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2017
11.16

雷神の覚醒、神々の黄昏。『マイティ・ソー バトルロイヤル』感想。

Thor_Ragnarok
Thor: Ragnarok / 2017年 アメリカ / 監督:タイカ・ワイティティ

あらすじ
「助けて」はイヤだ。



ウルトロンとの戦いから2年、アスガルドから追放された父オーディンを捜しにニューヨークへやってきたソーの前に、突然現れた死の女神ヘラ。その強大な力で宇宙の果ての惑星に飛ばされてしまったソーは、その星で捕まり格闘大会の出場者として無理やり戦わされるはめに……。雷神ソーの活躍を描く『マイティ・ソー』シリーズ第3作。

マーベルコミックのヒーロー映画、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の17作目は、『アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン』以来の登場となるソー、その単独作第3弾。『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』で姿を見せなかったソーが、実は思いの外大変な目に遭っていた、というのが描かれるんですが、やべえもう超面白い!何が面白いってこれコメディなんですよ。ソーと言えば別世界だったり超常的だったり魔力だったりとMCUのファンタジックな部分を司る北欧神話の神々に沿った世界観なわけですが、そこに「笑い」を持ってくるという発想がブッ飛んでます。前作『マイティ・ソー ダーク・ワールド』にも兄弟コントなどのコミカルなシーンはありましたが、比じゃないです。

物語は、ソーが父オーディンから世界の終末「ラグナロク」のことを聞かされたのと時を同じくして、死の女神ヘラが登場しアスガルドが壊滅の危機に陥るという、どう考えても重くなる展開なんですが、それでいて冒頭からソーが「俺はヒーローだ」と言っちゃう軽やかさ。「私がアイアンマンだ」とか「俺たちは銀河の守護者だ」とか言うのはあったけど、自分をヒーローと言ったやついたっけ?そんな感じで笑い連発。さらにはソーと同じく『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』不参加のハルクも思わぬ形で登場、暴れまくるうえに、ソーとの珍道中を繰り広げます。でも笑いだけではなく、しっかりと豪快なアクション、アスガルドや未知の惑星での冒険活劇なども入れ込まれてます。そして笑いとアクションとスペクタクルが解離することなく融合している、これが素晴らしい。

ソー役のクリス・ヘムズワースは『ゴーストバスターズ』とは別の方向でバカ度増してますが、でもカッコいい。義弟ロキ役のトム・ヒドルストンは『キングコング 髑髏島の巨神』でのスマートさもなくはないけどやはりバカ度増し。ヘラ役は『キャロル』のケイト・ブランシェット様、妖艶さもありつつヤバさの方が上回ってます。ヴァルキリー役は『クリード チャンプを継ぐ男』のヒロイン、テッサ・トンプソン。強く美しく酔っ払い!そして『スター・トレック BEYOND』のカール・アーバンがスカージ役で『ジャッジ・ドレッド』以来のアメコミ映画復帰だ!グランドマスター役で『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』のジェフ・ゴールドブラムがノリノリだし、オーディン役のアンソニー・ホプキンスも続投、ほかあの人やこの人やあんな人まで登場して楽しいです。

MCUとしては異色中の異色だし、ソーのシリーズとしても弾けまくり。『アントマン』よりも自由で『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』よりもコミカル。ソーの世界観でこんなものを作ってしかも馴染むとは驚愕ですが、過去作や他のMCU作品もしっかり踏まえてるので浮いてるという感じはないです。さすが『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』で異質な吸血鬼コメディを作り上げたタイカ・ワイティティ。荘厳だったり軽快だったりする音楽も面白い。何よりソーというキャラの幅を広げているのが良いなあ。最初から最後まで面白いです。

↓以下、ネタバレ含む。








■笑いは終末を救うか

冒頭、鎖が回ってスルトの話を遮る、しかもそれを重ねる、というところから笑います。ムジョルニアが到着するまでの間で笑わせるというのは後でストレンジ先生のところでもやらかしますね。という感じで初っぱなから「これはちょっと今までと違うぞ」と思わせてきます。そしてスルトとの会話でオーディン不在を匂わせ、直後は怒濤のムジョルニア・ラッシュ&『移民の歌』でガン上がり。ドラゴンまで出てくる派手な展開にムジョルニアを重石にして足止めするという小ネタまで入れ、かつソーがインフィニティ・ストーンを探して諸国漫遊してるらしいという背景まで知らしめるという、このアバンタイトルだけで現状説明と作品のトーンを表しているのが秀逸。

