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2018
05.24

無垢なる白は復讐の赤に染まる。『ミスミソウ』感想。

misumisou
2018年 日本 / 監督:内藤瑛亮

あらすじ
春になったら。



東京から田舎に引っ越してきた中学生の野咲春花は、学校で陰惨ないじめを受ける。エスカレートしていくいじめはやがて春花の家族にまで及ぶ凄惨な事態に。そして大切な者を失った春花による壮絶な復讐が始まる……。押切蓮介の同名コミックを実写化したサスペンス・ドラマ。

いじめに端を発する中学生女子の復讐譚です。転校先の中学で酷いいじめにあう野咲春花。級友の相場晄が味方になってくれるものの、それが余計いじめる側の感情を逆撫で、ついには家に火をつけられ家族まで失うことに。そして少女は復讐者となり首謀者たちへの制裁を実行していくことになるんですが……いやこれはスゴい。いじめシーンの胸糞悪さは覚悟はしてたものの凄惨で、それだけに復讐劇が熱いわけですが、でも単にいじめた奴らをブチ殺して終わり、とかじゃあないんですよ。これがサイコサスペンスであり、ミステリーであり、ラブストーリーであり、青春映画でもあるという、予想外の展開に驚かされる実に多層的な作り。『バトル・ロワイアル』を思い出しました。「アレ?」と引っかかったところがそのまま衝撃に繋がっていくのも面白いです。

主演の春花役で本作が初主演となる山田杏奈がとても良いです。可愛らしいだけに、無機質な目でリベンジに臨む姿がインパクト大。そんな春花をいじめるグループのリーダー格、小黒妙子役の大谷凜香は、冷たい視線と金髪での佇まいがクール。もう一人のいじめられ役、佐山流美役の大塚れなが見せる壊れっぷりも凄まじい。みんな細かい表情や目の演技がイイんですよ。また相場晄役は『ちはやふる』でのドSの須藤先輩こと清水尋也。まさかの中学生役ではありますが、優しい姿を見せてくれるのが新鮮。他の生徒たちもそれぞれ個性があってなかなかのアンサンブル。

季節は冬、雪に閉ざされた片田舎の閉塞感がより生徒たちの心を押し込めるなか、血にまみれた怒濤の惨劇が展開します。徹底した赤と白のコントラストも実に印象深く、物語を彩る潔さとやるせなさで観る者の心を鷲掴み。滲み出る田舎町の狂気。まだ遠い春。相当エグいシーンもあるのに、それでも詩的で美しい。素晴らしかったです。

↓以下、ネタバレ含む。








■惨劇の幕開け

子供が見せるその場のノリと残虐さ、中学生ならではの加減がわからない感じがどんどん増幅していく様子、というのが地獄です。いじめシーンは本当に嫌な気分になりますが、それが親にまで及ぶというのは初めて見ました。しかも最後は火をつけて両親と妹まで焼き殺すとか壮絶。やらかした罪の大きさにビビる姿もリアルだったりして描写が上手いです。ドン底まで叩き落とされた春花は葬儀以降しばらく出番がなく、その間に他の面子の背景が描かれるんですが、ある者は父親にDVを受け、ある者は甘えていた母親を拒絶し、ある者は「こんな田舎にいたらおかしくなる」と言いながらエアガンでカラスを撃ち殺しと、みんな既にもうおかしくなってるのに自覚がないんですね。また、いじめていた側にフォーカスして少し近しく感じさせておいてから復讐劇が始まるので、春花の殺しがただ数を減らすのではなく「命を奪っているのだ」という印象を強くします。単なるスプラッターになってないのがイイ。

再び現れた春花の完全に感情が死んだ顔、そして容赦ない殺りっぷり。男子1人を叩き落として見殺しにし、釘で目ェとか指スパーンとかで一気に女子3人を葬り、そして待ち伏せていたボウガン君とデブ君も返り討ち。例え女子中学生でも本気で殺りにきてる者には勝てない、というのをまざまざと見せつけます。春花のコートから傘まで全てが赤なのは、そのまま血を欲することの表れのようでもあり、殺すことだけに特化した情熱のようでもあります(ついでに返り血も目立たない)。しかし前半で6人も殺してしまうので後半大丈夫なのかとちょっと心配になるんですが、ここからはまた違う趣の衝撃を食らうことになるんですね。


