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2018
11.08

戦うのは憎しみの怪物。『バーバラと心の巨人』感想。

I_Kill_Giants
I Kill Giants / 2017年 アメリカ / 監督:アナス・バルター

あらすじ
私は巨人を殺す。



変わり者の少女バーバラ。彼女には、やがてこの地に襲い来る「巨人」を倒すという使命があったが、姉のカレンも学校のカウンセラーであるモル先生もそれを信じてくれない。転校生のソフィアはそんなバーバラと友達になろうとするが、バーバラの突飛な行動に驚くばかり。しかしついにバーバラの前に巨人が現われる……。ジョー・ケリーとケン・ニイムラによるグラフィックノベル『I KILL GIANTS』を実写映画化したファンタジー的ドラマ。

舞台となる港町に住む少女バーバラは年の頃は13、4歳くらいでしょうか、彼女が「巨人」の襲来を防ごうとする物語です。「巨人」とは文字通りファンタジー作品に出てくるような「ジャイアント」のことで、バーバラは他の世界から自分の町にやってくる巨人を倒すべく、武器や罠の準備をしています。しかし巨人を信じているのはバーバラだけで、周囲は彼女を変人扱い。それでもバーバラは同じ学校に転校してきたソフィアを巻き込みつつ、様々な対処をしていきます。巨人が実在するのかどうかははぐらかしつつ、現実をファンタジーが侵食していくような撮り方は工夫があって面白いです。ただ、巨人にとりつかれたバーバラの言動が中二病というレベルではなく、痛々しいのを越えて引くのでちょっと辛抱が必要。それを乗り切ると真実が見えてきます。

バーバラ役は『死霊館 エンフィールド事件』で子供たちの一人を演じたマディソン・ウルフ。ウサ耳を付けて我が道を行くメガネっ子で美少女なんですが、それを相当イタいと感じさせるのは上手さでしょう。彼女を心配するモル先生役は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズのゾーイ・サルダナ。疲れた表情でそれでもバーバラの心を開こうと奮闘します。バーバラの姉カレン役は『グリーンルーム』イモージェン・プーツで、妹のことを気にしながらも色々と耐える姿が別の意味で痛々しい。ソフィア役シドニー・ウェイドが優しい性格が滲んでいて良いですね。監督のアナス・バルターは第86回アカデミー賞短編実写賞を受賞した人で、そのときの作品『ヘリウム』は入院している少年が変わり者の清掃員の語る冒険物語を楽しみにしていたが……という話らしく、本作と通じるものがありそうですね(残念ながら未見)。

バーバラの作った手製の望遠鏡やバッグや罠など美術が非常に凝っているんですが、それが余計に狂気を感じさせます。不意に派手なアクションが始まったりもして逆に戸惑うんですが、それにも理由があったりするんですね。巨人のデザインには微妙に既視感があったりもしますが、バーバラの最強の武器コヴレスキーは熱い。ちなみに本作はJ・A・バヨナ監督の某作にそっくりですが、原作の発表はこちらが先だったようです。

↓以下、ネタバレ含む。








■現実を凌駕する怪物

巨人が襲来するという思いに毒されたバーバラ。彼女が覗き込むのはよく見えるわけでもないカスタマイズした望遠鏡。学校中に謎の結界を仕掛け、それが機能しているか見回るのが日課。ときには怪しげな生物が沸いて出るのを見つけて入口を塞いだりします。ウサギ耳のカチューシャを着けるのは守護霊への敬意の表れ。森を駆け、罠を仕掛け、すっ転んで泥水に突っ込んでもめげず、巨人から町を守るため走り回る。ソフィアの血で印をつけるシーンなどは新興宗教じみているほど。こうして見ると、バーバラは完全にヤバいし心の病気なのでは?と思うか、いや彼女は頑張ってる!と思うかは、巨人が実在するかどうかによるわけです。でも少なくとも終盤までは、いやラストに至るまでも、巨人がバーバラの妄想だったとは明確には語られないんですよ。しかもバーバラは「自分が変人で嫌われ者だと知っている」と自ら言うように自分の言動が常軌を逸していることは自覚があるわけです。全てが現実であると取れるようにも作ってあるんですね。

廃電車でのフォレスト・ジャイアントとの攻防では、金粉のような粉をまぶした謎のサインが光り出して巨人を制しつつも、電車がガクガク揺れるほどの攻撃を受け、辛うじて電気ビリビリで倒します。そしてバーバラは激しい戦闘の印として燃え盛る電車をバックに走り去ります。鹿の死骸を棒でグチョるのは異常なようですが、それは巨人を防ぐために死をも恐れないという意思の表れでもあるでしょう。巨人を倒すための武器、雷神トールのハンマーは「武器には名前が必要だ」としてコヴレスキーと名付けられ(ムジョルニアじゃないのかと思いますが)、しかしそれはうっかりポーチを開けてしまったがためにオモチャのような小道具に成り下がります。巨人の前の「前兆」として現れる黒い謎の生物は「無力さと孤独を噛み締めろ」とバーバラを襲い、追い詰めます。そしクライマックスに現れる最強の巨人タイタン。ここでコヴレスキーは力を取り戻し、ムジョルニアどころかストームブレイカーとなって、タイタンを倒すのです。


