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2018
12.25

もう一度、顔を見たくて。『アリー スター誕生』感想。

A_Star_Is_Born
A Star Is Born / 2018年 アメリカ / 監督:ブラッドリー・クーパー

あらすじ
We're far from the shallow now.



音楽業界を夢見ながら自分に自信を持てずにいる女性アリー。バーで歌いながら日々を過ごしていたなか、ある日偶然店にやってきた世界的ロックスターのジャクソンと出会う。ジャクソンに才能を見出されたアリーは彼と共にスターへの道を駆け上がっていくが……。ブラッドリー・クーパー監督による音楽ドラマ。

1937年の『スタア誕生』含め過去3度映画化された物語のリメイクになります。歌の才能を持ちながら陽の目を見ず、周囲からは「鼻が高すぎる」と容姿も否定され、ドラァグ・バーで歌う日々のアリー。そんな彼女のステージをたまたま観た世界的ミュージシャンのジャックことジャクソン・メインは、アリーに魅せられて彼女を自分のステージに誘います。そこから始まるアリーの躍進とジャックとの恋。しかし思いがけない悲劇がアリーを襲い……というお話。主演は世界的なシンガーであるレディ・ガガ。『シン・シティ 復讐の女神』『マチェーテ・キルズ』などでチョイ役としてはスクリーンでも見てましたが、ここまで素晴らしい演技を見せてくれるとは驚きです。奇抜な衣装やメイクというイメージですが、容姿をとやかく言われながらも歌うことが好きで曲も自分で書くというアリー役はガガ自身とも重なり、素顔で魅せる一人の女性としての人生、そしてステージでの圧倒的な存在感は堂々たる主人公ぶり。

そしてそれ以上に、アリーを見出だすジャック役のブラッドリー・クーパーですよ。『アメリカン・スナイパー』で見せた重厚さや『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に見る台詞の感情表現などの演技はもちろん、自ら歌うステージシーンも抜群にカッコよくて、ギターやピアノの腕前も披露。そしてクーパーはこれが初監督作でもあるんですが、とてもそうとは思えない演出の手腕が素晴らしいです。タイトルの出方からして印象的で良いんですが、アリーとジャックの出会いからステージの高揚感、二人のすれ違いやジャックの抱える闇など、ハッとするようなショットが至るところに。台詞とは裏腹な真の感情が見え隠れしたり、頻出するアップ自体に意味があったりもして、何と言うか非常にスリリング。ボビー役の『マイレージ、マイライフ』『ゴーストライダー』サム・エリオットとの絡みも実に赴き深くて驚きます。

音楽が中心となる作品として、楽曲がまた凄まじくイイ。音楽が与えるエモーショナルな力をも最大限に引き出しています。楽曲の素晴らしさがドラマに貢献し、ドラマが音楽に反映される相乗効果も見どころ。スターダムを駆け上がり多くを得ていくアリーと、スターでありながら多くを失っていくジャック、ただ一緒に歌うだけでよかった二人が辿り着く結末に、激しく心を揺さぶられます。愛と栄光と挫折を描き、魂が震える見事な出来。凄かったです。

↓以下、ネタバレ含む。








■アリーの思い

暗い路地裏を歌いながら歩くアリーの後ろ姿、それを中心に表示されるタイトル『A Star Is Born』。このカットだけで良作の予感がするんですが、その期待に違わずどんどん引き込まれていきます。特にアリーとジャックの出会いからアリーがステージに上るようになる前半は、刻々と変化していく運命に戸惑いながらも夢に近付いていくアリーの興奮や、互いを必要とするジャックとの愛の日々などで、幸福感もとても高いです。アリーが最初にジャックのライブに行くシーンでは、バックステージへの階段を昇るアリーとステージ上のジャックのカットバックによる盛り上げ方にテンションが上がり、不意にステージに上がることになるアリーに緊張と高揚を同時に感じます。このステージへの一歩を踏み出す際のアリーが逡巡する様子には、否定された過去への恐れや押し込めていた夢への渇望などが見えてスゴくイイ。そんな溜めに溜めてついに歌い始めるアリーの圧倒的な歌声には鳥肌。一度聴いただけの「シャロウ」を完成させてバンドに演らせるジャックもスゴいですが、それを歌えちゃうアリーもスゴくて、そんな才能を目の当たりにすること自体にまたアガります。

リメイク元の作品群は観てないので比較はできませんが、名前や業界などは変わっていても基本的なプロットは同じなようです。発掘された若き才能がそのままスターとの恋に落ちるもハッピーエンドとは行かず、やがて大いなる喪失を迎え、それでも前に進もうとする。つまり単なるシンデレラ・ストーリーではないということですね。アリーとしては認められることは嬉しいんだけど、それ以上にジャックのことも大事に思っており、天狗になったり自分からジャックを邪険にしたりすることもありません。基本素直でまっすぐ。境遇はどんどん変化していくものの、プロデューサーのレズ・ガヴロンがジャックに「彼女は君を愛しすぎている」と言うように、自信を持てなかった自分を変えてくれたジャックはアリーにとっては変わらず大切な存在です。


