2017
08.24

そして少年はヒーローになる。『スパイダーマン ホームカミング』感想。

Spider-Man_Homecoming
Spider-Man: Homecoming / 2017年 アメリカ / 監督:ジョン・ワッツ

あらすじ
帽子がウケない!



特殊なクモに噛まれて超人的な能力を身に付けたスパイダーマンこと15歳の高校生ピーター・パーカーは、アイアンマンことトニー・スタークからもらった特製スーツで、ヒーローとして認めてもらうべく活動にいそしむ日々。そんななかトニーに恨みを抱く怪人バルチャーが出現、ピーターはトニーの忠告を振り切りひとり戦いに挑むが……。新たなスパイダーマンの活躍を描くヒーロー・アクション。

サム・ライミ監督&トビー・マグワイア、マーク・ウェブ監督&アンドリュー・ガーフィールドに続き、3度目の映画化となるスパイダーマン。『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』で初登場し、満を持してのMCU参加となったスパイディですが、新たな単独作をどう始めるのかというのは興味深いところでした。マーベル・スタジオの管理下で作るからには今までとは違うんだろうなとは思うものの、既にスパイダーマンとしての活躍は見せているだけに、またベンおじさんのくだりから描くのか?前2シリーズとはどう差別化するのか?アベンジャーズとはどう絡めるのか?などなどが気になります。

結論から言えば、これらのハードルを見事にクリアし、かつしっかりと新しいスパイダーマンとなっています。物語としては『シビル・ウォー』から直接繋がっており、ピーター・パーカーはヒーローとしては「新人」という扱い。ベテランのトニー・スタークにヒーローとして認められるべく奮闘しつつ、学校生活もこなす日々が描かれます。背伸びして舞い上がる15歳の涙ぐましい営業努力、学園もののワクワクやドキドキと、過去シリーズにはなかった要素での差別化が実に上手い。またトニーの作ったスパイダースーツは特殊なテクノロジー満載なので、これにより一味違ったアクションも展開されます。

スパイダーマンことピーター・パーカー役は『インポッシブル』のトム・ホランド。今までで最も若いスパイダーマンですが、これが爽やかかつ軽やかで好感度マックスです。メイおばさんの『マネー・ショート 華麗なる大逆転』マリサ・トメイもまた今までで最も若いメイおばさんですが、熟女のフェロモンがセクシーすぎて、リズ役のローラ・ハリアーとミシェル役のゼンデイヤがちょっと霞むという異常事態に。ピーターの友人ネッド役のジェイコブ・バタロンが口は軽いが超イイ奴感で、ギークなバディとしてとても良いです。見た目は『モアナと伝説の海』のマウイがまろやかになった感じ。そして悪役のバルチャーことトゥームスを演じるマイケル・キートンが素晴らしい。元バットマンであり、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でも鳥男だったキートンが、今度はヴィランとなって見せる壮絶な笑顔はスゴいです。またトニー・スターク役でロバート・ダウニーJr.も登場、さらにハッピー・ホーガン役で『ジャングル・ブック』監督でもあるジョン・ファヴローがカムバックです。

監督ジョン・ワッツは『COP CAR コップ・カー』でも背伸びした結果危機に瀕する少年を描いており、本作でもその手腕を発揮して、溢れる若さをポップで巧みな映像で彩る青春ムービーとしています。それでいてヒーロー映画としても十二分な出来。冒頭から説得力抜群のヴィラン誕生譚が描かれ、ガジェット満載の楽しささえも伏線にし自分の力で立ち上がるヒーロー誕生譚までを描きます。大人への憧れと現実、身の丈に合った正しさの選択、僅かに残る苦さと爽やかさ。新しいスパイディとして申し分なしです。最初から最後まで面白い!最高!

↓以下、ネタバレ含む。








■ご近所ヒーロー

マーベル・スタジオのロゴをバックに流れるスパイダーマンのテーマがアガる!さて、ピーターがなぜスパイダーマンになったのかは本作では直接は語られません。一本の映画としては説明不足ですが、そのあたりは過去シリーズで二度も語られており、さすがにくどいということでしょう。それでも「クモにかまれた」とピーターがネッドに語っているので最低限の説明はされています。ベンおじさんの事件についても同様で、ピーターがメイおばさんのことで「つらい思いをさせた」と言うことでその事実は察せられ、上手い省略。同時にピーターの抱える過去の悲しみを抑え、今のピーターのドラマを描くことに繋げています。

