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2018
04.13

妖艶な蝶と意外な灯火。『去年の冬、きみと別れ』感想。

kyonen_no_huyu
2018年 日本 / 監督:瀧本智行

あらすじ
君に覚悟はあるの?



出版社に売り込みに来たルポライターの耶雲恭介。彼が追うのは盲目の女性の不可解な焼死事件と容疑者である写真家の木原坂雄大についてだった。結婚を控えているのもあって結果を出そうとする耶雲だったが、事件を追ううちにいつしか真相の抱える闇にはまっていく……。中村文則の同名小説を実写映画化したサスペンス・ミステリー。

撮影中の事故とされた女性の焼死事件を追うライターの恭介が、記事を書くため容疑者の雄大に密着取材するうちに、いつの間にか自分の婚約者まで巻き込まれる事態に発展していく、というサスペンスです。著名な写真家である雄大は本当に犯人ではないのか、という点に焦点を当てて進むのですが、どうも途中から何か不自然さを感じるようになってきます。雄大の姉である朱里の異常なまでの弟への愛情、恭介の相手をすることになる出版社の小林の疑念、恭介の婚約者である百合子が見せる不可解な行動。そんな周囲の人々がやがて繋がっていくうちに、思いもかけない絵が浮かび上がってきます。正直色々危うい点はあるし、ミステリ好きなら予想が付くところはありますが、それでも凝った構成と予想を越える意外性が面白い。照明が印象的で不穏さを煽る映像も良いです。

熱血イケメンライター耶雲恭介役は『HiGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY』のコブラこと岩田剛典、恭介の婚約者である百合子役に『少女』『貞子vs伽椰子』の山本美月。結婚を控え一見幸せそうな二人に影響を与える、事件の容疑者である木原坂雄大役は『SCOOP!』『リアル鬼ごっこ』の斎藤工、気持ち悪さが絶品です。雄大の姉、木原坂朱里役は浅見れいな、彼女が見せる怪しげな色気は一体何なのか。また編集者の小林良樹役を演じる北村一輝の表現力がとても良くて、部外者であるはずの小林が一体何を見ることになるのかもポイントになってきます。

ネタばれになっちゃうので何も言えないんですが、そこ何かおかしくない?というところはちゃんと後で回収されるので、ロジック的には破綻がないようになっているのが結構好印象。ちょっと設定諸々が辻褄合わせのためにあるかのように感じるところもなくはないですが、映像の良さと役者の演技もあってなかなかのものです。

↓以下、ネタバレ含む。








始まってしばらくすると「第2章」と表示されて「あれ?第1章って出たっけ?」と一瞬混乱するんですが、そういう不自然さは大小織り混ぜて随所にあって、それが伏線だったり構成の妙だったりします。第2章から始まるのは語られてない始まりがあったことを示し、そこで恭介の真の姿が描かれるわけですね。他にも、なぜ恭介がそこまで雄大にこだわるのか、有名になるためという動機では弱いのではないか、と思ったらこれも理由がああるし、耶雲恭介というポッと出のライターがなぜそこまで文章力に長けているかというのは翻訳で文章を書いていたからだし、恭介が翻訳していたことや亜希子の目が見えないのも物語的には意味があります。取材が全て事前にしたものだったと明かされて、では小林に会ってからは何をしていたのかと言えばもう一つの本の方を書いていたんでしょうかね。小林が朱美と関係があったというのも偶然にしては出来すぎと思うんですがこれは逆で、関係があったから恭介は小林に近付いたわけです。真実によって不自然さがカバーされていくわけですが、意外性がどんどん重なっていくということでもあるので、何が芝居で何が真実なのか理解しながら観る必要はありますね。でもそれまで事実と思っていたことがひっくり返っていくのは面白い。小林が渡された本の内容が、それまで書いていたのと全然違うというのには驚きました。

ただ引っ掛かる点も色々あるんですよ。特に朱里が恭介に自ら真実を話してしまうというのは、いくら変な薬を盛ってるからとか、恋人を殺した女を抱いたという罪悪感を狙ったのだとしても少々不可解。とは言えこれも小林が「朱里は一度スイッチが入るととことんまで壊れる」というのが理由となっているし、木原坂姉弟が虐待により人格形成に影響を受けたというのがその根本にはあるわけです。意外性のためだけに付けたような設定ではあるんですが(ここら辺は原作準拠なのかな?)、でもその辺りもちゃんと映像で語って見せるので悪くないです。恭介の恋人がケガをしたとか去年別れたとか言われて、百合子とは付き合って長いと言ってたので不思議に思うんですが、百合子の存在も恭介の計画としてあるわけですね。家にいるときに恭介が百合子にそっけない態度をとるのは、仕事に集中しているからと見せかけて実は恋人でも何でもなかったからなわけで、ここの伏線は見事。まあね、たまたまネットで見つけた女が山本美月というのには奇跡か!って思うんですけど。

そんなロジカルな脚本の出来に加え、役者陣の演技とさりげなく行き届いた演出も良いですよ。雄大は芸術家的な奇人っぷりというのを越えてヤバい感じがするし、恭介が終盤ヒゲと無造作な髪型になるのがまるで雄大のようで危うさが増します。クールでカッコいいと思ったら最後の無様さとのギャップにやられる小林の北村一輝がスゴくイイ。また、赤い部屋の不穏さとか、ほぼ廃墟の部屋に射し込む西日の退廃感とか、単なる顔面アップの多用ではなくそこに汗が滲んでいるのが焦りを語っていたりもします。汗といえば小林が登場時にシャツの背中が汗で濡れている、みたいに季節感が妙に強調されるんですが、季節が異なることで違う時系列であることがわかりやすくなってます。メインの季節は夏だし、恭介が彼女と別れたのは梅雨の時期、第1章に当たるのは春なのでしょう。で、最後になって「化け物になる」と決めた冬の風景が出てきて、そこでようやく誰がいつ誰とどう別れたのかというタイトルの意味がわかるわけです。

燃えてる死体が別人だろうというのは連絡が取れない者がいる時点で予想できるし、「観た人全員ダマされる」というのは少々誇大表現だとは思いますが、とは言え実際ダマされたところもあるので上手くできてると思います。「二人のYKに捧ぐ、そしてAYへ」という告発と哀悼、最後に百合子に告げる「だから、生きろ」に込められた思い、そんな復讐を遂げた恭介がラストに見せる抜け殻なような空しさ。それら全てが「愛ゆえ」のドラマでもある、というのが余韻となって残ります。

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