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2018
04.10

一瞬を久遠に残せ。『ちはやふる -結び-』感想。

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2018年 日本 / 監督:小泉徳宏

あらすじ
さらば、スノー丸!



瑞沢高校競技かるた部の綾瀬千早がクイーン若宮詩暢と戦った全国大会から2年。三年生になった千早や太一は念願の新入部員も得て高校最後の全国大会を目指し、二人の幼なじみである新もまた藤沢東高校でかるた部を創設、全国大会に向けて動き出した。しかし瑞沢かるた部では思いがけない事態が……。末次由紀の同名コミックを広瀬すず主演で実写化したシリーズ最終章。

『ちはやふる -上の句-』『ちはやふる -下の句-』の二作連続公開から早二年、キャストやスタッフも同じとなる続編にして完結編の登場です。劇中でも同じく二年が経過し、ようやく新入生の部員が増えて7人となった瑞沢高校かるた部。三年生で受験を控えながらも最後の全国大会に燃える綾瀬千早と、受験とかるたの両立を図る真島太一、そして団体戦で千早たちと戦いたいとかるた部を作る綿谷新。その三人を軸に、かなちゃん、肉まんくん、机くんらお馴染みの面々に新キャラも増えて物語が紡がれていきます。前二作は2016年の年間ベスト1位にしたほど好きなので、本作が蛇足にならないかという若干の懸念もあったんですが、そんなハードルを軽々越えてしまうほどの素晴らしい出来!

かるたシーンに施された工夫の数々や意表を突く長回しなどのダイナミズムには興奮し、普通なら野暮ったく感じるような淡い光の映像やスロー、無音の多用や「みずさわ!」の掛け声を五人で画面分割なども、本作に関してはこれ以上なくハマっています。またシーンの反復で語る心情、台詞の反復による気付きなどが効果的。この重ねたり繰り返したりは前2作をも取り込んでいて、それにより本作単体での良さだけでなく前2作をも昇華させる見事さ。脚本の完成度にはひたすら唸り、音楽は聴くだけで泣けます。あと音の使い方と編集もとてもイイ。いや本当にもう戸惑うくらい見所しかないです。

ハマりまくったキャスティングも最高です。瑞沢かるた部は綾瀬千早役の『三度目の殺人』広瀬すず、真島太一役の『帝一の國』野村周平を始め、大江奏役の上白石萌音、西田優征役の矢本悠馬、駒野勉役の森永悠希が再び集結。そこに新入生、花野菫役の優希美青、筑波秋博役の佐野勇人が新たに加わります。國村隼、松田美由紀も続投。また他校のライバルとして今度は競い合うことになる綿谷新役の『チア☆ダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話』新田真剣佑に加え、映画オリジナルのキャラである準クイーン我妻伊織役として『3月のライオン』のひなちゃんこと清原果耶。もちろんクイーン若宮詩暢役の『勝手にふるえてろ』松岡茉優も再び魅せてくれますが、今作ではさらに史上最強の名人、周防久志役として『斉木楠雄のΨ難』の賀来賢人も登場、みごとな佇まいを見せながら深く関わってきます。

前2作で好きになった瑞沢かるた部の面々がますます好きになるし、最初から最後まで面白いうえに観終わった瞬間また観たくなるし、ほぼ全編泣きそうになりっぱなし。その良さを語ろうとするとそれだけで泣きそうになるほどですよ。Perfumeによる主題歌『無限未来』も当然良い!眩しくてせつなくて熱くて愛しい、千年先まで残したい極上青春物語です。

↓以下、ネタバレ含む。








■重ねて連なるシーン

冒頭、詩暢に札を渡す千早のショットは前作で戦った者同士ということもあって実に印象的なんですが、同時に千早が詩暢のクイーン戦の相手ではないこと、そこにいるのが我妻佳代であることを示します。さらに後ろには周防名人がいて原田先生と対戦しており、そこに釘付けの新、場を眺める太一、会場の様子をモニタで見る肉まんくん、机くん、かなちゃんもいる。新入生以外の主要人物を一気に登場させながら、解説者による最低限の説明で状況をわからせます。この序盤だけでも唸るんですが、以降もとにかく絵になるシーンが多く、それでいてその映像で各人の心情を語るのがとても心地よいしシビれます。北央戦などは顧問来場以降のワンカット長回しによる臨場感が凄まじく、太一欠場に精彩を欠いていた千早がたすきをもらって「こんなところで終われない」と吹っ切り、北央の札合わせを食らって万事休すでも素振りをする肉まんくんと筑波に燃え、ダメだったと思いきやまさかの同点、と何度も山場を見せての盛り上げ方が熱いです。