■ジャックの思い

逆にスターであるはずのジャックの方がおかしくなっていきます。それは嫉妬ややっかみというものではなく、アリーが自分から離れて行ってしまうことの寂しさ、自分の知らないアリーに変わってしまうことの不安、といったものが理由でしょう。ダンスの練習をしていると言うアリーに「君には歌がある、ダンスなんて」というような台詞にもそれは見受けられます。ジャックは冒頭から酒飲みすぎで(そのおかげでアリーにも出会ったんだけど)、何かにつけ飲んでばかり。ボビーはジャックが酒浸りになる理由について「あんたにはわからない」とアリーに言います。それは片耳が聴こえずもう片方も聴こえなくなるかもしれないというミュージシャンにとっての最大の恐れがあるからでしょう。しかしそれで酒に溺れるところにジャックの弱さが見えます。またアル中だった父親と同じく自分も酒に抗えないのではという不安が余計飲ませてしまう、という悪循環もあるかもしれません。フランク・シナトラと比較されるほど歌が上手かったというアリーの父は娘が売れることに喜びますが、ジャックは父親との関係が決して良好ではなかったのに崇拝するかのような語り方をするところに、ジャックの闇が垣間見えます。

だからこそジャックがアリーにギターの弦で作った指輪を渡し、その日に結婚式を挙げるシーンはことさらロマンチックだし、物事がいい方向に動き始めそうな予感さえ漂わせます。しかし一時は酒から離れたものの、前述の変わりゆくアリー、加えてステージで歌う役割を若手に奪われるというやりきれなさが再び彼を酒へと走らせます。「ギターが弾けてよかった」という台詞とは逆に、グラミーで新人賞を獲ったアリーが手元から離れてしまうという思い。そして世界中が見ている檀上での大失態。ついにはアルコール依存のセラピーを受けることに。境遇の振り幅が大きいアリーに対し、ジャックは心の振り幅が大きいんですね。

それでもやり直そうとし、ケンカ別れしたボビーに「俺が崇めていたのは親父ではなく兄さんだ」と告げ(このシーンに限らずサム・エリオットは実に良い)、アリーとも新たな住まいでやり直そうとした矢先の悲劇。レズの言葉はショービジネスに関わる者として言わずにはいられなかったのでしょうが、それはジャックの後悔を増幅させ、もはやアリーが自分だけに特別な存在ではないということを実感させてしまいます。ジャックが死に向かうのと同時にステージで演奏される「シャロウ」が、かつてジャックと歌った曲と同じとは思えない、やたらアップテンポなアレンジとなっているのがせつないです。


■見えない顔

本作はアップの映像が多いですが、それ自体が感情を表す演出として機能しています。ジャックの言葉に対して不意にアリーの顔が角度を変えたアップとなってそこに衝撃度合いを感じたり、ステージ上であえて客席を映さずアリーの顔を中心に映し続けることでアリーの感情に寄り添ったりします。この下手をすれば画一的になりそうなアップの多用が、スリリングでさえある演出の妙にまで昇華されているのが凄い。そしてこのアップの多さは「顔」というキーワードへと繋がっています。最初にアリーに会ったとき、ジャックは「本当の顔が見たい」と眉シールをはがします。アリーは髪型やメイクも変えて最初とは違う「顔」をまとうようになっていきます。そんなアリーの「顔」に無言でケーキをなすりつけるジャック。しかしもはやアリーは大きな看板に「顔」を掲げられるほどのスターとなります。そしてジャックが最初の別れ際に言った「顔が見たかった」という台詞が、二人の最後の会話でアリーが部屋を出るときにも繰り返されます。

これは「本当の顔」を巡る物語であると言えるでしょう。スターダムを駆け上がるほどに見えなくなっていくアリーの「本当の顔」、つまり素の部分でのアリー自身。ジャックが求めたのは共に歌い一体感を得たあの頃のアリーであった、というのが、ダンスを取り入れたアリーに「堕落させた」と言うことからも窺えます。逆にジャックが首を吊る前には顔は映さず足だけが映るというのが、本心を明かさずに消えるジャックの悲しさを思わせます(あとシャッター前のわんこが悲しい……)。ショッキングなシーンをこのように描くのには舌を巻くし、追悼コンサートで歌われる曲が終盤で在りし日のジャックと共に歌った曲だとわかる演出には爆涙。そしてラストショットはやはり「顔」のアップで終わるのです。最初にステージで歌ったときに信じられないというふうに顔を覆っていたのとは対照的。そこにあるのは、悲しみを乗り越えまっすぐ前を見据えるスターとしての決意の顔。まさに「スター誕生」が成されるのです。

いやあ凄かった。音楽映画としても素晴らしくてサントラを聴かずにはいられないし、生々しい感情が迫ってくるような見事な演出の数々にやられました。ブラッドリー・クーパーはカッコいいだけじゃなくとんでもない才人じゃないですか……次の監督作も期待したいです。

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