アクションは冒頭に限らずパワーとスピードを同時に描き、カット割りも見やすく、ドラゴンやフェンリル、巨大化スルトなどのデカさを活かすために空間の使い方も工夫されています。ソーvsハルクのパワーバトルはコロシアムのスペースを文字通り縦横無尽に使ってド迫力だし、ヘラのアスガルド兵皆殺しのスピード感はこれ以上ない強さを見せつけてくれますね。ヴァルキリー登場時の機銃一掃やヘイムダルの剣劇シーン、敵の攻撃の隙間を回転して避けるロキなど、各キャラの見せ場も様々に満遍なく用意しているのがサービスいいです。

舞台はアスガルド→地球→惑星サカール→アスガルドと移っていきますが、それぞれ全く違うので変化があって面白いです。地球でもニューヨークの雑多感、ドクター・ストレンジの館のミステリアスな感じ、北欧神話の舞台でもあるノルウェーの開けた岸壁でのドラマとあるし、サカールはおもちゃ箱ひっくり返したようなゴチャゴチャ感と多様な人種が混在するカオスさが楽しい。美しく荘厳なアスガルドは、あれ惑星じゃなくてお盆に街が乗ってる感じだったんですね。それこそ神話のよう。あと『ラピュタ』のよう。

ヴァルキリーがヘラと戦う過去を超スローの宗教画のように美しく描くのが『インモータルズ 神々の戦い』のようだったり、ぶん投げられてグルグル回転するのは香港映画のようだったり、空中戦はそれこそ『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を彷彿とさせたりと、監督のサンプリング・センスが良いです。ちょっと粗いところもありますけどね。ヴァルキリーがチームに加わるのは動機はわかるけどきっかけがよくわらないとか、ロキはスルト復活後いつの間に脱出したのかなど。でもまあ気になるほどではないです。


■リベンジャーズ

今作のソーはよく喋るし随分とフレンドリーだし、コメディに寄ってることもあって脳筋というより隣のあんちゃんという感じが増していて軽やか。銃も撃つし、宇宙船の運転もできるぞ。最初にハルクに会ったときむっちゃ嬉しそうなのが可愛いし、カッコよく投げたボールが跳ね返ってブチ当たるズッコケぶりも面白い。ナターシャの真似してバナーをなだめようとするときの「日が沈む」がしつこくて笑います。雷様(Lord of Thunder)じゃない、雷神(God of Thunder)だと繰り返しますが、グランドマスターのいとこが溶かされたときに「オー・マイ・ゴッド!」って言っちゃいますね、神様のくせに。1作目の頃はわりと粗雑で頑固というイメージだっただけに、今作でキャラの幅が大きく広がったのは良いと思います。ムジョルニアが傘に化けるというのも楽しいアイディア。『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』の頃にオーストラリアの一般男性の家に住み着いて暇をもて余す、という動画が公開されたりしたのもあって、この変化もさほど違和感ないですね。あとしっかりクリヘムの半裸シーンがあるのがちょっと笑います。

そんなソーの義理の弟ロキは、両親の死や何だかんだでソーとの絡みもあったせいか多少は丸くなった感じもありますが、裏切り癖もなかなか抜けないようです。でもソーに「読まれやすくなってるぞ」と言われるようにマヌケ度アップ。ストレンジ先生のせいで30分落ち続けたり、ずっとビリビリしてたり大変です。コロシアムでハルクを見たときの超ガクブルな顔とか、ソーがハルクにビタンビタンやられて大喜びとか(『アベンジャーズ』のとき自分がやられた)、捕まったときの「サプラ~イズ」などは最高。兄弟漫才コンビ復活も嬉しいところで、「助けて」には爆笑ですよ。確かにあれは屈辱だろうなー。ロキは自分の劇を上演させてご満悦なように自分大好きですが、今作では逃げずにコーグたちと共にアスガルドにやってきて戦うのが熱いです。でもしっかりツノ兜は被ってるのがイイ。