本作のピーターは15歳ということで、若さと勢いが弾けまくってます。序盤のピーター撮影映像は『シビル・ウォー』からの連続性を意識させつつ、はしゃぐ姿と自撮りという今時の若者らしさがよく出ています(ハッピーいじりも楽しい)。トニーに言われる「次の任務」の連絡を待ちながらご近所の人助けを続けるピーター、バク転のリクエストに応えたり、道案内をしたり、車泥棒と勘違いして持ち主を捕まえたり(スタン・リー御大も登場!)と、その努力は涙ぐましく、いちいちハッピーに報告するのも微笑ましいですが、「明日は学校なんだ」と学生なことをさりげなくバラしちゃったりするのが甘いところ。でもそんなやんちゃなところや、いちいち軽口を叩くところなどで観る者は好感を覚えちゃいます。

今回のスパイディは体内から糸が出るのではなくウェブ・シューターを使う『アメイジング・スパイダーマン』シリーズと同じタイプですが、自ら新しいクモ糸を作り出したりしていて、科学に強いという設定も活かされてますね。隠し場所が学校のロッカー(正確にはその下ですが)というのも学園ものっぽい。また若さ故に前面に出てくるコミカルさも愉快です。スーツの機能に新しいオモチャを手に入れた子供のようにはしゃぎながらも、即死モードにビビったりウェブシューターの500酒類以上のモードに困惑したり(トニーはどうかしてますな)。糸を伸ばせるところがなくて走ったりとか、悪党の車を近道で追いかけるときの大騒ぎなどは、間の取り方も良くて笑えます。カメラアイで表情が変わるのはコミックっぽいですね。ダメージコントロール局に閉じ込められたときは特に愉快で、ハンモック作ったりなわとびしたりスーツ・レディに「カレン」と名付けたり(声はジェニファー・コネリーだそうな!)、何だか仲良し(?)である『デッドプール』みたいになってます。


■若者はガジェットが好き

スーツのままリュック背負ったりジャケット着たりといった姿もティーンエイジャーっぽい。そして実際15歳らしい行動も多いわけです。ワシントン塔の高さにはさすがにビビりもする。危なっかしいのでトニーがスーツに「補助輪モード」を付けるのもわからなくもない。しかもそれをガキ扱いされたと思って外してしまうところが逆にガキであることを裏付けてしまいます。「デス・スターのレゴ作ろうぜー」と言うネッドの方が「だってガキだろう」と自覚があるくらい。このピーターの徹底した子供としての描写が軽やかでもありつつ、のちの大人との対比として効いてくるところでもあります。

本作は学園ものでもあるので学校を舞台としたシーンも多いですが、そこまでスクール・カーストみたいな描写がないのも爽やか。それでいて「ここでそれ以上学園エピソードを続けたらタルいなー」というところで、すかさず舵を切るのが抜群のバランスです。スパイダーマン化して渋々パーティに登場かと思いきや異変に気付いてそちらに向かうし、学力大会前日にリズにプールに誘われてなびきそうになるも調査を優先。ここら辺は妙にストイックでもあるんですが、それだけ「認められたい」という気持ちが強いんですよね。そしてスーツを取り上げられ日常に戻ったピーターがホームカミングのためにリズを迎えに行ったとき、「またパーティーシーンか?」と思わせてまさかの大サプライズ。ここでヒーローものと学園ものがクロスして一体となるのがダイナミックです。学園ものへの比重が軽いぶん生徒たちの掘り下げがそこまで深くはないですが、トータルでは必要十分かなあと思いました。

過去作へのさりげない目配せも好ましかったです。エレベーター逆さ吊りでカレンに「キスしろ」と言われるのはサム・ライミ版1作目のシーンを彷彿とさせるし、フェリーを引き寄せようとする姿は2作目の電車シーンを思い出します。バルチャーが翼で歩くところはドック・オクのよう。ただ、スパイディらしいビルの間を飛び回るシーンがあまりないため、爽快感が少なめではあります。予告にあったアイアンマンと並んで飛ぶシーンも実際はないですね。まあそのぶん様々なウェブ・シューターや、ウェブ・ウィング(ムササビみたいな羽)、偵察用ドローン(ジョニー?って呼んでたけどこれも名前付けたのか?)などガジェットを使ったアクションで過去シリーズとの差別化を図っていて、かつそれがコミカルさやピンチの回避にも結び付いてるのが良いです。


