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2018
08.29

勇気が英雄をつくるx3。『ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間』感想。

chiisana_eiyuu
2018年 日本 / 監督:米林宏昌、百瀬義行、山下明彦

あらすじ
ポノック♪ポノック♪



スタジオジブリ出身で『かぐや姫の物語』などを手掛けたプロデューサー西村義明や『思い出のマーニー』の米林宏昌監督などにより立ち上げられたアニメーション・スタジオ、スタジオポノックが、新たに企画した短編レーベル「ポノック短編劇場」、その第1弾。短編3話のオムニバス・アニメになります。

スタジオポノックと言えばジブリ出身者により作られたスタジオという印象で、『メアリと魔女の花』が記憶に新しいですが、その新作は意外にも短編集。『メアリと魔女の花』の米林宏昌による初のオリジナル・ストーリーで、カニの兄妹が父を探す冒険に出る『カニーニとカニーノ』、高畑勲の右腕として活躍してきた百瀬義行監督による、たまごアレルギーに悩む少年と母親のドラマを描いた『サムライエッグ』、多くの宮崎駿作品に携わってきたアニメーターの山下明彦監督による、誰にも見えない透明人間の青年が奮闘する『透明人間』という、それぞれ15分前後の3編です。

トータルの感想を述べると、名作劇場的なことをやりたいのかなあ、という印象。できて間もないスタジオでありながら「ポノック短編劇場」というパッケージングを行うのは結構冒険だと思うし、そこらへんまだジブリの後継者みたいな気負いも感じるんですが、それをオープニングやアイキャッチやカーテンコール的なエンディングまで作り込むというのが徹底しており、その辺りの好き嫌いはともかく定番としてやっていきたいという覚悟を感じます。内容的にはそこまでとがっているわけではないものの、どれも細部の演出まで凝っていて、設定的にはわりと重い話もあるけども後味は爽やか。また短編ならではの実験的な映像表現や独創的な話作りといった攻めも見られるので、見応えがあります。

ちょーっと真面目すぎるかなあという気もするし、全部で54分なのでもう一話くらいあってもよかったかなあとも思いますが、『ちいさな英雄』というタイトルに沿った3編はどれもなかなか個性的で面白かったです。ちなみにやけに耳に残るOP曲・ED曲を歌うは木村カエラ。また『メアリと魔女の花』ではエンドロールに「感謝」としてジブリ3巨頭の名前が挙がってましたが、今回はトリビュートとしてか高畑勲だけでした。オムニバスという形式はジブリの呪縛を逃れつつこうした攻めも見せたい、という気概の表れなのかもしれません。劇場でアニメのオムニバスを観るのは『SHORT PEACE』とか『アニメミライ2014』以来でしたが、この形態は結構好きなので応援したいところです。

↓以下、それぞれの短編について。ネタバレ含む。








■『カニーニとカニーノ』

川に住むカニの兄妹が、行方知れずになった父親を捜しに行くというお話。同じ米林宏昌監督作である『借りぐらしのアリエッティ』のミクロ世界を、一歩進めて水中に特化したという感じですね。水の表現がチャレンジングで、リアルな川の流れが絵としての岩場と自然に融合していたり、生活するフィールドと危険な急流がシームレスに存在していたりと、映像的に心地よいです。あと音ですね。水の中のこもった音、流れる川の激しい音などが臨場感あって、魚の目がギュッって動く音などは怖くてイイ。

カニと言っても姿は人間で、カニのハサミが付いた槍で魚を捕まえたりして、デザイン的には悪くないです。ただ、冒頭で人の姿をしたトンボも出てくるので魚以外は擬人化した世界観かなあ、と思ったら、困ったことにリアルなカニも出てくるので混乱するんですよ。ではあの親子はカニの妖精的な存在?でもラストで他にも擬人化カニが出てくるので彼らだけが特別ということでもないようだし。父不在で不安になった兄妹の心情が、他者をリアルカニという別の姿に見せてしまった、ってことですかね?うーん、この辺りちょっと引っ掛かりました。

物語はシンプルで、幼い兄妹が勇気を出して父を救いに行くというのが「ちいさな英雄」ということですね。カニーニ役が木村文乃、カニーノ役が鈴木梨央(『HiGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY』の子だ!)ということですが、台詞は名前を呼ぶ以外は意味のない発音しかないので、まあ特に問題なし。二人がそれぞれどこで泣くか、というのがほっこりポイントですね。オーソドックスすぎて物足りなさもありますが、一発目としてはそれもいいでしょう。でも巨大魚の迫力は素晴らしい。『MEG ザ・モンスター』かと思いました。カニのハサミかと思ったら鳥の嘴、というのが、ラプトルにやられると思ったらTレックス出てきた、みたいなモンスター・パニック感があって大変よろしいです。


