2018
05.16

お父さんは超兵器。『いぬやしき』感想。

inuyasiki
2018年 日本 / 監督:佐藤信介

あらすじ
バン!



会社からも家族からも疎まれているサラリーマンの犬屋敷壱郎は、医者から末期がんの宣告を受けて公園で途方に暮れていたが、そこに突然現れた謎の光に包まれて目が覚めると機械の体に生まれ変わっており、人間を超越した力を手に入れていた。一方同じ場所にたまたまいた高校生の獅子神皓も犬屋敷と同じ力を手にし、その力を行使していた……。奥浩哉の同名コミックを実写化したSFアクション。

『GANTZ』の奥浩哉による同名コミックを、実写版『GANTZ』に続き佐藤信介監督で実写映画化した本作。家族からは疎まれ会社でも蔑まれる老年サラリーマン犬屋敷が不慮の宇宙的事故にあい、その結果とんでもないスペックを秘めた機械化された体となって生まれ変わります。同時に事故にあった母親と二人暮らしの高校生、獅子神もまた同じ状況に。要はある日突然超人的な力を手に入れたらどうなるかというヒーローものの一種と言えますが、いや面白い!特にアクションはパワフル&スピーディーで相当なクオリティ。ガチャガチャ言いながら腕がレーザー砲みたいになったり背中から飛行ユニットが出て来たりと、若干盛りすぎのギミックも心地よく、飛んだり戦ったりと魅せまくり。一方で家族との関係性や世間との関わりというのがクローズアップされ、初老の冴えない男とはみ出してしまった高校生という二人の、不可避な邂逅へと展開していきます。原作コミックは1巻しか読んでないので比較はできないんですが、無理なく詰め込んでる感じがして見やすいです。

犬屋敷役は木梨憲武。意外と言えば意外なキャスティングで、原作ではもっとヨボヨボした感じではありますが、老境に差し掛かり余命宣告まで受けた悲しい男が、完全想定外の力に翻弄されながらも何をすべきか探っていく姿は思いのほかハマってます。そして何と言っても獅子神役の佐藤健。仕上がった体を披露しつつ、死んだような目と冷徹な態度で『るろうに剣心』『亜人』に劣らぬアクションをかましてくれます。ほか、獅子神の母役に『三度目の殺人』斉藤由貴、友人の直行役に『鋼の錬金術師』本郷奏多、獅子神を気遣うクラスメイトのしおん役に『リバーズ・エッジ』二階堂ふみ、刑事役で『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』伊勢谷友介らが出演。犬屋敷麻理役の三吉彩花もなかなか良いです。

大いなる力を手に入れたら救うのか、壊すのか、という究極の二択。ネットの向こうさえ敵じゃない強さには興奮し、よく知る新宿を舞台に戦うのにもアガります。機械化爺さんという熱さとシュールさの同居する絵面も結構独特。本来なら犬屋敷さんの方が年も近いしツラさもわかるんですが、なぜか肩入れしたくなるのは獅子神だったなあ。個人的にはこれはヒーローものと言うよりヴィラン誕生譚として響きました。

↓以下、ネタバレ含む。








犬屋敷壱郎58歳は家でも会社でも居場所がない、おまけに余命3ヶ月。ツラい。引っ越したばかりの新居で昼飯を一人で食う寂しい背中にタイトル。ツラい!カツアゲ現場に遭遇して逃げ出そうとしたところを娘に見られてさらに株を落とすという悪循環もツラい。原作ではここは息子だったりしますが、本作では多くを娘との関係にフォーカスしていてそれがクライマックスでも活きるようになってます。それにしても息子に万札渡したら娘に真実を突き付けられるシーンなどは地獄ですよ。この犬屋敷さん、演じる木梨憲武とはキャラが全く違うのがかえってハマってる、というのはあるんですが、家族を引っ張る力や発言力のなさ、会社で何度も同じことで叱られたりする仕事のできなさがあまりに酷くて、同情はしても共感はしにくい(というか共感するとツライ)です。家族の問題も解決できない、というのが犬屋敷の枷になって大それたことをすることを抑止してるとも言えるでしょう。一方で野良犬を飼おうとする心の優しさや、発揮はできないものの心の奥に持つ本来の正義感などが、力を使って病気の人々を救ったり獅子神を止めようとしたりする動機として納得できるようになっています。

