2018
02.20

アサシンが求めた平凡。『悪女 AKUJO』感想。

akujo
The Villainess / 2017年 韓国 / 監督:チョン・ビョンギル

あらすじ
怒りの皆殺し!



犯罪組織の殺し屋として育てられた女性スクヒ。国家組織に拘束されて、言うとおりに10年間任務をこなせば自由になれるという条件で国家直属の暗殺者となることに。しかし課せられた暗殺指令のターゲットは彼女を動揺させる人物だった……。『22年目の告白 私が殺人犯です』の元ネタである『殺人の告白』のチョン・ビョンギル監督によるサスペンス・アクション。

犯罪組織の殺し屋スクヒが強制的に国家組織のヒットマンとなるという話なんですが、これがもう冒頭から度肝を抜かれる凄まじいアクションの連続!アクション自体もかなりの密度ですが、それよりもその見せ方がスゴくて、どうやって撮ってるのかわからないカメラワークにテンション上がりまくり。冒頭7分の壮絶な序盤から、驚きのバイクチェイス、ビル壁面の立体戦、終盤のバスでの戦いまで、意表を突く長回しとノンストップのアクションがひたすら圧倒的に迫ってきます。女性でも手斧というのがさすが韓国。そして主人公スクヒが辿る数奇な運命が面白い。現在のカットからリンクさせて過去シーンを描くという繋ぎ方で少しずつスクヒの過去が語られ、それにより彼女の思いが積み重ねられて現在の彼女に返ってくるんですね。微妙にリアリティには欠けるんですが、それがかえって独特な世界観を感じさせます。

スクヒ役のキム・オクビンは超絶美貌の持ち主ながら、ナイフに銃に格闘とあらゆるアクションのキレもイイ。なんか実際に格闘技の黒帯?なんですか?あと整形前も後もキム・オクビンなんですか?別人にしか見えないんだけど!と色々と気になるものの存在感は抜群。スクヒが「おじさん」と慕うジュンサン役のシン・ハギュンは見た目はエスパー伊東っぽいですが、殺し屋リーダーとしての手強さを感じさせます。スクヒの監視役ヒョンスを演じるソンジュンの最初のチャラい印象が徐々に変わってくるのや、クォン部長役キム・ソヒョンのクールな幹部姿などもなかなか良いです。『イップ・マン 継承』などの川井憲次の音楽もドラマティック。

『ニキータ』『ジョン・ウィック』『ハードコア』『アトミック・ブロンド』など様々なアクション映画の遺伝子を感じさせつつも、さらにフレッシュな見せ方で突き付けられる驚きと興奮が山盛り。スパイじゃなくて殺し屋なのでガンガン殺ります。凄惨で壮絶なスクヒの人生も刺激的。途中いきなりラブコメみたいになって「?」となるんですが、これも後から効いてくるんですね。アクションで語るドラマに新たな地平を切り開く意欲作。良いぞ。

↓以下、ネタバレ含む。








序盤から物凄い勢いで続く長回しワンカット風のアクションは『ハードコア』っぽいFPS風の主観視点ですが、臨場感があるのはもちろん、細かい工夫が随所にあるのが素晴らしいです。前後を挟まれた狭い廊下では途中にあるドアを開けて敵を止めたり、滑り込んで攻撃をかわしたり、倒れた状態から戦ったり。階段の高低差を使った攻防や、ガラスを突き破ってのアタックまで多様。撃ってきた敵の弾を頭を倒して避けたりとか、ドアを開けた先の廊下で敵がワラワラ出てきたときに両手のナイフをシャキッ!と構えるなど、いちいちシビれる動作が入るのも熱い。ナイフを弾き飛ばされるのをカメラが追う危機感や、最後の大部屋に入ったら大量の敵が待ち構えている絶望感などスリルも満点。そして鏡に顔が写ったと思った瞬間、突然カメラが主観から離れるのが超新鮮で驚き。最後に窓からぶら下がるところでぐるりと視点を変えるカメラワークにさらに驚き。そして血だらけの壮絶な表情のアップでタイトル!もうこの冒頭だけで満足しちゃいそうなくらいです。