また、似たシーンを重ねたり台詞を引用したりすることで多重的になっていくのもたまりません。序盤で部活を途中で抜けた太一のシャーペンの芯が折れるのを、かるたを辞めたあとは何度も折れ終いには根元から折れるところに太一の不本意さが表れて、自習室を去るときに電気が消えていく寂しさが際立ちます。瑞沢の練習風景に太一と周防の練習が重なり、そこに福井東の練習やランニングも重なっていくのなんてもう『ロッキー』のようですよ。また顧問が話す「人生はドアノブのないドアだ」がノブのない扉の屋上で再会した千早と太一という、まさかの『上の句』へ繋がるというのも驚き。さらには終盤の「しのぶれど」「恋すてふ」の札での対峙を、千年前の歌合わせにまで重ねて見せるという、時空まで越えた反復で雄大な歴史の流れまで取り込むという凄まじさ。

かるたシーンではかるたを取る手にカメラをつけたり、取れる札が光ったり、何枚もの札が宙を舞ったり札がカメラを横切ったりと『上の句』に負けない様々な工夫。また新入生への説明シーンによって競技かるたのルールを観客にもわからせながら、筑波の強さに一気にスイッチが入って芝居を台無しにする千早、という笑いにも繋げて見せます。音響の細やかさも秀逸で、周囲のざわめきの言葉で同点であるなどの状況をわからせたり、畳にぱたぱたと落ちる千早や太一の涙の音が胸に響いたり。また、わりとサッとシーンが切り替わるテンポの良さを出しながら、猫や青空や京王線などのカットによって余韻を持たせるところは持たせるという編集も良いですね。


■仲間、ライバル、師匠

続投メンバーは前作までである程度エピソードが語られているにも関わらず、さらなる深みや2年経っての変化も見てとれます。すみれの後悔に歌を引用して慰めるという、優しさがもはや菩薩レベルのかなちゃん。調子いいだけでなく凛々しさも備わり、威勢のよさで千早や太一の分もチームに勢いを与える肉まんくん。以前のような弱さはもはやなく、自分が試合に出れなくてもチームが勝つために策を練る、それがむしろ参謀として頼もしい机くん。もうなんなのこいつら、好き!ってなっちゃいますよ。かなちゃんなんて、千早の「後悔してない?」に返す言葉が「宝物」ですよ。泣きますよ。北央戦での肉まんくんの安定感も良いし、千早をなだめるとき眉毛が両方同じ方向に下がる机くんとかもね、いやそこは泣くポイントではないですが。北央と言えばこれも再登場が嬉しいドSの須藤先輩と、その声なきプレッシャーに声が裏返るヒョロくんも最高です。

瑞沢新メンバーの後輩二人、最初こそ小生意気なものの、筑波が初の団体戦でのミスを小声ですんませんしたって謝まったり、恋心ゆえの策略が太一を去らせることになったすみれもいつの間にか嫌がっていた爪を切っていたり、しっかり馴染んでいく流れが自然です。特に筑波は「リスク承知で経験を積ませようとしてる」とよくわかっているところが優秀。また机くんが負けた直後の「追い付きました」で一瞬戸惑いながらの「逆転します!」、これで皆が勢いを取り戻し、何より机くんが救われるんですね。彼の著しい成長には泣けます。すみれは「横わけ」とか「ぶたまん」とか暴言がすぎますが(笑うけど)、「普通の人は引く」という競技かるたに対して初心者目線で観客に寄り添いながら、かなちゃんや机くんの位置をも継いでいると言えるでしょう。この二人は原作では千早たちの一つ下ですが、2年の時間経過に合わせた改変として上手くハマっています。

