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2018
08.28

世界は謎に満ち、少年は未来を見る。『ペンギン・ハイウェイ』感想。

penguin_highway
2018年 日本 / 監督:石田祐康

あらすじ
僕は賢い。



ある日街に突然ペンギンが現れる。勉強家で探求心旺盛な小学4年生アオヤマ君は、通っている歯医者に勤める仲良しのお姉さんがペンギンの謎に関わっていると想定し、その謎を調べ始める……。森見登美彦による同名小説のアニメーション映画化。

『夜は短し歩けよ乙女』『有頂天家族』などで知られる作家・森見登美彦の日本SF大賞を受賞した小説が原作。主人公は疑問に思ったことは徹底して調べてノートにまとめる超理論派人間の小学4年生、アオヤマ君。彼は海もない街に突然現れた多くのペンギンたちを目に止め、仲良しの歯医者のお姉さんやクラスメイトらと共に幾多の謎の解明に挑みます。日常に紛れた少し不思議な謎が、やがて町中を巻き込む事態へと進展していく、という森見作品らしいドライブのかけ方がありながら、アオヤマ君という少年の目を通してそれを描くことで、どこから現れるのかも不明なペンギン、水のような不可思議な球体、そしておっぱいに至るまで、こんなにも世界は謎に満ちていて好奇心と探求心を刺激してくれる、というのを思い出させてくれるのがスゴくイイ。現実に混入する非現実、お姉さんとの喫茶店という微かな甘酸っぱさ、知的興奮や冒険のジュヴナイル、夏休みの秘密基地感、理論と考察の先、おっぱい、ペンギンなど、個人的に響く好きな要素が山盛り。様々な概念がイメージとなるアニメならではの表現も躍動感あふれていて実に気持ちよいです。

監督の石田祐康は、短編『陽なたのアオシグレ』で転校する好きな子に想いを伝えるため走る少年を溢れる疾走感で描いており、そのフレッシュさが本作にも上手くマッチしています。アオヤマ君役の北香那は四角張ったようでいて柔軟な少年の表現が繊細。お姉さん役の蒼井優は『鉄コン筋クリート』などでも声を当ててましたがやはり上手い。お姉さんのキャラにスゴく合っていて聞いてて心地よいです。アオヤマ君への「少年」という呼びかけ方が好き。釘宮理恵、潘めぐみといった声優陣はもちろん皆良いし、アオヤマ君のお父さん役の西島秀俊、ハマモトさんのお父さん役の竹中直人も意外と違和感なかったです。

常識では考えられない現象は展開の意外性を生み、ファンタジーにより描かれるリアルがアオヤマ君の世界を広げていきます。世界の果てなど宇宙の向こうだと思っていた少年が知る、人生には失うものがあるという悲しみと、得るものがあるという喜び。謎は謎だから楽しい、でも謎を解くことは未来へと繋がっていく。そうして世界の果てを知ることが、僕を少し大人にする。宇多田ヒカルのエンディング曲も激ハマり。ああなんだこれすげー好き、ずっと浸っていたい。

↓以下、ネタバレ含む。








■超気持ちいい映像表現

映像演出が緩急自在で、かつとても丁寧。冒頭、四角四面なアオヤマ君を表すようにあちこち四角い部屋。ペンギンの大冒険は坂のある街の様子、森や竹林までさまざまな風景を見せて、一つの街全体という舞台のスケールを感じさせます。アオヤマ君のきっちりまとめられたノートは思わず読みたくなる絶妙なまとめ方だし、品の良い海辺のカフェとそこで指すチェスの風景も心地いい。「海」が浮かぶ高原の爽やかさと研究ステーションの秘やかな隠れ家感、海辺の町へ向かう電車に感じる見知らぬ場所へいくという冒険心など、夏休みという設定もありジュヴナイルとしてのワクワクが止まりません。

非現実が現実に混ざりあうシーンにはファンタジーの持つワクワクもあります。そもそも街なかにペンギン、というのが問答無用で可愛い。なぜペンギンかと言えば、ペタペタ歩く姿がお姉さんの呑気さを、水の中では猛スピードなのがお姉さんの気っ風の良さを思わせる、って感じでしょうか。飛べない鳥、というのがこの世界におけるお姉さんの現状でもあるのかも。まあでも「可愛いから」だけで絵的には十分。ものから作り出される生命、というのがゴールド・エクスペリエンスみたいです(スタンド名:ペンギン・ハイウェイ)。あと集団でいるという特性、これがクライマックスでペンギンサーカス団が疾走する超気持ちいい躍動感に繋がります。またおっぱいに関しては不自然に揺れたりせず、微妙で繊細な動きや、子供の目線の高さから見たアングルなどがリアルで、そのリアルさが逆に少年が空想するファンタジーを想起させます。

「海」は無機質な謎の球体という実にミステリアスなSF的オブジェクトであり、表面に波打つ波紋や蠕動の異質さ、小さめの水球を弾き出す危うさなどミステリアス。「海」の中にある異世界では現実のモノが倒錯的に配置され、白昼夢のようなフワフワした感じが気持ちいいです。そう言えばアオヤマ君は本物の海を見たことがないわけで、そういう意味では余計に未知な物体ですね。一方でペンギンを食うジャバウォックの不気味さが異彩を放ちます。ちなみにジャバウォックは『鏡の国のアリス』に登場するモンスターですが、アリスよろしくアオヤマ君も眠くなってしまうシーンが多いです。不意にまどろんで、それでも眠くないと言い張るのが子供らしい。


