは、「国も尊厳も妻も失った」と本人が語る通りなのでしょう。わざわざロッキーの店まで会いに来たイワンが見せる睨み上げる表情には怨嗟が浮かんでいます。「俺の写真がない」と言うのは自分にとって大きな出来事であるあの試合がロッキーの中では記憶に値しないのかという恨み節でもあり、ロッキー像を見上げたときの苦々しげな表情もあって、ここでも光と影の明暗が浮き彫りにされます。挑発するように「いい写真だ」とアポロの写真を指して言うイワン。あの階段の上、前作ラストでロッキーとアドニスが見たのと同じ景色をドラゴ親子がどういう気持ちで見ていたかと考えると苦い。

ただロッキーとしてはイワンとの写真を飾ってないのは、やはりアポロへの後悔を思い出してしまうからなのでしょう。やるべきじゃなかった、タオルを投げるべきだったという後悔。だからアドニスのことも思い止まらせようとするものの、父と同じように試合すると言い張るアドニスを止められない。同じ思いはしたくないという弱気がロッキーをセコンドから離れさせます。ついに迎えるヴィクターとの試合も現地には行かず、仕込みを終えてからテレビ観戦。このシーンは試合中のリングよりもテレビを見ながら「ガードしろ」とか「試合を止めろ」と言うロッキーの言葉が届かない、というのが泣けてきます。


■アドニスとロッキー

前作から躍進してチャンプとなったアドニスですが、試合直後はまだ王者としての実感がなさそう。と言うかビアンカにどうプロポーズするかの方が緊張してるみたいで、ロッキーにプロポーズ指南を受けようとしたら思い出話が始まっちゃうし、挙げ句ビアンカが補聴器外しててタイミング大失敗で笑います。でもダサいと言ってたのに結局ロッキーのように片ひざついてのプロポーズには、ロッキーへの信頼度の高さとビアンカの喜びようとでじんわりと泣けますよ。それだけにヴィクターに事実上敗れた後のアドニスはツラい。見舞いに来たロッキーに見せる怒りとも哀しみとも言えない、悔しさと惨めさと情けなさが混じったような姿が痛々しい。マイケル・B・ジョーダンの今にも泣き出しそうな表情と声の出し方が素晴らしいです。再戦を求める周囲の声にもノレず、ビアンカとも心が通じてないアドニス、しかしそんな彼を救うのもやはりロッキーなんですね。クリード家に来たロッキー、「自分は通じるのか」の問いに「俺は勝った」と言って思わずアドニスも笑って抱き合うのがまた泣けます。

なんかさっきから「泣ける」ばかりだけど、実際そうなんだからしょうがないんですよ!子供が産まれると聞いて病室へ向かうときに「俺の子供だ」と言うアドニスと「俺まで緊張してきた」と言うロッキー、ここでもやけに泣けてしまってもうダメだ……。ボクシング以外のちょっとしたシーンでもエモーショナルなのは今作の監督の特徴かもですね。生まれた娘も耳が聞こえない(未確定。再検査の結果は語られず)という重さに「娘を愛せるか」とズバッと問うロッキーに親代わりとしての愛情が窺えたり、娘を連れて訪れたジムで思わず叫んでしまうアドニスに戦うことへの葛藤を見せたり、スティーヴン・ケイプルJr.監督良いですよ。ロッキーの台詞も「リングへの三段の階段」「その先は孤独な世界」とかいちいち良くて、押し付けがましくないけど含蓄のあるロッキーの人物像がスタローンのさすがの好演と相まってとても好ましい。結婚、出産という点では『ロッキー2』をも思い出しますね。

他にも序盤で姿のないところから声が聞こえて気付くと鏡に映ってる、というロッキーの登場の仕方にはシビれるし、帽子を手に所在なさげに立つロッキーの姿にはミッキーが重なったり、人物が戸惑うときには微妙にカメラが揺れたりと、細かいところで良いなあという演出が多いです。リングに上がると周りの声が聞こえなくなるとか、水に入ると声がこもるといった音の使い方で、アドニスに届く思いは何かといった見せ方も面白い。あとビアンカの妊娠を本人たちより早く見抜くメアリー・アンはスゴいな!あそこの視線の交わし方がまた良いです。