■壊れる者、悔いる者、目覚める者

最初にアレ?と思うのは、春花のことを「死んでほしい」と言い、直後に「ブッ殺す」とまで言う流美の尋常じゃない目付き。春花が来るまでは流美がいじめの標的だったのでしょう、春花に「来てくれないと困る」と言うのは自己保身のためであり、要するに「身代わりができた」ということです。それが度を越して春花に対する憎しみにまで発展してしまう。逆恨みもいいところですが、髪を切られながらヘラヘラ笑う姿は流美がとっくに壊れていることを示していて背筋が凍ります。彼女がそれでも妙子ではなく春花に敵対するのは、終盤「カッコいい妙ちゃんが好きだった」と言うように妙子への好意からです。しかし妙子のクールな美しさしか見ていなかった偶像崇拝的な流美の好意は、妙子の本心を自分への裏切りと捉えてしまい、殺意へと豹変します。

流美の「妙ちゃんまさか……」という台詞にもアレ?となるのですが、ラスボスかと思っていた妙子の本心にはまさかという感じです。春花への想いが嫉妬へと変わった末のいじめ。思えば妙子が直接春花に危害を加えたり他の子に命令したりというシーンはなかったような気がしますが、周囲が妙子の気持ちを汲んでたということですかね。だから突然の百合展開には面喰らいながらも妙に納得してしまいます。揺れるカーテンにくるまりながら仲良く笑い合う二人の姿はあまりに美しくピュアで、それだけに二人の関係が壊れてしまったことが喪失感としてのしかかってくるのです。バス停での春花への謝罪から、妙子が抱えていたのは復讐者への恐怖ではなく後悔だったとわかるのもやるせない。妙子の服装は春花の赤と対のような白一色であり、それがまるで血に染まることを覚悟しているかのようにも思えます。そう言えば百合だけでなく、デブ君がボウガン君を好きというまさかのBL展開まであるのにはさすがにブッ飛びました。

それ以上にブッ飛ぶのが相場です。春花をかばおうとする優しさや中学生にして写真を趣味とするスマートさなど、春花が惹かれるのもわかろうというものですが、祖母に向かって「春花と東京で一緒に住む」と言うところでアレ?そんなこと言った?となるんですね。そうして生き残りが流美と妙子だけになっちゃって話が続くのかという不安はまさかの形で払拭されます。本作は何かしらの理由でおかしくなった奴ばかり出てきますが、相場だけはそんなバックグラウンドは語られず、と言うより過去の事実までが薄ら寒く、ナチュラルにサイコパスなんですよ。流美だけでもヤバいのに最後に思わぬ大物覚醒という驚き、そしてバケモノにはバケモノをぶつけるんだと言わんばかりの流美vs相場の大流血デスマッチにエキサイトです。相場の本性が明らかになったとき、清水尋也のキャスティングも腑に落ちました。


■春遠からじ

もう一つアレ?と思うところが、担任の南先生が「妙ちゃんは友達」と言うところですね。子供だけじゃない、大人もまたおかしくなってしまっているという衝撃。いじめが及ぼす影響は時の経過でさえ癒せないという闇の深さを表してもいます。除雪車から赤い雪が吹き出すのは雪国ならではの表現で、思わず新鮮だなーなんて思ってしまいましたが、全体的に残虐シーンは若干大げさにしてる感はありますかね。ボウガン君ははらわた出しすぎだし、ラストもビュービューと血糊多すぎだし。ここぞというスローの使いどころも一歩間違えば失笑になりかねません。でもこれがギャグっぽい感じはなくて、それはやはりそれだけの血を流す理由が彼らにあるからです。復讐のためとはいえ殺しまくる春花も例外ではありません。雪が消えたら花が咲くと言われたミスミソウがまだ雪の残るなか花を咲かせたのは、相場が「野崎と同じだ」と言うように最後の一花を咲かせる春花と重ねるためでしょう。野に咲く春の花のそばで、野咲春花もまた血に染まっていくのです。

そして誰もいなくなった、と思ったら生きていた妙ちゃん。原作は未読ですが、この辺りは原作と異なるようです。美容師を目指す彼女の手には傷が残り(美容師志望というのが一人だけ金髪であることの理由付けにもなってるのかな)、彼女の横には誰も座っていない椅子が連なります。妙子はこれからこの惨劇の記憶と失われた命の重さを背負って生きていくのでしょう。好きの裏返しが招いた取り返しのつかない喪失。しかし春花は妙子に「胸を張って生きて」と言いました。それはかつての愛する友人への祝福であり、妙子の罪悪感を鑑みれば呪いでもあるでしょう。それでもラストが卒業式である、というのが開けた未来を表していて一抹の希望を感じさせるものにもなっており、青春映画としてもしっかり成り立っているんですね。春花のCDを聴く妙子、その曲による締めくくりの余韻。とても良かったです。

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