2018
05.18

解放のリリック、共鳴のステージ。『パティ・ケイク$』感想。

Patti_Cakes
Patti Cake$ / 2017年 アメリカ / 監督:ジェレミー・ジャスパー

あらすじ
「パティ・ケイクス」と読みます。



飲んだくれの母と車椅子の祖母との3人で暮らす女性パティは、ラップ歌手として成功することを夢見ていたが、金も仕事もなくつらい日々。しかしある日の道端でのフリースタイルラップバトルをきっかけに夢に向かって挑戦することに。やがてオーディションに出場するチャンスがやってくるが……という青春音楽ストーリー。

ニュージャージーで暮らす23歳のパティは、金はなく、厄介な家族を抱え、その太め体型からダンボと呼ばれるドン底人生。そんな彼女の夢は、憧れのラップ歌手O-Zのように音楽で成功すること。陽気な友人ジェロミオと共にラップスターとなるべくラップバトルを繰り広げたりします。ステージネームはキラーP!というわけで『ストレイト・アウタ・コンプトン』のようなラップ音楽映画ではありますが、特徴的なのは一人の女性の家族と友情、そして愛についてが描かれるということ。孤独なアーティストであるバスタードとの出会い、自由すぎる母との確執、思いがけないチャンス。これらがときにせつなさを、ときに愛しさを伴って展開していきます。彼女の怒りと痛みのライムは、ヒップホップ門外漢でも十分に響きます。

監督のジェレミー・ジャスパーは本作が長編デビュー作だそうで、監督・脚本・音楽まで手掛けてるとのこと。パティ役のダニエル・マクドナルドが女性であり太ましさもあるというのを越えて、キメるときはビシッとキメるのがシビれます。ラップは本作のために猛特訓したそうですが十分な貫禄。またパティの母親バーブ役であるブリジット・エバレットの妖艶と言うか、人生まだまだこれからみたいなバイタリティとか、祖母ナナ役である『レイジング・ブル』キャシー・モリアーティの斜に構えた存在感なども印象的。ジェロミオ役シッダルタ・ダナンジェイのソウルメイトっぷり、バスタード役ママドゥ・アティエのシャイなサタニスト姿なども良いです。

娘にたかる飲んだくれ母、それでも母を憎みきれないパティの複雑な心情が活かされる展開が上手い。意外なコラボを見せる車椅子の祖母や、常にパティの才能を褒めるジェロミオ、見た目とのギャップが微笑ましいバスタードとのドラマにもじんわり。そして圧巻のステージにエキサイトします。

↓以下、ネタバレ含む。








パティの一日は鏡に向かって「あたしの人生は最高」と言い聞かせることから始まります。姿勢はポジティブですが、これは自らへの暗示でもある、それくらいパティの日常は明るさとは遠いところにいます。母親は朝になっても起きず部屋を覗けば男が一緒に寝てるし、自分をスターだといってくれる祖母は自由には動けない車椅子の身。道を歩けばダンボと呼ばれ、仕事は場末のバーテン、客は場末のおっさんたち。そんなパティが唯一心を開けるのがヒップホップミュージックであり、友人のジェロミオと過ごすご機嫌な時間。ジェロミオはいつか天下を獲るぜーくらいの景気のイイ話をしながら、常に明るくパティの才能を褒めるんですね。職場のアナウンスを私物化して「a.k.a.キラーPーー!」と煽る。どんだけa.k.a.多いんだとは思いますがそこに乗っかるパティも楽しそうで、この二人の恋人同士とは違う信頼感ある関係性がとても素敵。途中でパティがステージから逃げ出したことで仲違いしますが、素直に謝るパティに結局は許すジェロミオ、というのも暖かいです。

書き留めたリリックを祖母に披露したりライブハウスに行ったりしながら、いつか自分もステージに立つことを夢見るパティ、その運命が大きく動くのは、一人孤独に前衛的なメタルでのステージをやるバスタードとの出会いです。彼の家に続くトンネルを潜るときの、何かがこの先に待っているという期待と不安。そして彼の曲の音数やテンポを調整してパティのラップを即興で乗せるときのワクワク感、たまたま一緒にいた祖母までいつの間にかメンバーに入れて「PBNJ」の名前をリフレインさせ、完成した曲を流したときの高揚感。アンサンブルが一気に関係を近付けてくれるという音楽の持つ力を感じさせて痛快です。また路上でやっていたフリースタイルバトルでのディスで相手を逆上させる=勝利するというのがパティの才能開花の瞬間でありながら、ディスった相手が密かに憧れていた男性だというせつなさもあったりします。

パティのリリックは女性視点なのでちょっと変わってて面白いですね。『ハンガーゲーム』の主人公カットニスが歌詞に出てきて、戦う女性と自分を重ねたりします。字幕だけだと韻を踏んでいるのがわかりづらいんですが、英語の歌詞も聴いてるとライムが耳に心地よいですよ。そんなパティですが音楽活動はすんなり上手くはいかず、レコーディングではやったことのないマリファナに手を出してメタクソになってしまいます。仕事で行ったパーティー会場が憧れのラップスターO-Zの自宅という幸運に、思いきってラップを披露しPBNJのCDを渡すシーンの緊張感はスゴいんですが、しかしこれがけんもほろろ。また母の分まで働いてるのに母親は新しい彼氏とバンド演奏に興じてるのもストレスに。母が昔歌手をしていて、パティを身ごもったために歌手としての夢を諦めたということがわかるのもやるせないです。

でも音楽への情熱は、くっついたり離れたりするパティと母の揺るぎない共通点でもあるんですね。そして見た目ではなく魂で惹かれ合うバスタードとの関係の変化によりパティの孤独は癒され、本当の自分というものに素直に向き直ることになります。そうしてオーディションのステージに登場するPBNJ。初代メンバーである祖母ナナはもういませんが、それでもグループ名は変えません。そして彼女が名乗るのは「キラーP」ではなく「パティ・ケイクス」。それらは偽者と言われた自分への決別と、大切にするべき者への対峙でしょう。バスタードの言う偽の神に惑わされるのをやめたパティの言葉は、もはや怒りと痛みだけではない、己を解放するライムです。そして会場に来た母との予想外のコラボレーション。母の苦い栄光だった曲「愛のムチ」は、新たな親子の絆へと変わるのです。ラストは「現実はそんなに甘くない」なわけですが、晴れやかなパティと仲間たちの姿に、悪くない未来を予感させてくれます。

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