2017
09.17

列車は走るよ恐怖を乗せて。『新感染 ファイナル・エクスプレス』感想。

Train_to_Busan
Train to Busan / 2016年 韓国 / 監督:ヨン・サンホ

あらすじ
駆け込み乗車はおやめください(マジで)。



ファンドマネージャーのソグは別居中の妻に会いに行くという娘のスアンをプサンまで送るため、高速鉄道KTXに乗車する。しかしそこには謎のウィルスに感染したひとりの女性が。そこから始まる事態によって、列車はやがて恐怖と混沌へと飲み込まれていく……。韓国発のアクションホラー。

ウィルス感染による修羅場でのサバイバルを描く本作、要するにゾンビもの(劇中ゾンビとは呼ばれませんが)なんですが、これは面白いぞ!「電車内でゾンビが発生したらどうなるか」というシチュエーションに、これ以上ないスリルと工夫をブチ込むことで恐怖と混乱を映し出す見事な出来。そこに仕事ばかりで娘を顧みない父親、妊婦とその夫、野球部の高校生たち、偉そうなおっさんなどの様々な乗客たちを登場させ、狭くて逃げ場のない極限の状態で起こる人間のドラマへと直結させます。うっすらと始まりを予感させる導入、閉鎖的状況、走るゾンビ、そして人の恐れとエゴが生み出す悲劇。ジャンル映画としての王道要素を散りばめながらもフレッシュな絵面も多く、何よりこれほどまで泣かされるとは思わなかったです。

コン・ユの演じる主人公ソグはわりとクズなんですが、そんな父親がやがて見せてくる変化と、キム・スアン演じる娘のスアンちゃんの純真すぎるイイ子っぷりが泣かせます。チョン・ユミ演じる妊婦ソンギョンと、『群盗』マ・ドンソクの演じるサンファとの絡みも面白い。人物の立て方がなかなか良くて、嫌なヤツはとことん嫌だし、助けてくれる人も完全な善人というわけでもない。感染してるのでは、という疑心暗鬼で他人を切り捨てようとする人もいたりするので、誰が生き残るのかというのはスリルです。

監督のヨン・サンホはアニメ畑出身の人で、これが初めての実写長編だそうですが、それもあってか本作の前日譚を描く長編アニメ『ソウル・ステーション パンデミック』の製作も明らかにされています。ゾンビ+列車ということでアニメ『甲鉄城のカバネリ』を思い出したけど、テイストはかなり違いますね。銃器がない、というのはゾンビものではこんなにもキツいのだなーというのを認識しました。狭い車内ならではの攻防とか車両ごとの仕切りなども上手い。原題は『釜山行き』なので、ダジャレ的な邦題にはB級感が漂いますが、内容はとんでもない一級品。いやあ面白いです。

↓以下、ネタバレ含む。








当たり前に映るいつもの光景に、徐々に紛れ込む不穏さの数々。車にはねられた鹿が起き上がり、謎の黒い灰が空から降ってくる。僅かに見える駅上の喧騒、発車間際に駆け込んできた女。これらの始まっていることを予感させる描写が秀逸で、その後の一気に爆発するパンデミックへのドキドキ感が高まります。そしてギクシャクした父娘の関係性や、威圧感のあるガタイのいい男が妊娠中の妻と一緒であること、周囲に囃し立てられる野球部カップルの初々しさ、なぜかフォーカスされるゆで卵を食べるおばさん、ふんぞり返ったサラリーマンと、おおよその人物描写も済ませる手際の良さもあります。

わりと早い段階でゾンビ列車になるので、これで最後までもつのか?と少し心配になるんですが、そこは工夫を凝らした展開で全くの杞憂に。ゾンビ化するとドアの開け方がわからないとか、見えるものに襲いかかるのでドアに目隠しをするなど、メインキャラには結構冷静に見て対応する者もいるので、パニくるだけの愚かしい人が少なめなのがイラつかなくて良いですね。途中テジョン駅で下車することでメリハリが付き、走り出す列車に乗れるかどうかという別のスリルも加わります。ゾンビを制圧するはずの軍が皆ゾンビとなって襲ってくることでさらなる絶望を与えたり、そのなかでソリの合わないソグとサンファが徐々に共闘していくさまを描いたり、乗車後のメインキャラを二組に分けることで「合流する」というミッションが発生したりと、アクションとドラマが上手く嚙み合ってますね。ついでに妊婦が産気付いちゃうんじゃないかというヒヤヒヤがイヤだー。

