2018
06.30

直して走って超えて行く。『OVER DRIVE』感想。

OVER_DRIVE
2018年 日本 / 監督:羽住英一郎

あらすじ
怖いと思った瞬間負けなんだよ!



ラリーチームに属するメカニックの兄・檜山篤洋と、天才ドライバーの弟・檜山直純の兄弟。しかし直純は篤洋の助言を無視して無謀なレース展開をし、二人は衝突してばかり。直純のマネジメント担当としてやってきた遠藤ひかるは檜山兄弟に翻弄されるが、やがて二人の過去を知ることになる……。公道自動車レース「ラリー」を舞台にしたレーシング娯楽作。

ラリーというのはよく知らなかったんですが、世界各国を舞台に公道を封鎖してタイムアタックを行う自動車レースなんですね。そんなラリーの世界で、いがみ合うメカニックの兄とレーサーの弟が、秘めた過去を引きずりながらもレースに挑んでいく、という話。『ラッシュ プライドと友情』のようなサーキットでのレースとは異なり一台ずつ時間差で走るので、抜きつ抜かれつのデッドヒートみたいな醍醐味はないんですが、様々な地形を駆け抜けるラリーシーンの迫力は見せ方の工夫や音響の良さもあってかなりのもの。天候による悪路の走りやトラブル時のピットでの対応もスリリング。物語のほうは、最初こそ設定もキャラもステレオタイプで「なんか薄いなあ」などと思って観てたんですが、これが後半になると畳み掛けるように熱量が増加していくので、驚くほどやられます。いやこんなん泣きますよ。予想よりはるかに面白い。

兄の篤洋役は『デスノート Light up the NEW world』東出昌大、ひたすら真面目にマシンを速くしようとする姿勢と裏腹に、どこか陰のある雰囲気が出ています。弟の直純役は『ちはやふる -結び-』新田真剣佑。いかにも唯我独尊な天才ドライバーという高慢さを見せますが、それ以上に度を越した筋肉アピールがスゴいんですよ。『パシフィック・リム アップライジング』で目立てなかった分を取り返すほどのマッチョぶり。鍛えたから脱いでるのか脱ぐために鍛えたのか、とにかく脱ぎます。後背筋がスゴい。好感度の低い直純のエージェントひかる役に『リバーズ・エッジ』森川葵、好感度の高い直純のライバル新海役に『勝手にふるえてろ』北村匠海。ほかひかるの上司に『謎解きはディナーのあとで』要潤、チームの監督都築役に『帝一の國』吉田鋼太郎などが出演。

キャラ設定にはちょっと不満は感じるし、雑な点も多々もありますが、ワケあり兄弟の関係、ラリーに賭ける人々の情熱、仕事に対する誇りなど、最後のラリーに入る前あたりからの激熱展開に押しきられちゃいます。ラリーをよく知らなくても何となくわかるのでそこは大丈夫だし、何よりレースシーンは見応え十分。ちなみに新田マッスル真剣佑の筋肉推しがあまりにインパクト強くて、観た日の夜は夢に真剣佑が出て来て半裸で延々と筋肉アピールされました。もう『ちはやふる』の新をまともに観れないよ……

↓以下、ネタバレ含む。








キャラ設定にはちょっとムラがある気がします。篤洋の寡黙さや貫禄みたいなのはまあ良いんですが、直純は前半はあまりにトンがりすぎてて、途中から少し取っつきやすくなってもいまいち応援する気になれないのが痛い。ライバルの新海があまりにストイックな好青年なのでなおさらなんですよ。徹夜でマシンを直したスピカのチームに微笑んじゃうとか、どんだけ好感度上げるんだ。要潤の演じる上司はラリー担当を丸投げというのが酷いんですが、どういう意図でひかるをラリーに送ったのかよくわからないし(嫌がらせにしか見えない)、吉田鋼太郎の演じる社長は三つのSの品のなさ(スリルはSじゃない、には笑うけど)とアイス食わせるくらいで監督なのになんもしてないし。

でも直純の描写なんかはまだマシで、問題はエージェントのひかるの立ち位置が上手くないことです。何も知らないラリーの世界に放り込まれたというなら、もう少し観客に寄り添ってラリーのことを共に知っていく、みたいな役割にしてもいいと思うんですが、こんな仕事いやだーゴルフ担当に戻りたいーみたいなのばかりで非常にウザい、と言うか散漫になっちゃうんですね。本当はデザイナーやりたかったというチームメンバーが「皆が悔しがるのがうらやましい」と言うのを”ラリーのなかで”示すのが十分良いので、サラリーマンのお仕事ドラマ的な視点はバッサリ切った方がノイズが減ってスッキリしたんじゃないですかね。タメ口なのがまた印象悪いし。女性客が等身大で共感できる、みたいなのを狙ったんでしょうか。森川葵の「何もなくなっちゃいました」と言うときの表情は良かったりするので、これは脚本の問題ですね。

雑なところは、例えば直純が邪険にしてたひかるにひなのことを話しちゃうというのは、酔ってたにしても不自然。それだけ溢れる思いだったということなんでしょうが。レースシーンはドリフトのカッコよさやクラッシュシーンの肝が冷える感じなどは迫力だし、世界を転戦することで舞台が変わり、まるで違うレースに映るような工夫はとてもイイんですが、テレビ実況的な見せ方やアナウンスと解説のやり取りはさすがに繰り返してる感じがちょっとしちゃいますかね。でも後半から変わってきて、直純の痛々しいと言われる走りや「ひなを殺したのは俺だ」の謎、「やっぱり俺は嘘つきだ」の自虐などの理由が明かされ、なぜ篤洋との間に壁があるのかが語られる辺りからドラマがグッと締まってきます。

ゴミ捨て場になってしまった思い出の砂浜、そこにある割れたミラーごしに映る直純には彼のひび割れた心まで見えてきます。そして「直せねえものは直せねえんだよ」と言ってしまった篤洋の口惜しさとどこかで兄を信じていた直純とのすれ違い。しかし直純の思いを知った篤洋はある決断をくだし、ここぞというところで直純の聞きたかった「すぐに直してやるから」を言ったり、直純が篤洋を「アイツ」とか「あんた」とか呼んでたのもいつの間にか「アニキ」になっていたりと、いやもう熱い!さらに徹夜で水没したマシンを直すメカニックたちが激熱!そして今は亡きひなの手紙にたった一行しかなかった直純への言葉「世界一になってね」がひなとの約束になり、再び直純は走り出すのです。

あと篤洋がターボチャージャーを搭載しようとするのを「未完成のパーツを投入して慣らすのがラリーでしょう」と受け入れるあの助手席の人が超カッコいい。明言されませんが、かつては自分もドライバーだったみたいなことを言うことからも、スピカが7年前に優勝を目前にしてクラッシュし、レース生命を断たれたというドライバーこそがあの人なんでしょう。そんなチームメイトの理解と協力で迎えるラストレース、特に勝利に至るロジックもなくてあっさり勝っちゃってる気もしますが、そこに至るまでの熱量でもう十分やられちゃってるのでOKじゃないですかね。

そう言えば本作では「手」に関する描写が多く見られます。「この手があればまたやれる」と自分の手を見る篤洋、自身の手を見てエンジンかける直純。そして少年時代の篤洋と直純が冒頭で見せたグータッチが、マシンの修理後に再び成される。直純がスピカを離れたあとのラストでもそれは行われます。それぞれが己の手で事を成しつつ、手を取り合ってという近すぎる距離ではなく拳を合わせるという距離感で、でもしっかり繋がっている。そんな話でした。

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