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2017
11.10

違和感と恐怖の里帰り。『ゲット・アウト』感想。

Get_Out
Get Out / 2017年 アメリカ / 監督:ジョーダン・ピール

あらすじ
T・S・マザファッキン・A!



白人の彼女ローズの実家へ招待された、黒人写真家のクリス。家族には歓迎されたが、黒人の使用人がいることには違和感を覚えていた。その翌日に、ローズの亡き祖父の友人が集まるパーティに出席したクリスは、さらに何かがおかしいという気分に襲われる……。という異色のホラー。

黒人男性と白人女性のカップルが、郊外にある彼女の実家に泊まりがけで遊びに行ったら大変なことに、というホラーと言うかスリラー。その設定から、てっきり人種差別がエスカレートしていく恐怖を描いた話かと思ったんですが、彼女の両親はオバマもタイガー・ウッズも大好きだと言うし、むしろ黒人に理解のある人物に思えるので肩透かしを食らいます。でも何かが変。どこかが歪。そして全く予想もしなかった展開に度肝を抜かれます。脅かし系ではないけどこれは確かにホラーであり、かつ不穏さ、恐怖、皮肉、グロ、笑いが奇跡的なバランスで成り立った凄まじい面白さ。いやスゴい!

クリス役は『ボーダーライン』でエミリー・ブラントの相棒だったダニエル・カルーヤ。ドングリまなこが印象深いです。ローズ役のアリソン・ウィリアムズはちょっとシャープな美人という感じ。このカップルが人種を越えて仲睦まじげで良いんですが……。あとは『バリー・シール アメリカをはめた男』ケイレブ・ランドリー・ジョーンズがまた危なっかしい雰囲気を醸し出してます。監督のジョーダン・ピールはアメリカのお笑いコンビ「キー&ピール」の一人で、これが初監督作なんだとか。才人ですね。

黒人というだけで疎外感を感じるという社会の病理、という重いドラマがあるのかと思ったら、まさかこうくるとは。その語り口の上手さには脱帽。これはもう何も知らずに観てほしいですね。遡ってあれはそういうことか、みたいなのが山ほどあるし、ああでも何言ってもネタバレになりそう。とにかく面白いです。

↓以下、ネタバレ含む。








■差別に見えない差別

人種差別という点では『ドリーム』に通じそうなものなのに、序盤は全然そんな感じがしないんですね。クリスと会ったローズの両親もごく自然、むしろ浮かれてさえいて、父親などは玄関先でぴょんぴょん跳び跳ねてるくらい。そしてそれは例えではなく、本当に浮かれていたのだ、というのが後からわかります。皆がどこか差別とは違った観点でクリスに接し、黒人の著名人の名を上げて褒め称える。排他的な差別はないのに、なぜか黒人であるということを意識した接し方です。しかしこれもまた差別という点では違わない、むしろ人間としてさえ見ておらず、ただの献体でしかないわけですね。しかもそれを心底喜んでいて、罪悪感が微塵もない。ここが怖い。

そんな中心にある怖さに向かって、周りから少しずつジワジワと囲い込んでくる演出がいい意味でイヤですねー。冒頭の鹿の死体による暗示、そして鹿の剥製が展示されているという皮肉。なぜか抜かれているスマホの充電コード。元ミュージシャンなのに黒人らしい挨拶を返さないローガン。黒人の優位性を問う日本人。クリスが二階に上がったら一斉に会話を止めてそちらを見る人々。そして黒人男性と写るローズの大量の写真。どこかおかしい、何かが不自然、でも真相がなかなか見えない。ついには文字通り囲い込まれて、最悪の予感に怒声を上げるクリスと、その予感を一瞬で現実にするローズ。ここにおいてもなぜクリスが捕らえられようとしているのかはまだわからないわけです。


■境界線上にいる違和感

ここまでのひたすら不気味なお膳立てがあるので、アーミテージ家の秘密が突飛なものであってもそんなに気にならないですよ。結社とか凝固法とかいかにもそれらしい説明も科学なのかオカルトなのかよくわからなくなるし、現実に起こっているのにどこか非現実的だし、「沈んだ地」に囚われて目の前にいるのに手が届かない感じなどもあって、境界線があやふやになるのが面白いです。催眠術を使う心理療法家の母に、移植に長けた神経外科医の父、餌付けの姉に実力行使の弟。『悪魔のいけにえ』レベルの恐怖家族ですね。

