2017
09.01

車は踊り、僕は変わる。『ベイビー・ドライバー』感想。

Baby_Driver
Baby Driver / 2017年 アメリカ / 監督:エドガー・ライト

あらすじ
テキーラ!



天才的ドラインビングテクニックで犯罪者の逃走を助ける「逃がし屋」の青年ベイビー。ある日出会った女性デボラに運命を感じたベイビーは足を洗うことを望むが、犯罪組織のボスであるドクに脅され、新たな仕事に手を貸すことになる……。『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』のエドガー・ライト監督によるクライム・アクション。

「逃がし屋」である"ベイビー"が超絶ドラテクで強盗を追っ手から逃がすところから物語は始まります。ベイビーは事故での後遺症による耳鳴りを止めるため常にiPodで音楽を聴いている、という設定のため終始音楽が流れているのですが、この音楽にぴったり合わせたカーアクションが最高に気持ち良い!大量のパトカーに追い詰められながら次々とこれをかわしていく様は陽気でノリノリ、アドレナリンが半端じゃないです。加えて個性的な強盗メンバーたちの抜群のキャラ立ちと、彼らとの関係性を音楽で結ぶ見事さ。ライトでコミカルな話かと思わせて、しっかりクライム・サスペンスなのもイイ。エドガー・ライトの「らしさ」と新境地の同居、最高です。

ベイビー役は『きっと、星のせいじゃない。』のアンセル・エルゴートで、クールな佇まいと少年らしさを残したフレッシュな雰囲気が魅力的。ヒロインのデボラ役は『シンデレラ』のリリー・ジェームズ。『高慢と偏見とゾンビ』でも見せたキュートさと精悍さのミックスがイイ。リリー・ジェームズ大好きなので可愛すぎて悶死します。声を録音して目覚ましにしたい。悪党たちも雑妙のキャスティングで、冷静沈着で無表情なドクをケビン・スペイシー、自称サイコのバッツをジェイミー・フォックス、セクシー(男)のバディをジョン・ハム、セクシー(女)のダーリンをエイザ・ゴンザレス。彼らが登場時には想像しない一面を見せるのが良いですよ。そんな猛者たちを"ベイビー"がどう相手取るのかもスリリング。あくどさ満点のジョン・バーンサルも出てます。

エドガー・ライト監督作は『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』などちょっとダメな人物が主人公というのが目立ちますが(サイモン・ペッグとニック・フロストだし)、本作はむしろスタイリッシュ。でも秘めた情熱みたいなのはやはり感じるし、自分の運命は自ら切り開くというのも熱いです。何より物語がベイビーを見捨てない、というのが好きです。

↓以下、ネタバレ含む。








■Brighton Rock

音楽と映像のタイミングを細部に至るまで合わせた異様にテンポのいい編集。確かに巷で言われているようにミュージカル的な気持ち良さがありますが、そこに乗せるのがアクションであり、カメラワークもアクションとして魅せることを重視しているので疾走感が違います。怒涛のカーチェイスではブレーキング、ドリフト、ギアチェンジ、クラッシュまでも曲に合わせていてエキサイティング。赤い車三台のくだりも愉快です。音楽に合わせた銃撃戦では、これが『フリー・ファイヤー』で観たかったやつだ!というクールさ(短いシーンだからできたというのはありますが)。炎をバックに走り去るときの「テキーラ」まで完璧です。アクションシーン以外でも、ベイビーがコーヒーを買いに行くシーンなどは音楽と細かいところまでシンクロさせた長回しに驚嘆です。全体的にメロディに、と言うよりはリズムに乗せるという見せ方が多い印象。車から降りたときドアを閉めないのが気になりましたが、それもテンポ重視のためですかね。

音楽絡みで重要なアイテムとなるiPod、もはや生産中止となりちょっと懐かしさもあったりしますが(僕はいまでも使いますが)、あのクリクリッと回してピッと押す、という動作の心地よさが作品的に合ってます。イヤホンがiPodの付属品ぽいところはこだわりがないのかなーとも思いますが、周囲の音も拾う必要性から使ってるのかもしれません。母親の形見という意味合いもありますね。あとベイビーはミキシングした会話をカセットテープに録音しているというのが、不意にそこだけノスタルジックになって印象深いです。ここでも「MOM」というカセットがクローズアップされ、歌い手だったという母親に繋がっていきます。

