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2018
11.28

少女が魔女と呼ばれる所以。『The Witch 魔女』感想。

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The Witch: Part 1 - The Subversion / 2018年 韓国 / 監督:パク・フンジョン

あらすじ
ゆで卵もぐもぐ。



実験的な特殊施設で育った少女ジャユンは8歳の時に施設を逃げ出し、助けてくれた酪農家の娘として暮らすことに。それから10数年後、逃げ出す前の記憶を失っていたジャユンは酷い頭痛に悩まされるようになり、その手術費用を得るため賞金目当てのオーディションを受けるが、そのときのテレビ番組でマジックとして特殊な力を披露したために、謎の組織から追われることに……。異能の少女を描く韓国アクション。「のむコレ2018」上映作品。

脳を弄られ異能力を得た子供が施設を逃げ出して成長し、そこになおも刺客が襲い来るというお話です。おおまかなあらすじから『X-MEN』シリーズ的な、韓国映画で言えば『超能力者』のようなよくあるサイキックものかと思ったんですが、これが予想の斜め上を行ってむっちゃフィジカル、なぜか鮮血に染まることになるという、予想外に韓国バイオレンス・アクションでした。行き倒れ記憶を失った少女ジャユンは子供のいない優しい酪農家夫婦に育てられ、いまや元気な女子高生。警官の父を持つ友人のミョンヒと共に楽しく暮らしていますが、激しい頭の痛みに襲われるように。貧しい両親に経済的負担は掛けられないと賞金のためにアイドルのオーディションに出るものの、それがきっかけで施設に見つかってしまいます。というわけでアイドル映画の要素もありつつ(ちょっとだけ)、女子高生の青春映画の趣もあって、それが己の力に覚醒するという異能力アクションへと変貌していきます。でも記憶を失った少女が家族と友人を守るために戦う、みたいな単純な話でもなく、実はそこにも捻りがあったりして、これは意表を突く面白さ。

主人公ジャユン役のキム・ダミは若干地味な感じですが愛らしくて、それだけに後半の豹変ぶりがスリリング。スゴくスタイルもよくて動作の美しさが映えます。またコ・ミンシの演じる友人ミョンヒがとにかく元気、と言うかやかましいんですが、いつもジャユンの鞄を持ってあげたり優しい子なのが微笑ましい。この二人の青春ドラマを見てるだけでも何だか顔がほころびます。そんな二人の前に現れるのが『新感染 ファイナルエクスプレス』の野球部員ことチェ・ウシク演じる謎の若者ゴンジャ、そしてパク・ヒスンの演じる怪しげなグラサン男、ミスター・チェ。さらにその裏に『嘆きのピエタ』チョ・ミンスの演じるドクター・ペクがジャユンに迫ります。

監督・脚本は『新しき世界』のパク・フンジョン。シリアスな男のドラマが多いイメージですが、今回はまさかのJKドラマ。でもサイキック軍団などどこかコミックっぽさがある設定もありつつ、リアルさも損なわない、かつ熱い展開をしっかり見せてくれます。なぜ少女は「魔女」と呼ばれたのか?それがわかったときには震えますよ。ちなみに序盤にバーン!と出る原題からもわかるので言ってしまいますが、これ「Part 1」なんですよ。ちゃんと続編上映されるのかな……あ、でも本作単体で観てもちゃんと面白いです。

↓以下、ネタバレ含む。








■豹変する青春ドラマ

冒頭で管理された子供たちの脳を弄っているような不穏極まる写真が映り、何か人体実験らしきことが行われていることが窺えます。そこから逃げた一人の少女。親切な夫婦に迎えられすくすく育つものの、やがて脳の異常により余命を宣告されます。さらには育ての母が認知症に。というわけで治療費を得るためオーディションに出ることになるジャユンですが、途中怪しげな人物のシーンが挟まれたりはするものの、前半は青春ドラマであり家族ドラマです。ここが結構長いので、もうちょっとテンポよくてもよかったのではとも思うんですが、この前半で見せるドラマが結構イイ。飼料屋での会話で察する経済状況とか、食事したことを忘れた母に優しく微笑むジャユンの優しさとか、夕食とって泊まるのが日常茶飯事であるミョンヒとの関係など、ジャユンが拾われて以降の背景と人物関係が上手く深堀りされていきます。突っ立って歌ってるだけでオーディションを勝ち進むのはご愛敬ですが(ひょっとして力を使ったのだろうか?)。あとミョンヒがとにかくうるさい。でもジャユンたちク家の人たちが食事中喋りまくるミョンヒを完全スルーして他と普通に会話したり、オーディションのスタッフに無言で邪魔者扱いされるのは笑います。