そして『下の句』で松岡茉優の名を記憶に刻むことになったクイーン若宮詩暢、かるたシーンが少ないのは残念ですが、展開上やむを得ないしスノー丸ライブじゃしょうがない。つーかスノー丸のライブって何するんだろうか。きぐるみショーと違うんだろうか……?相変わらず私服がダサかったり雷鳴鳴り響くなかの登場には笑いますが、解説はわりとちゃんとしてますね。「お子さまのご視聴はお控えいただいた方が」とか「凄惨ないじめになる」とか「勝つ気ないんか」とか辛辣にもほどがあるし(素敵)、美しくも背筋が凍る壮絶な笑顔で威嚇してきますが、そこにシビれる!若干コメディリリーフ感はあるものの、終盤の札合わせをうっすら涙さえ浮かべて見入る表情は最高です。あと千早にタオル投げつけた直後にもう姿がないって忍びか。

強烈なキャラクターと言えば新登場の周防名人、かるたに関しては度を越えた超人ですが、声ちっさ!とか、財布開くと金がないとか、八ツ橋の食べ比べとか、フフッざまあとか、意外と笑えるところもあるのが愉快。それでいて泰然とした雰囲気もあり、実は目が見えにくいという秘密が影を落としたりもします。演じる賀来賢人は予想を遥かに越えて良くて、特に太一に向かって「キツかったよね、かるたを好きな人に囲まれて」と言う言葉にほんの少し混じる優しい響き、ここに太一と通じるものがあると微妙に匂わせるのが上手いです。決して同じではないんだけど、「こんなかるたがあるのか」と思い知る太一と、迷いがあることをどこか羨むような周防との師弟コンビも良かったです。


■千早の青春

千早は志望進路がクイーンというくらいひたすら真っ直ぐなわけですが、最後に自ら言うように、人から与えられ、人に与える者、つまり継承する者でもあります。幼い頃に新にかるたを教わり、原田先生から教えを受け、かるた部を作って仲間たちと楽しさを共有し、北央から攻略ノートを受け取ったりと与えられてきた千早。そんな彼女が、後輩たちに「今度は私が与える番」としてその魂を渡せるようになるんですね。自分の気持ちに従って突っ走ってきた千早にとって、与えられることに気付いたことは確かな成長と言えるでしょう。精神的成長はかるたの取り方まで進化させ、クイーンのようななめらかさを持つスタイルまで手に入れます。そして大会運営を手伝う先輩が「こういうのは巡っていくものだから」と言うのがやがてくるものを予感させ、会場で破れた他校の生徒に言葉をかける顧問たちの姿を見て、最後に指導者として戻ってくるというラストに繋がっていく。卒業の年を迎えてどういう道を選ぶのか、というのもしっかり納得できるように描かれています。

でも与えられてばかりではなく今作では失うことも経験しているというのも、千早の成長に影響しているのでしょう。一人きりの部室、写真に写る部員たちとの思い出、かるた部を作ったときのポスター、ついに使用禁止になった扇風機、すり減った畳、ずっと探していた札。そして見る茶道部備品の文字から太一の欠落を思い知り、涙する千早。高校時代の終焉というセンチメンタリズムが、千早の青春にはいつも太一がいたことを思い出させます。しかしかつて新に対して言った太一の「俺たちは強くなってあいつを待とう」を、今度は千早が太一に対して実践するわけですね。決勝で頭を下げる太一に無言で「真島」の名が書かれたたすきを与える千早には涙しますよ。ちなみに会場でメンバーを決める際に配られたたすきを千早が二本持っていて、その一本にチラッと「島」という字が見えるんですよ。まさかの伏線。


■新の青春

新は祖父のこともあって、千早とは逆にかるたをやりたい自分を抑え続けてきたという経緯があり、ずっと一人でやってきたところを、高校最後の年にかるた部を作って団体戦の楽しさを求めるという前向きな変化を見せます。いきなりの告白には驚きですが、これも思いきって前に進もうとする変化の表れではあるでしょう。伊織の「おにぃ付き合って」に「ごめん好きな子おる」の秒殺の重ねには笑いますが(でも「あの人やろ」で超キョドる)、序盤で周防名人に向かう際にすれ違った千早に気付かないことからも、千早だけを見ているわけではないというのが太一とは異なるところ。名人に先生の敵討ちを宣言する新、クイーンに「来年ここでかるたしよう」と告げる千早と、かるたバカ二人と太一の違いも序盤では描かれてるんですね。

