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2018
02.12

欠けた記憶と欠けた罪。『殺人者の記憶法』感想。

Memoir_of_a_Murderer
Memoir of a Murderer / 2017年 韓国 / 監督:ウォン・シニョン

あらすじ
アン?ビョン?マン、だよ……(泣)



かつて連続殺人を行っていた秘密の過去をもち、今はアルツハイマー病に犯され記憶が飛びがちなビョンス。しかしある日偶然出会った男テジュを見て、彼が自分と同じく殺人犯であると確信する。そのテジュがビョンスの娘であるウンヒの周りに現れるようになるに至り、ビョンスはテジュとの対決を決意するが……。韓国サスペンス・ミステリー。

キム・ビョンスは昔は連続殺人鬼だった男。捕まる前に殺しは止め、今は一人娘のウンヒと暮らしながら獣医の仕事をしています。そんなときたまたま接触事故を起こした相手のドライバー、ミン・テジュの車から血が滴るのを見て、自分の目の前にいるのもまた殺人者だと直感を抱くのです。まずはこの元殺人鬼が現殺人鬼と対峙するという「悪vs悪」の構図が面白い。そしてもうひとつポイントは、ビョンスが認知症のためにすぐに色んなことを忘れてしまうということ。物語はビョンス中心に進むため、観る者もどこまで確かな記憶なのか、あるいは過去の事実なのか改竄された記憶なのかと、何を信じればいいのかわからなくなって翻弄されまくり。そして思い出すことが驚きにも繋がる意外性のある展開。練られた脚本と引き込まれる構成で面白設定をしっかり面白くしています。これは良いぞ。

旧殺人鬼ビョンスを演じるソル・ギョングは初老に見せるため激ヤセまでしたらしいですが、それに見合う迫真の演技。睨んだり痙攣したりの顔面力が凄まじいです。一方の新殺人鬼ミン・テジュ役のキム・ナムギル、涼しげな顔で事を成す冷静さと大胆さ、あと若さが出てます。ビョンスの娘ウンヒ役のキム・ソリョンは可愛らしいんですが、最初高校生かと思ったら銀行に勤める社会人でした。これがすごくイイ子で泣かせます。あとアン・ビョンマン署長役は『10人の泥棒たち』『ベテラン』のオ・ダルスで、この人はもはや出てるだけで安心感があります。

ただでさえ忘れちゃうビョンスよりも現役バリバリのテジュの方がかなりアドバンテージがあるのでヒヤヒヤ。記憶を失うという点では『メメント』や『ファインディング・ドリー』、アルツハイマーという点では『手紙は憶えている』『おじいちゃんはデブゴン』『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』などがありますが、本作はさらにヤバさ増し。その意思に反して付いてこない記憶のもどかしさ、娘への不器用な愛情、泥臭い対決まで、ドラマとスリルとサスペンスに満ちてます。笑っていいのか困るようなブラックな笑いもあって「それ飲んじゃダメー!」ってなります。ちなみに『殺人者の記憶法:新しい記憶』という結末が異なる(?)別バージョンも公開されているとのことですがそちらは未見。観比べてみたいところですね。

↓以下、ネタバレ含む。








ビョンスがアルツハイマーのために色んなことを忘れてしまうというのは序盤から念入りに描かれており、スマホを炒めちゃうのはまだしも、獣医の仕事で患畜に過剰投与して死なせてしまうというのは笑えないレベル。なのでいくら過去に連続殺人をこなした男であっても、テジュと対峙する際に不安と緊張感に繋がります。テジュが犯人だと確信しても、張り込みの最中ペットボトルに出した自分の尿を忘れて飲んじゃうし、張り込みから気付いたら二人の結婚を認めちゃってるし、テジュと映画を観ているというウンヒを連れ戻しに来てそのまま映画観ちゃってるし、終盤には娘を助けにきて忘れる、どころか隠れてる居場所まで教え、おもらしまでする始末。ボイスレコーダーへの録音を聞き返してようやく思い出したかのように見えますが、実際はその内容も実感としては薄いのでしょう。肝心なところで忘れてしまうのでやきもきします。

