2017
10.03

死人に口あり。『スイス・アーミー・マン』感想。

Swiss_Army_Man
Swiss Army Man / 2016年 アメリカ / 監督:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート

あらすじ
デス・ガス爆発。



遭難して無人島に一人きりの青年ハンクは、絶望から命を断とうとしたときに、波打ち際に男の死体が打ち上げられているのを見つける。波にさらわれそうになった死体にまたがったハンクは、死体の体内から出るガスによって海上を滑るように走り出した……。青年と死体が織り成す異色のサバイバル・ドラマ。

スゴく変な映画です。そしてスゴく面白い。主人公ハンクは無人島に漂着した遭難者で、絶望から自殺しようとしたときに一体の死体と出会います。出会う、と言うか発見するんですが、この死体が超便利!腐敗ガスでジェットスキーのように海を走れるだけでなく、様々な機能を備えています。死体に対して「便利」だの「機能」だの、不謹慎とかいう以前に意味不明なんですが、そんな死体と心を通わしていく(というのも意味不明だが)、そんなお話です。死んだように生きる男と死んでるのに生を思わせる男が、タブー視された思いを死体を通して解放していく。奇妙なサバイバルが実に独創的。

ハンク役は『プリズナーズ』『オクジャ』のポール・ダノ。遭難して小汚くてヘタレですが、それでも感じさせる繊細さ。工作得意なのがなんかイイ。ちょっとリーアム・ニーソンに似てきた気がします。そしてメニーと名付けられる死体役は『ハリー・ポッター』シリーズのダニエル・ラドクリフです。ラドクリフ、見事に死んでます。死体に徹しているため、パンツ下げられてワイルドなケツ毛まで晒されても死んでるラドクリフ。『ホーンズ 容疑者と告白の角』といい本作といい、作品選びがトンがってて最高です。ほか『10 クローバーフィールド・レーン』のメアリー・エリザベス・ウィンステッドも重要な役で出演。

死体という禁忌を通すことで秘めた感情が浮き彫りになり、死体と行動を共にすることで生きていることの喜びを見つけ出していきます。マヌケな珍道中というコミカルさに爆笑しながらも、逆説的で画期的なファンタジーに引き付けられ、友情と共存、幻想と現実を行き来する話がじわじわ染みてきます。音楽も実にイイ。あと、おならの持つパワーはエネルギー問題に一石を投じるかもしれない、と思わなくもないです。

↓以下、ネタバレ含む。








ガラクタで作った船のおもちゃなどで遭難してることを示し、大きな崖から一本にしたロープがぶら下がってるショット、ハミングしながらそこに吊られようとする男、と始まりからしてイイんですよ。そしてジェット死体で走りながらのタイトルの出方、これがスゴく爽快で素晴らしい。ここまででも既に予想を超えていますが、その後も本当に全く先が読めないのが愉快でしょうがない。その最たるものが言うまでもなくメニーです。死体なので基本的には動かないわけですが、万能な道具として想像を越えた便利さ。ジェットスキーに水筒にシャワー、槍を発射もすれば斧にもなり、あげく火炎放射器にまでなる。あの水を飲むのはかなりキツそうですが喉の乾きは(一応)癒せるし、むっちゃキレイに髭剃りまでできる(ザクッと一発!)。タイトルが「スイス・アーミー・ナイフ(十徳ナイフ)」から付けられてるのも納得の利便性です。

いやでもまさかね、喋るとは思わなかったですけどね。そりゃ死体が話始めたらギャー!つって殴りもしますよ(爆笑した)。ただ、ここで観てる方は混乱するわけです。死体を動かすのはハンク自身なのでまだいいとして(いいのか?)、意思を持って喋りだすと、これがハンクの妄想とか心の声の反映なのではないかと思うわけです。ハンクが「自分の言葉で話せ」と言ったら話し出すというのもあるし、他にメニーが喋るのを聞く者はまだ小さい女の子しかいません。本当に話しているのはメニーなのか、それとも気の触れたハンクの自演なのか?でもまあ、そこはあまり気にするところでもないでしょう。これはあくまでファンタジーであり、重要なのはハンクがメニーを通して自身を見つめ直すことだからです。

思えばハンクは無人島に一人きりといういきなり孤独を極めた状態から始まっており、気になる女性に話しかけることもできず、せいぜい隠し撮りして待ち受け画像にするシャイ野郎です。そんな彼がメニーと話すのは、おならから始まり、勃起やマスターベーションなどの鬱屈した(健全とも言える)性欲、母親への思い、父親への反発、そして彼女に会いたいという気持ち。歪んでいるわけではない、むしろ当たり前の感情についてですが、ハンクはどこか恥ずかし気です。これらがメニーのストレートな言動によって鏡像のように写し出されていくのです。そして女装をした自分の自信のなさ、そんな自分を見つめるまんざらでもない自分が描かれ、自ら作り出した工作で飾り立てた山の中で、もう一人の自分とも言うべきメニーと楽しく自分の世界で過ごします。でもメニーは自分ではないし、写真の女性サラのことも忘れられない。それはハンクが他者の存在を再び意識する時間でもあります。

死体のくせに妙に生き生きとしてくるメニーはまるで生を教える反面教師(肉体的に)のようで、生気に欠けていたハンクをたびたび死の恐怖からも救い出します。孤独死しそうだった無人島から連れ出し、崖下に落ちたときも万能道具っぷりをフルに発揮し、襲ってきた熊を火炎アタックで撃退し(熊の大きさがリアルで怖い)、水中に落ちた時は酸素ボンベ代わりとなります(BLっぽさも)。そして水中からおならジェットで勢いよく飛び出す。マヌケな絵面なのに生きることの素晴らしさみたいなものに満ちているのが不思議です。現実世界に戻ればメニーはただの身元不明の死体扱いだし、そんなメニーと一緒のハンクを見るサラの表情は狂人を見るそれですが、メニーはそんな人々を尻目に尻のガスで去っていく(うまいこと言った)。爽快な幕引きが実に良いのです。

サバイバル描写はそこまでシビアではないし、そもそも死体のくせに腐らないし、設定も展開もどうかしてるのに、サラッと深いことを言ってたりもするのもたまりません。チーズパフを食べて指がオレンジ色になることも、『ジュラシック・パーク』を観ることも、生の喜びなのです(あのテーマ曲は一緒に口ずさんじゃう)。一風変わった笑いと予測不能の形で描く解放、そして生者と死体のそれこそ奇妙な友情に、じんわりとした心地よさが残ります。

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