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2017
10.30

冷静と情熱のベルリン。『アトミック・ブロンド』感想。

Atomic_Blonde
Atomic Blonde / 2017年 アメリカ / 監督:デヴィッド・リーチ

あらすじ
ブロンド美女にご用心(というレベルではない)。



1989年、ベルリンでMI6の捜査官が殺され、最高機密の極秘リストが奪われてしまう。MI6の諜報員ロレーン・ブロートンは、リストの奪還と二重スパイを見つけ出すという指令を受け、ベルリンに潜む諜報員のパーシヴァルと共にリスト争奪戦を繰り広げるが……。アントニー・ジョンソン原作によるグラフィックノベルをシャーリーズ・セロン主演で映画化したサスペンス・アクション。

冷戦末期のベルリンを舞台に、諜報員の名前が記された極秘リストを巡りイギリスやロシア、フランス、アメリカなどの諜報員が複雑に絡み合う、というスパイもの。主人公はイギリス秘密情報部(MI6)のロレーン・ブロートン、演じるのが『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『ワイルド・スピード ICE BREAK』のシャーリーズ・セロンなわけですが、これがもうスゴい!言わずもがなの美貌とラフなブロンドヘアによるセクシーさ、けだるい喋り方のアンニュイさに取り込まれ、そして一転、男どもを次々となぎ倒すアクションの力強さにガン上がり。それもセロン主演の『イーオン・フラックス』のようなスタイリッシュなものとは異なり、泥臭いほどのリアル志向格闘アクションであるというのが驚きです。監督が『ジョン・ウィック』の共同監督でもあるデヴィッド・リーチということで、銃を拳に変えての激闘にはエキサイト。

MI6のパーシヴァル役である『X-MEN:アポカリプス』『スプリット』のジェームズ・マカヴォイが、『フィルス』並のクズヴォイなのもたまらんですね。フランス対外治安総局(DGSE)のデルフィーヌ・ラサール役である『キングスマン』『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』のソフィア・ブテラが久々に全編素顔で、セロン様との絡みが実にエロティック。またアメリカ中央情報局(CIA)の主任として『キングコング 髑髏島の巨神』ジョン・グッドマンも出演。さらにここにソ連国家保安委員会(KGB)が絡み、諜報戦が展開されます。

アクションだけでなくスパイものとしても面白いです。機密リストを巡るという設定は若干古さを感じますが、舞台を実際に古い時代にして緩和し、そこにベルリンの壁崩壊という史実を重ねるなど工夫が施されています。サスペンスの見せ方はそこまで上手くはないものの、ロレーンの微かに変化する表情がエモーショナルさを補ってくれるし、80年代の曲を活用した音楽の使い方は『ベイビー・ドライバー』を彷彿とさせるものがあります。難を言えばセリフがちょっと凡庸すぎる気もしますが、トータルではいい意味で期待を裏切る出来。中盤の長回しなどは『イップ・マン 継承』級のアクションで驚愕です。

↓以下、ネタバレ含む。








■女スパイの戦い方

スマートなアクションではなく泥臭いバイオレンスというのが意外ですが、単に殴り合うわけではなくその場所の作りや小道具を使った見せ方が実に面白いです。ホースを相手に引っかけて飛び降りるとか、栓抜きで目をブッ刺すとか、ヒールのかかとで殴り付けるとか。気付くのは、女性でも効果的な手法を多用していることですね。パワーではなくスピードと機転で渡り合うというのが理に適っています。もう一点、戦う相手が殴られたり刺されたりしても結構死なないということ。人を殺すのってわりと大変だというのがリアルであり、それを全力で殺しにかかるロレーンにかえって燃えます。

おかげでロレーンは生傷が絶えないわけですが、そんな傷だらけの全裸を披露するシャーリーズ・セロンの筋肉質な肉体が美しくもあり、かつそれだけ動けるという説得力もあります。それにしても中盤の階段での長回しには、まだ続くの?という驚きと、ごまかしの効きそうな継ぎ目がほとんどないのでどこまでワンカットなの?という驚きと、ということは全部セロンがやってるの?という驚きと、三重くらいに驚くのが凄い。実際は疑似ワンカットらしいですが、それを聞いたところでこのシーンの凄まじさは変わらないですね。


