FC2ブログ
2017
11.04

先読みと不意打ちのアテナ。『女神の見えざる手』感想。

Miss_Sloane
Miss Sloane / 2016年 フランス、アメリカ / 監督:ジョン・マッデン

あらすじ
騙しても騙されないこと。



大手ロビー会社でロビイストとして活躍してきたエリザベス・スローンは、銃規制反対のキャンペーンを断り、銃規制派の会社に移籍してあらゆる戦略を駆使し規制法成立へと突き進む。しかし予想外の事件によって事態は悪化していくことに……。政治を影で動かすロビイストの実態に迫る社会派サスペンス。

ロビイストとは、個人・団体問わず特定の主張を政府の政策に反映させる政治活動=ロビー活動を行う人物・集団のことです。日本ではあまり馴染みがないですが、アメリカでは上院議員などを取り込んだりあらゆるキャンペーンを張って世論を動かしたりして法案を成立させたりということはよくあるようで、不勉強ながらロビー活動を行う会社というのまであるというのは初めて知りました。

本作はそのロビイストに焦点を当てたものですが、いやもうこれが面白い!敏腕ロビイストであるリズことエリザベス・スローンが、女性にも銃の必要性を認めさせよう、という会社の方針に逆らい、真逆である銃規制法案の成立に注力する小規模な会社に移籍してしまいます。最初こそ怒濤の会話の応酬に戸惑うものの、リズの違法スレスレの、ときにはアウトな手段を選ばぬやり方で、二転三転する物語には釘付け。

リズ役は『オデッセイ』『クリムゾン・ピーク』のジェシカ・チャステイン。何と言っても彼女が魅力的で、横暴とも言えるバイタリティには(一緒に働きたくはないけど)シビれるものがあります。他の人物もなかなか個性的で、ググ・バサ=ローの演じるエズメの複雑な立ち位置、『キングスマン』のマーク・ストロングが演じるロドルフォの落ち着いたキレ者感などは良いです。ほか『インターステラー』のジョン・リスゴーなどが出演。

決して心は許せないがこれほど心強い味方もいないという主人公リズの、快刀乱麻を断つ痛快さがありつつ、ふと見せる本質にも引き込まれます。伏線の張り方も時には大胆に見せていたりと自在、背景にある銃社会問題の取り込み方もいいバランス。最初から最後まで面白いです。

↓以下、ネタバレ含む。








頭の回転が早く、弁が立ち、何より先を見通す力に優れているリズは、銃規制側へ回った途端に怒濤の攻めで元古巣を追い詰めていくのがホント容赦なくて、敵に回したらヤバい感がスゴいです。でも一方的というわけでもなく、しっかりピンチも迎えるのが上手いところ。盗撮盗聴までやらかすのはさすがのロドルフォも認めることはできないし、テレビ討論で憲法を侮辱するのには失敗したのかとハラハラするし、そこでエズメの過去を明かすというのには効果としては大きくても人としてはどうなのかと思います。何よりエズメへの銃撃未遂事件での劣勢は想定外であろうし、オフィスで一人荒れる姿があったりと緩急があったりしてダレるところがないです。

会話量は多いけど会話劇というわけではなく、見せるところはしっかり映像で見せています。展開は予想外ですが完全な騙しというわけでもなくて、フロリダ行きの提案で裏切者を炙り出す前に元同僚のコナーズが電話していたり、1500万の支持者獲得の前にロビー活動の一つでフェミニスト団体に会うところも映してあったり、関係あるカットを挟んでいるのがフェア。ラストの大逆転でも直前でジェーンが辞表を提示するのがまた良くて、それも一度ジェーンへ電話するシーンがちゃんと入っているんですね。寂しいから思わず電話したのかと思ったら、腹心の部下とそうやって連絡を取り合っていたということで、あのときは会議中だから切ったのでしょう。ジェーンは序盤で「学問の道に行きたい」と言って「社会こそ実践の場」と返されていたので、最後にリズの作戦に乗ったのかもしれません(専門が何かはちょっとわかりませんが。見逃したかな?)。遡れば序盤のインドネシアに関するサインの件も作戦のうちだったわけで、もう一度観直すとどう動いていたかがより理解できそうです。絵になるショットも色々ありますね。リズがチーム全員を外に連れ出すところなどはクールでアガります。

