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2019
01.07

離れても、想いを届けて。『シシリアン・ゴースト・ストーリー』感想。

Sicilian_Ghost_Story
Sicilian Ghost Story / 2017年 イタリア、フランス、スイス / 監督:ファビオ・グラッサドニア、アントニオ・ピアッツァ

あらすじ
二人を繋ぐものとは。



シチリアの小さな村。13歳の少女ルナが思いを寄せていた少年ジュゼッペが突如失踪してしまう。周囲が口をつぐむ中、ルナは必死にジュゼッペの行方を捜すが……。少年少女のせつない恋の行方を描くラブストーリー。

1993年にイタリアのシチリア島で実際に起こったという誘拐事件を元にしたお話。13歳の少女ルナは思いを寄せるクラスメイトのジュゼッペとイイ雰囲気になるものの、その矢先にジュゼッペは姿を消します。どうやらジュゼッペの父がマフィアであることが関係しているらしく、その行方を必死に探ろうとするルナに対し母親は行動を控えるよう促し、他の大人たちも冷淡な反応。そんな閉塞感と絶望感のなか、純粋に相手を求める気持ちが若き二人を繋げる、というのが何とも幻想的。シチリアの美しい自然を舞台に、凄惨な実話を膨らませてフィクションを織り混ぜることで、美しくも儚い物語として記憶に留めさせます。

ルナ役のユリア・イェドリコブスカはちょっと昔の前田愛っぽい感じがありますが、目力がとても強い。怖いほどの真っ直ぐさで観る者を取り込んできます。ルナの好きな男子、ジュゼッペ役のガエターノ・フェルナンデス、最初はニヤついた小僧だなーなんて思ってしまったのが申し訳ないほど、後半は良い表情を見せてくれます。二人ともこれが映画初出演のようで何ともフレッシュですが、それが余計に理不尽な事件に巻き込まれた一般人の苦しみを浮き上がらせています。

シチリアのマフィアが絡む不穏さが、少年少女のせつないラブストーリーとこんな形で融合するとは驚き。不意に大きくなる音使いには緊張感が伴い、幻想的に繋がる場面には心をざわつかされ、タイトルの意味が苦さをもたらします。

↓以下、ネタバレ含む。








イタリアのシチリアと言えばマフィア発祥の地というイメージなんですが、組織同士の抗争ではなくそれに巻き込まれた少年の話がベースなんですね。マフィアであるジュゼッペの父親が検察に内部告発しようとしたために、それを脅して思い止まらせようとマフィアがジュゼッペを誘拐した、という実際起こったこの事件。しかしルナのパートについてはフィクションとのこと。史実そのままのクライム・ストーリーにするのではなく、ジュゼッペを愛するルナとのラブストーリーにしている、というのが非常に特徴的で、これによりジュゼッペの悲劇がより一層感情的なものとなって襲い掛かります。

思春期を迎えた少年と少女の青くさいやり取りの序盤、木に隠れてジュゼッペの様子を窺うルナと自分宛の手紙をからかうジュゼッペ。お互い素直になれないもどかしさにはムズムズしますが、そんな初々しさが森や牧場のある小高い丘の風景もあって美しく彩られます。しかし一方で不意に大きくなる風の音や、あれは虫の羽音でしょうか、そんな音使いによりやけに落ち着かなさを与えてきます。他にも時計の音が不意に止まったり、水滴が落ちる音が響いたり、音の演出はルナを取り巻く現実の不穏さを助長させます。そして姿を消すジュゼッペ。バラバラになった悟空人形が痛ましい(普通にドラゴンボールが出てきたのはちょっと不意討ち)。

また数々のイメージがルナの妄想と混ざり、現実とは異なる風景を見せていきます。森のなかで追ってきた犬は襲いくる脅威としてその後も現れるし、ジュゼッペをさらった車は実際はルナの後ろを走り去ったのに、その後でルナが車を追いかけるシーンがあったりします。ジュゼッペの家に忍び込んでそこで寝たと思ったら自室だったり、湖に入ったと思ったら囚われた家の近くに出てきたり。特に説明もないのでこれが現実か虚構かに一瞬戸惑いますが、そこにはルナのジュゼッペに対する、現実を凌駕するほどの想いの強さが表れます。実際には髪を青く染めてビラを配ったり、ジュゼッペの席に座ったクラスメイトをビンタしたり、結果頭を丸めることになっても諦めきれないルナ。その想いは怖いほどに一途で、事態を追求しようとしない周囲を睨み上げる、触る者みな傷付けるナイフのような目が強いです。

そこにはマフィアとは無関係だと言い張る母親との確執もあります。この母親の、穏やかな顔と言葉で押し付けてくる、自分は間違ってないという言動も別の意味で怖い。結婚で失敗した、みたいなことを夫の前で平気で言うし、人生を後悔するような口振りがまた閉塞感を高めます。父親はまだ優しいし、ルナのことを理解しようとしてくれますが、母親の言うことには口を挟まない、というのがどこか人生を諦めてるかのよう。つまり最も近くにいる両親は、諦めないルナとは真逆の人物として描かれているわけです。これはマフィアに怯え辟易しながら暮らすシチリアの人たちそのものの姿なのかもしれません。逆にルナの友達のあの娘が、ライトでモールス通信(?)したり、一緒に髪を青く染めたりとイイやつなのが救い。舞台が93年なのでまだ携帯電話も一般的ではないわけですね。

ルナとジュゼッペは実際には再会できません。二人を繋ぐのは互いを思う夢の中だけ。暗い監禁場所でルナからの手紙を読むジュゼッペ。彼が一度ルナの手紙を地面に埋めようとして再び取り出すのは、生きることを諦めようとして思い止まるようで痛々しい。一方でルナはジュゼッペの監禁場所に辿り着きます。逃げ出してボートに寝転がって隠れる二人には、このシーンが現実だったら、と思わずにいられません。しかしこのジュゼッペは既に死にかけていた自分を見下ろしている生き霊のようなものとして現れているため現実ではないわけです。ルナが壁に描いた木のトンネルを通って出会えたのか、ジュゼッペの思いを伝えるかのように現れたフクロウがもたらしたのか、ルナの夢なのかジュゼッペの見た幻なのか、ともかく二人の想いが現実を越えて出会うのが幻想的で美しく、しかしこれが「ゴースト・ストーリー」であることがせつないです。

ジュゼッペは779日の監禁のあと殺されます。湖に捨てられたドラム缶の中身は酸で溶かされた遺体。人一人の命の尊さをここまで残酷に美しく描くシーンはなかなかないですよ。なぜ殺されなければならなかったのか、この理不尽な事件でルナは傷付き、シチリアの地は傷付きます。その傷を抱えながら、それでも最後は新たな友人たちと笑顔を見せ合うルナ。痛ましい経験を経ながらも、生きている人は変わっていく。しかし最後に表示されるジュゼッペへの追悼の言葉、我々は彼を忘れないという思いは、悲しき物語の形を取って観る者の心に刻み付けられるのです。

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