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2018
01.30

世界を変える優しさとマーマレード。『パディントン2』感想。

paddington2
Paddington 2 / 2017年 イギリス、フランス / 監督:ポール・キング

あらすじ
今日のメニュー:マーマレード・サンド(いつも)。



親切なブラウンさん一家と暮らすことになり、すっかりご近所とも馴染みとなった熊のパディントン。ある日ルーシーおばさん100歳の誕生日プレゼントを探していたパディントンは、骨董品屋で飛び出す絵本を発見。それを買うために初めてのアルバイトに精を出す。しかしある日その絵本が何者かに盗まれてしまい、パディントンが犯人扱いされてしまう……。イギリスの児童文学『パディントン』の実写映画化第2弾。

ペルーのジャングルからイギリスのロンドンへとやってきた、赤い帽子に青いコートの小さな熊の紳士、パディントン。前作『パディントン』では彼が大騒動に巻き込まれながらもブラウンさん一家と一緒に暮らすまでが描かれました。今作ではさらに大変なことに泥棒と間違われて刑務所に入ることに。しかしそこでもパディントンらしい言動で仲間を増やし、真犯人を見つけるために奮闘することになります。これがもうとにかく楽しい!基本は現実的な舞台なのにどこか絵本の世界が融合したような不思議な味わいで、派手ではないのにリッチさを感じる映像になっていて素敵。随所にあるスラップスティックな笑いはお子様も安心して見れるものなのに安っぽさはなく、むしろ洗練されてます。物語はよく練られていて、獄中という物騒なシチュエーションでも無理なく展開。前作以上に面白いです。

なんと言っても主役のパディントン、いちいち帽子をクイッとやる挨拶や毛玉っぷりを活かした動きの愛らしさと同時に、礼儀正しくあろうとする言葉や態度もあって、あざとさを感じさせない見事なバランス。『007 スペクター』『ロブスター』のベン・ウィショーの演じる声がまたいいんですよ。そんなパディントンと一緒に暮らすブラウン一家の『GODZILLA ゴジラ』サリー・ホーキンス、『ミケランジェロ・プロジェクト』ヒュー・ボネビルら続投組も前作以上のキャラ立ち。また前作のニコール・キッドマンに続く悪役フェリックス・ブキャナン役として『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』のヒュー・グラントが登板、落ち目の役者でしたたかな小悪党として存在感を示します。

飛び出す絵本のなかを歩き回ったり、監獄がスウィートになっていく過程などは映像的にも素晴らしいし、パディントンが拾われるいきさつから窓拭きセットの使われ方、判事の登場のしかたまで実によく脚本も練られています。ブラウン家の面々がそれぞれの特色を活かすのもとてもイイ。そうして描かれる世界の、なんと優しいことか。悪役の描き方さえ優しいのです。最後は爆泣きですよ。うちにもパディントン欲しい、一緒にマーマレード作りたい、と思います。

↓以下、ネタバレ含む。








■クマはがんばり屋さん

タイトルを曇りガラスに指で書く、という控え目なところからして好ましいですね。パディントンは相変わらず歯ブラシで耳そうじしたりとトンマなこともしますが、色々と頑張ってものごとに当たってる感じが好感度の塊ですね(毛の塊でもあるけど)。理髪店での大騒ぎはもはやコントだし(相手が後で判事だとわかるのも可笑しい)、バケツを上げようと奮闘する姿は見事な一人芝居。体を使って窓拭きというのは『SING シング』でも出てきましたが、実写でやられるとまた笑えます。睨みを効かせる顔には一瞬「野生に戻るのか?」とヒヤッとしますが(しないか)。また何でも喋っちゃう正直者でもあり、そのせいでブキャナンに絵本を奪われてしまうんですが、一方でパディントンには正しいと思うことは言葉にする、という側面もあるんですね。ただし間違いを正すというよりは、よりよい提案をしようとする。それをきっかけに周囲も変わってくるわけです。

強面のナックルズにも堂々と食事の改善を要求、マーマレードサンドによって食事が変わり「どうせ不味いんだろ」と言ってたのが皆が美味そうに食べてるのを見て自分も嬉しそうなナックルズ。パディントンのレシピを求める声に、過去の思い出と共に次々と名乗り出る囚人たち。無機質な食堂をレストランのように変えてしまう看守たち。殺伐とした雰囲気がどんどん消えていくのが愉快です。またご近所の皆さんにとっても朝食のサンドイッチやカギ忘れ防止などパディントンは生活に欠かせない存在になっており、大佐などは窓を拭いてもらったおかげで新聞スタンドの女性と目があってイイ仲になったりします。

