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2018
10.18

辿る記憶と悪魔の儀式。『リグレッション』感想。

Regression
Regression / 2015年 スペイン、カナダ / 監督:アレハンドロ・アメナーバル

あらすじ
全てを思い出せ。



1990年のミネソタ。17歳の少女アンジェラが父親の虐待を告発するが、当の父親は記憶がないにもかかわらずその罪を認めようとする。刑事のブルース・ケナーは、心理学者レインズの協力でアンジェラたちの記憶を遡っていくが、やがて町に潜む恐ろしい闇の存在が浮かび上がってくる……。『アザーズ』のアレハンドロ・アメナーバル監督・脚本によるサスペンス。

80~90年代にかけてアメリカで実際に横行し、社会問題にもなったという悪魔崇拝者による儀式での虐待。悪魔的儀式虐待と言うそうですが、それを元にしたサスペンス・スリラーです。父親から虐待を受けたと言う少女アンジェラ、しかし事件を担当する刑事のブルースは、容疑者である父親の証言があやふやなことを疑問に思い、著名な心理学者であるレインズ教授に協力を仰ぎます。レインズの退行療法(リグレッション)により過去の記憶を遡るうち、浮かび上がる意外な容疑者。しかし事態は思わぬ方向に進んでいきます。思い出せない罪を認める男、儀式の生け贄になった少女、不可解な容疑者たち。合わせて考えれば思い描く絵は明らかなのに、どこか釈然としない事件。そして謎が徐々に明らかになるにつれ、タフが信条の刑事は追い詰められていきます。

ブルース・ケナー刑事役は『マグニフィセント・セブン』『プリデスティネーション』のイーサン・ホーク。強気の熱血刑事なんですが、徐々に飲み込まれていくダメさ、みたいなのがイーサン・ホークっぽいです。アンジェラ役は『美女と野獣』のエマ・ワトソン。透明感ある美しさなので、17歳という設定も贔屓目で見ればセーフです。またレインズ教授役は『ワンダーウーマン』デビッド・シューリスで、学者っぽさと若干の胡散臭さがいい感じ。シューリスは『ハリー・ポッター』シリーズのルーピン先生役としてもエマ・ワトソンと共演してますね。

記憶を巡る語り口の上手さが面白く、暗示、夢、想像、先入観、あらゆる形でじわじわ迫る悪魔崇拝者の影が秀逸。あと、とあるキスシーンがスゴく滑らかで美しいのにちょっと驚きました。覆っていく事実に観る者も混乱し、惑わされる快感。怖さはさほどないですが、凝った演出が実にスリリング。ミステリー好きにとっても面白いです。

↓以下、ネタバレ含む。








アンジェラの話を聞き、その父の話を聞きながら、画面に拡がっていく悪夢の数々が不気味で不穏さを煽ります。取り囲むフードを被った人々の白い顔。黒猫が赤子に変わりそこにナイフを振るう異常さ。いつの間にか儀式の生け贄になっている自分。供される秘伝のレシピ。退行療法により明らかになる過去の記憶も相まって、悪魔崇拝者の影はどんどん濃密に、それこそ町中に信者が潜んでいるのでは、というほどに強くなっていきます。退行療法に使うメトロノームの先が逆十字みたいな形だったりして、ひょっとしてレインズ教授もグルなのか?という疑念も浮かんできたり。ブルースは熱意あるタフガイなだけに執念深く探りますが、自分自身が狙われているという感覚が拭えず徐々に憔悴していくんですね。

ブルースは熱意にかまけ、いつしか冷静さを失っていたのかもしれません。可憐なアンジェラを救ってあげたいという思いも募っていたのでしょう。そこには妻と別居中という現状も影響したかも。そんな諸々の状況や心情が重なり、そこに先入観や暗示が加わり、想像と妄想が広がって、疑心暗鬼が顔を出す。それらがこの事件を複雑化していた、ということが最後には判明します。悪魔崇拝を裏付ける映像は現実のシーンでは一度も出てこないし、せいぜいブルースが町中の人に見られていると感じる映像くらい。聞いた話からのイメージと、繰り返す供述テープでの補強、退行療法への信用。全てがミスリードということです。

例えば供述テープを聞きながら納屋を歩き回ったブルースは「自分がそこにいるかのよう」な幻想を見ます。悪夢を見て目覚めた際は、薬を打たれて儀式をされているかのように思えますが夢でしかないし、その際に電話の受話器が外れていたのもたまたま手をぶつけた、で説明が付きます。タイミングよく署長がFBIの悪魔崇拝の報告書を持ってきたことで悪魔関係だと思い込んだり、アンジェラの兄ロイの「牧師は人の家庭に上がりこみ悪魔のせいだと言う」の台詞によって悪魔の存在が現実味を帯びたように思えたり。小太りの警官がFBIが~とかボウリング行きしょ~とかいちいちバカすぎてイラついたことで冷静さに欠いたり、といったことも影響しているのでしょう。そして退行療法による記憶が、警察や医者やマスコミの与えた印象によって改竄されうる、という認識が当時はなかったわけです。おまけに秘伝のレシピのおばさんは看板の写真という、ブルース自身の記憶の混濁まで引き起こします。

虐待はなかったし、悪魔崇拝者の集団もいなかった。アンジェラの逆十字は自傷であり、全てはアンジェラの自演。結局冤罪だった警官のジョージは、パトカーのなかでアンジェラの嘘の可能性と「複雑な子だ」ということを既に言っていたわけですね。真相だけ見るとあっけないようにも思えますが、それをここまで盛り上げるのが上手い。つまり本作は映像で見せる叙述トリックのミステリーということです。アンジェラがブルースに無言電話をするシーンで察してしまうため、真相解明の切れ味としてはちょっと残念な感じですが。

そして人を救うべき宗教が一人の少女を追い詰めた、とも言えます。アンジェラは自由になるために実の父親を告発します。でっち上げた過去を涙さえ流しながら語るし、最後にはテレビでも平然と嘘をつきますが、そこには罪の意識は見られません。ブルースに手を重ねられ、肩にもたれ、額にキスされて、ふいと顔をあげてのキスシーンは、あまりに自然すぎる流れのため作為が感じられないほどです。ブルースが「純粋な悪魔はいる」と言うのも納得。アンジェラだけでなく、兄のロイはゲイだというだけで「ソドムの者」と呼ばれて追い出され、二人の父ジョンは宗教に傾倒しすぎたために買ったアンジェラの恨みを減らしたいと言って、ありもしない罪を被ります。宗教の対極である科学側のレインズ教授は、ロイに「もう放っておいてくれ」と言われて目をそらしてしまいます。

悪魔の話かと思ったら宗教の話であり、それでいて悪魔は崇拝せずとも人の内側に住むという話でもあり、それは無宗教であるブルースまでも取り込もうとするわけです。なかなか多層的で面白い。ブルースにとっての救いは、上司である警察署長が最後まで真っ当で、ブルースの味方であり続けたことですね。

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