同時に冒頭シーンの拭えない不穏さもわだかまっていて、徐々にそれが現実のジャユンたちも覆っていきます。電車でゆで卵を勝手に食らい挑発するゴンジャ、テレビでジャユンが見せてしまうマジック(しかも最初は画面には映らないのでやきもき)、オーディション後に現れて車に乗せようとする謎の男たち。でもここまでにジャユンが能力者であるようなそぶりはほとんどないんですね。ミョンヒの父親が急に「クさんの家に行こう」と言い出すところくらい。それだけに武装した一群に囲またときに豹変し、5、6人の男を瞬殺するシーンには度肝を抜かれます。何が凄いって、打撃と銃撃で倒すところですよ。サイキックじゃないんかい!その後のバトルでも血が飛び散り、顔を鮮血に染めて淡々と倒していく姿が修羅です。ゴンジャを蹴り飛ばしたときの速さと壁をブチ抜くパワー。銃弾を手に当てて止める。傷はすぐ治る。ジーン・グレイかと思ったらウルヴァリンでした。しかも暴力性を強化されているので容赦がない。まばたきもせずに圧をかける氷の微笑が凄まじくて、いやあキム・ダミの変貌っぷりには驚き。


■覚醒の真実

何より予想外だったのは実際には覚醒ではなく隠していたということで、さらに凄いのが全て計画通りだったということ。ミョンヒがオーディション誘ったせいでこんな目に、と思ったけどそうではないし(すまんミョンヒ)、物を浮かべるマジックの映像には「それ見せちゃダメなやつ~」と思ったけど、それもドクター・ペクをおびきだすためのあえての行動。記憶喪失は嘘で全て覚えていたし、この親なら見捨てないと踏んだ「絶好の隠れ場所」だからク夫婦の元へ来たし、薬を手に入れるためわざと捕まって後はマサクゥル(みな殺し)!ジャユンはその手品の腕前ゆえに「魔女」というあだ名が付いたと言いますが、その名が本当に意味するところはその力と頭脳と残虐性だったわけです。

しかしそんな彼女を変えたのが、両親でありミョンヒです。最初はそれこそ「隠れ家」としてク家を選んだのかもしれませんが、親の愛情にいつしか人間らしい感情が芽生えたのでしょう。ミョンヒ父をテレパシーで操ったのは両親を守るためであり、薬を手に入れたのは母親のためだったことがわかります。父は最後にジャユンへ、自分は反対したが母さんがお前を受け入れた、と告白し、娘を案じます。ミョンヒはジャユンが殺戮したときに一歩引いてしまうものの、その後ゴンジャからジャユンを庇おうとします。ジャユンが最後にゴンジャに対し「ク・ジャユンとして生きる」と宣言するのは、そんな両親や友との幸福を守るため。魔女ではなく人間として生きるためです。しかしゴジュンが「どうやって?」と問うように、ドクター・ペクを亡き者にしてもまだ彼女の戦いは終わらないのです。


■歪んだ敵と愛しい人々

それにしても研究所で見せる三つ巴の超人アクションの数々が豪快でエグくて最高。敵もなかなか個性的で、サイキック軍団は頭を撃たれなければ平気だし、女の子のナイフ使いは反抗的な感じでガム食ってるのがいかにもですが、壁でナイフをキーッて鳴らしたり容赦なく切り刻んだりして魅せてくれます。そしてリーダーであるゴンジャの、かつてジャユンと比較され卑下されたことに始まる歪み方ですよ。不適な笑みと、汚れを気にする潔癖症。そしてジャユンを超えたと思ったら「レベルが違う」と言い放たれる屈辱。いい感じにネガティブさが盛られてて良いです。そしてもう一人の敵、ミスター・チェ。ジャユンらとは別経路で造られた第一世代ということで、ゴンジャよりさらに劣等感を抱え、それだけに歪み方も一周してかやたら執念深いんですね。後遺症のため醜く変色した手を隠すための黒手袋、こめかみの傷などの悪役感もイイ感じ。食べる音が汚いですが、これはドクターへの反感を表すためわざとやってるのかも。やたら余裕こいてましたがあっさり首ひねられて退場、その偉そうな負け犬感も良かったです。

最後にミョンヒが病院の窓に駆け寄るのは、ジャユンがテレパシーでメッセージを送ったからなのでしょう。怖い目に遭いながらもジャユンを案じるミョンヒの姿には涙ですよ。そしてジャユンは愛する者たちに危害が及ばないよう姿を消すのです。しかし何のためにジャユンら人造人間を作ったのかが謎のままだし、ドクターの上の者たちがいるはずでそいつらは何者なのかもわからず終い。そこらへんちょっと不足感が……と思ったりしましたが、忘れてました、これは第一章なんですよねえ。サブタイトルの「The Subversion」は「破壊」「転覆」という意味で文字通り研究所を壊滅させたジャユンですが、ラストにはドクター・ペクの双子の妹が登場し、何とこれが実の母、そして実の妹までが登場、というところで幕。初っ端から「第一章」とかタイトルに付いてると『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』を思い出して続編は観れないのでは……と心配になりますが、こちらはどうやらヒットもしてるようなので、ぜひ日本でも続きの上映お願いします!(もちろん『ジョジョ』の続きも待ってる)

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