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2018
03.21

守るべき伝統、変えるべき未来。『ブラックパンサー』感想。

Black_Panther
Black Panther / 2018年 アメリカ / 監督:ライアン・クーグラー

あらすじ
ワカンダ・フォーエバー!



表向きはアフリカの途上国であるワカンダは、実は超パワーをもつ鉱石「ヴィブラニウム」の産出国であり、独自の科学力を発展させつつヴィブラニウムの悪用を防ぐため秘密を守ってきた。そのワカンダで新王に即位したティ・チャラは武器商人のクロウを追っていたが、そのティ・チャラの前にワカンダを狙う男エリック・キルモンガーが現れる……。特殊スーツに身を包むヒーロー、ブラックパンサーを描くアクション。監督は『クリード チャンプを継ぐ男』のライアン・クーグラー。

2016年の『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』でマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に初登場したヒーロー、ブラックパンサーを主役にした単独作。実は超文明国であるアフリカのワカンダ、その若き国王ティ・チャラが、代々受け継がれた力と漆黒のスーツでブラックパンサーとして戦います。戦う国王という特徴と渋カッコよさがあるとは言え、単体映画としてはちょっと地味になるんじゃないかと思ってましたが、これが全くの杞憂。と言うか、舞台となる架空の国ワカンダがとにかくスゴい!という思わぬ方向から攻めてきます。アフリカの民族的な意匠と超科学が同時に存在するワカンダは、今までのマーベル世界と地続きでありながらかなり異なる世界。プリミティブとフューチャリスティックの融合が実に面白くて心地よく、ちょっと今まで観たことのない世界観です。ディズニー配給なのにディズニーランドよりも夢の国!スゴいぞワカンダ王国!

そんなワカンダで亡き父王の後を継ぎ新たな国王となるブラックパンサーことティ・チャラ。演じるは『キング・オブ・エジプト』のチャドウィック・ボーズマン。『シビル・ウォー』で既に速さと強さとしなやかさを兼ね備えた姿を見せていますが、故郷を舞台にした本作では国王としての在り方に苦悩したり、さらにはその王位さえ危うくなったりします。そしてヴィランとしてティ・チャラを追い詰める謎の男、エリック・キルモンガー。『クリード チャンプを継ぐ男』でもクーグラー監督と組んだマイケル・B・ジョーダンが演じてますが、このキルモンガーの描き方がそこらのヴィランと違って実に深く、ティ・チャラと張るほどの存在感。立ち位置的にもティ・チャラと対になりつつ共通点もあり、生い立ちのせいもあってその思想に至るのも納得できてしまうんですね。

アフリカが舞台ということで、多くの黒人役者がそれぞれ印象的に魅せてくれます。ナキア役の『それでも夜は明ける』ルピタ・ニョンゴ、ウカビ役の『ゲット・アウト』ダニエル・カルーヤ、ラモンダ役の『エンド・オブ・キングダム』アンジェラ・バセット、ズリ役で『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』フォレスト・ウィテカーまで出てます。そしてブラックパンサーより強いんじゃないかという槍の戦士、オコエ役のダナイ・グリラ、トニー・スタークより凄いんじゃないかという天才少女シュリ役のレティーシャ・ライトがスゴくイイ。また『シビル・ウォー』に続きロス捜査官役で登場のマーティン・フリーマン、『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』のユリシーズ・クロウ役で再び出演のアンディ・サーキスも最高。ロスがクロウを尋問するシーンなどは『ホビット 思いがけない冒険』のフロドとゴラムだ!と感涙です。

長回しも入れたアクション、土着的リズムと未来的サウンドが融合した音楽も良いです。ヴィブラニウムという夢の金属を巡りワカンダが世界とどう向き合うのかという物語に見る、理想と現実のせめぎあい。国を治める血統と捨て置かれた血統との交錯。そして黒豹と黒豹との激突。様々な対峙と背負うものを描きつつ、ヒーローものとしてのツボも押さえ、MCUというシリーズながら単体で観ても十分以上に面白い。地味になるどころかカラフルでダイナミック、熱くてせつない一級品。がんばれ陛下!