■アオヤマ君と周囲の人々

アオヤマ君を突き動かすのは、わからないことを知りたいという情熱。まずはその知的興奮の楽しさというものに惹かれます。10歳の少年にとっては世界はまだまだ謎だらけ。それを解き明かすことで知識を得てさらに賢くなる、そうやって世界の仕組みを知ることが大人になることである、とアオヤマ君は思うわけです。大人になるまでにあと何日と算出するのも、早く大人になりたいという思いがあるのでしょう。そこには結婚相手と考えているお姉さんに対する思いもあるのでしょうが、それは感情としてはまだ漠然としています。彼がおっぱいにこだわるのは自分とは異なる存在としての女性の象徴がおっぱいだからであり、それがお姉さんへの思いの正体である予感があるのでしょう。これがラストへと繋がっていくことを考えると、アオヤマ君にとっておっぱいは性の目覚めというよりはむしろ、より純粋な恋愛感情というものへの入口となっています。だからお母さんのおっぱいと異なるのは当然の帰結です。怒りそうなときはおっぱいのことを考えると平和な気分になる、というのは至言。

アオヤマ君の思う大人像というのは何だろう、と言えばこれはもう父親なんでしょう。常に正しく、示唆に富み、博識でスマート。それが憧れの姿であり、お姉さんに「大人ぶっている」と言われてもその理想を目指し、スマートであるために歯磨きもする。とは言えこれは純粋にお父さんが好きだということの裏返しなんでしょうね。「ペンギン・ハイウェイ」という命名を誉める父親のメモに、それを見たときのアオヤマ君の嬉しそうな顔が目に浮かぶようです。普段は冷静で理屈っぽいアオヤマ君ですが、そんなふと見せる子供っぽさが可愛い。また思考が柔軟だし、過ちもすぐに認めて改善しようとするので、設定から予期される嫌みっぽさがないのが良いですね。妹に優しくする姿には泣けます。

アオヤマ君と対になるのがハマモトさんです。彼女もまた賢い子ですが、アオヤマ君よりも社交的。「銀の月」の噂で「海」から人を遠ざけるというのもなかなか策士です。チェスで対等に渡り合えるアオヤマ君に好意を抱いているのはお姉さんに当たりが強いことからも察せますが、「おっぱいがある方がいいんでしょ」というところにまだ自分が大人ではないことの悔しさが滲みます。逆に言えば彼女もまたアオヤマ君同様大人への憧れがあるのでしょう。またウチダ君はアオヤマ君のような天才型ではないし色々ヘボい点も多いですが、地道な努力で実を結ぶという堅実な性格。一人アマゾンプロジェクトを続けて川が循環しているという謎に気付いたときも特に自慢気にしたりもしないし、何よりその穏やかさによるずっと一緒にいられる感が良いです。そしてスズキ君は力で解決しようとしたり好きな子にいじわるしたりと最もガキっぽい子ですが、ハマモトさんに「一生許さない」と言われて自分の軽率さに気付き、それを何とかリカバーしようとするのが熱いです。


■謎を解き明かした先

ペンギンと「海」とお姉さんに相関関係があることがわかるにつれ、お姉さんは何者なのか、という謎が浮かび上がってきます。お姉さんはペンギンを生み出し、ペンギンは海を消し去る、でもお姉さんは海からペンギン・エネルギーを得ており、同時にジャバウォックを生み出してペンギンを消してしまう。非常に矛盾した存在なわけです。いわば生と死を同時に内包しているような存在。これはつまり生きつつも死へと向かっている、人の生そのものです。宇宙の向こうだと思っていた世界の果ては、父親の言うように案外近くにあるかもしれない。それは妹が「お母さんが死んじゃう」といういつか起こる現実を不意に認識したように、決して他人事ではないのです。そして高熱のときに見る夢の中で、繰り返される死と再生。お姉さんはアオヤマ君に死生観という新たな概念を与える存在となります。

死という概念、それは失われるということと同義です。そしてお姉さんは失われる存在です。しかし研究し、考察し、その理論に辿り着いたアオヤマ君は、それでもお姉さんの持つ「生」の面を見つめたまま彼女と別れます。それは、お姉さんが大好きだから。彼が泣かないのは、お姉さんが笑顔で消えたから。世界の果てに向かうペンギン・ハイウェイを、つまり人生の道のりを、いつかその先にいるお姉さんに会うために進む、というのがアオヤマ君の信念となります。それは死へと向かう生ではなく、死後に誇れる生を全うするという信念。この10歳の少年の、なんという可能性に満ちた未来。

少年の淡い初恋とせつない別れ、仲間との共同作業と認めあうことの大切さ、謎を解き明かすことで見せる成長、と幾多の要素が絶妙に組み合わされた脚本とそれを見やすくも楽しく展開させる演出が実に素晴らしいです。アクションとエモーションを融合させつつ彩り豊かに綴ったひと夏の冒険に、懐かしい輝きを感じてたまらなく泣きそうになるのです。

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