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2018
03.13

親しき仲には愛と憎。『犬猿』感想。

kenen
2018年 日本 / 監督:吉田恵輔

あらすじ
水と油、どちらも液体。



印刷会社の営業である金山和成の元に、トラブルばかり起こす粗暴な兄、卓司が訪ねてくる。一方で家業の印刷工場を切り盛りする幾野由利亜は、芸能活動にも励む妹の真子の仕事ぶりに不満を持っていた。この二組の兄弟姉妹が絡み、やがて互いへの感情が激しくぶつかり合っていく……。『ヒメアノ~ル』の吉田恵輔監督による人間ドラマ。

刑務所帰りで問題ばかり起こす兄の卓司と、大人しく真面目な弟の和成の金山兄弟。仕事に家事に介護まで懸命にこなす姉の由利亜と、やりたいことをやってる妹の真子。このルックスも性格も真逆な二組の兄弟姉妹のドラマが描かれます。一番近しいからこそ相容れない、でも切り捨てられない兄弟や姉妹という関係がかなりのヤダ味で展開し、なかなかキツい。でも四人それぞれの癖や難といったものがどんどん連鎖していくスリルや、そっちいっちゃうんだ!みたいな驚きもあって実に面白いんですよ。親しき仲にもあるべき礼儀などはなく、嫉妬が渦巻きドライブしていく人のサガ。でもイヤな話だからこそ描けるものが確かにあって、それがとても響いてきます。

弟・和成役の『東京喰種 トーキョーグール』『HiGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY』窪田正孝は、真面目そうな青年の徐々に見えてくる本質の小出し感が上手いです。兄・卓司役の『百円の恋』『銀魂』新井浩文は暴力的な威圧感がスゴいしバカなんだけど、でもやたら鋭いという厄介さが怖い。妹・真子役の筧美和子はいかにも男好きしそうな言動に見る小悪魔具合が素晴らしいです。おっぱいも素晴らしいです。特筆は姉・由利亜を演じるお笑いコンビ「ニッチェ」の江上敬子で、演技初挑戦ながらコントでの経験があるせいか、希望と絶望が交差する乙女っぷりがとても良い。このキャスティングの妙には『ヒメアノ~ル』の森田剛なみに驚きです。

東映ロゴの後の冒頭からして意表を突かれるし、さりげなく映す伏線や心情を語るショットの数々、コーヒーカップなどの対比といった構成も秀逸。友人でも同僚でもない、家族だけど親子ほどの無償の愛情はない、だがしかし決して他人にはなれない兄弟姉妹という関係を、ときにコミカルに、ときに綺麗事抜きで正面から描ききる。この展開で最後にまさかの爆泣きを誘うというのも予想外。いやあ面白かったです。

↓以下、ネタバレ含む。








冒頭のラブコメ映画の予告からして騙されるんですが(普通に公開されるのかと思った)、こういう意外なところからの繋がりというのが色々と出てきます。和成は一見気弱で好い人っぽさを醸し出していますが、一人車を運転するときの死んだような目付きとか、後輩に「人を殺しそうな顔をしてた」とか言われるようなドス黒さがあります。序盤で絡んできたチンピラに卓司が復讐に行くのなどは「そんなこと頼んでない」とか言うものの実は狙ってチクったんだろうなというのが仕事中に何かを見て微笑むのから察せられるし、卓司の顔色を伺って生きてきたような和成が由利亜に何度も誘われるのを気付かないわけもないんですよね。卓司に対しては関わりたくないと思っているものの、強く言って殴られると途端に謝ってしまうし逆らえない、という歪な関係が、後のある選択をしようとするところにも繋がってきます。