■サブカルチャー的視点

アクション以外の見せ場もイイですよ。特にロレーンとデルフィーヌのベッドシーンは『007』的と言うか、いやそれ以上にエロくて美しい。キツめの役が多かったソフィア・ブテラが攻められる側というのがね、またエロいですね!あとどこにそんなに持ってたというくらいロレーンが衣装替えをするのも華やか。グラサンにブロンドの髪型という出で立ち、ときに赤毛になったりとヴィジュアル的な面も忘れてません。「警察が来ると知ってれば違う服にしたのに」と言うのは白いコートが血で汚れることを嫌ったんですかね。女性であることを抑え込もうとしてないところがカッコいい。あと東への段取りを付けるのが一見普通の時計屋というのが『ジョン・ウィック』ぽさがあってニヤリとします。

音楽に関して言えば、選曲が80年代のポップな曲が多いのでアガるし、曲が車のドアを開けると車から聞こえる音量に変わりドアを閉めると聞こえなくなる、という細かい使い方が何だか良かったりします。『99 Luftballons』を最初にオリジナル版を使い、デルフィーヌの死後に同じ曲のもの悲しいアレンジの方を使うというのもニクい。途中テレビから音楽のサンプリングの話題が流れるのも狙いなんでしょう。ラストシーンでQueen&デヴィッド・ボウイの『アンダープレッシャー』が流れるのもハマってます。

あと場面の繋ぎ方、車で走るところから違う車の走行シーンに繋げたり、川に落としたらバスタブから顔を出したりと、関連したショットでシーンを繋げるのが面白いです。アクションはガチでもトータルの演出はスタイリッシュと言えますね。それにしても「デヴィッド・ハッセルホフがベルリンに!?」ってのは何だったのか。と思ったら実際この年に壁の側でライブをやったらしいんですよハッセルホフ。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』に続きまさかのフィーチャリングにちょっとアガりました(出てはいないけど)。


■騙し合いの果て

ストーリーは思いのほか複雑な駆け引きや騙し合いがあり、『裏切りのサーカス』や『誰よりも狙われた男』を思い出すハードボイルドなスパイものとして面白いです。最初はリストの行方がメインだったのに、いつの間にか誰が二重スパイのサッチェルなのか、という視点が強くなっていき翻弄されます。この「翻弄される」というのが作品のカラーとして重要ですね。マカヴォイ演じるパーシヴァルがクズヴォイ寄りだったり、デルフィーヌがパーシヴァルを二重スパイだと思ってたりするので、彼がイギリスとロシアの二重スパイだと思わせられますが、KGBのバクティンからリストを奪ったのも二重スパイを見つけるためだったりと、実は真面目なスパイだったわけですね。短髪を「東側で流行ってるんだ。触る?」と言うのがやんちゃだったり、背中に刺さったナイフが取れなくて悶えるのが笑えたりとパーシヴァルは良いキャラでしたが、スパイの世界は非情です。

結局ロレーンこそがサッチェルであり、MI6とKGBとの二重スパイと明かされますが、その実態はCIAであり三重スパイだったわけです。最初にKGBの仲間の車で戦うのが不可解ですが、リーダー以外は二重スパイであることを知らなかったということですかね。グッドマンが途中で現場に出てきて「MI6に頼まれたから」と言うのもあれ?と引っ掛かってはいましたが、そういうことかと。供述を取る体で語られながら、デルフィーヌから情報を得たのかどうかという辺りから少しずつズレていくのもミスリードになっていたり。もう一度観たら色々と気付くことがもっとありそうです。


■彼女の本音

ロレーンは基本クールな無表情ですが、時折見せる微妙な表情の変化が、微妙であるからこそ印象深いです。恋人だったと思わしきガスコインの死を聞いたときは無表情を通すのがプロという感じですが、デルフィーヌとの関係はCIAにも言わなかったり、情報提供者のスパイグラスが死んだときの水中で一瞬見せるツラそうな顔や、デルフィーヌが殺されたときの心底悲しそうな顔など、周囲に人がいないときは思わず本心が浮かんでしまうのが人間的な面が表れていて魅力的です。

すっきり爽快という終わり方ではないのがスパイとしての悲しさでもあります。ベルリンの壁崩壊という冷戦終結を象徴するかのような出来事の裏で繰り広げられた諜報戦で、故国に帰れなかったデルフィーヌ、家族を残して去ったスパイグラス、スパイであるがゆえに死なねばならなかったパーシヴァル。そして「仕事の関係はいつか終わる」と言っていたように全ての決着を付け、「家へ帰ろう」という上司に「いい言葉ですね」と返すロレーン(「Home」という言葉にフュリオサを連想します)。デルフィーヌが言った「本音を言うときは目が変わるのね」という一言を思い出し、ラストショットのロレーンはどっちだろうか、と思うのです。

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