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2018
12.02

境界は揺らぎ、狼は空しく吼える。『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』感想。

Sicario_Day_of_the_Soldado
Sicario: Day of the Soldado / 2018年 アメリカ / 監督:ステファノ・ソッリマ

あらすじ
人間らしさとは何か。



アメリカ国内で自爆テロが発生。犯人はメキシコ麻薬カルテルの手引きで不法入国したらしく、政府からカルテル壊滅を命じられたCIA特別捜査官マットは、カルテルに家族を殺された工作員アレハンドロと共にメキシコ国境地帯での密入国ビジネスを潰す極秘作戦を遂行する。しかし事態は思いもよらない方向に転がっていき……。アメリカとメキシコ麻薬カルテルとの対立を描くクライム・サスペンス『ボーダーライン』の続編。

メキシコ麻薬戦争の実態をエミリー・ブラントの演じるFBI捜査官ケイトの視点を通して描き、その中だるみなく一気に見せきるストーリーテリングと、静かなショットにさえ宿る緊張感が一級品だった前作。この続編では、脚本は前作から引き続き『ウインド・リバー』『最後の追跡』のテイラー・シェリダンということで世界観は引き継がれているものの、エミリー・ブラントは登場せず、監督もドゥニ・ヴィルヌーヴから『バスターズ』のステファノ・ソッリマにバトンタッチ、撮影監督もロジャー・ディーキンスから変わりました。

しかしそれでもやはり凄かった!メキシコ麻薬カルテルを潰すため、組織のボスの娘を誘拐して敵対組織の仕業に見せかけようとするという、相変わらずダーティな手段も辞さないマットらCIA。しかし思いがけない銃撃戦が勃発し、上層部からは作戦変更が告げられます。麻薬カルテルを潰すはずだったのが、どんどんと曖昧になっていく「境界」。終始落ち着かない空気、振り回される現場、そして恐怖を感じるほどの銃撃戦など、エグさと裏腹にリズムのよい展開で引き込まれます。

アレハンドロ役の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』ベニチオ・デル・トロ、マット役の『オンリー・ザ・ブレイブ』ジョシュ・ブローリンは前作から続投。アレハンドロの不意に切り替わる眼光の鋭さ、マットのふてぶてしさなどは変わりないものの、前作とは異なりこの二人が今回は追い詰められていきます。そういえば二人は『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』でも顔を合わせてますね(映像上は)。そしてキーマンとなるちょっと強気な少女イサベル、演じるイザベラ・モナーのとんでもない美少女っぷりに驚いたんですが、この子は『トランスフォーマー 最後の騎士王』のあの子なのか!他、マットの同僚シンシア役に『ゲット・アウト』キャサリン・キーナー、組織の一員ギャロ役に『マグニフィセント・セブン』マヌエル・ガルシア=ルルフォらが出演。また前作で音楽を手掛け、今年2月に他界したヨハン・ヨハンソンに代わり、弟子のヒドゥル・グドナドッティルが音楽を担当しています。

序盤のスーパーのシーンから度肝を抜かれるし、前作の汚職警官のようにそこまで中心には絡まないかと思われた少年が、タイトルを体現していくのにも震えます。前作にいたケイトの不在は選択の余地がないことを際立たせ、仄かな疑似親子感さえ闇に葬られていく非情な現実。「狼の世界」もまた広い世界の一部でしかないことを思い知るのです。渇いた地での壮絶な地獄巡りに戦慄します。

↓以下、ネタバレ含む。








■揺らぐ境界

全編に漂う不穏さと緊張感は前作同様、むしろケイトの客観的視点がないため前作以上に曖昧で寄る辺なく、気が付けば渦中にいるという感じがします。アメリカではない国での事象は不穏ながらもどこか対岸の火事のように描かれ、しかしそこからのスーパーでの自爆テロ、入口を映していて誰にフォーカスするのかわからないまま、こちらを向いて変な動きをする奴がいると思った瞬間の爆発。並行移動するカメラは立て続けに起こる爆発を淡々と映し、最後には出口で命乞いする親子が道連れにされるところまで見せます。自分たちも無関係ではない、というところまで一気に持ってくるんですね。麻薬より人を持ち込む方が安上がりというのには、麻薬を押さえるだけでは済まないという、より複雑化した現状も浮かんできます。こうした序盤だけで現実が作品内に引き寄せられてしまうという感覚がスリリング。

この現実を不意に超えてくる感というか、予想外の巻き込まれ感というのは、作戦の目的が変わっていくところにも表れます。イサベルを誘拐してカルテル同士を争わせる予定が、国境へ向かう途中のメキシコ州警察との銃撃戦で中止、もはやカルテル云々よりも世論と保身に走った上層部からは、よりによってはぐれたアレハンドロとイサベルを消せという指令が。当初の目的は霧散し、後始末だけが残ります。アレハンドロとは盟友であろうマットも命令に逆らえない。前作のエミリー・ブラントとダニエル・カルーヤが法律違反だなんだと正統性を主張しても「そういうもんだ」で受け流していたマットが、今作では制約がないため逆に「そういうもんだ」の一喝を食らうというのが皮肉。これを中間管理職の悲哀とする見方もできますが、それよりは仲間の命を奪うという非道によりさらに境界の揺らぎが強まっている、と思います。


