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2018
10.10

散らんと欲す鬼の剣。『散り椿』感想。

chiritsubaki
2018年 日本 / 監督:木村大作

あらすじ
許さぬ。



享保15年。かつて藩を追われた瓜生新兵衛は、妻である篠の死をきっかけに藩へと戻ってくる。新兵衛は篠の妹・里美と弟・藤吾の住む屋敷に身を寄せ、友であった榊原采女と再会するが、そこにかつて藩の不正を訴え出た新兵衛を警戒する家老たちの魔の手が迫る……。葉室麟の同名小説を実写映画化した時代劇。

直木賞作家・葉室麟の小説を、カメラマンとして名高い木村大作が撮影・監督した時代劇です。主人公の新兵衛が死ぬ前の妻・篠から託された願い、それは故郷の散り椿を代わりに見てほしいということと、かつての友でありライバルでもあった釆女を助けてほしいということ。妻の願いをかなえるため故郷へ戻った新兵衛ですが、やがて藩のお偉方の陰謀へと巻き込まれていきます。上司の不正、派閥争い、袖の下という真っ黒な自治体、そんな腐った体制を正すべく、采女は若き殿を擁して事を成そうとしているというのが背景としてあり、過去の不正事件の真相を知る新兵衛がそこで不確定要素となっていきます。権力争いの政治ドラマなんですが、そこは時代劇なので敗れた者は切腹というシビアな世界。そんなのもあって常に緊張が張りつめてる雰囲気です。

しかし本当に緊張感があるのは主演の新兵衛役である岡田准一ですよ。話の内容より岡田准一がとにかく凄まじい。『図書館戦争』辺りでもうアクションの才能は十分見られましたが、ここまで進化していたとは。無言の圧を感じさせる佇まい、完全に人斬りの目、拳を握りしめ息を詰める迫力の剣撃。観てるだけで殺られそうな威圧感に満ちており、特に居合を使った殺陣はまさに「鬼の新兵衛」です。ホメすぎ覚悟で言うと、不意に三船敏郎に見える瞬間もあったほど。と言うか、エンドロールの殺陣のスタッフに岡田准一の名前もあるんですよおかしくないですかスゲーな。また対する榊原采女役の『クリーピー 偽りの隣人』西島秀俊の殺陣もかなり凄い。こちらはスマートな剣豪という感じで、静かななかに殺気を纏うデキる男です。この二人が刀を合わせるシーンは絵的な美しさもあって素晴らしい。

他にも道場師範代・平山役の『銀魂2 掟は破るためにこそある』柳楽優弥、篠の弟・藤吾役の『万引き家族』池松壮亮、藤吾の同僚・宇野役の『犬猿』新井浩文、新兵衛の仲間だった篠原三右衛門役の緒形直人といった面子も、ドラマだけでなく剣でも魅せます。女優陣は篠役の『舟を編む』麻生久美子、篠の妹・里美役の『リップヴァンウィンクルの花嫁』黒木華、三右衛門の妹・美鈴役に『累 かさね』芳根京子と皆イイ。奥田瑛二、石橋蓮司、富司純子といったベテランも曲者感抜群。少し引っ掛かる点はあるものの、映像はさすがに美しいし、殺陣の凄さだけでもやられます。あとオープニングとエンディングのキャスト・スタッフの名前が全部自筆(だよね?)で表示されているのは驚き。凝ってますね。でも木村大作監督の名前だけ読めませんでした。

↓以下、ネタバレ含む。








話の展開のさせ方は正直少々退屈。原作はまた違うらしいので脚色及び演出の問題かもしれませんが、説明くさいわりには飲み込みづらい台詞が多く、釆女と石田の腹の探りあいなどは敵意丸出しなので駆け引きの面白さに欠けます。人物を常に画面中央で捉える構図は少し単調に思えるし、間の取り方もちょっと長すぎる気が。そこは王道の時代劇と言えばそうなんでしょうけどね。「四天王」とか出すなら新兵衛以外にももっと強さを見せるシーンがほしかったなあとか、同じ年代の仲間っぽいのにキャストの年齢がバラバラなのもちょっと気になりました。ただ、役者陣の演技はとても良いです。緒方直人の渋さとか、奥田瑛二の悪党っぷりなどイイ。ベテランたちの時代劇らしい重々しさのある演技と、若手のそれよりはライトな感じがちょうどいい塩梅。また時折挟まれる情景、木々のあいだからの夕陽や雪降る往来の寒々しさなど、自然の美しさを凝縮したような映像は実に美しくて見惚れます。

そして多少の難点をチャラにするほどの殺陣の凄さですよ。冒頭から降りしきる雪のなかで刺客を速攻倒して空を仰ぐ岡田准一の手練れ感。重心を低くして今にも飛び掛かりそうな構えは、相対した柳楽優弥の正統派な構えに比べて殺人剣な雰囲気が漂います。もう林での一人演武が絵になるったら。こいつに刀を持たせてはいけないな、と思ったら、石段で巴投げからのマウンティング取って殺るとか恐ろしい技まで繰り出すので激強です。西島秀俊との斬り合いは、片手で制しながらのつばぜり合いやあまりに速い立ち合いにビビりつつ、バックの散り椿の美しさもあって出色のシーン。ラストの石田たちとの戦いはこの二人が並んで歩いてくるというだけで燃えます。そしてノールックのノーモーションでいきなり首をなで斬り!上体正面と足元後ろから同時斬り!刀を突きつけそのままスルッと刺す!静と動のギャップが生む緊張感が絶品。

新兵衛は篠の二つの願いを叶えるため藩に戻ってきますが、篠の想いが釆女にあると知り斬り合うことになります。でもそれを知るきっかけとなった手紙を捨てることができないほど、篠の全てを忘れられないわけですね。そして釆女に篠からの文を見せられた新兵衛は、死の間際に彼女が言った願いが新兵衛を慮ってのあえての言葉であると知ります。一方で里美と藤吾と共に暮らすうちに新兵衛は家族との繋がりを知ることになり、最初は新兵衛を煙たがっていた藤吾も剣を教わるまでになります。この剣の修業を活かして、池松壮亮が荒井浩文の腕の腱を切って止めるというのも熱い。そして家族を守るため、仲間の無念を晴らすため、不正を晴らさんとして追われた己の過去にケリを付けるため、新兵衛は戦いに赴くのです。

三右衛門と采女が命を落とし、四天王のなかで新兵衛のみが死に場所を失います。しかし篠が新兵衛に託した「死ぬのではなく生きるのだ」という思いが通じたとも言えます。これは死ぬことが武士道ではない、という新たな時代への転換のようにも思えるのです。一部が私腹を肥やすのではなく、民が健やかに暮らせる世。画面もそれまでの薄暗いものから明るい画に変わっていますね。若殿様の「励め!」は豪快ですがそこは生命力への期待とも言えるし、また独身である里見を悪し様に言っていた榊原の義母が里見に謝罪するのも価値観の融和を思わせます。もはや殺人剣は不要。だからこそ新兵衛は去ってゆきます。すがってくる和服姿の黒木華を置いていくとは実に理解に苦しみますが(個人の好みです)、散り椿の季節を乗り越えた藩を見届け、孤高の英雄はただ去り行くのみなのです。

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