ブラウン氏の言う「パディントンは人のいいところを見つける」というのがこのクマが愛される理由を言い当てており、この台詞の示す優しさに思わず泣きそうになってしまうんですが、それだけそういう存在は現実では希少だということなんでしょうね。ナックルズの「腹の辺りがムズムズする」に対して「それは自尊心ですよ」と、ナックルズ本人も忘れていたものを思い出させるのにはじんわり。パディントンにスゴんでいた囚人が、気球で飛び立つのを見て「頑張れよ」とにこやかに見送るのもグッときます。


■クマを巡る人々

映像的にも実にリッチなシーンが多いです。飛び出す絵本に入り込んだかのようなシーンは、暖かみのある質感の紙のなかで次々に名所を訪れていくワクワク感が本当に素晴らしい。ちょっと見たことのない映像なので興奮度もスゴいです。また殺風景な刑務所内がピンクの囚人服で華やかになるのは、笑いを取るだけでなく雰囲気の変換としても秀逸です。懐かしく楽しげな移動遊園地の美術も良いですね。

キャラ立ちも前作以上にスマートかつよくできています。特にブラウン一家は、物腰の柔らかさと裏腹にブキャナン邸に侵入しちゃう好奇心旺盛なブラウン夫人、現実主義だけどいざというときは体を張るブラウン氏、輪転機まで使って新聞を作る姉に、ラッパーからSLオタクに豹変する弟、何かと強いばあちゃんと、揃ってる感があります。夫のほうが寝る前にパックしてて妻のほうがベッドで何か読んでる、みたいな逆転描写も面白いし、ブラウン氏はチャクラ全開で開脚も成し遂げるし「ブルズ・アイ!」が超カッコいいです。パディントンを単なる居候ではなく(もちろんペットでもなく)種を越えた友人として、なんなら家族として捉えているブラウン一家。何と言うかもう、品のいい『オバQ』なわけですよ。

またブキャナンもパディントンに匹敵するくらい存在感を出してきます。正直な言動で他者を認めようとするパディントンとは逆に、偽りの姿で他者を騙そうとするブキャナン。しかし本来なら憎むべき悪党でありながら、いまやドッグフードのCMが代表作の落ち目の役者、でも天井裏ではシェークスピアの役に成りきって一人言という哀れを誘う設定、それでいて役者の技量を活かした変装でお宝探し、というのがヒュー・グラントの飄々とした演じ方もあってなんだか憎めないんですね。列車での追いかけっこなどは『ローン・レンジャー』を彷彿とさせるスリルもありつつ、どこかポップな感じがブキャナンとパディントンの対決として似つかわしいです。お宝のヒントであるアルファベットが音階だとあっけなくわかるのはちょっと拍子抜けですが、移動遊園地のオルガンにある隠し場所などはファンタジックなギミックとしてもイイ感じ。


■クマがもたらす優しさ

そもそも喋るクマをすんなり受け入れられる世界というのからして優しさ溢れる設定であるわけですが、そんな暖かさを物語の進行に絡めて自然と盛り込んでいるのが上手いです。家族が面会に来ないという寂しさを挟むことでパディントンの孤独感を増しておきながら、派手な再会で一気にクライマックスに繋げるのも見事。冒頭でルーシーおばさんがパディントンを育てるためにロンドン行きを諦める、というのからしてもう泣きそうになりますからね。そしてそれと対になるような、ラストで皆が用意したというプレゼント。そりゃもう泣けますよ。そのシーンを何となく予期しちゃってたもんだから、パディントンが目覚めたところからもう泣きそうでしたよ。どうやって連絡取ったんだ?とかそんなのはどうでもいいんです!それだけパディントンが皆の心を動かしたってことなのです。

また悪役のブキャナンに対してもそんな優しい目線をなくしてないんですね。劇中「役者は嘘つきだ」という台詞で一旦はブキャナンを貶めるんですが、その後「役者は夢を与える」というポジティブな台詞によって救おうとするのです。罪には問われるものの、エンドロールでスイーツだった刑務所をゴージャスなオンステージに変えてしまうブキャナンの扱いにもその優しさが感じられて、後味も実に良い。そうして無意識のうちに人々を優しさで満たしていくパディントンの言動は、多くのことを教えてくれるのです。

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