2017
08.03

歌うバナナ、踊る悪党、ニュー家族。『怪盗グルーのミニオン大脱走』感想。

Despicable_Me_3
Despicable Me 3 / 2017年 アメリカ / 監督:ピエール・コフィン、カイル・パルダ

あらすじ
ボクちゃん悪い子ー!



かつて子役として活躍した怪盗バルタザール・ブラットを捕らえようとするグルーとルーシー夫婦。そんな折、グルーに生き別れの双子の兄ドルーがいることが発覚。ドルーは大悪党だった父の意思を継ごうとグルーを呼び寄せるが……。イルミネーション・スタジオによる長編アニメ『怪盗グル―』シリーズの第3弾。

イルミネーションの看板シリーズも3作目。おなじみ三人娘に加えて前作でルーシーという伴侶を得たグルーが、反悪党同盟のエージェントとして巷を騒がす悪党のブラットを追うという話。ブラットは元子役で、自分が売れていた80年代に強いこだわりを持っているため、当時の音楽やおもちゃなどがふんだんにフィーチャーされています。この80年代テイストの満載さが楽しいったら。しかもそこにグルーの双子の兄ドルーが登場、グルーと違って怪盗の才能がない(でも髪はある)ドルー、でも怪盗に憧れているこのドルーに場をかき回されながらも、今まで以上に家族の繋がりというものを浮き上がらせていく、この作劇は見事です。

吹替版は鶴瓶の声が鶴瓶にしか聞こえないのがイヤなので字幕で観ましたが、ドルーの声は生瀬勝久なんですね。それは合ってそう。しかし字幕では『フォックスキャッチャー』のスティーヴ・カレルがグルー&ドルーの二役で、実に見事に演じ分けていて良いです。ルーシー役では『ゴーストバスターズ』のクリステン・ウィグが前作に続きコメディエンヌぶりを発揮。またスピンオフである前作『ミニオンズ』では堂々主役を張ったグルーの相棒ミニオンたちは、本筋とは全然関係ないところで笑いを振り撒いてて最高です。邦題を「ミニオン大脱走」にしちゃうのはちょっとズレてる気はしますが、日本での認知度を考えるとこれはしょうがないですかね。間違ってもいないし。

コミカルなアクションに仰々しいギミック、そしてブラットとの対決と、見せ場も盛りだくさん。ブラットとドルーという濃い新キャラを二人も出しながら煩雑さはなく、他のキャラも含めてしっかり掘り下げており、ライトななかにじんわりするものもあります。ミニオンによるアクセントの効かせ方も上手い。シリーズでは一番好きかも。

↓以下、ネタバレ含む。








■踊って盗むぜ

オープニングが最高すぎる!ブラットが襲撃時に曲を流すんですが、最初に間違えて『Take My Breath Away(愛は吐息のように)』を流して「おおお『トップガン』!」となってからの、マイケルの『BAD』!悪党のテーマソングとしてこれ以上のものはないじゃないですか、目から鱗ですよ。そして曲に合わせたリズミカルなアクションがノリノリのキレキレ。『シング・ストリート 未来へのうた』『ラ・ラ・ランド』など近年やたら使われる『Take On Me(テイク・オン・ミー)』まで流れるし、ショルキーやルービック・キューブまで出てくるしで、80年代テイストをちょっと笑いにしている感はありますが、それでもエイティーズ世代歓喜。カクレクマノミを蹴散らすという、ピクサーの『ファインディング・ニモ』にケンカを売るシーンまであって笑えます。

ギミックに関しては、ブラットの万能バブルガムからドルーの黄金カー、秘密基地にミニオンの手作り飛行機(囚人付き)までバラエティ豊かで楽しいです。特にブラットロボの巨大感を感じさせる演出は『ミニオンズ』の怪獣映画的な巨大さに匹敵する良さ。操縦席から街までの距離感とか、ロボの質感がなんか公園の遊具っぽいのとかがリアルで、観てて気持ちがいいですよ。


■過去の栄光

ブラットのキャラは、勢いのある悪党だったり必要以上にダンサブルだったりで最高なんですが、過去の栄光に囚われてそこから抜け出せない悲哀というのもあります。髪おっ立てても頭領部はハゲてるし。でも湿っぽさが微塵もなく、自分大好きで、再びトップスターの座に帰り咲こうとしている。俳優としてではなく怪盗としてですが、それでいて自分の人形を兵隊メカにしたり、最後には自分を型どった巨大ロボまで持ち出してきて、輝いていた"あの頃"を再現しようとします。時代が変わったことを自分で認めようとしないところが最も悲哀なんですが、そこが大人になりきれない、楽しかった子供のままでいたいという、大人になってしまった我々観客にも刺さるんですよ(というか個人的にはそう)。だから憎めない。

