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2018
10.27

混乱と苦味のサバイヴ。『遊星からの物体X』感想。

The_Thing
The Thing / 1982年 アメリカ / 監督:ジョン・カーペンター

あらすじ
グチャドロ南極物語。



南極のアメリカ観測隊基地に一匹の犬が現れ、それを追ってきたノルウェーの観測隊が発砲。マクレディら観測隊員たちはこの不可解な事態を調べるためノルウェーの観測基地に向かうが、そこは全滅状態だった。やがて基地内に恐ろしい異形の生きものが姿を現し……。『ハロウィン』『ニューヨーク1997』のジョン・カーペンター監督によるSFホラー。

1951年のハワード・ホークス製作『遊星よりの物体X』のリメイクですが、いまやこちらの方が有名であろう、ジョン・カーペンターの代表作のひとつ。2011年には前日譚である『遊星からの物体X ファーストコンタクト』も製作されてます。今回『ゼイリブ』に続きカーペンター作品のデジタルリマスター版公開という機会があったので、初の劇場鑑賞。南極の氷の下で10万年眠っていた宇宙生命体が目を覚まし、アメリカの南極観測隊員を次々襲っていくというSFスリラーなんですが、特徴としてはその生命体が接触した生物と同化して同じ姿になれるということ。つまり誰がこの「生きもの」かわからないという緊張感が続くわけです。本作以降その設定は87年『ヒドゥン』、95年『スピーシーズ 種の起源』、98年『パラサイト』といった一ジャンル映画として根付いていきます。加えて本作は極寒の南極観測基地という独特の閉ざされた空間を舞台にすることで、外部からの助けも来ない、逃げ場もない、という絶望的な状況も生み出しており、サスペンス色が強いですね。

そしておぞましい「生きもの」の造形も印象的。『ロボコップ』や『トータル・リコール』でも知られる特殊メイクのロブ・ボッティンによるクリーチャーのグチャドロ感は、そこにわずかに元の面影があるのがまた気色悪くてイイです。そんなヤツらに挑む主人公マクレディ、演じるのは『バーニング・オーシャン』『ヘイトフル・エイト』のカート・ラッセル。カーペンター作品では『ニューヨーク1997』など多くの作品で組んでる常連ですね。今回改めて観て、顔がヒゲに覆われてるのもあってかカート・ラッセルがかなりクリス・プラットに似て見えましたよ。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』で親子役だったのも納得です。また『ゼイリブ』にも出演のキース・デヴィッドがチャイルズ役で出演しています。

出し惜しみされて手に汗しつつ、予想を越える不意討ちで恐怖に叩き落す、この緩急の付け方がたまりません。吹き続ける風の音でいや増す不穏さ、閉鎖空間で誰が生き延び誰が餌食になるか、誰が敵かわからないスリル、主人公でさえ信用できなくなるという疑心暗鬼。SFの形のサスペンスでありホラーでもあるバランスの良さが素晴らしい、全てが揃った名作です。

↓以下、ネタバレ含む。








冒頭のたった一匹の犬をヘリで追いながら狙撃するというのからして状況がよくわからないだけに緊張感があり(この時点ではわんこ逃げてー!と思いますが)、ノルウェー観測隊がアメリカ側を撃ち、これにギャリーが反撃して撃ち殺してしまう、というやっちまった感が危うさに拍車をかけます。各メンバーもどこか怪しげで、銃を持つ隊長のギャリーは撃ち殺したことによる重責でキレそうだし、飼育係のクラークはデカくて何を考えているのかわからないのが不気味だし、他の面子も「ヤワだと発狂するわー」みたいに言うようにかなりストレスが溜まってそうなわけです。マクレディでさえチェスで負かされたコンピュータに酒を入れて破壊したりするほど。まあこれは彼の強気な性格の表れかも(その前に備品壊すなよ)。保護した犬がじっと見つめていたり、誰もいない部屋を映したショットが続いたり、外で風の吹きすさぶ音が途切れず続いていたりと、不穏さを煽る表現が見事です。ちなみに音楽を担当したのはエンニオ・モリコーネ。『ニュー・シネマ・パラダイス』とは大違いで不気味さ満点です。

極寒の南極、外は吹雪、陽は沈み、そして始まる恐怖の一夜。そう、この話は一晩で起こる出来事なんですよね。そうしてついに犬に化けていた「生きもの」が本性を現します。これは焼き払ったものの、既に同化された隊員がいることは犬が隊員の一人に近付くカットがあったことからもわかりますが、これがなかなか出て来ないという焦らしのテクニック。この間に細胞を取り込みその生物に変化する宇宙生物、というのを顕微鏡の映像で示したり、ノルウェー基地から持ってきたビデオを検証したりと状況分析で理解を深めるというのが手堅い。そして油断したところでギャー!ですよ。ドクターは胸に腕を食われるわ、脚を生やした首が歩いていくわ(『ヒルコ 妖怪ハンター』の元ネタですね)、悪夢のような光景が広がります。中盤までは「生きもの」に同化される場面が直接的にはないので、誰が「生きもの」かわからないというのが緊張感。吹雪のなか一人だけ戻ってくるマクレディに、観客でさえこの主人公をも信用できなくなります。

ブレアの乱心は、この「生きもの」が世に出れば2万7000時間で全人類が同化されるということがわかったためで、通信を断ちヘリもトラックも破壊するのはそれを防ぐため。しかし正義感に駆られたとは言え、他の面々にはそれは凶行でしかないわけです。彼の行動の是非は難しいところ。そして疑心暗鬼が頂点に達する血液テスト、マクレディは襲ってきたクラークを撃ち殺してしまいますが、テストの結果クラークは人間であることがわかります。こうした混乱と苦味、生存本能と罪悪感といったものの波状攻撃が、単なるフーダニットには終わらない深みになります。その上でギャリーを怪しいと思わせて、マクレディに「君は最後だ」と言わせてるところでギャー!ですよ。縛られて動けないメンバー、火炎放射器の不調、巨大化する「生きもの」と、畳み掛けが凄まじいです。最後は出ていったチャイルズが襲ってくるのではと身構えているところへ、超巨大デカブツにギャー!です。その醜悪な姿には、恐怖より絶望を覚えます。

燃え盛る基地を背景に休息を取る二人。勝ったとは言え、彼らもまた死にゆく運命だというのが苦い。それでも「どうなるか、見るだけだ」と、最後まで見届けようとする、人知れず地球を救った男たちがシブいです。実はチャイルズがそれまでどこにいたのかは明かされず、彼が「生きもの」である可能性もなくはない、という余白もあるんですが、そこは観た人がどう捉えるかに委ねているのでしょう。熾烈な一夜に描かれたクローズドにしてスケールの大きな戦い、何度観ても面白いです。

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