■ヴィクターとイワン

ドラゴ親子は会話を交わすシーンもほとんどなく、朝はパンチでヴィクターを起こすというのからしてスパルタ。イワンはひたすらヴィクターをしごき、ヴィクターはそんなイワンに応えようと練習に励みます。そんな親子鷹の二人にあるのは自分たちを切り捨てた故郷への怒りであり、逆恨みとも思えるロッキーたちへの敵意。祝賀会で「ドラゴ」の名が入ったトランクスを送られて複雑な顔をするヴィクターとは裏腹に表面上はにこやかに振る舞うイワンには、息子に栄光を与えるために我慢してるんだろうというのが窺えます。祝賀会の席に平気な顔でやってくるルミドラには驚きますが、ブリジット・ニールセンが続投してるのにも驚き(スタローンの元妻ですよ?)。激昂するヴィクターに対し「俺は負けた」と返すイワンがせつなくてツラい。失ったものを取り戻そうという「戦う理由」が二人にはあるのです。

この「なぜ戦うのか」というのは何度も問われることになります。ドラゴ親子には戦う理由がある。アドニスはどうか。父のために戦ったはずが、試合後はその父の声が聞こえなくなった、と言います。前作で自分が生きている意味を見出したからこそ前に進めたアドニスが、再び戦う理由を見つめ直し、出した答えが「戦うのをやめたら何者でもなくなってしまうから」。かつて『ロッキー4』でアポロは戦う理由を「俺は戦士だからだ」と言います。「人は変われない」と。それは己のアイデンティティが「ボクサーであること」だからでしょう。アドニスは奇しくも父と同じ理由で戦うことを決意します。

逆にロッキーは、イワンとの試合後に「人は変われる」と言いますが、そちらは人との関わりは変えられるということなのでしょう。それは一人で戦おうとしていたアドニスが、ロッキーとビアンカと生まれた娘、そしてデュークと皆の力を必要とするように変わるところに引き継がれます。アドニスはロッキーとアポロ双方の意思を受け継ぐことになるのです。そしてドラゴ親子は、戦いのなかで呪縛から解き放たれ変わることになります。これが深くて良いです。


■死闘再び

再戦に向けたメキシコでのトレーニング、ロッキーはガッツだハートだと精神論を言っているようで、タイヤに足入れての接近戦の強化、ダンベルぶら下げ首の強化、耐久力を上げるため腹筋の強化、灼熱のロードワークによるスタミナ強化と、ちゃんと欠点を補うトレーニングをさせるのがイイ。走り込み中に倒れたアドニスを救おうとせずに見守り「立て」と呟くのが泣けます。マイケル・B・ジョーダンは上体がブレずに猛スピードで走る姿がカッコいいし、そういえば最初の試合前に取材陣に見せるミット打ちの速さもスゴくて(受ける人も上手い)、改めて身体能力高いなあ。ハンマーで地面を叩くのはロッキーがロシアで薪割りをして鍛えたのを思い出すし、ドラゴ親子のトレーニングと交互に映すのにも『ロッキー4』のシーンが思い浮かびます。自らミット打ちするドルフ・ラングレンが熱い!

