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2018
09.25

何もしない、は何かに繋がる。『プーと大人になった僕』感想。

christopher_robin
Christopher Robin / 2018年 アメリカ / 監督:マーク・フォースター

あらすじ
はちみつ大好き(クマだから)。



旅行カバン会社のウィンズロウ社で働くクリストファー・ロビンは、忙しさのあまり家族との時間を作れず、仕事では追い詰められ途方に暮れていた。そんな彼の前に、子供の頃の親友だったクマのプーが現れる。プーは森の仲間たちがいなくなったので探してほしいとクリストファーに頼むが……。A・A・ミルンの児童文学を元にしたディズニーの『くまのプーさん』、そのキャラクターをベースとした実写映画。

大人になったクリストファー・ロビンが、かつて秘密の森で遊んでいたクマのプーに再会する、というファンタジー・ドラマです。プーと言えばディズニーのアニメですがそちらは未観、キャラは何となく知っているというプー弱者の状態で鑑賞(『クマのプー太郎』なら知ってる)。なので元々プーがぬいぐるみという設定なのかがよくわからないんですが、本作では滑らかに動く生物としてではなく、喋って動くぬいぐるみ(としか見えない)の姿で登場します。しかもクリストファーの想像上の友人、いわゆるイマジナリー・フレンドでもなく他の人にも実際に見えるという設定で、さらにはプー視点で物語が進行する箇所もあります。つまりファンタジー世界と現実が地続きになっているんですね。そして主人公はあくまでクリストファー・ロビン。子供の頃プーに「100歳になっても忘れない」と言って別れたものの、家庭を持ち仕事に忙殺されるクリストファーにとっては過去の思い出となったプーとの記憶。そんななかでプーと再会することで、クリストファーが忘れていたものを思い出していく、そんな大人のためのファンタジーとなっています。

クリストファー・ロビン役は『T2 トレインスポッティング』のユアン・マクレガー。ふと見せる戸惑いの表情とか良いですが、ぬいぐるみ抱えて走る姿はちょっと笑え……イヤぬいぐるみじゃないから!友達だから!その妻イヴリン役には『キャプテン・アメリカ ファースト・アベンジャー』のペギーことヘイリー・アトウェルですね。顔が強いです。クリストファーのブラック上司ジャイルズは『SHERLOCK』マイクロフト役のマーク・ゲイティスで、飄々としてるのが憎たらしいです。また、喋るぬいぐるみと言えば『テッド』『クーキー』などありますが、プーら森の仲間たちはぬいぐるみがそのまま歩いているかのようで実にカワイイ(見方によっては怖いかもですが)。プーとティガーの声はアニメ版と同じジム・カミングスが担当。他の声はアニメ版とは異なるようですが、オウルの声に『ジュラシック・ワールド 炎の王国』トビー・ジョーンズというのにはちょっと意表を突かれます。監督は『007 慰めの報酬』『ワールド・ウォー Z』のマーク・フォースター。

『美女と野獣』のようなディズニーアニメをそのまま実写化したような作品とは異なり、『マレフィセント』『アリス・イン・ワンダーランド』のように設定は継ぎつつも少し捻ったものになっています。子供の頃の思いを忘れてしまった大人のお話なので、子供よりおっさんの方が響くんじゃないでしょうか。と言うか、現実の刃でズバズバ切り付けた後、ほんわかした世界に放り込んで癒すというアメとムチ映画なんですよ。丸投げ無責任上司は悪であり、休日出勤は邪であるということを、スリルと冒険と喋るぬいぐるみで説いてくるのです。現実から目を背けるな、とプーに言われているかのような……でも実写で大丈夫か?という不安は思ったより大丈夫だし、何だかとても面白かったです。

↓以下、ネタバレ含む。








へこんでいるときに昔の親友がひょっこり現れた、となるとちょっと楽しくなりそうなもんですが、現実に生きるクリストファーの場合はそんな単純ではありません。相手はプーなのでのんびりお気楽だし(実際は仲間探しという問題を抱えてるけど)、やんなきゃいけない仕事をしてるのに邪魔してくるし(本人には悪気はない)、ハチミツベッタベタだし(これは実写だとかなりキツい)。せっかく会えたというのに、タイミングの悪さや周囲に見られたらマズいという焦りもあって微かな苛立ちを感じてしまう。これがとてもよくわかるので、最初はむしろクリストファーに同調してしまいます。子供時代を忘れたわけではないけれど、今を生きるのに必死な大人としての心情。つまりは心の余裕がないということであり、そのために「何もしないをする」というのが実はとても難しい、ということ。これは我々も日々を振り返ると感じることではあるんですよね。

でもプーは決してそんなクリストファーを責めたりはしないし、怒ったりもしません。ただ少しだけ悲しそうに見えるだけです。実際はほとんど表情が変わらないのでそう見える気がするというだけなんですが、それは観る者がクリストファーに同調しながらも微かに感じる気まずさが、プーに投影されてしまうということなのでしょう。プーをぬいぐるみまんまにしたのはそういう意図があったのかもしれません。

クリストファーは「効率よく」が口癖になっていて、それは上司に言い含められていることでもあります。娘との約束を守れないときも「何もしないからは何も生まれない」「夢はタダじゃない」と上司の言葉を自分を正当化するために使ってしまいます。でもそれらは自分の言葉ではないし、かつての自分とは真逆の言葉であるため、娘に言うときに何か違和感を覚えたような表情をするんですね。プーの仲間を探しに100エーカーの森に行った時も、彼がクリストファーだとみんな気付きません。しかし仲間たちを見つけ、みんなを安心させるためにズオウとの対決を演じるクリストファーに、一番疑っていたイーヨーも彼がクリストファー・ロビンだと認識します。名乗るだけでなく行動により自分自身を取り戻す、という描き方が良いですね。しかしその間も、プーだけは大人になっていてもすぐにクリストファーだとわかった、という事実が頭に浮かび、ちょっと泣きそうになります。

「風船は使わないけど持ってると幸せ」とか「前に進むと今いたところにいなくなる」とか、プーの言葉には哲学的思索さえ感じられます。深い意味があるようにも思えるし、そうでもないようにも思えるんですが、ただ日々の生活のなかで見過ごしている何かがある、というのは感じます。ちょっと立ち止まって周囲を見渡すきっかけになるような、それによって新しい何かに気付くような、そんな言葉ですね。それこそが「何もしないことが素晴らしい何かに繋がる」ということなのでしょう。それだけに、何もしないをしよう!風船を持とう!はちみつを食らおう!こんな仕事辞めよう!(極論)みたいになりがちですが、でも決して今を否定しているわけではないというのが本作の優しいところ。正直最後はありえないほどの大団円ではあるんですよ、社長ができた人物であるというのも必要だし。でもファンタジーと現実を地続きにすることで、家庭を第一にしつつ仕事も疎かにしないことだってできるんじゃないか、という現実的ながら夢のある結論を導いていて、気付きを得るという点でとても気の効いたラストだなあと思うのです。

ピグレットやティガー、イーヨーといった仲間たちと彼らを引き連れた娘ちゃんのロンドン大冒険がドタバタで愉快だし、おばかなプーという呼び方やズオウの穴、イーヨーのなくしたしっぽといった(おそらく)原作にある要素も随所に仕込んでいるようで、なかなかの工夫。ツラい(仕事が)ながらも楽しい(プーたちが)という予想以上に響く内容にちょっと驚きました。面白かったです。あとね、やっぱモフモフしたものって癒されますねえ。モフモフしたい……。

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