9両から13両までを一両ずつクリアしていくなかでの、ゾンビ数が増えたり難易度が上がったりという段階的な変化が面白い。その都度達成感があって良いです。その方法も、ゾンビに対して肉弾戦で突き進んだり、トンネルで止まることを発見してこれを利用したリ、スマホで音を出してやり過ごしたり、列車ならではの網棚を通ったりとバラエティ豊か。しかも野球部の仲間たちがいたりするえげつない展開もあったりします。終盤で衝突して傾いた車両に挟まれたときの、斜めに落ちかかった車両からゾンビが落ちてきそうなショットなどは実にフレッシュ。本作のゾンビは「走るゾンビ」ですが、列車の中だとその速さがさらに脅威だし、終盤に列車を乗り換えるときに集団で折り重なって襲ってくるのは『ワールド・ウォーZ』を少しスケールダウンした感じが却って緊迫感あります。噛まれてから感染するまでの時間がまちまちですが、すぐにゾンビ化する人はみんな首を噛まれていたと思うので、手足などの脳から離れた末端を噛まれた場合はちょっと時間がかかるんでしょうね。

ゾンビよりも人間の方が怖い、というのはよくあるパターンですが、15両目の人々が恐怖で保身に走らなければ二人死なずに済んだ、というのが苦い。最も攻撃力の高いサンファを退場させるのが絶望に拍車をかけますが、彼が子供の名前をちゃんと考えていたというのが泣けます。利己的な奴らは大体しっぺ返しを食らうもんですが、それを誰かがミスをしたからという愚かさではなく、人々の傲慢さで姉を失った老女による意志ある行動である、というのがイイ。あのゆで卵おばさんたちはほとんど動きがなかったので、そういう役割だったのかと感心しました。あとトイレで震えていたホームレス男が最後にスアンとソンギョンのために盾になるというのも熱い。また、最後まで乗客を送り届けようと一人奮闘していたKTXの運転士が、何気に最初から最後まで最も勇敢だったかも。

一方でバス会社の常務という肩書きを振りかざすヨンソクの、このまま生き残るんじゃないかというしぶとさ。最後まで邪魔をするゲス極まる憎々しさは凄いですが、でもソグも最初はコネを使って自分たちだけ助かろうとするなかなかのクズだったわけです。娘の誕生日に以前送ったWiiをまた贈るような家庭を顧みない父親で、列車の中でも役立たずだったソグが、しかしいつしか娘のために命懸けで戦い、ホームレス男を救いに戻ったりと他者のためにも動くようになります。そこには父親は子供のためにならどんなことでもする、みたいなソンファの言葉の影響もあったでしょう。感染したらしき母が電話口でどんどん豹変していくショックや、「僕の責任じゃないですよね」と泣き叫ぶ部下のキム代理に「自分の責任だ」と言うのも本心としてあったかもしれません。

ゾンビ化すると過去の記憶が蘇ってくるんですかね。ヨンソクは子供の頃に一人きりになった記憶らしきものを口にします。そしてソグが思い出すのは娘が生まれたときの幸せな瞬間。その思い出を胸に、列車から落ちていく影。クズだった主人公に耐え難い喪失感を感じるまでになったことに不自然さを感じない、そのストーリーテリングが素晴らしいです。そしてラストのトンネルでさらなる悲劇を予感させておいての、聞こえてくるスアンの歌声。それは少女が父のために練習した歌、そして最後まで父に聞かせることができなかった歌。ここまで泣かせて終わるゾンビものというのも画期的です。

スポンサーサイト
トラックバックURL
http://cinemaisland.blog77.fc2.com/tb.php/1284-8a8a5033
トラックバック
back-to-top