卓司は粗暴で周囲から恐れられ、思うようにいかないとキレるし金がないとタカるしで実にめんどくさいですが、そこまで悪意がなかったり金があるときは大盤振る舞いだったりと、極悪人というわけでもないんですね。要するにタチの悪いジャイアンです。よく言えばおおらかなわけですが(ノーチェンジの卓司だし)、いかんせんデリカシーに欠けるし人の話は聞かないしすぐ拳で解決しようとするしで疎まれやすいんですね。そもそも弟のところに転がり込むというのが、信頼できる友人とかいないんだろうな、というのも感じさせたり。だから弟のほうが搾取される側であり、兄は厄介者であるという図式に思えるんですが、実際は弟が兄を利用したり陥れたりもしているんですね。ただ卓司は勘だけはやたら鋭く、和成のやることも気付いているふしもあり、それを知りながら接しているのだとしたら相当な懐の深さではあるでしょう。あと怪しげな事業が本当に成功するのには驚き。

驚くと言えば和成と真子がいきなり付き合ってた、というのにも驚きます。そりゃ由利亜も和成の顔に吹き出しますよ。由利亜は容姿や体型で不利にならないよう、仕事や家事をこなし人としてちゃんとすることを念頭に置いているんでしょう。だから真子が芸能活動にうつつを抜かして家業を適当にやっているのはダメだ、という体で接します。ただこれは結局真子に対する嫉妬の裏返しですよね。真子としてはそこまで姉を敵視してるわけでもなく、和成との食事をセッティングしたりするし、家でまで仕事をする姉を手伝おうともしますが、由利亜は失礼だと怒ったり真子の申し出をできないからと突っぱねたりする(仕事を安請け合いしたり感情で仕事を断ったり、経営者としても普通にダメな点もありますが)。でもそこで由利亜が好きなことを知りながら和成を奪ってしまう真子もやはり問題あるので、もうどっちもどっちなんですよ。

それぞれの事情や思いもわからせつつ、でもそれぞれダメである、というのがどんどん表れてきます。和成とのデートが決まって踊ってた由利亜が、もらった手ぬぐいを一度は捨てて生ゴミまで被せたのに結局拾い上げて泣くというせつなさ。富士急のコーヒーカップでは豚鼻を鳴らす姉に固まり、妹には満面の笑顔を向ける和成という対比。親の前で卓司のことを「死ねばいいのに」と言う和成。和成と言い争いの末、内緒にしてくれと言われた真子の枕営業をバラしてしまう卓司。これ見よがしに富士急の袋を見せつけ結婚話まで匂わす真子。真子の着エロDVDを親戚に暴露してしまう由利亜。もはや修羅場のオンパレードと化した兄弟姉妹の泥沼は、終盤一気にピークを迎えます。一人ぬかみそをかきまぜる由利亜の積み重なった不満が、こぼした尿瓶を拭いているときに絶望感に変わる悲壮さは痛々しく、暴れ回ったツケとして刺された卓司を思わず見殺しにしようとする和成には、越えてはいけない一線が可視化されたかのようにさえ感じます。

しかし命の危機に際してついに本心を吐露する彼らは、やはり憎しみよりも愛情のほうが勝るわけです。認めながらも互いに嫉妬していた姉妹、本当は互いが好きな兄弟。泣きながら兄と姉にすがる弟と妹の救急車でのリンクには、そこに被さる子供の頃の映像がちょっと卑怯ではあるものの、それでもエラい泣かされますよ。思えば和成と真子はデート中に互いの兄姉を庇うような発言で気まずくなったりもするし、呼び名が「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」と子供の頃のままというのは、やはりどこかで子供の頃のよく遊んだ記憶とかとね、おぼろげながら結び付いてるんでしょうね。病院の屋上でこの四人が和やかに談笑する、なんてのはここまでの経緯からは到底予想できない奇跡的ショットなんですが、でもなんか自然に思えてしまうというか、それこそチャーハンにベビースターを混ぜたら美味かった、とでも言うような意外とイケる感があります。

でもこれが美談で終わったりはしないわけです。互いの思いを知り、変わろうとする思いもあるのに、それでもやはり元のように戻ってしまうんですね。それこそチャーハンとベビースターのようにたまに混ぜるから美味いんだ、とでも言うように。彼らにあるのは友人や恋人といった関係とは根本的に異なる、甘えや適当さやある程度の不誠実さを、互いに許容させようとする関係。ああ、つまりそれが「家族」というものの一面かもなあ、と思うのです。

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