ハルクの登場時は緑の煙幕や熱狂の観衆、入口をブチ壊しての入場、グラディエーターな衣装と、プロレス的盛り上げ方が楽しいです。ナターシャがいなかったためか2年ものあいだ(ひょっとしたらもっと長く)ハルクのままだったため、よく喋るようになってるし感情表現も増えてるしとバナーとは違った人格がちょっと目覚めてる感じです。風呂にも入るし。記憶に刻まれるフルチンだし。地球では嫌われ者だという劣等感を抱えサカールにいようとする姿はちょっと気の毒なほどですが、とは言えもうバナーには戻れないのか、マーク・ラファロは顔出しNGなのか、という心配が杞憂に終わって一安心。しかしクインジェットに「最強のアベンジャーズ」って言わせたり、ズボンの股間がきつかったり、急に宇宙船の運転手まかされるのが『カリオストロ』の銭型みたいだったりとバナーさんもコメディ化激しいです。「次にハルクになったら二度と戻れない」という台詞が不穏ですが、「僕の正体は!」つって飛び降りたらハルクにならずに激突した時点で死亡です。さらばラファロ……(復活待ってます)。

ヴァルキリーの名は本来は女戦士部隊のことを指すので本当の名前は「スクラッパー142」とは別にあるんでしょうが、唯一の生き残りで部隊を体現する者としては似つかわしい呼び名です。腕の動きとリンクして虐殺するガンシップがイカす!あえて酒に溺れるヴァルキリーの心情は、ロキに記憶を覗かれブン殴るときに一瞬見せる悲しげな表情によく表れています。グランドマスターの乱行パーティ船を活かして、花火をバックに登場する姿が最高。ただソーの仲間だった女戦士シフが今回は出てこないのは、そのあおりを食らったんですかね。ソーを呼ぶときの「王子様(My Majesty)」が最初はちょっと適当っぽいですが、終盤は少しだけ敬意を感じさせるのが良いです。アスガルドへの経路をソーに聞かれて「ザンダーを経由」と『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に出た惑星の名がサラッと出るのはちょっとニヤリとしますよ。ところでバナーとヴァルキリーが「どこかで会った気がする」と言うのは何のネタなんですかね?

かくしてソーの思い付きで命名された新チーム「リベンジャーズ」。適当そうな名前ながら役割分担もできていて思ったよりチーム感ありました。予告と違ってハルク、ソー、ロキ、ヴァルキリーが並ぶシーンは本編にはなかったのがちょっと残念ですが、4人それぞれの見せ場がバランス良くて楽しいです。あと忘れちゃならない『パシフィック・リム』イドリス・エルバのヘイムダルが、その強さを発揮してくれるのも嬉しいところ。イドリス足長いなー。そう言えばロキの演劇シーンで演じる役者陣が超豪華カメオなんですね、全然気付かなかった。ソーを演じる役者はクリヘムに似てるなあと思ったら、それもそのはずクリヘムの兄ルーク・ヘムズワースでした。さらにはオーディンを演じる役者はサム・ニール!ロキを演じる役者はマット・デイモンですよ!二人とも言われないとわかりません。それにしてもついにマット・デイモンがヒーロー映画、それもMCUに参戦!盟友ベン・アフレックはDCなのにいいのか?というのをちょっとだけ心配しました。


■死の女神

ソーたちの前に立ちはだかるのが死の女神ヘラ。しょっぱなのムジョルニアをキャッチしそのまま砕き散らすのは非常にショッキングです。ソーの実の姉だからできたわけですね。あまり心情が表に出ませんが、ケイト・ブランシェットの佇まいだけでもう十分ごちそうさまです。髪を下ろした姿とツノツノしいマスク姿、その中間で目のまわりが肌色の3バージョンあるのが細かいです。アスガルドから力を得るから槍で貫かれても平気なほど治癒力がスゴいし、ガンガン刃物を生み出して剣を投げまくるのも凄まじい。巨大狼フェンリルを従えるのもカッコいいですよ。覚醒したソーでさえ勝てないほどなので、序盤に少々マヌケだったスルトにやられるのはちょっと意外ですが、タイトルでもある「ラグナロク」の面目躍如と言っておきましょう。

ヘラの手先となるスカージは良いですねえ。一緒に戦ったソーに覚えてもらえてないというザコの悲しさがあるんですが、それだけにビッグになりたいという野望を持っています。でもヘラの処刑人として刃を振るおうとするときも躊躇するし、悪人になりきれないところがイイですね。と言うかカール・アーバン好きなので、遂にMCUに参戦か!と嬉しかったんですが、残念ながら退場となってしまいました。最後に民を守るため、誰にともなく「アスガルドのために」と言って飛び降りる姿、何となく予想はしてたけどそれでもカッコいいし、劇中一番泣けました。序盤でマヌケさ全開に自慢していた「デス」と「トロイ」の二挺マシンガンが、名前通りにゾンビ兵をデストロイしてスカージを男にしたというのもたまりません。

