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2017
12.21

生きる、という名シーン。『人生はシネマティック!』感想。

Their_Finest
Their Finest / 2016年 イギリス / 監督:ロネ・シェルフィグ

あらすじ
映画作りは大変だ。



1940年のロンドン、コピーライター秘書のカトリンは情報省映画局の特別顧問バックリーにより、ダンケルクで兵士を救出した姉妹の実話を映画化する脚本チームに加わることとなる。しかし様々な問題に直面し製作は難航。なんとか撮影を続けていくカトリンたちだったが……というヒューマンドラマ。

第2次世界大戦中のロンドンで映画製作に情熱を傾ける人々が描かれます。作られる映画はちょうどノーラン監督『ダンケルク』でも描かれた脱出劇で、そこには出てこない一編を題材としたもの。戦意高揚というよりは、疲弊した国民に勇気を与えるという位置付けの映画のようです。主人公のカトリンは彼女を引き込んだバックリーらと共に脚本執筆に参加しますが、政府による横やり、ど素人起用の強要、ベテラン俳優のわがままなどトラブルが絶えません。さらにプライベートでもショッキングな思いをするカトリン。しかしその度に新たな工夫や調整をしながら、映画の完成へと進んでいきます。戦時下という制約のなかで人々に希望を与えるための映画作りに奔走する者たちの情熱、誇り、友情、愛。その製作過程や人物の心情に一喜一憂です。一方であっけなく失われる命という現実も描かれるんですが、それでも生を肯定する、というのが素晴らしいです。

主人公カトリンは『007 慰めの報酬』『ディストピア パンドラの少女』のジェマ・アータートン。キュートさと芯の強さとダイナマイトボディで観る者を虜にします。バックリー役は『スノーホワイト 氷の王国』のサム・クラフリン、皮肉屋で神経質ながらユーモアと公平さを持つ人物像に徐々に好感が持てるようになります。このカトリンとバックリーの掛け合いがとても良いですね。そしてベテラン俳優ヒリアード役のビル・ナイがさすがのいい味。ちなみにジェレミー・アイアンズも出てますが最近は『ジャスティス・リーグ』のイメージが強かったため観終わるまで気付きませんでした……。

タイプライターを叩く小気味良い音や、大変なときほど紅茶を飲んで一息つくといったイギリス人気質などの雰囲気も心地よいです。あと脚本に焦点を当てているだけあって台詞がいちいち良いんですよ。そしてラストに見せる、映画が持つ救済の力というのが泣かせます。映画好きには特に観てほしい一本です。

↓以下、ネタバレ含む。








映画撮影は次々と困難が襲いかかります。兵士たちを救った姉妹の設定を男に変えられそうになったり、ベテランだけにこだわりがうるさいヒリアードへの対応に困ったり、アメリカに売り込むために戦争で活躍したアメリカ人パイロットのランドベックを無理やりキャストに入れられたり(しかもスゴい大根)、戦時下というのを差し引いても映画作るのって大変だなーと思います。でもその都度工夫をこらしたりぶつかり合ったりして進んでいくんですね。バックリーの尽力で主役は女性のままになるし、出会い方もまずかったヒリアードに対してはカトリンの「あなたの才能と時間を使ってもらえるか」という上手い言い回しでその気にさせるし(この台詞、実生活でも使えそう)、おかげでランドベックの演技も徐々に良くなっていきます。ダンケルクの浜辺に並ぶ大勢の人が実は……という工夫も面白い。

そのうちスタッフやキャストのあいだに信頼感も芽生えていきます。最初はカトリンに態度の冷たかった秘書の女性もいつの間にかカトリンのことを気遣うようになっていくし、自分のペースに固執し脚本にまで口を出していたヒリアードがいつしか頼れる存在になっていく。みんなで酒場で飲みながら歌うシーンなどはそういう雰囲気の良さがよく出ています(ビル・ナイの歌まで聴けちゃう)。そんななかでいつしか惹かれあっていくカトリンとバックリーのもどかしい関係に、もうキュンキュンしちゃうわけですよ。バックリーのさりげなくブッ込むプロポーズにはヒャー!ってなりますね。カトリンが既婚者だからと控えていたのが、内縁の夫であるということを知り早くに現場に戻ってきた理由も察してでしょうが、その直後の対応のマズさがまたもどかしい。でもいつ死ぬかわからないご時世だから、というのはあるんですよね。そして脚本の直しと一緒にカトリンが残す、プロポーズシーンの「リライト」がまたときめきです。

直接の戦争シーンは本作にはありませんが、それだけに日常の風景に突然割り込んでくる爆撃のシーンなどには強烈に戦時下であることを意識させられます。その辺りは『この世界の片隅に』のよう。序盤からしていきなり空襲にあうカトリン。転がるマネキンのなかに、マネキンのような人間の死体があるという凄惨さ。ついさっきまで会話をしていたヒリアードのエージェントが次のシーンでは死体に変わっている。爆撃で揺れるビルで天井から落ちてくる破片、ビルから出たら見るも無残に破壊されている通り。大家が空襲で吹っ飛ばされたと言う秘書が「いつまで生きてるかわからない、時間を無駄にしないで」と言うのは、当時の人々の痛切な思いでもあったでしょう。別れ際の台詞が「空爆の下に立たないように」というのもそんな思いの表れであろうし、ランドベックの演技を憂う人たちにスタッフの一人が言う「それでも彼は英雄だ」みたいな台詞は命を懸けて戦う者への敬意でもあります。それだけいつ誰が死ぬかわからないという状況です。

ところがベックリーは戦争とは関係ないところであっけなく命を落とします。しかもカトリンと心が通じあったその直後というのがあまりにやるせない。しかしふさぎこむカトリンの元へやってくるヒリアードは、たとえ大きな喪失があってもチャンスに背を向けるのはいけない、と言います。死に生を支配させてはいけないと。人生がいつ終わるかなんて誰にもわからないわけで、だからこそ生きることに懸命であれということでしょう。ヒリアードはその去り際にスターぶったふりをするお茶目さを見せたりして、彼もまた当初からずいぶん変わっているだけに説得力あります。エージェントの姉さんに最初は見限られそうだったのが最後は見初められちゃうし、いいキャラです。

そうして自分たちが作り上げた映画を観に行くカトリン。ヒリアードが海に潜ったりランドベックが友を看取ったり(彼の演技が抜群に良くなってる!)、撮影時にああだこうだとやっていたシーンがしっかり反映されており、その時のカトリンたちの姿がダブって見えるのが嬉しくて、じんわりします。しかも映画の終盤に、たまたま撮ったのであろうカトリンとバックリー二人が仲良くはしゃぐ姿が街の風景として映るのです。映画のワンシーンみたいだな、と思ったシーンが本当に映画のワンシーンに。それはカメラが切り取ったカトリンの人生への讃歌であり、まさに『人生はシネマティック!』であることの体現。そして原題の『Their Finest』の一編でもあります。

鑑賞後にカトリンの隣にいた男性が「2回目からは笑える」と言い、反対側の女性が「私は5回目よ」と言う、つまり何度も観ている人たちがいるということです。自分たちが情熱を注いだ映画が、バックリーが言っていた「人生の一時間半を捧げるにふさわしい作品」になっていたことの喜び。それを分かち合うべきバックリーはもういませんが、それでもまた人生を歩み始めるカトリンの姿に涙します。そしてこの映画に捧げた時間の豊かさを噛み締めるのです。

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