ベイビーのアイテムといえば他にサングラスがあります。スタントとの交代をスムーズにするというのもあるでしょうが、取られても次々新しいのをかけるというコメディシーンにしちゃってるのが面白い。あのサングラス姿がまたちょっとノスタルジックではあって、どこか50'sの雰囲気を感じるんですね。それはデボラが持つ空気感にも通じていて、ダイナーの美術なんかもそれっぽいし、デボラが車で待つモノクロのショットなんてそのもの。と言うか、アンセル・エルゴートとリリー・ジェームズという二人の顔つきや追われるシチュエーションなどが、もう50~60年代のロマンティックでちょっと危ういラブストーリーって感じなんですよ。ボニー&クライドの名前が出てくるのもわかろうというものです。


■When Something Is Wrong with My Baby

ベイビーとデボラの前に立ちはだかる悪党たち。獲物を決め計画を練り要員を集めて指示を出す、ドクは敏腕プロデューサーであり、かつ冷徹な司令塔。情報による追い込み方がワルですねえ。バッツは自らをサイコパスと言い、いかにも何をするかわからない危ない雰囲気を醸し出します。「あの金は俺たちのものだ」と言うのは、別に罪悪感を薄めるためではなく本当にそう思い込んでるんでしょうね。バディはダーリンとのイチャイチャっぷりが度し難いですが、ベイビーに理解を示して好きな曲の話で盛り上がるという兄貴肌なところを見せます。二人でイヤホンをわけてクイーンを聴く、という距離感の詰め方には親近感さえ湧きますね。

しかし彼らはやがて当初とはかなり違う面を見せていきます。バッツは、そもそも本当のサイコは自分でサイコなんて名乗らないわけで、予想もしなかった物凄いカンの鋭さを見せます。動物的な本能と言うか、これは洞察力が優れているんですね。デボラとの関係を見抜き、バディの過去を(バディの表情から察するに)ズバッと当ててしまうほど。だからごまかせない。バッツから逃れるには一瞬のスキをついて一気に勝負を決めるしかなかったわけです。一方でわりと話のわかる大人だと思っていたバディは、ダーリンの死によって復讐の鬼となります。ダイナーにやってきて再びイヤホンをわけて聴く姿は前回とは別人。そしてベイビーとドクの前に、かつて仲良く聴いたクイーンの曲を大音量で鳴らしながら現れる。この豹変の仕方に「怒ると怖い」というダーリンの言葉が蘇ります。

ドクはどの仕事でもベイビーを起用するくらい彼の腕を買っている、だから完済して足を洗ったベイビーを脅して再び仲間に引きずり込みます。でもそれは果たして利用できる「お守り」だからというだけだったのか?ドクが最後に「昔を思い出した」と言うのはベイビーに自分を重ねて見たからでしょうが、それだけで命を張ってベイビーを逃がそうとするだろうか?当然そこには長年の付き合い故の愛着はあるでしょう。そして甥っ子は出てくるものの、ドク自身は家族を持っていないように伺えることからも、ベイビーを息子のように思っていた(あるいはそう思っていたことに気付いてしまった)というのは容易に察せられます。息子が彼女を連れて自分を頼ってきた、ならば何とかしようと思うのが父親なわけです。ベイビーには養父がいるため、ドクの思いは一方的で終わるのがせつないところですが……。ベイビーの母に関する描写は何度もあるのに父親についての言及がないのは、ドクと養父、陰と陽の二人の父がいたからなのでしょう。


■Baby Driver

細かい描写も色々と気が利いています。フリーハンドで正確な地図を描いたり大量のミニカーが用意されていたりというところで、ドクの神経質で完璧主義なところが映し出されます。ドクの甥っ子がただのカモフラージュかと思いきやしっかりリトル・ドクなのも笑いますね。現金輸送車を襲う際には車をキュッと前進させて襲撃場面を見せないことで、ベイビーの反抗心を表したりもします。耳の不自由な養父がスピーカーに触れて音楽を感じるのもイイ。あと「名前」に関するくだりが色々あります。序盤でデボラが違う名札を付けていて名前を知ることで親しくなったり、互いの名が付く曲を上げることで会話が弾んだり。一方でコードネームで呼びあう悪党たちはわかり合うことができずに終わります。ベイビーの名前がわかるのは捕まったあとですが、そこで本名を知ったデボラはベイビーを5年間待つんですね。名前を知る者だけが最後は通じ合うと言えます。

ドクの心情変化。バディの豹変。そしてベイビーはマイルズという一人の大人へと変わります。デボラもまた母親の死後にくすぶっていた生活から抜け出し、ベイビーと新たな人生を歩む。二人が惹かれあったのはお互いを変えてくれる存在だという予感があったからかもしれません。ならばこれは変化の物語。そうして二人は20号線をぶっ飛ばしていくのでしょう。

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