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2018
09.10

失わないために、狼は牙を剥く。『SPL 狼たちの処刑台』感想。

SPL_taam_long
殺破狼:貪狼 Sha po lang: taam long / 2017年 中国、香港 / 監督:ウィルソン・イップ

あらすじ
娘を探しています。



香港の警官リーは、タイの友人の元に行っている15歳の娘ウィンチーが失踪したとの連絡を受けて、タイのパタヤにやってくる。リーはパタヤ警察のチュイに頼んで捜査チームに加わり娘を探すが、やがてそこに臓器密売組織が絡んでいることがわかってくる……。『イップ・マン 継承』のウィルソン・イップ監督によるクライム・アクション『SPL』シリーズ、第3弾。

『SPL 狼よ静かに死ね』『ドラゴン×マッハ!』に続く『SPL(殺破狼)』。シリーズと言っても直接的な話の繋がりはなく、同じ役者が違う役で出ていたり世界観に通じるものがあったりする感じです。今作の主人公は香港警察のリーで、タイでさらわれた娘を探し出そうとなりふり構わず突っ走る、というお話。設定だけ見れば『96時間』を彷彿とさせますが、さらに焦りと絶望と狂気に満ち、肉体的・精神的な痛みが観る者を打ちのめします。前作『ドラゴン×マッハ!』に比べるとアクション少なめでドラマ重視のバランスですが、それでもサモ・ハンによるアクション設計がとにかく素晴らしい。三者が交錯する運命の交差点など『イップ・マン』シリーズのウィルソン・イップによる演出も絶品。

リー役は『コール・オブ・ヒーローズ 武勇伝』のルイス・クー。『ドラゴン×マッハ!』では臓器売買組織のトップでしたが、今回は真逆の役。アクション俳優ではないですが、それをカット割でうまく処理するバイオレンスシーンが良いし、ニラミ顔で大暴走するという物語の牽引力が凄い。また前作に続く登場となる『マッハ!』シリーズのトニー・ジャーはタイの警官タクを演じ、その神がかりな体技は圧巻。そしてリーに協力するタイ警察のチュイ役、ウー・ユエがスゴくイイ!ジェット・リーを思わせる風貌で激しさと優しさが同居する雰囲気、速さと強さの見事なアクションが最高です。市長の秘書チェン役の『ドラッグ・ウォー 毒戦』ラム・カートンも存在感を見せてくれます。

娘が15歳というのを後から知って、これは受ける印象が結構変わるので劇中でハッキリ言ってほしかった(言ってないよね?)、というのはあります。そりゃルイス・クーも鬼になりますよ。そして彼が笑みを見せるシーンがどこか、というのがまた泣けます。ヘヴィなドラマをスピーディかつ重厚に描く、香港ノワールの真骨頂です。

↓以下、ネタバレ含む。








冒頭の闇に沈みかける空の映像が不穏さを煽るんですが、そのイメージが最後まで緊迫感となって支配している感じがします。それは焦るあまりに暴力的な行動に出るリーの危なっかしさであったり、チュイにもうすぐ子供が生まれるというタイミングであったり、チュイの上司でもある義父(『オンリー・ゴッド』のカラオケ神ことヴィタヤ・パンスリンガム!)が食事中に見せる態度といったものにも表れ、美しい海をバックに一人歩くウィンチー、という絵になるシーンまで心許なさとして映ります。タクがリーに触れたときに一瞬見える血にまみれたようなイメージも不安げ。このトニー・ジャーが演じるタクという人物は前作の刑務所看守とはまた異なる役柄ですが、何かスピリチュアルな力を持つということなんですかね(あるいはサイコメトラー?)。それはともかく、このサスペンスとして引き込む作りが秀逸。音楽の付け方もイイですね。最も印象的なのが、リーとチュイとチェンの車がニアミスする運命的な交差点。リーが臓器売買組織と繋がっていた警官のバンを乗せていなければあるいは、という実にやるせなく苦いシーンです。

そこにリーの狂気を孕んだ目による威圧感と暴走するバイオレンスが加わり、スリリングさが増していきます。リーの睨み続ける眼力だけでバンに自分から言わせるところなどは異様な圧だし、目隠しハンマーの凄まじさはもはや拷問。報復のためにリーに協力した娼婦さえも怯えるほどです。また敵役サーシャを演じるクリス・コリンズが激強い上に憎たらしさ全開のヤバい奴、というのも危機感を煽ります。しかもまさかのトニー・ジャー退場には愕然。それも一度助けてやった奴に……落ちる途中で引っかかったりするので死んではいないよね……?という希望が無情に裏切られる展開はショッキングです。

ドラマに沿いながら繰り広げられるアクションはどれも素晴らしい出来。ルイス・クーのアクションシーンは寄りと引きの使い分け、カットの繋ぎ方などの処理が職人技のレベルで不自然に見えないですね。ラストの一対三の刃物対決とかヤバいです。ウー・ユエは狭い部屋の中で小物も使いながら3人を相手にするスピードと手数の多さ、走りながら柵を飛び越える姿のスマートさ、構えたときのキメ絵のカッコよさまで言うことなしです。ラストのサーシャとの対決も燃える!そしてトニー・ジャー、建物内の狭い通路や屋上のわずかなスペースでの攻防がパワフル。トニー・ジャーのアクションがここだけというのは正直物足りないですが、密度はかなり濃いですね。こうしてみるとウー・ユエとトニー・ジャー双方と渡り合うクリス・コリンズのスゴさもかなりのものです。

リーは娘が妊娠したと聞いて相手を未成年への淫行で逮捕させます。娘が15歳と知った後だと、相手がまた頼りなさげで何のビジョンもない感じなのもあって気持ちはわかるんですよね。明らかに職権乱用ですが心情は痛いほどわかる。しかし娘がタイへ旅行に行き命を落としたのは、婚約者を奪い新たな命を奪った父親の行為がきっかけだ、というのがツラいところ。さらに、ギリギリのところで助かるかと思ったウィンチーの遺体が現れたときのショック。父からもらった誕生日プレゼントのアクセサリーを付けていた事実からは、父を恨んでいたわけではないことが窺われるし、腕に彫った「さようなら」のタトゥーは失った子供を偲んだのかもしれませんが、会えないままで別れた父への言葉にも思えて、そんなやるせなさにリーの慟哭が拍車をかけます。そして乗り込んだ市長宅で、市長の胸に耳を当てて娘の心音を聞くリー。果たして娘の命を奪ったチェンと、娘を死へと向かわせてしまったリーは、どちらが罪なのか。そして復讐と贖罪の銃声が鳴り響きます。

子供を救うために死んだタク、生まれてくる子を救うため命令に逆らったチュイ、娘を守れなかったリーと、三者が迎える結末。最後のリーには、静かで寂し気な表情の裏に魂の叫びさえ感じられるほど。ラストカットには、チュイが電話でおなかの子に歌っていたシーンが再び映し出されます。思えばリーが娘と二人のとき以外で笑うのはこのシーンくらい。静かな余韻の中に、失われたものの重みが響きます。

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