■『サムライエッグ』

卵アレルギーの少年シュンとその母親の奮闘を描くお話。まさかそんなしんどい設定が出てくるとは思わなかったですが、案の定かなり重い話。ただこれは短編だからできる攻めたテーマだと言えるでしょう。幼いころから卵アレルギーに苦しみ、何度も救急車を呼ぶことになる母子。卵なんて何にでも入っているがために、給食もまともに食べられない。給食のメニューそっくりの卵を入れないお弁当を持たせる母に泣けます。アレルギーの大変さは知識としてはありましたが、こうして物語として見せられると本当に痛ましくて、祭りですれ違った人のお好み焼きかなんかが口に付いただけで救急車、というのにはキツくて泣きそう。

なぜキツいかと言えば、そこに死の気配が漂うからです。シュンが不用意に口にしようとしたクッキーを思わず叩き落とす母の、しまったという表情。そして漏れ出そうになる後悔の感情。鳩の死骸を見かけたシュンが、そこに自分を重ねてしまい抱く恐怖。アレルギーの事実を受け入れて、経験からその対策を積み重ねて生きている親子に、その死の影はあまりに執拗です。でもアイスを一口食べてしまったシュン君は、そんな死への恐怖に対して必死の抵抗を見せます。ここで作画が変わり、駆け下りる階段が飛び散ってしまいそうな描写が実にスリリング。高畑勲とやってきたという百瀬義行監督の実力を見せつけられます。

ママ役が尾野真千子で、舞台は関東圏なのに一人バリバリ関西弁なんですよ。そこには人と違っても負けないという表れもあるのかもしれません。このママが強烈なので、坂口健太郎演じるパパが全く記憶に残らないんですけど、まあそれはともかく。戦いに負けなかった少年が、いつか勝つという宣言により「ちいさな英雄」として立ち上がるのには泣けます。卵にサムライの顔を描き、強敵として対峙する姿には、それまでの死の影とは明らかに違う「生」への前向きな意志が感じられます。振り返れば、乳歯が抜ける、逆上がりをこなす、野球で打ち上げる白球など、実は成長しているという生そのものの描写の積み重ねがあったわけで、そこに後から気付かされるのも良かったです。アレルギーに苦しむ子供たちに勇気を与える良作です。


■『透明人間』

主人公は透明人間。とは言えオカルトではなく、彼は普通の人と変わらず生活し仕事にも就いているものの、透明であるが故に誰にも見てもらえない、というお話。透明人間というのは「目に入らないほど目立たない」という人のメタファーってことなんでしょうが、ビジュアル的には本当に透明だという体で描かれるので、その辺りの表現が実に面白いです。最初は衣類が浮かんでいるような感じですが、出かけるときは手袋をしたりマフラーをつけたりするのでちゃんとアクションもできるし、ヘルメットやメガネによって顔の位置も把握できるのでそこに見えない表情が見える気がするんですね。後頭部側から見るとメガネの裏側から彼の見てる対象がわかるし、雨を降らせることで顔の形を見せたり、見えない涙まで表現したリ。ものを食べたときには口の形も何となくわかります。というように細部の描写の工夫がとても良いんですね。

見えない=見られていないということがどれだけ寂しいか、というのがとてもツラいです。職場で同僚の女性が落としたペンを拾ってあげたら「こんなところに」ですよ。傷付くなんてもんじゃないですよ。コンビニのレジに並んでも気付いてもらえないとか、悲しすぎて泣きそうです。駆け寄るコンビニのおばちゃんをあそこまでドラマチックに描くというのがスゴいですが、それだけ人に気にかけてもらうことに飢えているということでしょう。また本作が秀逸なのは、この透明人間が「見えない」だけでなく「軽い」という設定を付けた点です。なぜ消火器を持ち歩いてるのかといえば、軽くて浮かんでしまうから重しとしているわけです。ダメ押しとして「存在感の軽さ」まで付与してしまう。残酷すぎてヘコみそうになります。

しかし盲導犬を連れていることから盲目とわかる老人に、その見えない目で「見えているよ」と言ってもらい、パンをもらう優しさを受けたことで、自分は存在していいんだ、という安心感を得て彼は救われます。そしてこんな自分にもできることがあるということを、勇気をもって赤ん坊を救うことで自分自身に証明してみせるのです。誰にも気付かれなくても、助けた赤ん坊には見えているいないいないばあ。自分を諦めずにいたことで「ちいさな英雄」となれたわけですね。声を当てたオダギリジョーの抑えめな喋り方、盲目の男役の田中泯のシブさ、共にイイ。あと音楽が中田ヤスタカというのにはちょっと驚き。

本作は話も良いですがアクションが素晴らしいです。風に飛ばされてアドバルーンまで登っていく縦方向の動きでは、手を離すと終わりというスリルがあります。そしてトラックを追うときの横方向の動きではスピードによる疾走感があり、さらに透明な体をカメラが貫くというダイナミックさに高揚感も。この辺りが宮崎駿と仕事してきたという山下明彦監督の持ち味なんでしょうね。


 ※

というわけで三者三様の作品に仕上がっていて楽しめました。「ちいさな」というのがサイズ的なちいささ、年齢的なちいささ、存在的なちいささ、とそれぞれ別視点なのも面白い。ぜひ第2弾もやってほしいところです。

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