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2018
12.11

プリンセスはアクティブがお好き。『くるみ割り人形と秘密の王国』感想。

The_Nutcracker_and_the_Four_Realms
The Nutcracker and the Four Realms / 2018年 アメリカ / 監督:ラッセ・ハルストレム、ジョー・ジョンストン

あらすじ
くるみは割りません。(ネタバレ)



母を亡くした少女クララは、クリスマスイブの夜に父に連れられてきたパーティ会場から、見たこともない秘密の国に迷い込む。4つの王国からなるその世界でプリンセスと呼ばれるクララ。しかしそこでは4つ目の国の反乱による戦いが起ころうとしていた……。バレエの「くるみ割り人形」をディズニーが実写化したファンタジー。

チャイコフスキーのバレエで知られる「くるみ割り人形」を元に、不思議な世界に迷い込んだ少女の冒険を描きます。そこは「花の国」「雪の国」「お菓子の国」が存在し、色鮮やかで楽しげな世界。しかしもう一つ、クララが最初に迷い込んで逃げ出した不気味な「第4の国」が存在しており、やがてプリンセスと呼ばれることになったクララは争いに巻き込まれていきます。いやあ良いです、楽しい。『アリス・イン・ワンダーランド』や『ナルニア国物語』『ライラの冒険』『ネバー・エンデイング・ストーリー』のようなお隣の異世界冒険ファンタジーを、一本の映画としてまとめたジャストなサイズ感。細部までこだわったビジュアルはとてもリッチで、どれも絵になります。突然プリンセスにされたクララが単なるお飾りでなく暴れまくるし、科学にも強いというのが現代的。チャイコフスキーの音楽も使われるし、ちゃんとバレエのシーンがあるのも優雅です。

クララ役は『インターステラー』のマッケンジー・フォイ。意外と強気、でも気品もあって本当にプリンセスにしか見えないし、それでいて普通の女の子にも見えるのがとても素敵。他は誰が出てるか知らずに観てたので、シュガー・プラム役が『はじまりのうた』キーラ・ナイトレイだと最初は気付きませんでしたよ(途中でアゴのラインで気付いた)。マザー・ジンジャー役の『ワイルド・スピード ICE BREAK』ヘレン・ミレンも色々とイカしてて愉快。クララの叔父であるドロッセルマイヤーにはモーガン・フリーマン、キャプテン・フィリップ役にジェイデン・フォーラ=ナイトです。監督は『ギルバート・グレイプ』のラッセ・ハルストレムと『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』のジョー・ジョンストンで、なぜか共同監督なんですね。どう分担したのかは定かではないですが。

またアメリカン・バレエ・シアターで黒人女性初のプリンシパルダンサーとなったミスティ・コープランド、英国ロイヤル・バレエ団で史上最年少男性プリンシパルとなった『オリエント急行殺人事件』セルゲイ・ポルーニンという凄い二人が本物のバレエを見せるというのも豪華(なぜかヒップホップ・ダンスが混ざるのが謎なんだが……)。ゼンマイ仕掛けや巨大人形などのカラクリ感にはワクワクするし、マトリョーシカ人間やネズミマンやブリキ人形などはさりげなくトラウマレベルなキモさでイイし、予想外に反転する物語も面白い。4つの国という設定のわりにはこじんまりしてますが、とても入りやすいファンタジー。エンドロールも凝ってます。

↓以下、ネタバレ含む。








■優雅さとサーカス感

冒頭の町をなめらかにフクロウと共に飛んでいき、屋根に着地したところからネズミに変わり、ピタゴラスイッチでネズミをゲットするという映像からして気持ちいい。クララがヒモを辿って進む廊下の赤い壁でもフクロウの図案がネズミに変わるというシーンがありますが、フクロウはドロッセルマイヤーの分身のようなクララを見守る存在であり、ネズミは後に不思議の国で深く関わることになるということで、美術のファクターに統一感があるんですね。またクララが科学、法則、機械に強いというのが、巨大な歯車を使った城の放水装置、顕微鏡のような形の「エンジン」、謎の卵や時計やゼンマイ仕掛けのカラクリといった道具ともフィットし、世界観に一貫性を感じられます。全体的に美術が上品で、クララたちが出席するパーティはゴージャスだけど品があり、お城の装飾もきらびやかながらあまりゴテゴテした感じはなく、一方でクレムリン宮殿的な城や塔から見る広大な景色などの荘厳さなども良くて、なんか好きなんですよ。