↓以下、ネタバレ含む。








■ジャンルをまたいだ異色さ

『クリード』でも見られた独特な長回しアクション、特にカジノでのスペースを上下左右使った立体感などは印象的です。走っていく車からカメラが引いていったりカメラがグルリと回転したりするカーチェイスは、ブラックパンサーの能力やシュリの遠隔操作カーのアイデア、オコエの超人っぷりなどで魅せつつ、シートだけで滑るナキアという笑いまであって面白い。クライマックスのボーダー族とのバトルに見る殴りあいと超兵器の共存、1対多の激戦なども迫力ですね。ラストのティ・チャラとキルモンガーの対決はそれらに比べると少々地味ですが、ここは二人で互いの思いをぶつけながらのサシの勝負なので、マスクも消えスーツの効果もなしで戦うということに意味があると言えるでしょう。

ワカンダの自然溢れる牧歌的な風景から飛び込んだ途端に拡がる超近代的な都市、と言うかもはや近未来SFのような情景には度肝を抜かれ、それと国王即位の儀式に見るアフリカの部族的な風習やカラフルな装飾、ボディペイントなどとのギャップが面白いです。現実のアフリカはもっとフラットに近代化されているんじゃないかとも思いますが、ヴィブラニウムによる科学の発展が急激だったとすれば、伝統的な慣習を保ったまま並行して築かれたとしてもおかしくはないだろうと思うんですよ。日本だって科学と伝統は共存しているわけだし。またそのギャップはジャンルをまたぐ新鮮さにも繋がっていて、ビームシールドみたいな盾を構えながらもサイに乗って戦うウカビたちにはSFとファンタジー映画との融合が見られるし、シュリがティ・チャラに装備品を紹介するシーンは『007』のQみたいだったりとかなり柔軟。


■個性豊かな人物たち

キャラ立ちもイイ。特に凄いのがオコエさんで、槍使いの戦士と言うだけでは収まらない、それこそホークアイやブラックウィドウに並ぶ鬼強さとそれ以上の威圧感で、即アベンジャーズに加入してもおかしくないですよ。国に仕えるのだという信念を曲げないためにナキアと行動を共にしないものの、キルモンガーが玉座に相応しくないとして対抗する、というのに一貫性があります。一方ナキアはスパイとして世界を見てきたので思想も革新的。共にワカンダのことを考えながらオコエとは一時道を違うというところに本作の多様性が見られます。しかし改めて見るとルピタ・ニョンゴは美しいなあ。近年見た『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』のマズ・カナタの印象が強いですが、あんな梅干し婆さんではないわけですよ。最後に変な戦闘服を着るのを渋るのも可愛い。あとシュリの天才なのにおてんばという位置付けもイイですね、萌えますね。スニーカーとかそれ言いたいがために開発したんじゃないかって感じだし、兄貴がスーツにたまったエネルギーで吹っ飛ぶのをしっかり録画してるのもお茶目。武器がパワーグローブってのも似つかわしいです。

あとティ・チャラの当て馬かと思ったら重要な役割を担うエムバク、オゥオゥオゥという威嚇やベジタリアンで爆笑するアホっぽさはあるものの、ナキアが託そうとしたハーブを受け取らず助けたティ・チャラのところへ連れていくのが、一度は負けて王と認めた者に対する敬意があっていいんですよねえ。ティ・チャラにハーブを飲ませるときにそっと視線を外したり、援軍は出さないとか言いながら結局きたりと、このジャバリパークのゴリラのフレンズに対する好感度がガン上がり。ナキアがゴリラ呼ばわりしたときは「えっ」と思いましたが、猿神ハヌマーンを祀ってるくらいだからゴリラは褒め言葉なんですね。