■狼たちの咆哮

そんなぼやけていく作戦とは裏腹に、怒涛の銃撃戦や仕込みのための殺戮といったヤダみだけが真に迫ってくる、というのが現実なわけです。メキシコ警察との一触即発の睨み合いから一気に銃撃戦へとなだれ込むスリルと目の前に着弾する恐怖は、音響の凄さも相まって緊張感が凄い。町中でアレハンドロが銃殺するときの眼光も容赦のなさが半端ないです。あの独特な銃の撃ち方(ベニチオ・デル・トロが自ら提案したらしい)もインパクト大。現場は大変だ。

しかしアレハンドロはイサベルを殺せという指令を無視し、彼女をメキシコに帰すため二人で逃避行を行います。それはイサベルに殺された自分の娘を重ねたのか、あるいは娘と同じく巻き込まれただけのイサベルへの同情なのか。前作でアレハンドロが殺した男が首謀者で、今回のボスが実行犯ということなのか、あるいは逆なのかがちょっとハッキリしませんが、ともかく娘の仇であるカルテルの娘をアレハンドロは救おうとします。心境の変化の理由は明確にはなりませんが、作戦から離れた時点で人として真っ当な判断を下したということなのかもしれません。

一方のマットは、アレハンドロ抹殺の指令を受け現場に赴くものの、物凄く嫌そう。そりゃあそうだ。でも「汚い仕事もする」と言いながら仕事に対する不満を前面に出すマットは初めてであり、ここにマットの揺らぎを見ることができます。ヘリからアレハンドロの死体を見て言葉のないマットには虚無感さえあり、それだけにギャロたちを皆殺しにする行動にはハッキリ怒りを感じます。最後にイサベルを助けるのは、同情や憐憫と言うよりはアレハンドロを死なせた上層部への反抗心なのか、あるいはアレハンドロの行動をせめて受け継ごうとしたのか。ボーダーのあちら側、狼の世界にいたはずのアレハンドロやマットが一片の人間性を見せるという点で、前作のケイトの視点には映らなかった男たちの本心が垣間見える、そんな前作とは異なるアプローチが実に面白いです。


■若者たちの行く末

イサベルは父親がカルテルのボスであることで級友からは差別を、教師からは手を出せないと特別扱いを受けています。それでいて30部屋の豪邸には使用人以外いない独り暮らし。孤独な少女です。だからこそ自分を守ろうとするアレハンドロに父親を感じてしまったのか。途中で聾の男にかくまってもらった際、娘が聾だったので手話ができるとアレハンドロから聞き、さらにアレハンドロが「嘆きの検察官」であることを知っていてそれが自分の父親のせいだと漏らす複雑な表情に、イサベルがいわれのない罪悪感を抱いていることが窺えます。麻薬戦争の外側にいた人物としてイサベルは前作のケイトに近い視点を担っていますが、図らずも事態の中心となってしまうことでより精神的な負担は大きく、最後は感情を閉ざし精神崩壊状態に。彼女もまた麻薬戦争に巻き込まれた犠牲者の一人であるでしょう。

一方で密入国者を運ぶ仕事で暗黒の道へと入り込んでしまう少年ミゲル。前作の汚職警官のような、本筋にはあまり絡まないけど人生狂わされた者として出てきたのかと思ったら、むしろバリバリ本筋に絡む役柄だったのは驚き。年端もいかぬ少年がソルジャーになった日、ということで、最もタイトルを体現する人物だったわけです。車のライトが逆光となるなか結構距離もあって帽子も被ってるのに、一度しか見ていない男の顔をわかるものか?というのはさすがに引っ掛かるんですが、よほど目と記憶力が良いということなのか。ともかくアレハンドロが撃たれる瞬間というのはミゲルが境界を踏み越えた瞬間でもあるんですね。でもその後ギャロやいとこたちが死んだことで、踏み越えたのはまだ片足だけで済んだのかも。

アレハンドロが頬を撃ち抜かれただけで無事だったのはたまたまなのか、ミゲルがわざとやったのかはわかりませんが、生と死の境界から生還したアレハンドロ。一年後にミゲルを訪れたアレハンドロはてっきり報復に来たのかと思いましたが、「将来について話そう」という言葉からは新たなシカリオ(暗殺者)のスカウトに来たように捉えられます。ドアが閉まるというラストショットは断絶した境界を思わせ、アレハンドロと同じ「向こう側」へと消えるミゲルに、連綿と続く地獄巡りを想起するのです。

善と悪の境界の揺らぎを描いた前作から、人としての境界の揺らぎへとシフトした本作は、世界観を崩さずに別の面からシビアな現実を描いたという点で見事な続編でした。三部作構想があるそうなので、ぜひ続編も期待したいところです。

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