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2018
07.22

感染するゾンビと情熱。『カメラを止めるな!』感想。

onecut_of_the_dead
2017年 日本 / 監督:上田慎一郎

あらすじ
ポン!



山奥の廃墟でゾンビ映画を撮っていた撮影隊。しかしそこに本物のゾンビが襲来!これぞリアルと監督は撮影を続けるが、キャストやスタッフは次々とゾンビ化していき……という、ゾンビものを題材とした野心作。

そもそもは「ENBUゼミナール」という映画専門学校のワークショップとして製作された作品。概要だけ言えば、郊外の浄水場でゾンビ映画を撮影していた面々が本物のゾンビに襲われていくというホラー映画です。しかしこれが実に驚くべき仕掛けの施された異色の作品。事前知識としては「ワンシーンワンカットのゾンビものらしい」というだけで観て、イヤ実際その通りでそれだけでもかなりスゴいんですが、驚くのはそこだけじゃないのです。なんだこの笑いと涙と素晴らしい興奮!一部の不自然さはインディーズ的な拙さかと思ったらそれも伏線だったりして驚嘆。その構造自体が面白さの肝でもあるので、ぜひ初回はネタバレなしで観ていただきたい!予告編さえも観ない方がいいです。

役者陣はみな味があって、特に中心となる濱津隆之、しゅはまはるみ、真魚、秋山ゆずきといった面々は独特のキャラ設定を体現していて良いです。当て書きしたらしいと後から知ってそれも納得。上映館が圧倒的に少ないなか都合つけて無理やり観たんですが、それに見合う以上の出来でした。もっと拡大公開して多くの人に観てほしいところ。でも上映後にキャストの皆さんのサプライズ登壇やお見送りまであったりして、そこは小規模公開ならではの温もりでもありました。

ゾンビものではありますが、ホラー映画が苦手でも大丈夫。と言うか爆笑間違いなし。ホラー映画は時折とんでもない新しさや可能性を見せてくれますが、本作もまたアイデアと熱意に満ち、かつまさかのものづくり讃歌を見事に見せてくれます。とにかくこれは凄いことやってる。最高に面白いです。

※追記:都内2館のみの上映が連日毎回満席、その好調を受けて公開館が拡大、8/14現在なんと184館に!実にめでたいです。

↓以下、ネタバレ含む。観てから読んでね。








序盤から本当に撮り続けるワンカット映像は圧巻。ずっと途切れないうえにCGで繋ぐとかもしてないっぽく、え、これこのまま最後までやるの?もつの?と心配になったほど(37分というのも知らなかったので)。舞台劇と違ってカメラは動かなければならないし、ゾンビものなので血糊とかメイクとか色々同時進行でやらなければならないし。変な間が空いたりとか不可解なシーンがあったりとか、一部に不自然さを感じる箇所もあったのでそこはインディーズだからしょうがないのかな、くらいに思ってたんですよ。まあこれは観終わった後に「大変失礼いたしました!」と平伏したくなるような計算だったわけですが、そんな観客が抱えるであろう反応さえも織り込み済みだったに違いありません。脚本の緻密さが凄まじいです。

37分経って始まる『One Cut of the Dead』のエンドロールには「あれ、終わり??」と仰天するんですが、そこからようやくこれがゾンビ映画を撮る人たちの話であり、序盤の長回し映像がその作った作品なのだというのがわかってきます。最初にそれを流したということは、後半はその撮影風景を追うということなのかな?というのがなんとなくわかるんですが、スゴいのはこの中盤の各人のドラマが全て伏線だということです。しかもそれが伏線だとほとんど気付かないと言うか、伏線はあくまで素材で、実際の現場でのトラブルでその素材が奇跡的に活かされる、という連続なんですね。シナリオの雑さもホラーチャンネルの特別企画ものということで納得、と言うかその雑さが絶妙なバランスです。

それ以前にドラマ自体も面白くて、若手有名役者の神谷による自信過剰な上から目線や、さりげなく自分に都合よく持っていこうとする女優の逢花の「よろしくでーす」とか、適当すぎるプロデューサーの「それで行きましょう」とか、出演者は問題あるやつばかりだし上層部は丸投げだしで、監督の日暮が泣きたくなるのもわかります。そんな日暮の苦悩をよそに暴走する娘の真央や、元女優の妻である晴美がどう関わってくるのか、というくだりも上手い。あと大阪のおばちゃんの癖の強さとか、「メールしましたよね?」を重ねてくる音響役のウザさとか、もう面白くてしょうがない。

そして始まる撮影で、次々と襲いくるトラブル、それをカバーすべき涙ぐましい努力、実態を知って見たときの予想外の真相など、それまでの伏線を元にした怒濤の展開に爆笑が止まりません。主演女優と俳優への思いをアドリブでぶつける日暮。カメラマン役が酒飲みであることが招く悲劇(AD役が臭い臭い言ってて笑う)。本当に腹の弱かった音響役が「ちょっと」しか言えない理由(あんな凄まじいメイクシーンは見たことない)。何度も聞こえるポン抜けの真相。一度落ちたカメラが動き出してからの映像の変化(ダサカッコいいズームインアウト!)。ミラジョボなみにゾンビを蹴り倒すまさかのホラーヒロインっぷりの晴美が監督まで蹴り倒すワケ。他にも違和感を感じていたシーン、たとえば怪我がないことを確かめ合うもたつきや、三人が一点を見ての静止、小屋にやってきた謎のゾンビの足、「こんなところに斧が。ツイてるわ」という棒読みすぎる会話、斧で頭割られてるのに復活したりといったシーンにも、全て理由があったわけです。

言われた通りに作る、不自然でも上や主演俳優の考えならしょうがない。そう思って自身の考えを抑えながら下請け状態を続けてきた日暮が、次々と直面するトラブルにそれでも「カメラを止めるな!」と叫ぶ。作ろうと決めたものを何としてでも作り上げようとするその姿勢はプロとしてのプライドであり、適当なプロデューサーやナメた俳優たちに対する怒りであり、土壇場で抑えられなくなった本来の創作への情熱でしょう。それは本物を求める娘の真央が見せた諦めない心でもあります。そんな現場とサブでの熱意が、いつしか周囲に「感染」していく、というのがゾンビものであるということにも繋がっており、ラストシーンを撮るために全員の力が必要だというのがこれ以上ない帰結。そしてその情熱がリアルタイムのワンカットという設定だからこそ引き出されたというのも織り込まれてるんですね。エンドロールで流れる本当のワンカット撮影のメイキングでさらにメタな視点が重なり、何重ものレイヤーで見せる構造が創作というものへの情熱を見せてくれる。素晴らしい、そして文句なしに面白いです!

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