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2018
11.05

唸る豪腕が繋いだ手。『ファイティン!』感想。

Champion
Champion / 2018年 韓国 / 監督:キム・ヨンワン

あらすじ
パラピリポ!



アメリカでアームレスリングのチャンピオンを目指すも今はクラブのセキュリティとして働くマークは、韓国に戻ってアームレスリングに挑戦することに。幼い頃アメリカに養子に出された過去を持つマークは、韓国に戻ったのを機に実母の家を訪れるが、そこには会ったことのない妹とその子どもたちがおり……。マ・ドンソク主演のアームレスリング・ドラマ。

アームレスリングの選手だったマークはアジア人への偏見から八百長疑惑をかけられアームレスリング協会から除名、クラブの警備係をする日々。しかしマークを「兄貴」と慕うスポーツマネージャーのジンギに誘われ、韓国に戻って再びアームレスリングのチャンピオンを目指します。一方で実母の家を訪ねたところで出会う妹スジン一家との交流も描かれていき、孤独だったマークは家族の温かさを知ることに。マーク役は『新感染 ファイナル・エクスプレス』でガタイの良さと腕の太さで強烈な印象を残し、『犯罪都市』では武骨で正義感ある刑事役を演じたマ・ドンソク。最初は腕相撲で余裕こく表情がさすがマ・ドンソク頼もしい、とか思ってたら、その後はキュートなマッチョにひたすら萌えるマ・ドンソクのアイドル映画でした。いやマジで。見た目は怖いが心根は優しい寡黙な男の再生を描きながら、腕相撲の試合の熱さに拳を握り、家族愛に爆泣き。王道のスポーツドラマにして家族ドラマ、最高です。

知らなかったんですが、マ・ドンソクは18歳の時に経済的事情でアメリカに移住、31歳で俳優になりますが現在もアメリカ国籍だそうで、役者で売れない頃はジムトレーナーなど別の仕事もしていたらしく、劇中のマークとかなり被るんですね。自然に英語を話す姿がちょっと意外でしたが、そういう事情があったようです。そんなマ・ドンソクを愛でるシーンがとにかく満載。ぶっきらぼうながら愉快な表情の数々には爆笑の嵐です。それでいて妹家族との絆を積み重ねるエピソードがどれも良くて、子供達はもちろん妹スジンとの関わりもじんわり温かく、母に対する想いにも泣けます。スジン役のハン・イェリとのぎこちないやり取り、押し掛け相棒ジンギ役のクォン・ユルとの掛け合いも良いです。

アームレスリングはルールがシンプルなだけに見せ方盛り上げ方が難しい競技だと思いますが、これをよく工夫して魅せています。アームレスリング映画と言えば87年のスタローン主演作『オーバー・ザ・トップ』ですが、さりげなく劇中で言及されるのが好ましい。マークが対立する悪党たちは韓国映画にしてはヌルい方ですが、むしろちょうどいいバランスで、老若男女が楽しめる娯楽作となっています。本編前に日本の観客に向けた言わされてる感満載の本人コメント映像が流れるのも愛嬌があってイイ。ところでパラピリポってなに?

↓以下、ネタバレ含む。








強面なのに愛嬌があるというのがマ・ドンソクの魅力ですが、それをフルに活かした笑いがこれでもかとブチ込まれています。臭い臭いと文句を言っていた納豆汁を食いまくったり、食事中に牛骨でジンギを殴ろうとするシーンが韓国バイオレンスのパロディっぽかったり、足元に山のような缶ビールの空き缶が落ちてたり、アメリカ育ちなのに作ったハンバーガーが激マズだったりと食に関する笑いから、ホテルと言われて連れてこられたラブホの振動ベッドで揺れまくる、興味なかったマッサージチェアにご満悦、壁に隠れても体はみ出してるなど可愛さ満点のシーンや、階段登ったはずがなぜか元の場所に戻ったり、子供の相手してたら吊革ブッ千切って子供泣かしたりといったうっかりシーンまで、まあ楽しい。「可愛く金を稼いでね」でスベるというカルチャーギャップ的なものもあり。ちなみに最初に難しい言葉がわからなかったのは英語圏の育ちだから韓国語がわからなかっただけでしょうね。おバカさんではないですよ?