■妄想が跋扈する現実

この巨人に纏わる描写はリアルに起こっていることだとも思えるんですが、でもこれが妄想であることは明らかではあるのです。一つはてっきり既に亡くなっているのかと思った彼女の母親が実は生きていたという真相。モル先生が「お母様も心配している」と言ったときには驚きましたが、そこでバーバラが「2階には来ないことにしてる」と言うのが死の床に着く母を見たくなかったからであり、奥の部屋からバーバラを呼ぶ不気味な声が実は母の声であったことがわかります。2階から姉カレンと兄デイヴの会話が聞こえて様子を伺おうとしたときに、階段の上から巨人らしき影が迫ってくるのも、寝たきりの母という現実を見たくないという自らへの枷だったということです。二つ目はコヴレスキーという武器の名前、これは実在した野球選手の名前で、元気だった頃の母が好きだった選手でもあります。バーバラが野球中継のテープを聴いているシーンがありますが、別に野球の試合を聴いていたのではなく野球を見る母との会話を聞いていたことが、モル先生が再生したテープでわかります。そしてそこでコヴレスキーが戦ったチームがジャイアンツ、つまり「巨人」なわけですね。そして三つ目がバーバラ自身が述べる「巨人は憎悪そのもの。大事なものを根こそぎ奪っていく」という台詞。大事なものとはもちろん母のことであり、すると「巨人」とは現実の存在ではなく母を奪おうとする病魔への恨みのメタファーである、というのがわかります(あと邦題で「心の」と言っちゃってるから現実じゃないとわかってしまいます。ダメでしょうタイトルでネタバレしたら……)。

母の死を受け入れられない少女は、多感な時期なこともあって、妄想することで現実逃避を行っていました。でもそれが逃避であることは自分でもわかっていて「自分はおかしい」とモル先生を訪ねるものの、そこで見た思いがけず暖かい家族の姿に打ちのめされます。「その子は死ぬ、みんな死ぬ」と言うのは酷い言葉をぶつけたかったという感じではなく、愛する母が死にゆくようにどれだけ愛されてる者も死ぬのだ、という虚無的な感情が漏れ出たものでしょう。その感情が少女をどれだけ心細くさせ、絶望的な悲しみを与えていたことか。彼女が戦っていたのはそんな憎悪の対象=病魔の影であり、自分が戦わなければ母が死んでしまうという強迫観念から巨人に立ち向かうのです。そこでは友人と過ごして楽しいと感じることさえ罪であり、ソフィーと仲良くした結果うっかり袋を開けてしまいコヴレスキーが弱体化するというのは己への戒めです。そこまで追い詰められているわけです。


■戦いのその先に

「物語」を通して現実と向き合う『怪物はささやく』と同じで、バーバラは「妄想」を通して現実と向き合おうとするうち、ついには妄想の域を越え、バーバラにとってそれは現実となっていきます。誰にも見えなくても彼女には実感としてあるのです。そしてクライマックスのタイタンとの対決で、力を取り戻したコヴレスキーでタイタンを打ち倒すバーバラ。監視台が壊されたのは嵐がきて起こった竜巻のためであろうし、バーバラが海に落ちたのも竜巻に飛ばされたからでしょうが、その対決は運命に逆巻く嵐にバーバラが勝ったということでもあります。そしてタイタンの「お前は自分が思っているより強い」「受け入れろ」という言葉に、この妄想が単なる逃避ではなく、現実を受け入れるための勇気を培うためだったことがわかります。実際は彼女は自分自身と戦っていたのです。

そして一人で戦っていたつもりでも、そこにはバーバラを取り巻く人々の戦いもありました。モル先生は子育てで疲れているなかバーバラに(故意にではないにしろ)手を上げられながら、それでも彼女を見捨てず対峙しようとします。またモル先生がバーバラの姉カレンに「あなたはよく頑張った」と言うのは、仕事と家事の両立に加え母が行っていた妹とのコミュニケーションも代替わりしようと奮闘していたからです。しかしまだ若いカレンは「私も努力してる」と思わず本音を漏らしてしまいます。そしてソフィアは巨人などいないと知りながらバーバラと行動を共にし、一度はぶたれたはずみでいじめっ子に加担するものの結局はバーバラを見捨てず、バーバラが解放された後も自ら巨人のことを口にしてフォローしたりします。なんてイイ子。それだけにそんなソフィアの「まだ友達?」という手紙に微笑み、いつの間にか「Yes」に印を付けているバーバラがとても愛おしいです。

現実を受け入れ、母に「会うのが怖かった」と告げるバーバラ。募らせた憎悪と目を背けていた現実の苦しみは、母に抱きしめられることで涙と共に氷解していきます。そして悲しみを乗り越え生きる強さを得た少女に、別れを告げる巨人。この先再びバーバラの前に巨人が現れないとは言い切れませんが、現れたとしてもまた彼女は戦うのでしょう。そしてその時はきっと一人きりではないのです。

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