物語はクララが迷い込んだ不思議の世界で、花の国、雪の国、菓子の国、遊びの国こと第4の国が抱える問題に直面し、それを解消しようとするもの。タイトルのくるみ割り人形が人の姿となったようなキャプテン・フィリップをお供に、クララは自ら戦いの場へと赴きます。バレエの「くるみ割り人形」では戦う相手はネズミの王国で、それはネズミ登場という点では今作にも反映されてますが、メインは第4の国が侵略しようとするのを阻止することに変更。ヘレン・ミレンのマザー・ジンジャーがそのラスボスなわけですが、その手下のマウスリンクスによる合体ネズミマンとか、マトリョーシカのように中から飛び出たり人ならざるエグい態勢で襲ってきたりするピエロたちがキモいし、超デカいカラクリ人形に巨大ロボ感があったりするしで、小さなお子様が軽くトラウマになりそうな気持ち悪さが豊富でイイ。ちょっと綻びたようなマザー・ジンジャーのメイクとか、遊びの国という名とは裏腹に退廃的な雰囲気なども何ともたまらんものがあります。不気味なサーカス感が良いです。


■反転する善悪

この不気味さが、本当の黒幕が判明することで一気に反転するのがまた良くて、合体ネズミマンは頼りになる善玉クリーチャーとして戦ってくれるし、マトリョーシカ・ブラザーズは奇抜な動きで翻弄し、マザー・ジンジャーを城まで運ぶというミッションも完遂。巨大カラクリ人形が囮として崩れていく様には声援を送りたくなります。マザー・ジンジャーはヘレン・ミレンがまさかのアクション、ムチさばきが超アガる!スタントだとしても熱いです。くそ憎たらしかったマウスリンクスは、クララの真似して指差したりマンホールの蓋を大尉と一緒に押し開けたりと超カワイイ。それまで蔑視されてた者たちが正しさを取り戻すため戦う、というのにグッときます。

一方のシュガー・プラム、クララを使って鍵を取り戻し、エンジンの力で軍隊を組織するというなかなかの策士。ブリキの人形の動きがやたらシャキシャキしてて、命がないのに動いてる感が非常に強くて怖いです。人間大のサイズというのがまた薄気味悪く、手足が欠けても動くというのがエグい。シュガー・プラムはメアリー王女に捨てられたと思った寂しさから凶行に及ぶというのが悲しいですが、王女は死んだから戻ってこれなかった、というのを聞いてもその気持ちが変わらない辺りに深い闇があります。真実がどうあれ私は傷付いた、というのが抑えられず歪んでしまうんですね。最後は人形となってしまうのもやるせないです。ただこの人形がエンドロールの最後の方でデカいのがドーンと横たわってるのにはビビりますが。それにしても腹が減ったら頭に隠した菓子を食べられるというのは便利だな。


■大事なものはここにある

クララを演じるマッケンジー・フォイはプリンセスっぽさが半端なくて、ドレス姿はもちろん兵隊姿の凛々しさもカワイイ。でも怒るとかなり眉間にシワがよってカワイイだけじゃない気の強さが表れます。あと蹴り姿が強い上にとても美しくて、昨今のディズニー作品にある強いプリンセス像をしっかり体現。さらにロープを結んで高所から躊躇なくフリーフォールしたり、迫力の大放水のなか巨大な歯車に捕まって潜入したりまでして、トム・クルーズかな?というアクティブさ。機械好きというのが最後にシュガー・プラムを倒すのにもちゃんと繋がっていますね。クララは自分は人とは違うという自覚があり、世間に迎合するのはイヤだとダンスを踊ることにも乗り気ではありません。しかし不思議な国の冒険を通して、自分のことばかり考えることの愚かさを学びます。父のことは体面ばかりを気にすると批判していましたが、父もまた母を失って寂しいのを隠しているのだ、というのに気付くんですね。父も「自分も悪かった」と言い二人でダンスするシーン、卵から鳴るオルゴールの曲が父が母と踊った曲だ、というのが不意討ちの温かさ。母が卵について「大事なものはすべてこの中に」という意味がわかるわけです。

というわけで、本作はクララが冒険のさなかで様々な者と協力し、障害を乗り越えて成長する、というわかりやすい成長譚です。ただ、国が4つもあるわりにはそれぞれ少し風景を映すだけで、あとは摂政たちがいますよーくらいしか描かれないし、舞台となるのはほどんどが城と第4の国、あとはその間にある森だけなので、二点間を行ったり来たりしてるだけのようにも思えて、世界の広がりというのは感じにくいです。あと大量のブリキ人形に対して味方が少なすぎるというのも物足りない。それらがこじんまりした印象となる原因でしょう。でもだからと言って花の国や雪の国も蜂起して一大戦争を行えばよいかといえば、それだと雰囲気が変わってしまう。大げさすぎるんですよ。掘り下げは適度に切り上げたことで、結果的にはちょうどいいスケール感になったんじゃないかなあと思います。

何よりワクワクするような映像マジックとそれが醸し出す空気感が素敵です。プレゼントへ繋がるヒモが現実から異世界へと導く期待感に始まり、静謐なクリスマスツリーの森の静けさ、優雅なお城の装飾に奇妙な人々、ナイトとして従うクルミ割り人形大尉の誠実さ、表現力に目を奪われるバレエ演技や聴き覚えのある音楽などなど。そして勝気ながらも麗しきプリンセスにとどめを刺されるわけです。満足したので、モーガン・フリーマンは何だったの?という疑問は忘れることにしましょう。

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