そんな超絶アクションが全編に渡って繰り広げられていてサービス満点。ノンストップさにさらにスピード感を加えたバイクチェイスは、走ってるバイクに並走するだけでなく二輪の間をカメラが通ったりしてる?とにかく驚愕の映像。日本企業の会長との刀対決では忍者のような剣劇、芸者的なミッションでは仲間との共同作戦で下着姿で戦うという防御力なしの格闘を見せてくれます。ジュンサンのところに乗り込みビルから落ちそうになりながらの対決では、壁面という足場のない場所でのスリル、武器は奪った手斧で攻撃。クライマックスではバスに乗り込んだり、バス内から落とされそうになったり転倒させたりと、また驚異的なカメラワーク。『アシュラ』などでもシームレスに動くカメラに驚きましたが、本当にどうやって撮ってるのか、CG使ってたとしてもほとんどは実際にやってるらしいし、何よりこういう風に撮ろうとしてやっちゃうのがスゴいです。

場面の切り替えも面白い。序盤ではドアを開けるというアクションによりバトルフィールドを切り替えていましたが、スクヒが逃げ出そうとするシーンではドアを開けるというアクションによりバレエの練習場や厨房、舞台やメイクルームなどシチュエーションがガラリと変わります。国家情報局の様々な訓練所が並んでいるということでしょうが、まるで悪夢を見ているよう。現在と過去のシーン切り替えは、息を止める、逃げ惑う男、おじさんなど、何かしら関連するものでシンクロさせるように切り替わります。過去の思いが現在に戻って繋がるので徐々に深みが増してくるし、あまり寄り道してるように感じないんですね。少女のスクヒが既に銃を構えているとか、ライダースーツに身を包んだ闇夜のスクヒとか絵になるカットも多く、特にウェディング姿でライフルを構えるスクヒは『ミッション・インポッシブル ローグ・ネイション』のレベッカ・ファーガソンに張りますよ。

スクヒに指令を出す国家情報局が一体どういう組織なのか、スパイ養成所的なやつにしては女性しかいなかったり、集める女たちの基準や経緯が不明だったりと色々謎ではあります。女優を暗殺者にしたら目立ってやりにくい気もするけどどうなんでしょう。その辺りは若干ファンタジーではありますね。ヒョンスの絡め方も少し強引ではあります。本来は監視目的なんでしょうが、偶然の引っ越しを装うわざとらしさはストーカースレスレだし、突然の恋愛展開、どころか結婚までするというのには唖然。ここの展開を描くためにちょっと停滞しちゃうのが惜しいですが、この新たに得た家族と過ごすスクヒの幸せそうな姿が微笑ましく、それだけに後の喪失に余計悲劇性が増してきます。「ママが泣いたら慰めて」と口のなかいっぱいにご飯ためながら言う娘のウネちゃんが可愛いですが、そんな子まで死なすという容赦のなさ。スクヒの号泣が胸に響きます。父親を目の前で殺され、愛するジュンサンも殺されたと思い込み、実は生きていたジュンサンにより新郎どころか娘まで失うスクヒが問う「一瞬でも愛したことがあったか」に対し「結婚して新婚旅行までしてやった」と返すジュンサン。悲しみは怒りとなりスクヒを最後の戦いへと駆り立てるのです。

スクヒが邪魔になったのなら素直に殺せばいい気もするので、ジュンサンをわざわざ死んだことにするのはどうも腑に落ちませんが、スクヒが一人戦ってる隙に盗んだハードディスクの情報でのしあがったというから、それだけ計算高いということなのでしょう。あとクォン部長はスクヒ以外にジュンサン殺害をやらせておけば、とも思いますが、これは上の適当な采配のせいですね。クォンさんが「私の二の舞になるわよ」と言うのが、自身も相手を失った過去があることを垣間見せます。

スクヒが求めたのは「平凡に暮らしたい」ということでした。それはクォンさんに10年耐えれば手に入る条件として提示され、ヒョンスがスクヒに与えたい望みとして語られ、スクヒが父の仇を忘れてでも望んだもの。しかし物語はその都度スクヒから平凡と呼ぶべき平穏さを奪っていきます。とどめにジュンサンが「俺を殺してから苦しみが始まる」と最後に言うのはもはや呪いと言えるでしょう。スクヒは全てを失い、相手を皆殺しにし、警官隊に囲まれるという、冒頭と全く同じ状況に置かれて終わります。ひとつ異なるのは最後の最後に見せる壮絶な笑み。それは所詮自分は「悪女」であるという開き直りなのか、それとも運命を受け入れた女の自嘲なのか。容赦ないアクションと容赦なくビターな結末が印象深く残る一作です。

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