FC2ブログ
2018
08.20

誇りだけは奪わせない。『ウインド・リバー』感想。

Wind_River
Wind River / 2017年 アメリカ / 監督:テイラー・シェリダン

あらすじ
彼女は戦士だ。



ワイオミング州のウインド・リバーで、雪のなか発見された女性の遺体。第一発見者である地元のハンター、コリー・ランバートは、派遣されてきたFBIの新人捜査官ジェーン・バナーに乞われて捜査に協力することになる。慣れない雪山に苦戦するジェーンだったが、事件の真相を追ううちに思いがけない闇を見ることに……。アメリカの辺境地域を描くクライム・サスペンス。

ネイティブ・アメリカンの住むウインド・リバーの町を舞台にした、少女の凍死体を巡るミステリーです。ハンターのコリーが雪の上で見つけたのは知人の娘ナタリーの変わり果てた姿。なぜか裸足で足首まで凍傷にかかっており、頭部にも裂傷が。警察からの要請でやってきたFBI捜査官のジェーンは、町に詳しいコリーと共に事件の捜査を進めていきます。捜査のなかで嫌でも立ち上がってくるこの町特有の寂れた空気にじわじわと取り込まれ、雪景色という絵的な寒さとやりきれない事件の重さ、そのなかでハンターの男とFBIの女が共有していく怒りと悲しみに飲み込まれます。ただ単に真相を追っていくというだけではなく、ナタリーの死の謎から垣間見える現代社会の闇深さをスリルとサスペンスで抉り出す見事な出来。

コリー・ランバート役は『メッセージ』ジェレミー・レナー、ジェーン・バナー役は『GODZILLA ゴジラ』エリザベス・オルセン。言うまでもなく『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』などMCUではホークアイとスカーレットウィッチという師弟コンビですが、その関係性のイメージを僅かに残しつつもまた違う歩み寄りを見せて、二人とも素晴らしい。コリーの友人マーティン役のジル・バーミンガムもとてもイイし、保安官ベン役の『ダンス・ウィズ・ウルブズ』『グリーンマイル』グレアム・グリーンも存在感を示します。

監督・脚本は『ボーダーライン』『最後の追跡』の脚本でもあるテイラー・シェリダンで、監督としてはこれが2作目ですかね。荒れた大地のネイティブ・アメリカン保留地で貧困やドラッグなどの問題に苦しむ人々、頻発する女性たちの失踪や性犯罪被害という事実を元に、アメリカの暗部をも描いた力作です。台詞がいちいち良くて、緊迫感溢れる演出もスリリング、第70回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門では監督賞を受賞。やるせなさに打ちのめされながら、それでも失うまいとする誇り。良いです。

↓以下、ネタバレ含む。








闇のなか雪原を駆けていく女性という冒頭、そして日光のなか狼やピューマのものに混じって雪についた人の足跡と血痕。不穏さを煽る始まりと、雪の積もる寒々しいなかの少女の凍死体というショッキングな絵面。序盤から閉塞感を感じる演出はその後も画面を支配します。裸足で10km走り足首まで凍傷、額に裂傷、レイプ痕もあり、死因は冷気で肺が破裂という、あまりにも凄惨な少女の死が重苦しさを増加させ、直接映像としては出てこないコリーの娘の死がさらにやるせなさをもたらします。ナタリー同様に失われた娘という過去がコリーを捜査協力に同意させますが、そこには彼自身の喪失感と復讐心が関わっているわけです。コリーの「受け入れて苦しむことで心に生き続ける」というマーティンへの言葉が重いです。そしてピューマも恐れぬハンターという職業が犯人を追い詰めて狩るという姿に重なるのが上手い。ジェレミー・レナーの冷静に自分を抑えながらも滲み出る怒りと悲しみ、視線の外し方などが実に良いです。