挙げ句忘れるだけではなく、記憶が改竄されてしまったり、記憶の断片が変に組み合わされてしまったりと、何が真実なのかもおぼろげになり、ついには今起こっている連続殺人が自分の仕業なのではないかとさえ疑い始めます。まあ詩作講座の講師を殺したいと思うくらい殺しのハードル低すぎる男なので自分自身も信用できないんですね。すぐ「昔の私なら竹林に埋めている」とか言うし。詩の講座の女性がグイグイくるのをかなりウザがっていたし(まああれはわからないでもない……)、最初にテジュに会ったときに何をしていたのかというのもあって、より深みにハマっていくんですね。そこにはテジュの血のすり替えなどの工作のせいもあるわけですが、それでもビョンスはテジュの正体へと迫っていきます。正直テジュもウンヒと付き合ったりしなければこんな目にあわないのにとか、ビョンスを殺人者と見抜いてたというのはできすぎとか思いますが、放置せず対処しようとするところはしたたか。警察という立場もフルに活用してるところが極悪です。

忘れては思い出してという構成が基本にありながら、そこに過去の記憶が挿入されるタイミングが絶妙で、またそれが現在のドラマを深める効果も出しているのが良いです。なぜビョンスが殺人者になったのかと言えば、それは超DVな父(これが凄まじいゲスなんですが)を殺して「正統な殺人がある」ことを知ったからです。しかし死んで当然のヤツを殺しているというのはあくまでビョンスの主観であり、その基準は自分次第。だから決して正義の味方なわけではない、というのがラストにも効いてくるのがフェアです。また最後に殺したというのが多分妻なのだろうというのは想像がつくものの、娘が他人の子というのまで明かされるのがツラい。でも最初に忘れるのが娘を殺そうとしたときであるというのが、ビョンスにとってはその後を大きく左右することになるわけです。結果的にウンヒは父想いのとてもイイ子に育ち、ウンヒを守るためにビョンスは命を懸けるのです。何とも言えない因果関係が面白い。

ビョンスの姉の実態には驚き。既に廃墟となっている修道院に行って海苔巻き食べてたのが一体いつだったのか、ウンヒを迎えにきたシスターは実在したのか、とにかくここで全てが疑わしくなるという見事な転換点です。またテジュが頭パカーンと取っちゃうのにも驚きます。暴れてるときもパカーンと取れちゃうんじゃないかとヒヤヒヤしますよ。テジュが殺人者となった理由付けとして庇った母にアイロンで頭を殴られたという過去が語られるわけですが、家族による壮絶な仕打ちという点でビョンスに通じるものがあるため、さらに二人の対決が意味を帯びてきます。家族を守るために殺人を犯したビョンスと、家族への恨みから殺人を犯したテジュ。その違いが、守る者と奪う者という対比になるのです。あと驚きと言うか意外だったのは、ビョンマン署長が語るタバコ屋の娘のエピソードがことのほか良かったこと。案の定死亡フラグではありましたが(あんなとこで電話してたらバレるよ)、ここはもう少し丁寧に扱ってあげてもよかったかなーと思います。

最後の対決がスゴい泥臭いのは、ビョンスのギリギリの戦意が感じられて良かったです。ウンヒに本当に人殺しなのかと問われて「血が繋がってないからお前は俺の娘じゃない」と言うせつなさ、それとは裏腹にレコーダーに吹き込んだ「ウンヒはお前の娘だ」と言う言葉の思い。とは言え、悲しき結末ながら娘を守ることはできたわけですね。しかし最後にビョンスはテジュがまだ生きているという思い込みに囚われ、彷徨い続けることになります。冒頭でも描かれたトンネル前で佇む姿、目の前には真っ暗な闇が口を開け、悲鳴が辺りにこだまするという救いのないシーン。最近の記憶でありながら殺し合いをしたテジュのことを娘よりも忘れずにいるという皮肉。それは殺し続けてきた男が受けるべき罰であり、報いであるのでしょう。

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