FC2ブログ
2018
12.18

ひねくれ者 vs ピュアハート。『グリンチ』感想。

Grinch
The Grinch / 2018年 アメリカ / 監督:スコット・モシャー、ヤーロウ・チェイニー

あらすじ
クリスマスで苦しみます。



もうすぐやってくるクリスマスに皆が沸き立つフーの村。しかしそこから少し離れた山の上の洞窟で愛犬マックスとひっそり暮らすグリンチはクリスマスが大嫌い。ひねくれ者で意地悪なグリンチは、村人たちが大好きなクリスマスを盗んでしまおうと思いつくが……。イルミネーション製作のCGアニメ。

『ペット』『SING シング』などを生み出してきたアニメスタジオのイルミネーション・エンターテインメントが、ドクター・スースの絵本のキャラクター「グリンチ」をアニメ映画化。グリンチは2000年にはジム・キャリー主演で実写映画化もされてますが(未見)、アメリカでは国民的なキャラクターで、クリスマスの定番話とのことです。緑色の毛むくじゃら、普段は山の上に住んでるグリンチは、意地悪でひねくれ者。麓の村人たちが楽しみにしているクリスマスが大嫌いで、ついにはこれを「盗む」ことを画策するというお話。映像的にはクリスマス一色の村の風景がスゴくユニークで美しく、そのなかを滑らかに移動するカメラワークにはワクワクします。ユーモラスなキャラたちによるスラップスティックな動きの笑いも楽しい。グリンチは何気にスゴい発明家でもあって、その珍発明の数々もアニメ的ケレンに満ちてて愉快です。

グリンチの声を当てるのは『ドクター・ストレンジ』『SHERLOCK シャーロック』のベネディクト・カンバーバッチ。吹き替えは『ホビット 竜に奪われた王国』や『ペンギンズ FROM マダガスカル ザ・ムービー』などでもやってますが、今作もさすがの芸達者ぶりで複雑な内面を持つグリンチを演じます。日本語吹き替え版のグリンチ役は大泉洋ですね。あと犬のマックスが健気で可愛く、グリンチが発明家ということでちょっと『ウォレスとグルミット』を思い出します。

物語としては、なぜグリンチがクリスマスを嫌いなのか、それがクリスマスを盗むという大それた計画とどう絡むのか、というのが見どころになっていきます。ただし、お話は拍子抜けするほどストレート。もう一捻りあるのかと思ったら終わってた、という感じなので少々物足りなさもなくはないです。でもクリスマス定番の話を愉快に映像化したファミリー向け作品としてはこれでいいのかも。

ちなみに同時上映の短編は『ミニオンのミニミニ脱走』。『怪盗グルーのミニオン大脱走』に続き、刑務所にいるミニオンたちが図らずも脱獄することになるドタバタ劇で、問題なく楽しいです。原題が『Yellow is the New Black』で、女子刑務所が舞台の人気ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』のパロディになってるのが笑います。

↓以下、ネタバレ含む。








■細部まで作り込んだ楽しさ

フーの村のクリスマス全開の美しさは圧巻。色とりどりの飾り付けや道行く人々の笑顔はもちろん、池でスケートを楽しんでたり、なかにはカラクリ仕掛けのように開く店があったりクリスマス製品しか売ってないような店もあって愉快。夜には村中の家に飾られ煌めくイルミネーション。そして空輸されてくる超巨大ツリー。まさに「クリスマスの空気」が充満しており、さながらテーマパークのよう。村の形状も独特で、中央が高くそびえるような形はモン・サン・ミシェルのようで優雅です。この形状により坂道が多くなり、それを活かしてシンディ・ルーがソリで滑空するというアクションも見せたりします。この細かいところまで凝った美術が魅惑的で楽しく、お祭り感を最大限まで高めます。

