2018
06.12

犬も歩けば棒にアタリ。『犬ヶ島』感想。

Isle_of_Dogs
Isle of Dogs / 2018年 アメリカ / 監督:ウェス・アンダーソン

あらすじ
メガ盛り40円!



近未来の日本。犬インフルエンザが流行したメガ崎市では、市長の決定により犬たちがゴミ処理場の島「犬ヶ島」に隔離される。市長の養子である12歳の少年、小林アタリは愛犬スポッツを捜し出すため1人小型飛行機で犬ヶ島へ来るが墜落。島のリーダー犬チーフらと出会うが……。ウェス・アンダーソン監督によるストップモーション・アニメ。

『グランド・ブダペスト・ホテル』のウェス・アンダーソンによる日本を舞台にしたドラマであり、『ファンタスティック Mr.FOX』に続くストップモーション・アニメ。犬インフルエンザの蔓延により離島に隔離された犬たちと、そこへ愛犬を探しにやってきた少年アタリ。言葉は通じないながら愛犬を共に探すためアタリと旅に出る犬たちは、やがて犬に対する市長の陰謀と対峙することに、という冒険活劇です。一番の特徴は日本を大フィーチャーしていること。『KUBO クボ 二本の弦の秘密』も日本を舞台にしたストップモーション・アニメですが、どちらもハリウッド的へんてこ日本描写は薄く、非常に真摯に日本を描いています。違いとしては本作は現代と言うかちょっと未来であるということ、そしてここまで日本を描きながらそれでも溢れ出すウェス・アンダーソンの独創性です。これがとにかく凄い。そして素敵。

ポップでキッチュな色使いやシンメトリーな構図、平行移動するカメラといったおなじみの手法に加え、今作で凄いのはそのイマジネーションです。ありそうであまりない絵面、細部に至るまで作り込まれた恐ろしいほどのこだわり、そして序盤から炸裂する圧倒的な情報量。それらが一気呵成に画面を彩り、咀嚼しきれないほどの密度に覆われます。人形たちは可愛いと言うのとは少し異なる独特の造形で、若干カクカクした動きを残しての演技が味になっています。台詞回しもいちいち良くて、かつ台詞も字幕も日本語と英語が入り混じっているのが面白くて、これは日本人(と日本語のわかる者)だけが享受できる嬉しい特権です。4年の歳月をかけて作り上げただけあり、独特の美術なども秀逸。

声優陣もやたら豪華で、『スポットライト 世紀のスクープ』のリーヴ・シュレイバー、『GODZILLA ゴジラ』のブライアン・クランストン、『ゴーストバスターズ』のビル・マーレイ、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のエドワード・ノートン、『マイティ・ソー バトルロイヤル』のジェフ・ゴールドブラム、『ドクター・ストレンジ』のティルダ・スウィントン、『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』のスカーレット・ヨハンソン、日本からも村上虹郎、夏木マリ、渡辺謙など多彩。『ファンタスティック Mr.FOX』はそこまでハマらなかったのに今回は意外なほど良かったです。近未来でありながらレトロでディストピアな世界観と意表を突く展開。最初から最後まで面白かったです。

↓以下、ネタバレ含む。








凄まじいスピード感と画面のレイヤーの深さには圧倒されます。それらは展開が早いというよりは情報量が多くて脳の処理が追い付かないがゆえの速さと深さであり、例えば犬の毛並みの動きを人形で再現しててスゴいなあなどと思ってるうちに会話がどんどん進んでたり、場所や人物の説明キャプションにはいちいち日本語も付くので両方に目が行っちゃったり、画面の奥の方に映るものが妙に気になってそちらに注意がいっちゃったりなど、複数の言語と細かいショットの連なりが畳み掛けてくるんですね。ストーリー自体はそこまで複雑でもないのに枝葉が凄いので、あっさりしてそうで非常に濃いです。あと唐突に流れる回想シーンとか、犬側と人間側のシーンの切り替えなども頻繁にあり、2Dのアニメパートまであって、その都度舞台の背景がガラリと変わったりするので多少の混乱はあるかも。でもそんな翻弄される感じもかえって心地いいんですよ。