■ピーターを囲む人々

ピーターに関係する人々のなかでも、特に重要なネッド。振り返ったら部屋にいるのには爆笑するし、スパイダーマンだとわかったら「卵生む?」とか「毒を吐く?」とかめっちゃ聞いてきます。「クモ軍団を呼べる?」とか(そりゃ『アントマン』だな)、「ハルクはいい匂いしそう」とか(そうか??)。ネッドが「イスの男」への憧れを口にしたら、それが後半実現するというのがなかなか熱い。ピーターと交わすフィストバンプ(グータッチ)がイイですね。

リズはピーターの上級生ってことなんでしょうかね。姓のトゥームスでは呼ばれないのがミソです。ミシェルは『ブレックファスト・クラブ』で言えば明らかに「不思議ちゃん」枠ですが、いつの間にかピーターの側にいるしピーターの情報に詳しいので「おやおや?」と思いますね(ニヤニヤ)。今回はリズにピーターを持ってかれましたが、愛称が「MJ」(サム・ライミ版ヒロインと同じイニシャル)ということからも今後もっと目立つのかも。アニメ『アルティメット・スパイダーマン』を見てたんで知ってましたが、ピーターを「ペニス・パーカー」呼ばわりするフラッシュは、原作ではエージェント・ヴェノムとしてピーターと共に戦う人物ですね。演じるトニー・レボロリは『グランド・ブダペスト・ホテル』のボーイの子。大きくなったなあ。リズとよくいる金髪の子ベティは『ナイスガイズ!』の娘ちゃんことアンガーリー・ライスで、こちらも大きくなったなあ。他の生徒たちも印象に残るのが多くて、しかもそこまで嫌な奴がいないのがイイ。

大人組ではやはりメイおばさんです。スタイル抜群、ダンスもおまかせ、タイ料理屋の店員もぞっこんなメイおばさん。「おばさん」と呼ぶのには抵抗があるほどです(続柄が叔母だからしょうがないけど)。ピーターが「メイ」って呼ぶのはちょっと新鮮ですが、それだけ仲良しってことでしょうね。パーティーの服を見繕ってくれたり、女性をホメるときの台詞まで伝授してくれたりと頼りになる!メイはピーターの保護者であり、常にピーターのことを心配したり励ましたりしてくれる、無償の愛を与える母親としての存在です。

メイと同様に庇護する立場ではあるものの、金や権力やイヤらしさを持つ大人としての象徴になっているのがトニー・スタークです。心配はしてるんでしょうが元来の尊大さもあるため、若干嫌な大人として描かれていますね。メイへのセクハラ発言にピーターが顔をしかめたりもします。ピーターの目標でもありながら同時に壁でもあるという、そういう意味では父親に代わる存在でもあります。トニー自身も「父のようだ」と自分の父親を思い出してぼやきますね。ハッピーもまたピーターのことを「子供の言うこと」と取り合わず、それでいて監視はしているわけですが、最後にピーターにちゃんと礼を言ったり、ピーターの後ろに付いてると言い張ったりと、それなりに親近感はあったようです。


■中小企業は楽じゃない

バルチャーは翼を広げたシルエットも町工場的なギミックも最高だし、マスクの目が光ってるのがまた威圧感があってイイ。造形のカッコよさは歴代ヴィランのなかでもピカ一です。中の人であるトゥームスはトニーに仕事を奪われたことで武器密輸に手を染めるようになりますが、それが生活のためであるというのが動機としては非常に説得力があります。それは大人ならではの事情。その点でトゥームスの持つ大人の悲哀と開き直りは、ピーターの持つ子供の葛藤と勢いとの対比にもなっています。「金や力のある者が全てを持っていく」「自分たちが戦って道を作っても奴らは気にもしない」という現実をピーターに告げ、真っ向から叩きのめそうとする姿は、敵だからというのはあるにしろ、トニーやハッピー以上にピーターに正面から向き合っているとも言えます。

特にホームカミングに向かう車内でのシーン、ピーターがスパイダーマンであることに気付き(ここの察し方も無理がなくてイイ)、二人になってからの「殺されないことの礼は?」には大人の凄みがあります。あのマイケル・キートンの壮絶な笑顔は素晴らしい。これに「サンキュー」と返してしまうピーターには子供の無力さを感じ、バトル以上に明確な「負け」を思わせます。しかし実は車にスマホを置いてきて追跡するわけです。相手にするのはリズの父親ではない、武器を持った翼の男なのです。

