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2018
04.17

甘い罠は国家の謀略。『レッド・スパロー』感想。

Red_Sparrow
Red Sparrow / 2017年 アメリカ / 監督:フランシス・ローレンス

あらすじ
スパロー=スズメ。



ロシアでバレリーナのプリマだったドミニカ・エゴロワは怪我でバレエの道を断たれ、叔父が所属するロシア政府の諜報機関で女スパイ「スパロー」となる訓練を受けることに。過酷な訓練をこなしたドミニカは機密情報を探るCIA捜査官ネイトに近づくというミッションを与えられ、騙し合いを繰り広げていくが……。ジェニファー・ローレンス主演のスパイ・サスペンス。

対象を誘惑し秘密を探る「スパロー」と呼ばれるロシアの女スパイを描く、元CIA局員というジェイソン・マシューズによる同名小説の映画化。不幸な事故によりバレリーナ生命を断たれたジェニファー・ローレンス演じるドミニカが、想像を絶する訓練を経てスパイ活動に身を投じていきます。スパイものといっても『アトミック・ブロンド』『悪女 AKUJO』のようなスパイ・アクションではなく『裏切りのサーカス』のようなリアルなスパイ話で、陥れたり裏切ったり真実はどっちだという展開がヘヴィかつスリル。体と心で相手を掌握することを徹底して叩き込む訓練所シーンのおぞましさにゲンナリし、駆け引きや咄嗟の機転、騙しの応酬のシビアさにヒヤヒヤします。監督のフランシス・ローレンスが同じくジェニファーと組んだ『ハンガー・ゲーム』シリーズ同様のどこか薄暗くて重い画造りもあり、心理的圧迫系映画です。

何と言ってもジェニファー・ローレンスの哀しさとタフさとエロさが圧倒的。大胆な脱ぎっぷりもさることながら、感情が高ぶっているところと抑えるところ、高ぶってるのに抑えようとするところの演じわけが凄くて、これが心理戦をよりスリリングにします。CIA捜査官のネイト役は『ウォーリアー』『ザ・ギフト』のジョエル・エドガートン。そんな派手なことはしないんだけど優秀なのはわかるというさじ加減が絶妙。むしろ普通っぽさがあって、それがこの重めな話ではちょっと救いです。また姪っ子を非道な道に引きずり込むドミニカの叔父役マティアル・スーナールツがプーチン激似でおそロシア(でもベルギーの人らしい)。コルチノイ将軍役の『ジャスティス・リーグ』ジェレミー・アイアンズもシブい。バレエ絡みか『オリエント急行殺人事件』のバレエダンサー、セルゲイ・ポルーニンも出てます。

国家のためと称して、全てを犠牲にされ利用されるドミニカの終わらない地獄に打ちのめされつつ、高度な騙しあい探りあいのサスペンスで引っ張ります。ロシアの描き方が正しいのかは疑問だし、半端にロシア語を喋るくらいなら全部英語でいいのにというのもありますが、「ハニートラップ」という言葉が軽く感じられるほどの凄惨さや、執拗な拷問シーンのエグさも相まって、やけに真実味があるのは確か。そうして油断ならない展開にやられます。あと「お前が見せるんかい」という不意のポロリにもやられます。

↓以下、ネタバレ含む。








冒頭でドミニカとネイトの日常が交互に映されてこの先二人が深く関わることが示唆されるものの、ドミニカはバレエで人々を魅了する表の世界の住人です。それがスパイとなるいきさつが、足を折られてバレエができなくなり国の保護も受けられなくなったから、というのが痛々しい。全く望んでいない道に半ば強制的に飛び込まされ、華やかな世界から一転弱者の立場に落とされるのです。そこから成り上がっていくわけですが、貧困が選択肢を奪うという社会的な問題も含んでいると言えそう。バレエまで踊るジェニファー・ローレンスの器用さには驚きですが、そんなゴージャスさに加えて色っぽいドレス姿やナイスバディを披露する水着姿など様々な衣装も見せてくれて、底辺と優雅を同時に体現できる存在感はさすがです。

入所した第4訓練所はほぼハニートラップの専門機関みたいなところで、相手を体で満足させ心も誘惑するというのが目的。体は祖国のもの、プライドは邪魔、と徹底して人権を無視して相手を取り込むすべを叩き込みます。人前で裸になるのは当たり前、皆の前でヤられそうになったり、海外にいた兵士を慰めるという実践授業のうえにその手順を皆で批評したりする。ドミニカいわく「娼婦養成所」であり、長々と前半いっぱい続く逃げ場のない性的搾取には絶望的な気分になります。「倒錯者を満足させろ」と言われてできなかった女性が次の日消えていたというのも怖い。でもおそらくそれが狙いで、自由も貞節もプライドも全て奪われながら全ては「国家のため」で済まされる、そんな国主導の狂気が国家の優位性を保つという幻想をまずは描くんですね。それが幻想であるというのは後のドミニカの行動や意外なモグラ(裏切者)の登場でも明らかだし、ネイトは「我々は使い捨てにはしない」と叫び、結果的には個を尊重するアメリカに優位な結末になるということでも示されます。それにしても裸で水に打たれたり枕越しに思いきり殴られたり、極めつけは肌を剥ぐというえげつない拷問シーン、同僚のマルタの凄惨な死に様などは、R15+なのでまだマシな方かとは思いますが結構遠慮なくくるのでのけぞりますね。

それでもドミニカは生き残るためにその才能を開花させていきます。自分の怪我が実は自分を追い落とそうとするライバルの故意だと知ってボコボコにする気の強さ、言われたままではない手段でレイプ野郎に対峙し「彼の欲望は力だ」と見抜く鋭さ、監察官に「何一つ従ってない」と言われながらも課題をクリアする頭のよさを見せていくのです。しかしこの優秀さゆえに、尾行時点で気付かれたネイトに目的を明かした上で寝返ろうとするのが本心なのか油断させる作戦なのかが微妙にわからないんですね。拷問を受けながらもまだ任務を続けようとするし、でもネイトには心を開いたかのように見えるし、スワン(情報提供者)の女性を死なせてしまうのが何かの策なんじゃないか、でも母に無言電話するのは別れを意味するのではないか、などと惑わされます。

終盤、コルチノイ将軍が病院に現れたときは「ここどこだったっけ?」と戸惑いますが、そのモグラの正体にまず驚き(と言うかモグラのことをすっかり忘れてました)。将軍は「祖国が監獄だと気付いた」と自らを差し出して後進に託そうとするわけですが、そこでドミニカがとった行動にさらに驚かされます。ネイトの家からグラスを持ち出すのには「アレ?」とは思ったんですが(それもすっかり忘れてた)、彼女がこんな状態でも復讐を目論んでいたということが凄いわけです。一人部屋で音楽を聴く将軍が浮かべるのは覚悟の笑みだったのか、あるいはこれを予期してのことなのか。それはともかく、ドミニカは自国に留まることを選択し、惹かれ合っていたネイトとも共には生きられない道に進みます。底辺から頂点へ。しかしそこに高揚感はなく、さらに地獄が続いていくようにしか思えないというのが、スパイという生き方のリアルな側面にも見えてくるのです。

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