アンディ・サーキスのユリシーズ・クロウがまた最高です。序盤の逃がそうとして平気で殺す容赦のなさ(しかも一応理屈は通ってる)、笑いながらの犯行に感じる狂気、加えて『エイジ・オブ・ウルトロン』で切り落とされた左手代わりにアームキャノンを装着してるのもイカします。超音波でガラス割ったり振動で汚れを落としたりと便利なので、釘を打ったりリンゴの皮をむいたりもできそうな十徳ナイフ感。ヴィブラニウムを股間にしまう理由はよくわかりませんが……。そしてマーティン・フリーマンのロス捜査官、何てことないお役人かと思ってたら元パイロットという設定が付き、それを活かす活躍を見せるのが意外性があってイイ。しかもガラス損傷率50%と聞いても飛行をやめず冷静に輸送機追跡を続けるのがシビれます。今回ゴラムとの共演を実現したので、次こそはシャーロックことストレンジとの共演があるかな?ちなみにスタン・リー御大はカジノでコインをせしめる役で登場、お元気そうで何よりです。


■黒人ヒーローという立ち位置

クロウやロス以外は黒人俳優で固めた娯楽作としてかつてのブラックスプロイテーション映画のようでありながら、差別され抑圧された黒人の歴史をも含むような深みがあります。それを体現するのがキルモンガーで、本来は王族でありながら父が国を裏切ったと見なされ放置された少年は、復讐を胸に傭兵として様々な任務に就き、ついに玉座まで手に入れます。そもそも亡き父ウンジョブは抑圧された黒人社会への憤りからクロウへの手引きを行ったわけで、息子のキルモンガーが同じく世界の弱者へ武器を届けようとする極端な結論に辿り着くのもわからなくはないのです。しかもウンジョブを殺したのはティ・チャラの父ティ・チャカであり、冒頭の親子の会話がキルモンガー親子の会話だったのがわかるに至ってますます彼への共感が高まります。世界の混乱を危惧してワカンダの秘密を守ろうとしたティ・チャラとは逆に見えますが、どちらも世界への危機感は抱えているため見据える方向はそこまで差異はなく、強硬派と穏健派というやり方が異なるだけなのがやるせない。キング牧師とマルコムXのようだ、という言及を見かけましたが、確かに納得です。

黒人が主人公のヒーローはブラックパンサー以前にも『スポーン』や『ブレイド』などがあるわけですが、ここまで黒人主体の物語を前面に押し出したスーパーヒーローものは今までになく、それは『ワンダーウーマン』が女性ヒーローの在り方を再定義したこととも通じる時代の流れ、レイシズムに対するアンチテーゼが含まれているとも言えるでしょう。ただ本作ではキルモンガーと戦うのもまた黒人であるティ・チャラです。彼は父王に対して先祖代々間違っていたと叫び、世代間の考えの違いを正して新たに門戸を開く決意を見せる。その上でキルモンガーのやり方に異を唱えて戦うのです。ここにおいてティ・チャラは、人種や世代を越えて人々を守ろうとする正義のヒーローとして確立されるのです。最後にスーツの効力が消えた状態で顔を晒しながら激突するのは、互いの信念をぶつけ合うという意味もあるでしょう。キルモンガーは魅力的だし退場は惜しいですが、それでも二人揃って見るワカンダの夕焼けは美しく、その普遍的な光景を肩を並べて眺めることこそが真に守るべきものなのでは、という思いが湧き上がってきて泣けます。


■世界と向き合うワカンダ

本作はワカンダという大いなる力を持つ国が、大いなる責任を果たすために世界とどう向き合うかという話でもあります。「祖先は海に飛び込んだ。鎖より自由を選んだ」と最後まで縛られることを拒み独立の精神を貫いたキルモンガーの意思は、これ以上の傍観はできないというティ・チャラの行動にも結び付き、国際支援センターの設立、そしてラストの国連での演説へと繋がります。「賢者は橋を架け、愚者は壁を作る」。この我々の現実世界をも見据えた台詞まで取り込んで見せることで、一味違った深みを持つヒーローものとして意義あるものになっています。

ワカンダの力が世界にどう影響を与えるのか、それはMCUの集大成となるであろう次作の『アベンジャーズ インフェニティ・ウォー』で描かれるのでしょう。エンドロール後にはシュリと話すバッキーの姿も映され、もちろんブラックパンサーも「帰ってくる」次作、いやホントどうなるんだ……と期待と不安に震えながら待ちましょう。陛下、お願いします!

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