そしてこれまた『ロッキー4』同様にアウェーであるロシアでの再戦、ビアンカが生歌を歌いながら入場するというのにはブッ飛びますが、それこそアドニスが「俺たちはチームだ」と言ったことの表れであり(そういう意味じゃなかったかもしれないけど……)、前回の試合ではアドニスが一人飛び出るような入場だったのが、今回はロッキーもデュークも皆揃って入場します。前回では因縁に囚われすぎて試合前にグローブを合わせなかったのも今回はクリア。そしてゴングが鳴り、明らかに前回とは違う打たれ強さを見せるアドニスに、ロッキーの的確なトレーニングの効果が見られてアガります。倒されても何度でも立ち上がるアドニスにさすがのヴィクターも不安げな表情。イワンが肋骨を折るよう指示したのはやり過ぎですが、それだけ焦っていたのか。ロッキーが何度倒しても立ち上がってきたことを思い出したのかもしれません。

前回肋骨を折られたときは「試合を止めろ」とテレビに向かって言っていたロッキーが、また肋骨を折られたときは「まだやれるだろ?」と言うのはさすがにちょっと無茶じゃないか?とは思うんですよ。実況も三十年前の悪夢が脳裏をよぎるみたいなこと言うし。でもアポロのときは彼の「止めるな」という言葉にタオルを投げられなかったロッキーが、それでもアドニスを止めなかったのは、このハンデでもなお勝てるという確信があったからなのでしょう。それだけのトレーニングを積んで耐えてきたアドニスとの信頼関係の深さ。ヴィクターを「野獣(原語はdangerだったかな?)」と評したロッキーがアドニスに「お前は野獣だ」と言うのはそれに負けてないということ。イワンがベルトを奪い取れとか叩き潰せとかプレッシャーを与えるのに対し、ロッキーは鼓舞するようなことを言うというのが二人の対比として面白い。


■親と子の人生

ヴィクターが劣勢と見るや席を立つルミドラ。昔からあんな酷い女だったよな!アドニスがダウンしたときは視線の先に声援を送るビアンカが映るのに対し、ヴィクターがダウンしたときには座っていた母がいなくなっているという対比のなんと苦いことか。元妻が立ち去った場所を悲しそうに見るイワンと、母がいないと気付き悲痛な声をあげるヴィクター。「父さんを捨てた女だ」と吐き捨てながらも母が認めてくれることを、ヴィクターはどこかで期待していたのでしょう。国や栄光より一人の女性をこそ求めていた親子が悲しすぎます。

それでもヴィクターが戦うのは父のためか。しかしここでイワンが取る行動には胸が熱くなります。かつてロッキーが投げられなかったタオルを、ヴィクターの血に染まったタオルを投げ入れるイワン。苦渋の選択に滲む勇気と愛情。ここで思い至るのは、イワンも実はアポロを死なせた試合のことを後悔していたのではないか、ということなんですよ。そう考えると余計泣けます。そして試合後、泣きそうな顔で息子に「もういい」と言うイワンに爆泣き。ロッキーと戦ったときは「自分のために戦う」と叫んだイワンとその息子こそが、最も過去に囚われていたのかもしれません。一方父のためにと戦い負傷したアドニスは、今度は自分自身を取り戻すために戦い勝利します。それは友を死なせた過去を持つロッキーをも救うものでした。最後にアドニスと拳を合わせ「お前の時代だ」といって座るロッキーの背中は、寂しさを感じつつとても満足げに見えるのです。

怒りに燃えて戦ったヴィクターは失った悲しみと向き合い、父イワンはそんな息子を支え続けます。「俺が走れと言ったら走れ」と車で追い立てていたイワンが、息子と並んで走る姿、そんな父に走りながら視線を送るヴィクター。この短いロードワークシーンのなんと深いことか。ロッキーは「ロッキーの息子」であることを嫌って去った息子にようやく会いに行き、何年ぶりかに顔を合わせることができます。それはボクサー「ロッキー」のあとをアドニスが継いだことで、一人の父親に戻れたからでもあるのでしょう。やっと対面した孫へあのボールが受け継がれるのも泣けます。そして復讐でもなく恨みでもない、ただ勝つために戦った、と父アポロの墓前に報告するアドニスは、ようやく父に孫娘を紹介するのです。この多層的な親と子の物語こそが、二世代の戦いという出来すぎな設定にとどまらず、自分を取り戻して人生を歩んでいく者たちのドラマへと昇華されていて素晴らしいです。

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