トゥームスもまた社長であるということで、トニーとの対比にもなっていますね。そして反面教師となる大人としてもトニーとは対になります。空を飛ぶのがバルチャーはフィン、アイアンマンはジェットという違いもニクいところ。もう一人ヴィランとしてはショッカーが出てきますが、こちらは跳ねっ返り社員から社長を慕う社員へポストが移るという、いかにもありそうな人事異動。リスク管理は大事だなあ。またトゥームスの仲間の技術者が、奥さんからのメールを見たことに対し「好奇心を押さえられなくて」と言うのが、いかにも新しい技術に夢中になるエンジニアっぽくてイイ。

あとはピーターが「撃つなら僕を撃て」と言うことで助かった悪党、彼がいい味出してましたねー。アイスクリームが溶けちゃうの刑に処されましたが。彼の「もっと尋問は上手くなった方がいい」というアドバイスで、フラッシュから車が奪えたのかも。


■親愛なる隣人

トニーに「弱い者にスーツを着る資格はない」としてスーツを取り上げられたピーターは、瓦礫に潰されて動けなくなり、たまらず助けを求めます。それでも奮起するのは、水溜まりに落ちたマスクの半分と、並んで映る自身の顔半分を見て、トニーの言葉を思い出したから。自分が半人前であることを知り、それでもスパイダーマンであることを自覚するのです。思えば最初から与えられたスーツとウェブ・シューターで戦っていたピーターは常にトニーの庇護の元で動いていたということであり、それは自分がやったのだという幼い自己満足でしかなかったのですね。この窮地において初めて自分の力だけで立ち上がる。本当のスパイダーマンの誕生です。

ラストはお互いマスクなしの素の顔でトゥームスと対峙します。そしてトゥームスとは逆に、敵であるのに救おうとする選択をしたピーター。人を助けるのがヒーローの条件ならば、ここでピーターは立派にヒーローであることを証明しています。最初が正式なスーツで最後が手製衣装になるという過去シリーズとは逆の流れも、絵的には地味なはずなのにそう感じさせません。それはスーツに依存しなくてもスパイダーマンなのだというヒーローとしての魂がそこにあるからであり、このスーツの後退が逆にピーターの前進を示すという構成は素晴らしい。『アイアンマン3』でスーツを破壊したトニーにも通じるものです。またトゥームスが刑務所でスパイダーマンの正体を聞かれても教えないのは、戦いを経てピーターが見せた大人の対応へのせめてもの礼儀でしょう。

ラストにアベンジャーズという大それたチームのメンバーではなく「地に足をつけた」存在となることを選択するピーター。それは自分の行動の責任は自分でとるということでもあり、その成長を目の当たりにしたトニーは、庇護の対象の子供である「ピーター」ではなく、対等な大人として「Mr.パーカー」と呼び握手を交わします。おかげで記者会見に困るトニーですが、彼もまたそこで現れるペッパーとの婚約会見に踏み切る、という大人の選択をするんですね(たぶん。いやーどうかな?)。ここでトニー、ペッパー、ハッピーの『アイアンマン』スリーショットが再び見れるのは感慨深い。また、MCUで登場したスパイディがMCUとさりげなく距離を取ることで、今後はソニー側で単体作も作れるしマーベル・スタジオ側のアベンジャーズにも出れるという、自由度を拡げる作りになっているのにも感心です。

この時点でピーターは再びスーツをもらえるとは思っていないからこそ、帰宅後に届いているスーツを着込んだときの決意を新たにするかのような表情なんですね。そして背後にメイおばさん!このラストショットとしての抜群の切れ味、かつこの先をすぐにでも見たいと思わせる幕引き、そしてラモーンズ!最高です。「ホームカミング」は文化祭(あるいはフットボールの試合終了後の打ち上げ)的なパーティーのことらしいですが、本来は"帰郷"とか"帰宅"とかいう意味。だからこのタイトルは、それこそ「帰宅」したピーターが、成長して居るべき場所に「戻ってきた」、ということでもあるのでしょう。

エンドロール後は「大事なのは忍耐だ」と告げるキャップの映像。それもまた大人になるために必要な要素です。まあ散々PR動画をやらされたキャップ自身の"忍耐"でもあるのが笑えますが……。様々な「大人の姿」を描いた本作、そして最後の「Spider-man will return.」のメッセージ。少し大人になったピーターにまた会えることを期待しますよ!

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