ヘラとは別の意味でソーを苦しめるグランドマスターは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に出てきたコレクターの兄ですが、予想外にすっとぼけた愉快なおじさんでした。ヴァルキリーに頬を触られて喜んだりして、こんな面白いジェフ・ゴールドブラムは見たことないです(奇しくもサム・ニールとの『ジュラシック・パーク』共演だ!)。エンドロール後で瓦礫のなかに佇むのがコレクターと似てますね。と言うか、すぐにメルト・スティックで溶かそうとするお付きのおばちゃんの方がヤバいです。グランドマスターの闘技場戦士コーグは、厳つい体ながら飄々としたキャラでまさかの活躍。ワイティティ監督自らが演じているそうで、ソーに三又の槍を示して「ヴァンパイアを三人同時に倒せる」と言うのはおそらく『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』ネタなんでしょうね。「革命いただきました!」という字幕が上手かったです。

MCUからは『ドクター・ストレンジ』のスティーヴン・ストレンジことベネディクト・カンバーバッチがゲスト出演。なんかさらに力を増してないか?魔術を使うロキでさえ全くの子供扱いで、いつの間にかすっかり地球の守護者です。『ドクター・ストレンジ』のエンドロール後のシーンが本作に繋がっていたわけですが(あの無限ビールジョッキほしい)、『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』のマーティン・フリーマンとの邂逅はならず『SHERLOCK』コンビの揃い踏みはおあずけです。


■喪失と旅立ち

爆笑シーンや激アツ展開とは裏腹に、本作はMCUのなかでも最大と言ってもいいほどの「喪失」の物語です。1作目から多大な働きをしてきたムジョルニアの喪失。ソーのシンボルでもあるハンマーが序盤で失われてしまうのは、ソー同様に寂しいです。トレードマークでもある長髪も切られ(切ったのはスタン・リー御大なのでしょうがない)、片目をも失ったソー。終盤にはすっかり様変わりする大胆なイメチェンには「いいのか?」とちょっと不安になるほど(代わりに原作のような兜を被るシーンがありますがあれはサービスでしょうね)。そして父オーディンの死と、シリーズで共に戦ってきた「ウォリアーズ・スリー」ことファンドラル、ヴォルスタッグ、浅野忠信演じるホーガンの死。さらには故郷アスガルドの崩壊。まるで神話の終わりを告げるかのようです。ついでにジェーンとも完全に別れたことも判明(ニューヨーク中の人が知ってるっぽい)。しかも最後にはムジョルニアもウォリアーズ・スリーも復活するんじゃないか、となんとなく思ってたけど、これがしないんですね。実に無情。

これをシリアスに描いていたら重くて耐えられなかったでしょう。コメディだったことで重さは緩和されてはいますが、寂しさは拭えません。しかしこれらの喪失により、ソーの物語は一歩先へ進んだとも言えます。「ムジョルニアは力を制御するものだった」というオーディンの言葉通り覚醒するソー。雷を伴い手を触れずとも雷撃で倒していく姿はまさに「雷神」。バックに流れる『移民の歌』の歌詞を読むと、前半では「ハンマー」、後半では「すべてを失っても」という歌詞があって、この曲を2回流した意味を何となく汲むことができます。また序盤の「アスガルドは場所ではない、民だ」というオーディンの言葉に従うことで、民を救ったソー。この言葉を終盤でヘイムダルが繰り返すのも象徴的。そうして多くのアスガルド人を乗せた移民船は、一路地球へ向かうことになるのです。実に大胆な舵の切り方ですが、進化し続けるMCUの真骨頂とも言えるでしょう。

一つだけ喪失を免れたのが、ソーとロキの兄弟関係です。今まではロキを救いたいと思っていたソーが、本作中盤ではハッキリとロキに決別宣言をします。しかしまた敵対関係に戻るのかと思いきや、逆にロキはソーを見捨てず助けに戻ってくるんですね。ロキにものを投げて幻か確認する、という繰り返しのギャグを、「いたらハグしてる」と投げたらキャッチして「いるよ」と、最後に持ってくるのはズルくないですか!泣くわ!四次元キューブを見つけたロキがそれを隠し持ってる可能性は高いし、タイトル後には巨大な船(おそらくサノスの船でしょうね)に出会ったりと先行きは怪しいものの、最後に並んで立っているのがこの二人、というのはシリーズを通してみると感慨深いです。

さあ、ソーの次の出番はいよいよ『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー』!楽しみ!

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