対する高校生の獅子神は自身の力に順応し使いこなしていきますが、心に抱えた闇をやがて押さえきれなくなっていきます。最初こそ母親への過剰ながら深い愛情や、極端ながら友人の直行を守ろうとする姿を見せますが、父親が出ていったことが獅子神の歪みに影響を与えていたのでしょう、父とそれを奪った者への代用のように調布一家惨殺を行います。獅子神は最初自分のことを「ヒーロー」と言っているんですよね。それが「神になった」と言うに至り、力への責任ではなく選ばれし者の特権を抱くことになります。なぜ一家殺害が警察にバレたのか?というのがよくわからなかったんですが(描写あった?)、そのために追い詰められた母親は自殺。母親のガンを治したことで獅子神も救う力があることは気付いたのに、直後に母を失うことで完全に歯止めが効かなくなります。愛する者を奪った世界への復讐。ヴィラン誕生の理由としてこれはたまらんわけですよ!

しかも凄まじい強さ。いや単に火力や腕力だけじゃなく、ネットの書き込みさえ遡って殺せる、というのが素晴らしい。大体映画でネットやらラインやらが出てくると勝手なこと喋っててイラつくじゃないですか。それを(理屈はよくわかりませんが)PCやスマホ画面通して撃てる、というのが痛快。さらには新宿で日本に宣戦布告するのにはシビれまくり。だってねえ、獅子神を理解しようとしてくれたしおんちゃんを婆さんごと警察が殺害するに至っては、どうしたって獅子神の方に肩入れしてしまいますよ。二階堂ふみそれで終わりかい!とか、もう少し獅子神がしおんの死を嘆くとさらにヴィランの悲哀が増したかな、という気もしますが、もう日本滅ぼしてもいいよくらい思っちゃいましたね。しおんと夜の空を飛ぶのが『スーパーマン』を思わせるのも狙ってるんじゃないだろうか。某ワイドショーの奴を意識してる(としか思えない)生瀬勝久が公共の電波でくたばるのも最高。正直サイコなんですけどあまりそう感じない描き方になってる気がします。ただ獅子神の父親が序盤以降出てこないのはちょっとモヤりますかね。

とは言えヴィランを倒すためにヒーローが現れるのもやはり捨てがたい、というわけで犬屋敷さんとの戦い、とにかく大空をバックにしたバトルが気持ちいいです。ミサイル攻撃は飛び出すし、ビルはガンガン破壊されるし、新宿飛行シーンは個人的に見慣れた景色がバンバン出てきてアガるアガる(新宿ピカデリーの裏道だ!とか喜んでました)。ギミックの出方がやたら複雑なのは必要性としては薄いと思いますが『アイアンマン』的なケレン味がありますね。アイアンマンと異なるのは全身が機械であるということで、本人もショックなのにそれを娘に見られちゃった犬屋敷の悲しみ、それでも救いにくるという親の愛というのもあります。しかしながらブッ飛ばしたと思ったら復活して逆転する獅子神の方に思わずエキサイトしてしまうというね。最後に宇宙まで行って塩分トラップで倒されるところも、いぬやしき勝利!というより獅子神の散り様が見事!みたいに思ってしまったので相当偏って観てました。まあヴィランが魅力的であるのはよいことです。

「お父さんは何も守れない」と娘に言われ、獅子神にも同じ事を言われた犬屋敷。しかし最後には今までできなかった「守る」ということを遂行します。力を手に入れたらどうするか、守るか壊すかという二択を、年齢も性格も違いながら共に守るべき家族がいる二人に背負わせ、異なる選択の結果を見せる。この構造を端的に、かつアクションたっぷりで見せる出来に感心します。家や会社での扱いが変わったわけではなくとも、味噌汁をなかなか飲めない父とその父をちょっと見直した目で見る娘、という少しだけ好転した日常がむしろ心地よい終わり方です。そして生きていた獅子神の行方に思いを馳せてしまいます。

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