一方のジェーンは雪のなか薄着でやってきて「ナメてる」と思われるように最初は大丈夫かと不安にさせますが、実際は検死結果に食い下がったりしてベンに「FBIにしては熱心だ」と言われるように、尊大で他人事というありがちなFBI捜査官像になってないのが良いです。若さゆえか相手の気持ちを図りきれず、マーティンに思わず詰め寄ったり強引に妻の話を聞こうとしたりするも、妻アナがナイフで自身を切りつけ、平然と話してるように見えたマーティンが友人コリーの前で号泣するのを見て、すぐに過ちを認めるのが好ましい。ジェーンは部外者の視点から事件に関わっていくわけですが、政府側の人間として町の実態を知っていくという役回りであり、彼女もまた被害者と同じく戦おうとする若い女性でもあって、人物配置が秀逸。エリザベス・オルセンの、若干の戸惑いも残しつつしっかり自分の足で立とうとする表現力が頼もしい。着替えシーンで「食い込むから気を付けて」と言われたときに既に食い込んだ下着を穿いている、というのがちょっと笑えます(そして素晴らしい尻)。

採掘会社の寮で拳銃を向け合う警官と男たちという、事態が一気に緊迫する後半。そこで扉を開けようとしたところで切り替わる過去の真相、という演出が凄い。ここで物言わぬ死体でしかなかったナタリーが血肉を持ち、謎の男だったマットが本当にナタリーと愛し合っていたことがわかります。マット役が『フューリー』『ベイビー・ドライバー』のジョン・バーンサルというのがナイスなキャスティングで、荒っぽい感じなのに優しげな表情がとても良いんですが、そんな穏やかな二人の時間に突如襲い掛かる不穏な展開と目をそむけたくなるような悲劇により、直後に始まる撃ち合いでの男たちへの怒りが一気に頂点に達します。それゆえに雪に紛れて次々狙撃するコリーへのカタルシスも凄まじい。撃たれた男たちが凄い勢いで吹っ飛ぶ迫力は、まさにコリーによる怒りの鉄拳とも言うべき一撃。そして最後の一人をハンターらしく追い詰めてからの超法規的制裁。寒さと孤独のせいだと叫ぶ男は、10km走ったナタリーに比べるまでもなく僅かな距離で息絶えます。それでもナタリーもコリーの娘も戻ることはないという苦みがせつないです。

直接関係してはいないように見えるものの、事件の陰には居留地に押し込められたネイティブ・アメリカンへの差別の歴史というものが随所に表れます。故郷を追われ強制的に移された寂れた地で「雪と空気以外を奪われた」人々。広い土地に6人しかいない警官。ベン保安官が言う「孤立は慣れてる」という実態。一瞬映る、上下逆に掲げられたアメリカ国旗。ナタリーの兄チップはドラッグに溺れ、妹の死を知って号泣します。ナタリーの父マーティンは自決は思いとどまったものの、「やり方がわからないから適当に塗った」という死化粧で娘を送ります。女性の失踪やドラッグに走る若者の悲しみ、追いやられた過去の屈辱は残っているのに伝えるべき伝統は薄れてきているというさらなる喪失感と無力さ、そして人を狂気に走らせる過酷な環境。ネイティブ・アメリカン居留地に関する歴史や現状は少し調べただけでも本当に酷いんですが、一人の少女の死を通してそんな人々の隔離と届かない法の力、アメリカの闇をも描くんですね。

やるせなさに打ちのめされながら「彼女は戦士だ」に込められた誇り、体制側であるジェーンに告げる「鹿が狩られるのは運ではなく弱いからだ。君は戦った」という賞賛、「チップには優しくしろ、俺たちほど打たれ強くない」と言う同じように娘を失った者が見せる優しさ。ネイティブではないもののその歴史を背負って家族を持ったコリーならではの台詞の数々が胸に響きます。そして娘の詩が示していた未来をこれ以上失わないように戦った者たちの哀惜。社会派サスペンスとして描きながらエンターテインメントとしての見応えも失わない、とても良い出来でした。

スポンサーサイト
トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1420-65eb84b2
トラックバック
back-to-top