2017
08.29

伝道師か、略奪者か。『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』感想。

The_Founder
The Founder / 2016年 アメリカ / 監督:ジョン・リー・ハンコック

あらすじ
ピクルスは2枚!



1954年、シェイクミキサーのセールスマンであるレイ・クロックは、マックとディックのマクドナルド兄弟が経営するバーガーショップ「マクドナルド」の合理的で高品質なサービスに感銘を受け、兄弟を説得してフランチャイズ化を展開する。しかし次第に経営理念にズレが生じていき……。マクドナルド創業者の実話を元にした伝記ドラマ。監督は『ウォルト・ディズニーの約束』ジョン・リー・ハンコック。

世界中どこにでもあると言っても過言ではないバーガーチェーンのマクドナルド。本作ではその黎明期が描かれます。原題の『The Founder』は創業者の意味。McDonald'sというくらいだからマクドナルドさんが作ったのかなーくらいに思ってましたが、で実際にそうなのですが、本作の主人公はレイ・クロック、マクドナルドのフランチャイズ化を推し進めた人物です。そしてこの世界チェーンを作ったのこそがクロックだと語られます。作った者と広めた者、どちらが創業者かなんて自明のはずなのに、なぜかそうはならない。共に情熱も根気もあるのに、客のためか自己実現かで向いてる方向は全く異なっていくんですね。この二者が見せるドラマ、そして巨大フランチャイズができていく様が実に面白い。

レイ・クロックを演じるのは『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のマイケル・キートン。最近では『スパイダーマン ホームカミング』のバルチャー役でも凄まじい存在感を見せたキートンの、熱さと冷徹さの同居が素晴らしいです。マック役のジョン・キャロル・リンチ、ディック役のニック・オファーマンのマクドナルド兄弟もとてもイイ。やけに老け顔で最後まで本人か確信持てなかったですが、レイの妻エセル役は『ジュラシック・パーク』ローラ・ダーン。ほか『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』でバートン妻を演じたリンダ・カーデリニ、『死霊館 エンフィールド事件』のパトリック・ウィルソンらが出演。

感情的に見ればレイ・クロックは略奪者だし、どうしてもマクドナルド兄弟に肩入れしたくなるんだけど、彼がいなければ自分の町にマックはなかったかもしれない。観る者に「どちらになりたいか?」と問うているかのようです。とは言え、良い悪い以前に一人の男の生き様に圧倒されるのも事実。『ゴールド 金塊の行方』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』にも通じるものがありますね。夢を叶えるという甘い言葉と、相反するシビアな実態。全編ヒヤヒヤする落ち着かなさとドラマチックな展開に満ちていて、実に面白いです。あと意外とハンバーガーは映らないので腹ペコで観ても大丈夫です。

↓以下、ネタバレ含む。








マックとディックのマクドナルド兄弟がテニスコートでシステムを考えるシーンのミュージカルのようなテンポの心地よさには実にワクワクします。僅か6時間で作ったとは信じがたい驚きのスピード・システム。他にも包み紙で食べるという手軽さ、家族というコンセプト、シンボルとしてのゴールデンアーチ(最初は「M」じゃなかったのね)など、現在のマックにも通じる基本的な方針がいくつも見られて感心します。レイと同じく「関わりたい」と思わせられますね。食品業界に携わってきたレイは兄弟の話を夢中で聞き、今までになかったシステムとコンセプトに惚れ込み、これがビッグビジネスに繋がると考えます。実はこのときからもうレイと兄弟の見据える方向は違っているわけですが、いい店だから広めたいというレイと、小規模ながらフランチャイズ展開はしていた兄弟との違いにまださほど差を感じないため、二者が手を組むのもわからなくはないんですね。

レイ・クロックの凄いところはビジョンが明確なところでしょう。どの町にもある教会と裁判所のようにマクドナルドを、十字架と国旗のようにゴールデンアーチを。そして兄弟が描いた家族というコンセプトをより強く打ち出します。また柔軟性にも優れていると言えます。資金を出すだけだと勝手にメニューを増やしたりクリーンさもなくなることがわかると、店を開く前に優秀な人材を見つけてスカウトする。スカウトの基準は真面目で生活のために働く夫婦者であり、そこにまたファミリーの概念を重ねる。優秀なスタッフだったフレッド・ターナーを登用したり、たまたま出会ったハリー・ソナボーンの土地を購入してリースするという助言を聞き入れたりもします。この「飲食業ではなく不動産業である」という立ち位置は現在のマックにも繋がるビジネスモデルでしょう。

しかし本作ではそんなレイのことを偉人のように語ったりはしません。野心家で口が上手く情熱と根気も持った人物としては描かれますが、人間的には誉められない部分も多く映し出します。あくまで厨房のシステム化を突き詰め品質にはこだわった兄弟に対し、事業としての効率化を進めたレイ。自分の意見が通らないとキレて電話を一方的に切るし(三回も)、フランチャイズが軌道に乗ってくるともはや兄弟には連絡もしなくなり、効率化の名の元にシェイクを粉にしたりする。挙げ句名刺に「創始者」と載せる。倒れた兄の病室に当の元凶が入ってきて白紙小切手を渡すに至っては、あまりの厚顔無恥に「彼には勝てないし、追い出せない」と兄弟も悟ってしまいます。

妻エセルが長年支えてきたことは、クラブで夫を立てる物言いや、自らも店長候補の若いカップルを見つけてきたりすることからもわかりますが、そんな妻をあっさり捨てて、若く野心的な、しかも部下の妻との略奪婚。ついには兄弟から全権利を買い取り、名実ともに帝国の王となります。利益1%を契約に載せずさらっと紳士協定にし(当然守られない)、握手したあとは目を合わせもしない。弟ディックの悔し泣きには胸が痛みます。ディックとのトイレでの会話でマクドナルドにこだわった理由を「名前の響きがいい、アメリカっぽい」と言うのには呆れますが、でもそう語るときの夢見るような表情に兄弟は敵わなかったのです。

マクドナルド兄弟や妻のエセルが気の毒になる作りではあります。パトリック・ウィルソンのスミスなんて妻だと紹介してるのに、彼女のことしか見ず目の前でデュエットまで披露されたときの戸惑いの表情がかわいそすぎ。もちろん全てが事実とは限らないし脚色されている部分もあるでしょう。兄弟については特に好人物として描かれるし二人の仲の良さには微笑ましささえ感じます。レイの電話に対し途中で切ることをやり返すディックなんてちょっとカワイイ。でも新店舗に車で乗り付けたときに盛大に出迎えられたレイの、夢が叶ったと言わんばかりのシーンには、ドン底から成り上がった男の達成感がみなぎっているのも確か。レイに同調するか、レイを嫌悪するか、それは観る者に野心があるかどうかで分かれるのかもしれません。

家族を謳いながら、家族を捨て家族を壊す。溺れていたら口にホースを突っ込んで水を流すというのをまさにやってのける。システムを奪い、店を奪い、女を奪い、名前をも奪う。エンドロール前には本人のインタビューで「えげつないこともした」と告白もしています。それでもオリジナルではないのに帝国の祖にまで登りつめた男は、兄弟の新しい店「ビッグM」の向かいに新店舗を開いて息の根を止め、昔聞いていた「ポジティブの力」というレコードの言葉までをも奪ってスピーチに臨もうとします。しかし最後にスピーチの練習中、鏡の前でふと見せる表情が意味ありげ。これがまるで大事な何かを思い出したかのように思えるんですね。そして彼の得たものと失ったものに思いを馳せることができる、というのがとても良いです。

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