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2018
10.11

試験に出ない人生の解答。『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』感想。

Bad_Genius
Bad Genius / 2017年 タイ / 監督:ナタウット・プーンピリヤ

あらすじ
あと5分!(焦る)



優秀な成績を見込まれて進学校に奨学生として転入した女子高生リン。彼女はテスト中に困っていた友人のグレースに答えを教えてしまうが、それを聞いたグレースの彼氏パットから、試験の答えを教える代わりに代金をもらうというカンニング・ビジネスを持ちかけられる。絶対バレない方法でビジネスを軌道に乗せるリンだったが……。タイ発のクライム・エンターテインメント。

カンニングをビジネスにするという、中国で実際に起こったカンニング事件を元ネタにしたタイ映画です。天才少女リンを中心に高校生たちがチームを組み、絶対バレなさそうな手段を考案して試験を制覇、リンの売り上げはどんどん伸びていきます。やがてリンたちは、アメリカの大学に留学するための統一入試「STIC」攻略という、世界規模の難関に挑むことに。というわけで、いかにバレないように上手くカンニングを「させるか」、というのがポイントで、独創的な手段で臨む面白さがありつつ、土壇場で訪れるピンチなどは最高にスリリング。共謀して事に当たるということからもっと青春ものとして描かれるのかと思ったら、思いの外クライム・サスペンス寄りでした。カンニングは違反行為ですが、罪悪感が残るという点で美化してはいないし、そのために意外と爽快感は薄めではあるものの、そこから根底に潜む格差社会まで描いている意欲作で大変面白いです。

主人公リンを演じるチュティモン・ジョンジャルーンスックジンがスゴく良いんですよ。ちょっと蒼井優みたいな感じがありつつ、背が高くてスタイルもよく、薄めの顔のクール・ビューティ。髪を下すとグッと大人っぽくなります。モデル出身だそうで納得。リンと同じく優秀な奨学生であるバンク役のチャーノン・サンティナトーンクンは、堅物すぎるだけに危うい雰囲気が漂います。グレース役のイッサヤー・ホースワンはこれまたキュートなんだけどどこか抜けてる感があり、パット役のティーラドン・スパパンピンヨーはイケメンながら金に物言わせるクソ野郎。リンとバンクの苦学生コンビ、グレースとパットのバカップルの対比も効いてます。それにしてもタイの役者さんは名前覚えるのが難しすぎる。

抜群の緊張感を出しながらも、音や映像をアレンジするユニークな演出が実に粋で軽妙。かと思えば、カンニングが人生を左右する重大事に繋がり大きく歪んでしまう者もいるというのが重厚。ユーモラスだけどシニカルです。意外にマジメな話だという印象ですが、むしろそこが好ましいです。

↓以下、ネタバレ含む。








■レッツ・カンニング!

作戦を練り、役割を決め、リハーサルを行うという流れ、そして「バレないように違反行為を遂行する」という点で、本作のカンニング・ビジネスはまさに『オーシャンズ8』『ローガン・ラッキー』のようなケイパーものに近いクライム・サスペンスのテイストを出しています。トリッキーな手法も警備員や監視カメラならぬ試験監視官の目を欺くという点で共通しており、本番での勝手の違いやハプニングなどもあって実にスリリング。解答を書いた消しゴムを靴に入れて滑らせる、という序盤の手法は何てことないやり方ですが、靴を入れ換えるという見せ方の緊張感が上手いし、マークシートのAからDまでをピアノの指使いとマッピングさせるというアイデアも、指をカタカタさせる人もいそうなことを考えればなるほどなあと思わせられます。カンニングを「する」のではなく「させる」というのが見所ですね。

ミッションの痛快さを盛り上げたり、実行時の緊張感を煽ったりする演出も工夫に富んでいます。ピアノの指使いをするときに実際のピアノの音と重ねて優雅さを出してきたり、これが問題が2種類と気付いたときにはピアノの音がモールス信号的な音に変わって焦りを示したりします。終了時間が過ぎてるのに解き終わってないというギリギリ感には「見つかる~!」と緊迫感満点。