そして過剰なまでの日本リスペクト。和太鼓を叩き鳴らすオープニングやエンディング、本筋と関係ない相撲の取組シーン、『七人の侍』の曲がある効果音としてそのまま使われたり、いきなり俳句が詠まれたり、ラーメンが「メガ盛り40円」だったりなど、日本の文化それ自体をポップアイコンのように導入しまくる映像が面白い。毒わさび寿司を作るのを延々と映すシーンなんて狂気すら感じます。オノ・ヨーコまで登場するのかスゴいな!あと腎臓移植する医者の声はすぐ渡辺謙だと気付きましたが、ハイいいよーって軽ーい感じで話す手術シーンがむしろリアルだけど愉快。また、近未来というかレトロフューチャーな美術が多いのでどこか懐かしさもあったり、ちょっとしたシーンのアングルに唸ったり、細かい遊び心が楽しかったりします。ドタバタ暴れるときのアニメみたいなシーンとかちょっと笑っちゃいますね。

アタリは義理の父である市長に逆らってまで一人飛行機を操り犬ヶ島まで愛犬スポッツを探しに来るわけですが、両親を事故で亡くして以来守ってきてくれたスポッツへの愛情の方が父の権力などより重要という、真っ当な思いで行動しています(墜落時に頭に部品が刺さったせいでちょっとおかしくなってる可能性もありますが)。それでもまだ12歳の少年であり、探索の途中でジェットコースターの階段登っちゃうような子供っぽさもあります。そんなアタリと行動を共にするうちに、野良犬だからとやさぐれていたチーフも次第に心を開いていく、そんなバディものとしての魅力もありますね。初めて体を洗われるという経験をしたチーフの、今まで得ることのなかった幸福感が見られるのが微笑ましい。リーダー犬たちの若干マヌケなやり取りや、予言者オラクルの予言が単にテレビ見た結果であるといった描写は愉快だし、一方でスポッツを救った犬がリーダーを解放するため食ったと泣きながら語る姿はせつないです。

犬たちは若干の擬人化によってより親しみやすくなっています。意外と会話が中心なので台詞のやり取りにより関係性が描かれたり、でもやっぱり犬だなーとかいうのもあって面白い。その棒切れを投げるな、には笑うし、犬たちがゴンドラに乗ってひたすら流されていくのもカワイイ。スカヨハなんて犬になってもエロいですからね。一方で飼い主との別れや過酷な環境での仲間の喪失といった悲しみを背負っていることも語られます。ちょっと驚いたのは、犬が涙を流すというシーン。実写では無理だし2Dアニメでは響きにくい、パペットだからできる表現じゃないですかね。そういった描き方によって犬に心があること、互いに助け合うということを強く感じさせます。だからその犬を直接攻撃するのが心のないロボット犬だというのも納得(ちょっと『キングスマン:ゴールデン・サークル』を思い出す)。そこにアタリという言葉の通じない部外者がやってきたことで、犬たちは前へ進むことになるんですね。アタリの着ているのが宇宙服っぽいのも外部からやってきた感があります。

また人間たちにも間違いに気付き是正しようとする者が現れてくるんですが、これもまた日本人ではなく留学生のトレイシーという部外者です。見た目がスケバンっぽかったりアタリを神格化しすぎなのは可笑しいですが、彼女はズバリと間違いを指摘し亡くなった科学者の意思を継ごうとします。そうして部外者がその世界に入り込み、自らがその一部となって、より楽しく幸せな未来を示そうとするわけです。なんかウェス・アンダーソンが日本を描くのもそういうことなのかなと思えるんですよ。だから市長がラストに翻意するという展開は、犬にも人間に対しても優しい視点によるのだろうと思うのです。

黒犬と呼ばれてたチーフが洗ったら真っ白になるのに驚きますが、それも垣根を取り払うことで本当の自分を見つけるということに繋がるのでしょう。実は兄弟犬だったスポッツから継承するインカム、これが言葉の通じない人間と犬が会話できるものである、という共存を表すものであるのも象徴的。そして異種間の絆を取り戻すだけでなく、父から腎臓をもらい生き延びるアタリ、縁がないと思っていた家族を持つチーフ、英雄から一匹の父犬に戻るスポッツ、という家族を取り戻す話でもあるわけです。

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