前作では試合シーンがなかった新ですが、今回はようやく本領発揮、ではあるんですが、千早と太一に比べると出番はわりと少なめ。これは瑞沢かるた部、特に太一を中心に据えているのでしょうがないんですけど、それでも皆で練習したり、掛け声をかけてもバシッと決まらなかったりと、初の団体戦に色々戸惑いながらもどこか嬉しそうな新が印象的。太一との決戦に敗れて言う「笑えや、太一」にはもう号泣ですよ。「瑞沢の三年間に負けた」と言う顔も清々しく、本当に演じる真剣佑は爽やかで良いですねー。どうしても『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』の億泰と同一人物だとは思えない……『パシフィック・リム アップライジング』に出たせいかガタイがよくなってる気もします。


■太一の青春

逞しさと渋さを増した太一ですが、新が千早に告白したというのを聞いて部活に顔を出さなくなります。ただ千早の心が新に傾いていると思い込んでいた節もあるのでこれはきっかけだったのでしょう。太一がかるたをやっていたのは千早のためであり、周防に「迷いがある」と看破されるのも、好きでやっているわけではないという同類の匂いを感付かれたから。今かるたをやったところで医学部に入れるわけでもない、先を考えれば今は勉強すべきという理性的な言い訳もあったことでしょう。しかし目指す東大の先輩であり絶対王者である周防名人の「一瞬が永遠になる」という言葉に、そして「君は何をしてるの」という問いかけに走り出す太一。原田先生の「手触りは残る」という言葉も同じことであり、太一は今を生きる大切さを忘れていたことに気付くのです。

太一を「誰かのために尽くす、たとえ自分がボロボロになっても」と評した原田先生の言葉が、「誰かを強くするということを知った」という周防の言葉に繋がり、そして辿り着いたのが「守りかるた」であるという論理が素晴らしい。決勝にいきなり現れた太一はかなちゃんが負傷していなかったらどうするつもりだったのかとは思うし、一度は抜けた太一の登場は許されるのかとも思いますが(しかも登場がむっちゃカッコいい)、でも最後の札合わせを、運命戦で勝ったことのない太一に皆が任せるところが熱い。そして皆の思いと「一瞬が永遠になる」という言葉が「全部をかけてないかもしれない、でもこの試合が今までで一番強い俺だ」という、この瞬間へ賭ける太一の思いを引き出すのです。もらい与える千早の青春が煌めくのはわかります。でもその裏で誰かのために尽くした太一の青春に光を与える、というのがもう泣けてしょうがない。太一の青春はこの物語の核だと言えます。


■結び

そうして迎えた決勝戦を制した瑞沢かるた部。「運命戦は運命じゃない」の言葉通り「しのぶれど」を選んで勝った太一。劇中では明言されませんが、千年前の歌合わせで最後に勝ったのも、天皇が思わず口ずさんだという「しのぶれど」なんですね。そして立ち上がった太一に抱き付くのは千早だけじゃなく部員みんなというのが前作と異なるところ。そこが超スローで映されるというのが、それこそ「一瞬を永遠にする」かのようで泣けます。そして「第66期クイーンの」というアナウンスと共に横顔の千早で結び。ラストが実写ではなく水彩画のようなアニメになるのは千年前の歌合わせシーンと同じ演出であり、それによってこの物語が千年経っても残っている歌と同じ普遍性を持つことを示すのです。

与えられる者、前を向こうとする者、尽くす者。持つ者と持たざる者。様々な若者が登場しそれぞれが少しずつ変わっていくのが青春映画の醍醐味ですが、そこを押さえているのはもちろん、かるたという競技のアクション性とかるた自体がもつ人の思いを実に映画的な見せ方で描き出し、これだけの密度と熱量を破綻なく語り、各人の見せ場もしっかり織り込みつつ前2作までも取り込んで結ぶ。いや凄まじい、そして素晴らしい。何より高校時代のひと時を永遠の記憶として成り立たせ、それでいて先に拡がる無限の未来さえも感じさせる。脱帽です。

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