仲間のメガネ君が何か喋ろうとすると先回りされるとか、まだ新人ぽい方のメガネ君がバカ正直に違法性を訴えたり、議員のパーティーでの質問で囮にされた女性のその後も続く不快そうな表情に裏切るんじゃないかと思わせたりと、仲間たちの描写も面白いです。烏合の衆ではないプロっぽさをちゃんと感じさせてるのも良いですね。ロドルフォについてはリズも「優れた洞察力がある」と誉めていて、ちゃんと実力ある者は認めてたりします。それだけにロドルフォの「私は敵ではない」と言うシーンを思い返したとき、そのときのリズの心境を思うとちょっとせつないものがあります。

しかしリズの本心が実際どうなのかは微妙にわからないんですよね。そもそもは自分をナメてかかった会社と協会への怒りであり、そこには女性を票数としか見ていない老人たちへの反抗心というのもあったでしょう。加えてあえて資金もなく劣勢な銃規制派側で勝つことで評判とプライドと勝利の愉悦を得ようとしていたというのも、最後には自らそう言っているように嘘ではないと思われます。ただ、銃規制に信念があるわけではないのでしょうが(それも微妙ですが)、敵が最初から自分のプライベートを狙ってくるのはわかっていたと言うし、すると作戦を仲間にも隠し通していたのは他の者を巻き込まないためであったかもしれません。エズメを復帰させようとするのも彼女の言うとおり利用しようとしてるのかもしれないし、でも本心かもしれない。それらはあえてボカしているように見えますが、少なくとも結果として訪れる孤独については最初から覚悟していたのでしょう。

人前では決して見せないものの一人のときには癇癪を起こしたりもするし、不眠のため(あるいは眠らないため?)に薬に頼っているし、一息つくのはトイレの個室くらい、そこにも秘書がついてきたりもします。食事はいつも同じ中華。性欲はエスコートサービスで処理。傍から見ればちょっと寂しい人にようにも思えるし、勝利にこだわりすぎて自分でも自身の心がわからなくなっているようにも見えます。エスコートサービスのフォードの前で「気持ちが乱れているから」と言って帰すシーン、銃撃事件のために去ったエズメの前にきて「一線がわからない」と言うシーンには、リズが崩れそうになっている姿が垣間見えます。味方と敵で区別できるうちはいいけど、その垣根が曖昧な関係には弱いのかもしれません。

クライマックスは法廷劇としてもスリリング。特にフォードの召喚に絶体絶命と思わせてからの思わぬ展開、彼は最初の登場時は印象悪いだけに、偽証罪を突き付けられても真実を言わない態度が熱いです(と言うか素晴らしいアフターサービス)。そうして最後の最後でリズが突き付ける起死回生の大逆転には震えます。冒頭の「ロビイ活動とは予測すること、相手の不意を突くこと」という台詞を、ここで再度もってくるのは快感。ジョン・リスゴーの上院議員は若干とばっちりな気もしますが、恐喝されたためであっても腐敗には変わりないのでしょうがないですね。仲間たちは歓喜、リズを嫌っていた弁護士さえ最後には愉快そうな笑顔を見せます。しかしリズ自身はニコリともしません。自身を犠牲にした勝利だからなのか。しかし最後にエズメと見つめ合う表情を見ると、あの銃撃が決して本意ではなかったという悔恨の気持ちさえ見られ、それがリズの本質を少しだけ感じさせてくれます。出所した後のラストショットには清々しさと同時に寂しさが感じられ、余韻に浸らせてくれるのも良かったです。

スポンサーサイト



トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1308-da83c9b4
トラックバック
back-to-top