2017
10.05

習慣が作る人生の彩り。『パターソン』感想。

Paterson
Paterson / 2016年 アメリカ / 監督:ジム・ジャームッシュ

あらすじ
マフィンは売れ筋。



ニュージャージー州パターソン市。バス運転手で街の名前と同名のパターソンは、仕事でバスを走らせ、帰ってからは妻ローラと過ごし、愛犬マーヴィンと散歩に出るという、一見単調な日々を送っている。そんな彼が過ごす7日間を絶妙な語り口で描くヒューマン・ドラマ。監督は『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』のジム・ジャームッシュ。

ジム・ジャームッシュ4年ぶりの長編は、バス運転手パターソンの何気ない日常を映し出す人間ドラマで、月曜から始まる一週間を一見淡々と映していきます。朝起きて朝食を食べて出勤、運転手としてバスを走らせ、昼食をとり、仕事を終えて帰宅、妻と食事し、愛犬の散歩ついでにバーでビールを一杯。描かれるのはほぼこれだけです。しかしここで効いてくるのが、パターソンが詩人であるということ。空き時間を利用して趣味の詩作を行うパターソンにとっては、同じような日々の繰り返しにもちょっとした変化があるのです。その変化を汲み取る感性が、詩の言葉を通して街を色付かせていく。それがすごく心地良くて、ありふれた日常の描写なのに全く退屈しません。

パターソン役は『スター・ウォーズ フォースの覚醒』のアダム・ドライバー。木訥で真面目な感じがとても好ましくて、エキセントリックな奥さんに時々困りながらも受け入れちゃう穏やかさなど、カイロ・レンだったことを忘れそうになるほど。パターソンの妻ローラ役のゴルシフテ・ファラハニが芸術家肌と言うか、感覚で動くような危なっかしさが夫と違ってちょっとスリリング。そしてアメリカン・ブルドッグの愛犬マーヴィンが醸し出す絶妙な間もいい味出してます。また『ミステリー・トレイン』でジャームッシュ作品にも出ている永瀬正敏も出演、意外な役割を見せてくれます。

街と同じ名前の男が綴る詩のなかに、日常に目にするものや交流する人々との大切な要素が詰め込まれていきます。ときには思いがけない事件が起こり、ときには喪失に襲われることもある。でも繰り返す日常があるというのは幸せなのかもしれない、と思えてくる。とても良かったです。

↓以下、ネタバレ含む。








月曜日から始まる一週間、本当に同じようなことが続きます。6時過ぎくらいに起きてまだ寝てる妻にキスし、朝食のシリアルを食べる。出勤後は出発前のバスの運転席で詩を書き、同僚がチェックに現れ、いつものルートへと走りだす。滝の見える公園で昼食の弁当を食べながら詩を書き、午後の仕事をこなしたあと家に帰って妻との夕食、マーヴィンを連れて散歩に出てバーに寄る。もちろん人との会話の内容などは日によって違ってくるわけですが、それでも同僚が不満を愚痴ったり、妻が部屋をモノトーンで埋め尽くしていったり、バーのマスターとパターソン出身の有名人について話したりと、あえて似たような光景が繰り返されます。

でも似たような光景だからこそ、ちょっとした変化が目に留まります。朝起きる時間も週の後半はちょっと遅くなったり(めざましなしで起きれるのスゴいな)、バーで飲んだあとは朝の目覚めシーンに繋がりますが、そのときの服装や抱きつきかたで何となく前夜のことを察したりします。何度も双子を見かけても、それらはみな別の双子だったりもします。運転中に会話が聞こえてくるバス客たちは、嘘くさいモテ自慢をする男たちとそれを冷ややかに見る女性客とか、スポーツ選手のゴシップを話す子供とか、大学生風の男女のインテリな会話など、まあどうでもいい話という点では共通してるものの内容は様々で、そんな会話を聞くとはなしに聞いてちょっとだけ微笑むパターソン。自分があまり知らないような話が興味深かったりするんでしょう。

ときにはいつもの日常とはちょっと違う事態に遭遇したりもします。金曜はバスの電気系統故障というトラブル。その夜は痴話喧嘩による拳銃騒ぎに、思いがけず取り押さえるという意外性。でもそれらも日常の延長という感じがするんですよ。全く同じではないことのわかりやすい一例であり、かつ少しだけドラマチック。そしてそこには常に人との関わりがあります。クリーニング屋でのラッパーにインスパイアされたり、詩人の少女の作品に唸ったりもする。こういて見てるとなんかね、この人は人間が好きなんだな、と思えるんですよね。アダム・ドライバーのガタイはいいのに柔らかい雰囲気、微かな表情の変化などがとても上手く効いてます。妻の作ったチーズと芽キャベツのパイを、一口食べるたびに水をグイグイ飲むのも可笑しい。

そんな彼の紡ぐ詩はマッチ箱から愛に関する着地を見せたりと、穏やかでありながら情熱的。日々を慈しんでいることを感じさせます。それだけに詩のノートを完膚なきまでにバラバラにされたショックもわかろうというもの。そんな詩を愛するパターソンが、詩人ウィリアム・カーロス・ウィリアムズを生んだ街パターソンにいたからこその出会い。彼に新しいノートを渡す永瀬正敏の日本の詩人もまた、日常のなかにあるきらめきを知る者なのでしょう。「a-ha?」というキメ台詞も意味がないからこそイイ。その言葉から何かを読み取ることは、日常から何かを読み取ることと同義なのかもしれません。

同じような毎日に息が詰まりそう、という現代人も多いと思いますが、本作を観てると捉え方ひとつで色々と変わってくるのかな、まさに習慣が人生を作るんだなというのを実感します。そしてそんな日々を愛しく思えるかどうかは自分次第なのでしょう。それにしても愛犬マーヴィンはよいアクセントです。パターソンがバーにいるあいだワンジャックされないかとハラハラするし、郵便受けが傾く謎には「お前か!」ってなります。エンドロールで献辞が捧げられているように、演じた犬のネリーは既に亡くなったそうですが、キャストの3番目に「マーヴィン」が表示されるのも納得の存在でした。

スポンサーサイト
トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1293-e5f0bcd8
トラックバック
back-to-top