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2018
01.15

喜びの中華包丁、悲しみのナイフ。『MR.LONG ミスター・ロン』感想。

Mr_Long
Mr. Long / 2017年 日本、香港、台湾、ドイツ / 監督:SABU

あらすじ
牛肉麺(ニュウロウミェン)うまそう。



台湾の殺し屋でナイフの達人であるロンは、東京の六本木にいるマフィアを消すという仕事に失敗し、北関東の田舎町へと逃れる。そこで出会った少年ジュンに助けられたロンは、世話好きな住民たちによっていつの間にか迎え入れられ、やがて営むことになった牛肉麺の屋台が思いがけず繁盛するが……。というバイオレンス・ドラマ。

台湾から東京へ出張殺人にきた殺し屋ロンが、殺しに失敗して命からがら逃げ出した末に辿り着いた田舎町。日本語がまったくわからないなか、傷付いた彼を世話する少年ジュンとその母で台湾人のリリー、そして町の住人たちと交流するうち、人間らしさを取り戻していくことになります。これがすんごい良かった!序盤は殺し屋によるクライム・ストーリーにも関わらず、その殺し屋がなぜか片田舎でラーメン屋台をやることになるというヒューマン・ドラマに。この「なぜか」に見る鬱陶しさと和やかさに笑います。そして母子との交流が与える人生の喜びにじんわり。それだけにクライマックスのエグさと爆発力が凄まじい。ラストは爆泣きです。

主人公のロン役は『レッドクリフ』『グランド・マスター』で知られる台湾の俳優チャン・チェン。日本語がわからない設定ということもあって台詞は少ないですが、それだけに際立つ視線や表情での細かい感情表現がとても良いです。かつナイフ・アクションも素晴らしい。ロンが関わる親子、リリー役のイレブン・ヤオの美しさとジュン役のバイ・ルンインくんの可愛さに守ってあげたい感があるのがまた良いんですよ。他のお節介な住民たちも実際にいそうな雰囲気がリアル。あと『HiGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY』の九十九さんこと青柳翔が出てたのは知らなかったので驚き。すげーバカなんだけどイイ奴というなかなか美味しい役どころです。

SABU監督作を観るのはたぶん『弾丸ランナー』以来なんですが、的確で繊細な演出がとても良かった。普通のあんちゃんかと思ったらキリングマシーンだったという設定やせつない雰囲気は『アジョシ』や『ディーパンの闘い』に通じるものがあります。そして食い物が美味そうすぎる。牛肉麺が食いたくなるハートフル・バイオレンスです。

↓以下、ネタバレ含む。








最初にナイフ一本で5人を皆殺しにするシーンでロンの殺し屋としての凄さを見せ、雇い主のところに戻って黙々と点心を作る姿に物静かで料理好きなところを見せる、この動と静の相反する側面を見せられてロンに好感を持っちゃうんですよね。加えてチャン・チェンの佇まいがいちいちクールでカッコいい。そんなクールさが続くのかと思いきや、田舎に逃れた後は「食いついたら離れないスッポンのようなお節介」の住民たちに何も言ってないのに世話を焼かれ、飯は食わされるわ仮住まいの廃屋はあっという間にまともな住み処にされるわPerfumeのTシャツを着るはめになるわで、「殺し屋ロン」が「ロンちゃん」になっちゃうギャップが実に面白い。というかあの住民の世話焼きっぷり、無一文の外国人でどう見てもワケありなのに、自分たちの解釈であっという間に「料理の上手い自慢のあんちゃん」に仕立ててしまうのが凄まじいです。そこにはもう人情しかないわけで、鬱陶しさはあるものの思わず流されてしまう心地よさがあります。途中の芝居のシーンがちょっと長すぎる気もしますが、概ね本当に善良な人々だと伝わるのがいいですね。

そんな流されるままになるロンが自ら起こす行動が、薬や食料をくれたジュン少年に飯を振る舞うこと、そしてジュンの母リリーをヤク中から救うことです。縛り上げられたリリーの悪態に耐えるジュンの健気さ、やがて落ち着いてきた母に寄り添う息子。リリーをヤク中呼ばわりしていた住民たちとも徐々に壁が取り払われていきます。一気に襲い掛かってきた後で収まるところを見つける感じの住民たちとの交流に比べ、ロンと母子との関係は少しずつ距離を詰めていく感じがとても丁寧。温泉宿で食事中に互いに視線を送る二人。卓球が下手すぎるロンが調子悪いなーと言わんばかりに素振りする姿に笑う親子。ジュンを強引に野球チームに入れさせたロンが、ヒットを打つジュンを見て思わずガッツポーズ。そして屋台を後ろから押すのが一人から二人になる帰り道。直接の会話はほとんどないですが、だからこそ暖かい。

ロンとリリーの関係が恋愛かと言えば微妙なところですが、リリーにしてみればジュンの父親である賢次との日々を思い出すものだったでしょう。賢次は地名の話してるのに「高雄」と聞いて「人か」と返し「人じゃない」と言えば「鬼か」と言う超バカですが、彼女を傷付ける者は鬼でも容赦しないという、リリーを思う気持ちはよく伝わってきます。そんな賢次が実はロンと絡んでいたというのは観ている者しか知らない事実ですが、それがあるからリリーが夢見ていた家族三人の生活をロンが担っていることが余計沁みるんですね。

しかしそんな暖かい展開を積み重ねるほど、不穏な予感は膨らんでいきます。ロンは写真を撮られることを徹底して避けるし、ひょっとしてこのまま暮らしていけるのでは、と思わせたところで、家族三人で屋台を運ぶという暖かさのピークに現れるヒモのクズ野郎。平然とロンの屋台に食べに来る厚顔さが心底憎らしいし、なぜ見つけられたのかとか、都合よく最初のヤクザたちと繋がるんかいなどと揶揄したくなるほどにショック。ロンにかかればこんな奴ら……と思いきや、ロンの正体をリリーは全く知らないため助けも求められないのです。三人で作った湯呑みを壊されて泣きじゃくるリリーの悲しさ。そして自ら終わらせてしまうというえげつないほどの苦さ。さらにはロンとジュンの屋台を破壊するチンピラたち。ここの畳み掛けるような負の展開は息苦しいほど。

それだけに凄まじい強さでヤクザどもを皆殺しにするロンの、本来ならテンション上がるはずであるナイフシーンの何という悲しさ。これほど泣きそうになり歯を食いしばるアクションシーンがあるでしょうか。終わって振り返ったときに皆が見る目。微かに後悔を滲ませるロンの表情。何より母を失い父をも失ったジュンの姿。やるせないです。

しかし住民たちのお節介がどれほどのものかという認識は、観る者の想像を越えているわけです。全てを失い台湾に戻ったロンが、喪失感に打ちのめされながら仕事の話をしてるときに現れる、まさかのスッポンたち。「なんでここにいるんだ」を繰り返すロンが、初めてあらわにする激しい感情。愛すべき息子と新たな人生を歩むロンは、もはや殺し屋ではなく「ミスター・ロン」という一人の人間となれたのです。

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