STIC(実際の事件では「SAT」という試験だったらしいですが)ではリンとバンクで分担して答えを記憶し休憩時間にスマホで送るという、記憶力のいい人しかできない作戦自体がリスキーでスリルです。スマホ隠したトイレの個室が空いてなかったらどうするんだ、という心配は、誰よりも早く解いてトイレに行くことで回避しようとしますが、案の定上手くいかずヒヤヒヤ。それの対処が2回分記憶する、というのがスゴいな!シドニーとタイの2か所それぞれでの修羅場がスリルに輪をかけ、ゲロ吐いて退室するというのが凄まじかったり、リンの父親に対するグレースの「彼氏と海外旅行」という言い訳が上手かったりして愉快。机が前に出てピアノに辿り着くという演出は面白いし、冒頭から挿入されていた尋問シーンがいざというときの練習だったというのには騙されましたよ。STIC係官の執拗な追跡なんて完全に犯罪者扱いで、ここにおいて事の大きさに恐怖さえ芽生えます。


■歪んだ達成感

リンは本来は真面目でクレバーな学生ですが、仲良くしてくれるグレースのために思わず解答を教えてしまいます。と言うか、せっかく教えたところが出てるのに解けないグレースにやきもきしたというのもありますかね。カンニング・ビジネスの話に乗ってしまうのは、入学時の面接でも示されるように少し跳ねっ返りなところもあるせいでしょうが、やはり金を稼げるというのが魅力だったのでしょう。金のかかる進学校に奨学金で通う身としてはそれは大きな要素ですが、そのためにモラルに反したことをしてしまうわけです。その結果、2種類の問題を解いたメモが両方残ってることでバレて、奨学金も取りやめになってしまうという本末転倒なことに。父親に買ってあげたシャツを突き返されるのが悲しいです。一旦はカンニングをやめるものの、それでも閃いたアイデアでSTICに挑むのは、やはり積まれた金のためでしょう。

バンクはリンとは対称的に友人であっても不正を許せず、はたから見ればチクり野郎ですがそれは悪ではないし、モラルに忠実です。バンクの家もまた貧しいクリーニング屋ですが、彼がSTICに協力するのは金のためというよりは留学の道を断たれた絶望感の方が大きいのでしょう。せめて金くらいは手にしないと気が済まない。しかしSTICでの不正がばれたことで学校まで追われてしまう。人生を滅茶苦茶にされた彼の正義感は歪み、倫理観は地に落ちます。シドニーでの散策やツーショット、STICで捕まった時も目配せでリンを逃がしたりして、リンとは良い雰囲気が望めただけにせつない結末です。


■選ぶのは自分

人生を奪われたバンクに比べ、その元凶であるパットはSTIC合格して有頂天。バンクの件は金で解決したと思っているので気にもしません。グレースはリンを気にするようなそぶりは見せつつもパットを否定することは一度も言いません。このバカップルとリン・バンクの間には明確な格差があり、二人の顔が写った垂れ幕が倉庫に捨て置かれるのがそれを象徴するかのよう。ここで終わると境遇が人をダメにするのか?となってしまうところですが、最後のリンの選択がそれに待ったをかけます。「君次第だ」「私次第ね」という父とのやり取りに見る、境遇のせいにしない生き方があるはずだという気付き。苦さを伴いながらも真っ当な結論に導く作りとなっています。

結局はカンニングというのはそのリスクとコストに合わない行為である、というのを罪悪感をきっちり残して問題提起としているんですね。犯罪ドラマの文脈で語るのも、不正は不正だということの表れでもあるでしょう。とは言え説教臭さはないし、緊迫感あるシーンにはハラハラするし、エンドロールの最後には理想を歌う校歌が流れるという皮肉っぷりまであったりします。ちょっと長さは感じるものの、娯楽作としてしっかり面白かったです。

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