一方でグルーは三人娘に加え奥さんまで持ち、かつてとは環境が激変しています。そこにドルーが現れ、また怪盗をやろうと誘ってくる。こちらも過去の栄光を思い出させるという展開。でもそんななかで家族と育む時間というのが無視できないものになっていきます。これまた家庭を持った世のお父さんたちに刺さる立ち位置。キャンディ泥棒で逃げるときの生き生きした顔など、今作のグルーの活躍を見るとやはりグルーにはクールな怪盗をやってもらいたいなーと思うんですけどね。一度良い者になっちゃったからダメだろうし、代わりにクールなスパイ路線ってことだろうけど、クビになってショックとか復職に喜ぶ姿とかは正直見たくなかったなあとは思うんですよ。かつての仲間であるミニオンたちは去り、博士はカーボナイト冷凍でオブジェのまま。ペットのフン掃除などカッコ悪いこともやらなきゃいけない。

しかし、それでも娘たちを救うため兄と共にブラットに立ち向かう姿には、昔とは別のカッコよさがあるわけです。開き直ってダンスバトルだってやります。グルーのそんな姿見たくなかったーというのは、結局観る者自身の理想とする姿ではないからということであり、でも現実には家族のために頑張るお父さんのカッコよさというものがあるんじゃないか、ということを示してくれるのです。クールではないかもしれないけれど、ホットではある。だからミニオンたちも戻ってくるんですよ。


■新しい家族

グルーだけでなくルーシーも親として成長していきます。最初は接し方も手探りで、「言いなりはダメだ」という子供の忠告を真に受けて、マーゴに無理やりチーズ食べに行かせたりもします。でもそれはマーゴの心情を考えない自己完結でしかないわけです。しかしながら勘違いした少年が母親と乗り込んできたときそれを圧倒するルーシーの、ただ娘を守ろうとする姿にマーゴは心を開くんですね。グルーもまた末っ子アグネスが片角のヤギをユニコーンと信じるのを否定して後悔します。そんな失敗を重ねても、それを取り戻そうとする姿勢によって、グルーもルーシーも三人娘と家族になっていくわけですね。それにしてもアグネスちゃんはあざといと思う隙もないほど可愛い。あとヤギはリアルではもっと目が怖いですが、そこはアニメならではで超可愛くなってます。

グルーの母親は血縁だけに、メンズ揃えて豪邸でプール遊びしてても繋がりはある、でもグルーの新たな家族は血が繋がっていないからこそコミュニケーションを取るしかない。その大切さを見せてくれるというのが、家族再生ものとしての重要な点をも押さえています。そしてドルーもまた叔父としてこの家族と関わっていきます。ドルーは父親が死んでからは執事と二人きりだったわけで、父の意思を継ぎたいというのもそんな孤独感が影響しているのかも。グルーと入れ替わって二人でアホみたいに笑ってるのも、新たな家族との出会いという嬉しさからでしょう。ドルーが怪盗の才能に目覚めることで、この兄弟は最後は追う者と追われる者になりますが、血縁だけに繋がりは切れないんでしょうね。見た目がほぼ同じ、追う方が黒で追われる方が白というエンドロールは面白いです。


■ミニオンは黄色いぜ

そして本筋とは全く関係ないところでドラマを作るミニオンズ。ステージでの歌と躍りは最高すぎるし(しかも『SING』って書いてある!)、刑務所では傍若無人だし、脱走もスケールがデカい(一人刑務所に取り残された気もするけど)。リーダーのメルがグルーのことを思い出さなければずっと牢名主として居座っていたかも。つーかなんだあのグルーとメルの甘酸っぱい思い出は……。まあとにかく、そんな倦怠はミニオンらしくないわけで、しっかり大脱走と相成ります。ミニオンはバナナーバナナー言ってるだけで面白いですが、本筋とのバランスの取り方が絶妙なのでうるさすぎずちょうどいいです。回り道しながらもラストにしっかりグルーの仲間としての見せ場もあるのが美味しい。

ひとり時代に囚われた悲しみを勢いでブッ飛ばすブラットと、血の繋がらない面々が不器用ながら家族となっていくグルーたち。そんな対比を効かせながら、それぞれが濃くて絡み方も上手いです。続編としても積み上げてきた要素を使いこなしていて、1作目を彷彿とさせるラストに至るまで実に楽しい。このシリーズはまだ続きそうだし、今度はグルーとルーシーに子供が生まれてその子がドルーによって怪盗の道を歩む、なんてのもあるかもしれないですね。

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