伏線の張り方も多岐に渡り、ビンゴにしては静かでなぜかクリスの写真が飾られているのは実はオークションだったとか、泣きながら笑うジョージナの涙は元の人格によるものだった、というのはわかりやすい方で、後から思い出して意味を見出だすところも多いです。序盤で警察への身分証提示をローズが拒否するのはクリスが行方不明になっても探されないためでしょう。夜中にまっすぐ走ってくる使用人ウォルターは最初は意味わかんないですが、あれは陸上で黒人に負けた祖父が新たな脚力を楽しんでるってことでしょうね(なぜ夜中に走ってるのかは謎ですが。ここむっちゃ怖い)。ローズ最高!みたいに誉めるのも、惚れてたとかではなく祖父目線だったわけです。

冒頭で黒人男性を拉致するシーンはワンカットが凄いですが、このときの襲った人物はクリスにもかまそうとしたチョークスリーパーから弟ジェレミーなのだろうし、家政婦ジョージナがしょっちゅう鏡や窓で髪型を気にしてたのは頭の傷を隠すズラを気にしてたということ。そしてローガンが「出ていけ!」と言うのは、フラッシュで出てきた過去の記憶がクリスにここを出ろと警告したのでしょう。あるいは頭のなかの別人に出ていけと言っていたのかもしれず、『ゲット・アウト』というシンプルなタイトルにそこまでの意味を含ませてるのが良いです。他にももう一度観たら色々と気付くところがありそうですね。


■強引さと笑い

たた、クリスがはねたジョージナを車に乗せてしまうのがかつて事故に遭った母親を救いに行かなかったから、というのはわかるんですが、そのためだけに母親の設定を付けたように思えるのが引っ掛かります。父が献体を連れてくる前にパッカーンて開けちゃうのはマヌケすぎですが、これもグロ描写を入れたかったからなんでしょうね(あの盲目の画商はどうなったのだろう……)。あとクリスがタバコ吸いに外に出なかったらどうするつもりだったのか。喫煙の罪悪感から母の誘いを断れなかったんだろうし……そこは実績あるからいくらでも手はあったんでしょうけどね。そもそも入れ換えてるのに過去の記憶が交錯するというのも強引ではあります。というように若干の都合のよさを感じる点はありました。

基本的におっかない話なんですが、そのなかで笑わせてくれるのがクリスの友人ロッドです。もう話し方がいちいち面白すぎて、そりゃ警察の人たちも爆笑しますよ。ローズの電話を録音しようとしたら思惑がバレて、自分がストーカー扱いされるような返しをされての「あの女、天才か」には笑います。ロッドが「性の奴隷だ!」を連呼するから、アーミテージ祖父の「一部を入れ替える」という説明にてっきりチン○のことかと思わせるのも罪深い(実際それ目的もあるのだろうけど)。でもこいつはダメだと思わせてのラスト、クリスの元にやってきたパトカーがてっきり序盤に出てきた白人警官で万事休すかと思いきや、ですよ。最後にいい仕事しておいしすぎます。


■出ていくべきは誰か

催眠術打破の秘策から、一回倒したと思ったら復活する弟、母親との催眠誘発スプーンの奪い合い、愛が憎へと変わるローズとの対決、ウォルターへの反撃のフラッシュなどの畳み掛けるアクションもスリリングです。父親は死の象徴だった鹿の角で撃破、というのも溜飲も下がるし、本当のウォルターが最後にとる行動がちょっと悲しかったりもします。そんなエンターテインメントな面白さに溢れた本作ですが、そこに人種差別というテーマがしっかり含まれているのがやはり特徴でしょう。差別する側だけでなく、クリスがローズの実家に行く前に「黒人であることを話したか」と言ったり、ローガンに「黒人がいて安心した」とこぼしたりするように、黒人側が被差別意識を感じてしまう、というのが問題の根深さを物語ってもいます。それを娯楽作のなかに風刺的に入れ込むことで、よりテーマを強調させているのが上手いです。

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