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2018
05.01

溢れる想いと広げた羽。『リズと青い鳥』感想。

liz_to_aoitori
2018年 日本 / 監督:山田尚子

あらすじ
青空を映した湖のように。



北宇治高校吹奏楽部のオーボエ担当・鎧塚みぞれと、フルート担当・傘木希美。3年生となり最後のコンクールを控えた二人は、コンクールの自由曲「リズと青い鳥」でのオーボエとフルートの掛け合いとなるソロパートを演奏することになったが、親友同士でありながらなぜかうまくかみ合わず……。吹奏楽を通して描く、京都アニメーション制作の青春物語。

吹奏楽にかける青春を描く武田綾乃の小説『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』を原作とした長編アニメ。テレビアニメ版『響け!ユーフォニアム』第2期に登場した鎧塚みぞれと傘木希美の二人が主人公として登場します。『聲の形』『たまこラブストーリー』で若者の心情を巧みに映し出した山田尚子監督、吉田玲子脚本ということで期待して観ましたが、これが期待を遥かに越える出来。テレビアニメ版は全くの未見なのでその辺りのリンクや目配せはわかりませんが(そもそも本来の主人公も知らないんですけど……)、お話は特に問題なく観れました。

あまり感情を表に出さず口数も少ないみぞれと、朗らかで周囲からも好かれる希美。性格は正反対ながら、登下校も一緒で共に吹奏楽部のエースでもある仲良し二人組、のはずが、コンクールで演奏する曲がどうにも合わない。そんなところから二人の思いや進路の話にまで及んでいきます。いやこれ、アニメーションで描く人の表情や動き、心の機微の極致だと言えるんじゃないでしょうか。吹奏楽を通して描く「好き」という想いといつの間にかすれ違う現実が、せつなくて愛しくて苦しくて儚くて、あまりの繊細さに息が止まりそう。ごく狭いなかで綴られる二人の少女の物語が、絵本の世界を通して拡がり収束する。素晴らしいです。

吹奏楽での各楽器の演奏シーンも細かい動作や息使いといった描写がリアルでとても良いんですが、それ以外の音の使い方、リズムの取り方、テンポの変え方も秀逸。二人の瑞々しい世界、そしてすれ違う愛の形に、心地よさと苦しさと眩しさを同時に味わう不思議な感触に酔います。女生徒同士の関係を描いていますが、何と言うか、「百合」という言葉に閉じ込めたくないという気持ちになります。

↓以下、ネタバレ含む。








音楽に重なるように響く足音は少しずつズレてまた重なり、希美のポニーテールがリズムに合わせて左右に揺れ、歩く方向を変えるときにキュッと鳴る床の音がフィルインとなる。音に溢れたこの登校シーンだけで、まだ楽器も出てきてないのに音楽青春ドラマであるということを認識させる、という演出に驚きます。さらに希美の後を歩くみぞれに予感する依存であるとか、キーアイテムでもある青い羽が希美からみぞれに渡されたりとか、冒頭の「リズと青い鳥」の一節と合わせて物語の方向性が示されているんですね。また演出面で効果的だなと思ったのは、舞台を学校内だけに絞っていることです。夏紀や優子らと祭りに行こうと言ったり、後輩の梨々花もプールに連れていきたいと話したりしますが、そこで舞台を拡げたりせずあくまで学内にとどめることで、周囲との関係による影響を映しながらもより二人の話へとクローズアップされていきます。

他の生徒たちの描写も、出過ぎてないにも関わらずしっかり二人への理解を深めるようになっています。何かと誘ってくる後輩の梨々花たちにより、無愛想なみぞれが意外と慕われているというか一目置かれているというのがわかったり、元々慕われている希美がときに後輩たちに合わせているのが見られたりします。夏紀は察したような表情を見せ、都度その場を取り繕い、口に出さずにいられない優子により、希美がかつてみぞれに何も言わずに辞めたことが突き付けられるのです。「ハッピーアイスクリーム」や「大好きのハグ」などのコミュニケーションとしてのお遊びを、みぞれがやることで希美への思いを表したりもしています。それらが女子高生たちの何気ない日常に重ねられているのが上手いんですね。あ、朝食メニュー聞かれて「フレンチトースト」には一緒に「おおー」って言いそうになります。

「リズと青い鳥」は絵本や小説としての物語が映され、それを曲として演奏することで情景と感情が反映されます。リズと少女は容易にみぞれと希美に重なり、本人たちもそれを自覚していますが、最初はみぞれがリズでのぞみが青い鳥かと思うわけです。しかし親友であるはずの二人の掛け合いが合わないのはなぜか。終盤の第三楽章の演奏シーンで語られるのは、圧倒的なオーボエで大空に解き放たれるみぞれと、戸惑いのフルートでそれを見上げるしかできない希美です。瞳は揺れ、視界はブレて、息使いは掠れる。そして演奏後に二人それぞれが実は逆だと、希美がリズでみぞれが少女だと同時に気付くカットバックは実にスリリング。希美は心のどこかで後ろめたさを抱えているがためにみぞれが去るのではないかと怯え、みぞれは希美への想いが自らの枷であることを知るのです。どちらがリズでどちらが少女か、その辺りの揺らぎがリズと少女の声を本田望結が二役を演じる、という意味でもあるのでしょう。

希美が一度辞めたのは先輩と衝突したかららしいですが、理由はどうあれみぞれはその傷に耐えていたのでしょう。しょっちゅう髪を触る姿にその不安が感じられます。そしてみぞれとの差を見せつけられた希美は「ずるいよ」という言葉でようやく本心を吐露し、音楽学校への進学を辞めることを告げます。「リズと青い鳥」の結末のように、愛しているからこそ束縛したくないというリズと、愛する人が決めた別れを受け入れるしかない少女に重なる二人。でもみぞれは拭い去れない過去の傷を、全力で想いをぶつけることで乗り越えようとするのです。鬼気迫る勢いで必死に繋ぎ止めようとするみぞれがせつなく、みぞれのオーボエが好きだと返すのが精いっぱいの希美もまたせつないです。

本作が高校生の女子としてリアルかと言われればファンタジック寄りではあるでしょう。でも人を想う気持ちの複雑さ、深さ、強さといったものを映し出す繊細な描写は、決して絵空事ではない物語としての強度を感じさせて素晴らしい。そして結末はおとぎ話と同じである必要はないのです。学校のなかだけで語られていた二人の物語は、最後の帰り道で学校の外へと移ります。それは停滞していた時を経て少し前進した二人の姿です。希美が「みぞれの演奏を完璧に受け止められるようになる」と言うのは、飛び立ったみぞれがいつでも戻ってこれるような存在でいるという、みぞれへのアンサーでもあるのでしょう。そしてラストの振り返ったのぞみに驚くみぞれの顔は、希美の方からみぞれを覗き込んだことへの驚きなんでしょうね。それはようやく二人の視点が同じになったということであり、希美が言っていた「ハッピーエンドがいい」ということの実践でもあるのです。

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