2017
09.12

彼女は屹然と生きる。『エル ELLE』感想。

elle
Elle / 2016年 フランス / 監督:ポール・バーホーベン

あらすじ
ハマチも追加で。



ある日突然自宅に侵入してきた覆面の男に襲われたミシェル。警察にも知らせず今まで通りに生活しようとするミシェルだったが、やがて犯人が身近にいることに気付き、正体を突き止めようとする。そんな彼女に周囲は振り回されていくが……。フィリップ・ディジャンの小説『oh...』を『ロボコップ』『氷の微笑』のポール・バーホーベン監督で映画化したサスペンス。

ゲーム会社のCEOを務める女性ミシェルが、自宅に押し入ってきた覆面の男にレイプされるというショッキングな幕開けのサスペンスですが、そこから想定される犯人探しや復讐といった展開から微妙にズレてくるのが面白い。バーホーベン監督らしい暴力やエロスはあるんですが映像的な過激さは少々抑え気味で、テイストとしては『ポール・ヴァーホーヴェン/トリック』に近い人間模様と言ったところ。ただし悲劇的事件と裏腹に徐々に展開されていくのは、一筋縄でないかない特異にさえ見える信念や、意表を突く変態性。ミシェルだけではなく様々な人物が歪な一面を見せていく過程がスリリングです。

ミシェル役のイザベル・ユペールが凄い。過去に起こったある事件により失ったもの、生きていく過程で手にした思い、被害者ながら場を支配していく迫力。第89回アカデミー賞で主演女優賞にノミネートされたのも納得の存在感です。彼女の周囲の人々もなかなかの曲者で、女子大生に入れ込む元旦那のリシャール、何も知らない友人のアンナ、意外な関係となる隣家のパトリックとレベッカ夫妻、愚かしく見える息子のヴァンサンなどが絡んできます。

主人公ミシェルを始め皆が抱えた様々な秘密や嘘、もつれあう人間関係、嫉妬や裏切りなどが面白い。性的な話も絡むので万人受けするタイプの作品ではないですが、華やかさと地味さ、優しさとエグさが混在する不可思議な味わいです。ずっと落ち着かない不安定さに引きずられっぱなし。なのにこんなにも爽やかな後味というのが驚きです。

↓以下、ネタバレ含む。








ミシェルの行動が最初は謎なんですよ。レイプシーンは個人的に苦手で、せめて犯人には地獄を見せる展開であってほしいと思っちゃうんですが、ミシェルは淡々と後片付けしたり普通に入浴したりして激昂したりも泣きわめいたりもしない。スシを注文し、息子とも通常通りに会話し、元旦那や友人たちにも世間話をするかのようにその事実を告げ、それでいて警察には知らせようとしない。最初はその意図がまるでわからず戸惑います。ただ観てるうちに、これは別に忘れようとしてるというわけではなく、事件が自身の生活に影響を与えることを嫌ったのだとわかってきます。

それは殺人者の娘として常人では考えられない人生を送ってきたミシェルが身に付けた処世術であり、自身の心を守るためのプライドでもあるでしょう。心では襲われたときを反芻してそこで反撃するシーンを妄想したり、社内に犯人がいると疑えば自分のシンパを使って探させたりすることからも、決して許したわけではないということがわかります。屈すれば負け、という信念があると言ってもいいでしょう。

ミシェルは性に奔放である描写もあります。友人でもあるアンナの旦那と不倫をしたり、隣家のパトリックを性的対象と見たりもします。しかしそれは別にミシェルが変人というわけではなく、自分の欲望に忠実であるということなのでしょう。母親に比べればまだ理性はあるほうかも。ただそこにはバレないようにするという嘘が付きまとうわけで、わりと早い段階で犯人が明らかになっても自身の欲望と重なっているために断罪するに至りません。パトリックもまた秘密を抱えていたわけで、本来は加害者と被害者という関係なのにどこか共犯めいた、まるで表裏一体のような空気になっていきます。

でも結局パトリックと本心から通じ合うことはできないんですね。当たり前と言えば当たり前ですが、己の感覚のみで突き進んできたミシェルにはそれがなかなか気付けない。それを気付かせてくれるのは、愚かだと思っていた息子のヴァンサン。産まれてきた子の肌の色が明らかに後ろで手を振ってる黒人の友人の子だと示しているのに、自分の子だと言って育てようとした彼は、実際は全て知ったうえでそれでも彼女と子供のために良い父親になろうとしていたのです。また奔放に生きてポックリ逝った母の死も影響を与えているでしょう。自由を勝ち得たと思っていたミシェルは、母親に比べれば結局嘘を重ねて取り繕っていたということです。

パトリックは息子によって退治され(当然正当防衛でしょう)、ようやく人生の影を払拭したミシェルは、優秀なスタッフに素直に称賛を送ったり、元旦那にそのスタッフを紹介したり、またアンナに旦那との浮気を告白したりします。そこにはアンナに言ったように「嘘はやめたの」という思いがあるのでしょう。思えばゲーム会社のCEOという設定も、虚構のなかにリアルを求める彼女の感覚が反映されているのかも。もう一人、パトリックが消えたことで救われたのが妻のレベッカですが、「しばらくの間夫に応えてくれてありがとう」と言うことからも彼女が夫のしてきたことを知っていたことがわかり、宗教に入れ込む彼女の闇が垣間見えます。レベッカもまた被害者であり共犯者と言え、そのためかミシェルは黙って見送ります。

そしてラスト、一線を越えられなかったアンナと二人、恋人同士のように一緒に去って行くミシェル。タイトル『ELLE』はフランス語で「彼女」の意味であり、まさしく本作はミシェルという女性を描いた物語です。そんな彼女の人生の闇を描きつつ、それに負けずに勝ち取った光という結末が実に爽やかです。

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