2017
10.06

国を地図から消さぬために。『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』感想。

anthropoid
Anthropoid / 2016年 チェコ、イギリス、フランス / 監督:ショーン・エリス

あらすじ
銃のメンテは大事。



1942年の第2次世界大戦下、ナチスドイツの占領下にあったチェコスロバキアに降り立ったチェコのパラシュート部隊。彼らの目的はナチスのNo.3、ラインハルト・ハイドリヒの暗殺だった。しかしこの計画の先にはさらなる悲劇が待ち受けていた……。史実をもとに描いたサスペンス・ドラマ。

ヨーロッパ中に勢力を拡げたナチスドイツに追われ、イギリスに亡命政府を立てたチェコスロバキア。チェコを占領しているのはヒトラー、ヒムラーに次ぐ実力者でユダヤ人大量虐殺の実権を握るラインハルト・ハイドリヒで、これを暗殺するという密命を受けたヨゼフやヤンら7人の暗殺部隊がパラシュートでチェコ領内に潜入するところから物語は始まります。ナチスへの反逆者には懸賞金が掛けられ、自国民でありながら裏切る人々もいるなか、僅かな人員と限られた装備でハイドリヒ暗殺を目論むヨゼフたち。景気のいいタイトルとは裏腹に非常に閉塞感に満ちていて、予想以上に重厚。故郷チェコを取り返すために戦った男たちを描く、まさに生き様として表される史実が描かれます。

暗殺部隊のヨゼフ役は『フリー・ファイヤー』『ダンケルク』のキリアン・マーフィで、なんかこの人は出る作品でいつも酷い目に会いますが本作でも同様。ヨゼフの友人でもある隊員ヤン役は『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』のジェイミー・ドーナン。この二人を軸に協力者との関係や愛する者との出会いが描かれ、やがて国を救うための悲劇的な戦いへと展開。軍隊と軍隊がぶつかり合うだけが戦争じゃない、と思い知ります。ほか、マリー役で『ザ・ウォーク』『フレンチ・ラン』のシャルロット・ルボンらが出演。

原題の由来でもある「エンスラポイド(類人猿)作戦」を描く本作。敵ボスを倒せば終わりじゃない、というのがリアルでシビア。決してヒロイックなだけではなく、痛ましい犠牲も出るという冷徹な視点、一方で絶望的ながら臨場感溢れる銃撃戦が良いです。時間経過がちょっとわかりにくいですが、占領下での戦いという戦争の一側面を見せてくれます。

↓以下、ネタバレ含む。








本作は暗殺計画の準備と実行までを描く前半、暗殺後のナチスの報復を描く後半にわかれます。てっきり暗殺がクライマックスかと思ってましたが、ハイドリヒの暗殺自体は中盤で早くも成されるんですね。しかも作戦自体は失敗したものの、ハイドリヒはその時の手榴弾による深手により一週間後に病院で死亡、という少々歯切れの悪さがあります。結果的には死んだので作戦は成功だったと言えますが、ヨゼフが銃撃直後に「作戦は失敗だ」と言うのもあって達成感には欠けます。だからクライマックスにはできない、と言うよりはここからが本番で、本作は占領された国の悲劇と、国を取り戻そうとする者の自己犠牲をこそ描きたかったのでしょう。

前半では協力家族との交流、レジスタンス組織との関係、そして女性たちとの出会いが描かれます。ヤンに至ってはマリーとのまさかのスピード婚で驚きますが、それこそ何か生き急いでいる感があります。ヨゼフもまたレンカと惹かれ合うものの、こちらは行く末を踏まえてかあえて近づこうとはしなかったり。でも結局気持ちを確かめ合ってヨゼフは作戦へと向かっていきます。しかしあの車の前に飛び出して撃とうとするシーンでのまさかの展開には思わず「えっ!」と声が出そうになりましたよ。このヨゼフの銃が故障してハイドリヒを撃てなかったというのは事実のようですね。ちなみにハイドリヒがオープンカーに乗っていたり警護が少なかったりというのも、周囲に人間味を感じさせるため実際にそうしていたようです。

後半はハイドリヒが死んだあと、追い詰められていくヨゼフたちが描かれます。ハイドリヒを倒してもドイツ軍が引くわけではなく、関係のない村を全滅させたりなど、逆に激しい報復が始まります。ここからはひたすらえげつない展開が続き、無差別な銃撃によりレンカは命を落とし、報復に耐えきれず裏切った仲間のせいで協力していた夫人はナチスに踏み込まれて自決、残された息子のアタはバイオリン弾きの命である手を潰され、挙げ句死んだ母の生首を見せられたりと酷い拷問を受けます。そして大聖堂に匿われていたパラシュート部隊も、たった7人でナチス軍を相手にする絶望的な戦いへと追いやられます。

話的には重いこのクライマックスは、様々な銃器や手榴弾などが登場し、音響も凄まじく、地上と高所での攻防はスリルで、柱や手すりに撃ち込まれる銃弾のリアリティは迫力。登場人物が多く人物像はそこまで掘り下げられてはいないものの、それでも次々散っていく仲間の悲哀があり、アクションとドラマが融合した壮絶な見せ場になっています。最後まで戦うのが軍人だと言い、ギリギリまで敵を倒してから自決していく隊員たち。ヤンの死を感じとるヨゼフに二人が共に歩んできた絆を感じ、レンカに迎えられて最後の引き金を引くヨゼフにやるせなさを感じます。用水路への逃げ道が開けていればあるいは……という、あと一歩の感じがまたせつない。

この暗殺後の虐殺を理由にイギリス・フランスはミュンヘン会談の内容を破棄、連合軍は勢いを取り戻していくわけで、結果的にヨゼフやヤンは世界を救ったということになるのでしょう。この作戦はナチス高官の暗殺計画で唯一成功した例だそうで、レジスタンスのリーダーが「何を恐れている」と聞かれて答えた「この国が地図から消えることだ」も避けられたことになります。しかし世界を救う勇敢さを見せながら自分たちは救われずに散った、そんな者たちがいたということを本作は観る者の脳裏に刻み付けるのです。

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