そんなマ・ドンソク演じるマークはジンギの勧めに負けて産みの親の住所を訪ねたことで、妹スジンとその子供たちに出会います。兄のジュニョン君は最初は警戒しますが、妹ジュニちゃんは最初からおじさん大好きオーラが凄くて可愛いし、ジュニョン君も叔父だとわかってからは同様でこれまた可愛い。お互いに気を使って一歩を踏み出せずぎこちなさのあったスジンとも、徐々に兄妹らしく打ち解けていきます。アクセルを踏むことを教えたり海岸で腕相撲したりといったシーンには、ちょっとした気恥ずかしさがありつつも、いつも一人で頑張ってきたスジンが少しマイクを頼りにするような雰囲気もあります。その一端である悪徳社長の一味をブチのめすアクションシーンなどは痛快。あとマークの過去の紹介番組によって客観的に繋がりを知ることになるのも効いています。この番組の中で腕相撲を始めたのが「スタローンの映画を観たのがきっかけ」と言ってて、アームレスリング映画の先駆けへのリスペクトかな?また、成り行きで険悪だった韓国一位のコンボたちといつの間にか仲良しになるのも微笑ましいです。コンビの強面坊主な後輩たちの20代アピールがせつないな!

家が貧しく幼い頃に養子に出され、養父母も失ったマークは、スジンたちとの日々によって新たな家族ができた喜びを得ていきます。ただ、マークが養子に出された後にスジンが生まれたのなら、なぜ彼女は養子には出されなかったのかという不自然さは付きまとっており、実際は赤の他人だったとわかる時点で、血縁だけが「家族」なのか?という、『万引き家族』『ブリグズビー・ベア』『ルイスと不思議の時計』などにも見られた話になっていきます。ここでマークがスジンや子供たち、ジンギらと信頼を得るとき、そこにはアームレスリングのように手と手を合わせるという動作が加わることが思い起こされるんですね。スジンとの腕相撲、子供たちとの約束の指切り、ジンギを助け起こす手。マークの母が何の縁もないスジンたちと家族として暮らしたように、マークのブ厚い手が掴んだ人たちに血の繋がりは必須ではないというのをアームレスリングに絡めてくるわけです。マークの目指すチャンピオンの象徴たるメダル、それを試合会場にもたらすのが子供たちというのが、マークが求めるものとして重なるのが上手い(子供たちの口実としても上手くて可愛い)。

ジンギがマネージャーと言いながらマークを食い物にして金を稼ごうとしているようにしか見えない、というのがちょっと引っ掛かりますけどね。プロモートというか営業してるということでしょうが、最後にまた八百長やろうとするし、それでいて俺たちで世界獲ろうぜ!みたいなビッグマウスがちとうるさいんですが、推進役としての役割があるし、落ちぶれながらも駐車場係として懸命に生きる父親のこともあるのでまあいいですかね。そんなジンギやマークが対立することになるチャンス社長、調子こいてた手下たちがマークにビビるのは愉快だし、社長自身もこれまた小物感が強いですが、この社長の連れてきたパンチという刑務所上がりの男があからさまにラスボス的な強さと残忍さなのがイイ。マークは怪物とか不細工とかゴリラとか散々言われますが(酷いな)、このパンチもなかなかパンチが効いてます(シャレ)。ただ社長がヘーコラしていた何か偉そうな若い奴が何もなしで終わるのはちょっと物足りないところ。巻き込まれてワンパン食らうくらい欲しかったですよ。

マークとパンチの決勝戦、手首を痛めたハンデを負いつつ、序盤で説明のあった三つのテクニックの駆使、スリップしての取り直し、そしてそれまで見せなかったマークの苦しそうな表情に、押し込まれてからの逆転など、腕相撲シーンはもう力入りまくり。スポーツと言うか格闘アクションとしてもしっかり作られてます。そうして勝利の後のインタビューで訥々と語るマーク。試合前には亡き母への思いを聞かれて答えられなかったマークが、最後に「戻るのが遅くなってごめんなさい」と述べるのには爆泣き。母の言葉である「迎えに行けなくてごめんなさい」と対になっているのがまた泣かせます。

世界に見放され孤独に生きていた男が、再び巡ってきたチャンスで栄光と大切な家族を手に入れる。これ以上ないハッピーエンドですが、あざとさを感じる前に泣かされてしまうので完敗です。そしてラストの世界に打って出るという試合でコールされるのが、本名の「ペク・スンミン」。帰ってくる居場所を得た男は、仮の名を捨て本当の自分に戻れたのです。

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