FC2ブログ
2018
06.07

ハイエナは狼を隠し、犬は狼と成る。『孤狼の血』感想。

korou_no_chi
2018年 日本 / 監督:白石和彌

あらすじ
豚と真珠。



広島の呉原で、暴力団の加古村組に関わる金融会社社員が失踪する事件が発生。所轄署に配属された新人刑事の日岡秀一はベテラン刑事の大上章吾と組んで捜査にあたるが、暴力団の尾谷組との癒着を噂される大上のやり方に疑問を覚える。やがて組同士の抗争も激化していき……。柚月裕子の同名小説を映画化したバイオレンス・ドラマ。監督は『凶悪』の白石和彌。

ときは暴力団対策法成立直前の昭和63年。広島の架空の都市である呉原を舞台に、地元勢力の尾谷組と広島の巨大組織・五十子会系の加古村組との抗争に、ある失踪事件を契機に関わっていく二人の刑事の話です。時代背景からしてかつての東映ヤクザ映画を思わせ、殺るか殺られるかの緊張感、組織間の駆け引きのスリル、そこに否応なく放り込まれる刑事たちのドラマが描かれます。これがもう強烈な映画的快楽。クズでゲスなベテランと理想を追う若者という二人の刑事の、ヤクザ抗争のなかで見せる生き様が熱苦しくてうすら寒くて、でも目が離せません。飛び散る血、滴る汗、軋む肉。ストレートにエグく、容赦なくバイオレントで、それでもエモーショナルな人間ドラマ。ガツンとやられます。

ベテランのマル暴刑事、大上役を『渇き。』『三度目の殺人』の役所広司、新人刑事の日岡役を『湯を沸かすほどの熱い愛』の松坂桃李。この役所広司の圧の強さと、松坂桃李の揺らぎと変化、両者共にスゴく良いんですよ。他のキャストもバラエティ豊かで、尾谷組若頭の一之瀬役に江口洋介、加古村組若頭の野崎役に竹野内豊といったヤクザものとしては珍しいキャスティングから、右翼の瀧井役ピエール瀧、五十子組長の石橋蓮司らいかにも『アウトレイジ』な面子まで揃ってます。里佳子役の真木よう子、桃子役の阿部純子といった女性陣も色々とスゴい。『アウトレイジ』シリーズなどに比べると、キャストの顔面力と言うよりは佇まいで見せる印象ですかね。その点ではチョイ役の新聞記者役である中村獅童が一番悪そうに見えるのがちょっと笑えます。

小物からフィルムの質感にまで及ぶ昭和63年のディテールは没入度を高め、ここぞという長回しが臨場感を高めます。正義などどこにもないような世界で問われるのは、正義とは何か、そのための覚悟とはどういったものかということ。思いもよらない展開にヒヤヒヤしつつも素晴らしい高揚感。面白い!

↓以下、ネタバレ含む。








昭和63年という時代の再現度は相当なもの。冒頭の東映ロゴからして昔っぽいし、全編に渡って使われる広島弁やザラついたフィルム的な質感、二又一成のナレーションなどによって東映の実録ヤクザものの雰囲気抜群。ポケベルや缶ビールのプルトップなどの小物までこだわってて時代考証も半端ないです。ケータイもないから話があるなら固定電話、あるいは都度会いに行かなければならない。これにより場所の制約や対面の強要が成されます。一方で瀧井の奥さんに散弾銃向けられて二人揃って手を上げるといった笑えるシーンもあります。どこか雑多で緩くて、でも暑苦しさや息苦しさもあるという舞台が整っており、それによって変な緊張感が持続するんですね。そこにエグいシーンをキッチリ映すバイオレンス。序盤からして豚の糞だし、指を切ったり真珠出したり腐乱死体を掘り出したり、挙げ句に石橋蓮司の生首まで見せる。そこまで見せる必要ない気もしますが、それだけ暴力が場を支配する話でもあるわけです。

そんななかで前半は役所広司の演じる大上がとにかくグイグイきます。取り調べの女性に何かしてもらっちゃうという(ドア出てからベルト閉めるといういかにもな見せ方も込みでの)破天荒さに始まり、日岡をたきつけて散々殴らせてからの脅迫めいた聞き込み、尾谷組との明らかにズブズブな蜜月っぷりとやりたい放題。陰で暗躍するという感じではなく半ば公然とやってる姿は、堂々と腐肉にたかるハイエナのよう……と最初は思わせられます。だから振り回される日岡の方に肩入れして観てしまうんですが、日岡目線になることがかえって先の読めないスリルに繋がっていきます。それでいて里佳子や瀧井、尾谷組長らの信頼はやけに厚く、無茶苦茶なやり口ながら事を納めていく手腕に、己の正義感とは裏腹に大上を認め始める日岡。そんな日岡とリンクしていくような作りになっているのが上手いです。

特に印象的なのは、里佳子と縁日を歩く日岡が、大上と里佳子の関係の真相を知る長回しシーン。法で解決できない悲劇を自らが背負い込む大上には(代わりに里佳子を利用して情報を集めたりはするものの)日岡が思いもしなかった正義の形があります。そしてもうひとつ、終盤の大上と日岡がクラブで向かい合っての固定カメラの長回し、遠目に蠢くキャバ嬢と客の光景をバックに「刑事として凄いと思ってる、でもこのままでは」と訴える日岡の正直な気持ち。既に綱の上に立ってしまった大上が、それでも突き進む理由。それもまた、いかんともしがたい現実に対する一つの正義の形であり、これが二人が会う最後のときでもあるという苦さもあって胸に迫ります。設定的に似ている『トレーニング デイ』とは全く非なる関係なわけですね。他にも耐えきれなくなった日岡が桃子を激しく抱くシーンとかも熱量があってイイ(阿部純子はエロ可愛くて最高)。他のヤクザ者や刑事たちもそれぞれクセがあって印象深く、中村倫也は『あさひなぐ』なんかとは全然違って尖りまくってたり、養豚場の若いのを憎々しく演じる『HiGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY』の岩永ジョージや、気持ち悪さが度を越している監察官の滝藤賢一とか凄いです。

そして最も凄いのが覚醒した日岡でしょう。公安の犬として記していた密告ノートに見つけた大上の赤入れ、そして最初で最後の大上のホメ言葉にヨダレを垂らして泣きじゃくり、養豚場で目だけが異様に光る無表情で殴り続ける狂気。松坂桃李はまた一歩高みに上る熱演です。しかし大上とは違う一斉検挙という大勝負に出る日岡。そこには大上の真似ではない日岡なりの正義を感じさせます。そして大上の残した上層部の弱味をあえて晒すことで自由を得て、大上とは違うやり方で場をコントロールしていくのです。それでいて大上の意思が日岡に息づいていることは墓参りで見せるバッタもんのジッポにも見てとれるんですね。大上の無茶な行動や存在の証として使われた小道具が、最後に受け継がれた孤狼の血を表す見事さ。そして「吸っとったよ」と桃子に笑うヒゲ面となった日岡は、大上が時折見せたいたずらっぽい笑顔のヒゲ面を思い起こさせるのです。

スポンサーサイト
トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1389-bdb32cb0
トラックバック
back-to-top