しかしそんなクリスマス一色の風景が面白くないグリンチ。グリンチはあれは何の生物なんでしょう、毛に覆われてるけど雪男ではないし、妖精さんって感じでもない。まあ村人も普通に接するし、差別的な扱いもないので、ひねくれ者だと表すために見た目が他と違ってる人間、くらいの位置付けと思ってよいですかね。ひたすら不機嫌で意地が悪く懐疑的で利己的と、矛先を他者に向けるタイプのネガティブです。毛並の表現がフワフワしてて素晴らしいんですが、体毛と全く見分けがつかないけど実はズボンも靴も履いている、というのが衝撃。発明が得意で、大仰なコーヒーメーカーや全身ブラシ、マジックハンドみたいな足が伸びる靴、足がスライドするソリなど実用性のある珍品が盛り沢山出てきます。これらは効用からユーモラスな動作まで素直に楽しいし工夫を感じるところ。あとパイプオルガンが上手いんですが、犬のマックスによる打楽器とアンサンブルしようとするのがちょっと寂しいです。


■ひねくれ者を囲む者たち

このマックスがイイ子でねえ……毎朝コーヒー持ってきたり、買い物の荷物運んだり、トナカイに代わりソリまで引っ張ろうとする。健気。グリンチもマックスにだけは心を許していて、ちょっと怒った後にすぐ謝ったりします。仲良し。また新たに出会うトナカイのフレッド、呑気な力持ちという感じで『ひつじのショーン』のシャーリーを思い出します。鼻からムースを出すのが得意(得意?)。マックスと一緒にベッドに来るのが可愛いですが、実は家族持ちというのが衝撃。なんでグリンチについていったんだ。迷子か。そんな仲間と共にクリスマス奪取作戦を遂行するグリンチ、クリスマスを盗むというのは飾りつけやプレゼントなどを排除してクリスマス感を奪うということで、各家へ入り込むのはさながら潜入ミッションのようで愉快です。

単にひねくれ者だから皆が好きなものは嫌い、というなら普通の天邪鬼野郎ですが、グリンチにはクリスマスを嫌いな理由がありました。それは孤児院にいた幼い頃、クリスマスにひとりぼっちで寂しかったから。しかしシンディ・ルー(どうもルーシー・リューって言いそうになる)と出会ったことで、グリンチのクリスマスへの憎しみは徐々に氷解していきます。シンディ・ルーは母親のドナと双子の弟と共に暮らしていますが、そこには父親の姿がありません。しかしそれを寂しがる前に、忙しい母を心配し、サンタへは母に楽をさせたいと願います。イイ子。ソリで屋根の上を跳び跳ねたり、上着を4枚着込んで北極を目指そうとしたりとなかなかアグレッシブなのもカワイイ。そんな少女の無垢な心が、ひねくれたおっさんの心を癒していくわけです。


■優しさが救った奇跡

そう、おっさんなんですよ。劇中グリンチの年齢が53歳と明かされるのが衝撃なんですが(意外と衝撃が多いな)、何十年ものあいだその思いを積み重ねた結果の闇なのだ、と思うと深みが増してきますね。ただそのわりには「目を閉じて歌えば幸せになれる」というだけでグリンチが改心するというのはちょっと弱いです。歌なら自称友人のブリクルバウムさんも歌ってたし。だからグリンチがシンディ・ルーの家に招待されたときにも、クリスマスを受け入れようとしたグリンチを皆で責めるみたいなイヤな捻りが待ってるんじゃないかとハラハラしながら観てたんですが、そんなことはなくみんな優しかったです。チラッと頭をかすめた、グリンチがドナさんと急接近、みたいなゲスな展開もなかったです。薄汚れていたのは僕の方だったという衝撃(衝撃多いな)!まあ確かに捻りはないですが、クリスマス丸ごと盗もうとした変人がクリスマスを信じる少女に救われるというだけで十分奇跡的なので、これはこれで良いのですよ。

というわけで、寂しがり屋のひねくれ者が優しさで救済されるという、心の薄汚れた人(自分含む)が率先して観るべき温かいお話でした。ナレーションで全て説明してくれるので難しいことも何もなく、お子様でも安心。そう言えばクリスマスものにしてはサンタの姿が変装したグリンチしか出てきませんが、エンドロールでバスに乗れなかったドナ母さんにお手製バイクをプレゼントしたりするので、グリンチがサンタの役割も兼ねているということなんでしょうね。クリスマスの定番話というのも頷けます。

スポンサーサイト



トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1477-75020686
トラックバック
back-to-top